128.初恋
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~2週間前~
建国祭で、怜彬から「好き」だと言われた次の日、日付を確認したらふと気が付いた。
もうすぐ、怜彬と再会して1年になるではないか!
大変だ!何か特別な事をしたいと思いながらすっかり忘れていた。
せっかくの特別な日だ。記念日になるような何かをしたかった。
いったい何をすれば、怜彬は喜んでくれるだろう…。
俺は執務室の机に座りながらあれこれ考えを巡らせた。
プレゼントをあげてもいいが…物をあげても普通だし、それもそも怜彬は物欲があまりない。
彼女からプレゼントをねだられることは滅多にないのだ。
最近お願いされたことと言えば建国祭に参加するにあたり、新しい衣装を友人の分も一緒に
作ってほしいと言われたくらいだ。もっと欲しがってもいいと思うのだが…。
慎ましい、謙虚なところも彼女の魅力の一つだ。怜彬は素晴らしい女性だ。
おっと…。今はそれどころではない。一年記念に何かサプライズできることを考えないと…。
かといって大掛かりな事をするには準備期間が足りない。2週間でできるもので考えないと。
どこかに出かけるか?うーん…何も思い浮かばない。頭を抱えながらふと手元の本に目が留まった。
怜彬から貸してもらった植物の本だった。様々な種類の植物が網羅されており
育て方や肥料の種類、手入れの仕方など沢山の事が記載されている本だ。
怜彬が昔から読んでいたと言っていたとおり、紙はヨレヨレでところどころに
線を引いて勉強していた跡が残っている。怜彬がどこに注目していたかわかって面白かった。
パラパラとおもむろに本をめくる。適当にめくったページの中で、金木犀という木に目が留まった。
怜彬が後から手書きで、花言葉を足していた。「初恋」と記載されていた。
「初恋」
…いいかもしれない。俺にとっての初恋の相手は怜彬だし、二人の想いが通じた初めての恋にちなんで
金木犀の木をプレゼントするのはどうだろうか?
ちょうどいま別邸の裏に新しい庭を作ろうと計画している所だ。そこに一緒に植えたら素敵じゃないか?
それから、どうせなら内緒で庭を完成させてしまったら驚くんじゃないだろうか…。
よし!これにしよう。さっそく俺はサイガに頼んで、金木犀の苗木を手配してもらう。
庭師を呼んで怜彬に気づかれないように庭作りをしたいことを持ち掛けた。
あとは、彼女に気づかれないように準備をして当日別邸の裏庭で、金木犀を渡す。
完璧なシナリオだと思った。怜彬は…。喜んでくれるだろうか?
嫌だとか重いとか言わないだろうか?一瞬そんな考えが頭をよぎる。
怜彬と同じ気持ちだとわかって嬉しい。
彼女が俺の気持ちに応えてくれた…。それだけで体が震えるほど歓喜に打ちひしがれるが
急に心変わりされたらどうしよう?とか、やっぱり無しにして欲しいと言われたらどうしようとか?
そんな不安に襲われる時がある。我ながら情けない話だ。俺は思わずふっと失笑してしまった。
手に入れたらいれたで悩みは尽きないのだな…。
今まではどうしたら彼女を振り向かせることが出来るのか?という事ばかり考えていたが
いざそれが叶った途端、今度は失わないようにするためにはどうしたらいいのか?という
新しい悩みが出来た。不思議なものだ…。
怜彬の事で悩めるのならそれはそれで、幸せな事だ。
何を不安になる必要がある。彼女が傍にいてくれる。そう思うだけで、気力が満ち溢れてくるような気がした。
それから俺は怜彬に気づかれないようにこっそりと裏庭作りを進めた。
リンリンに事情を話し、なるべく裏庭に怜彬が近づかないように頼んだ。
さらにラカンに頼みこんで、手軽に外で食べられる料理を伝授してもらった。
彼は料理人の両親に育てられたと言うだけあって様々な料理を知っている。
ラカンにはサンドウィッチがいいのではないか?と提案してもらった。仕事の合間に作り方を聞いて実践する。
パンに具材をはさんで作るだけのシンプルなものだが、まずパンを切ることが難しい。
あとは中の具材も試行錯誤した。怜彬の好みの味付けは分かっているがそれを再現することが至難の業だった。
ラカンに何度か指導してもらった後ようやく、納得のいく仕上がりになった。
これを完成された庭で一緒に食べたら…怜彬はきっと喜んでくれるに違いない。
外で食事をすることを好む彼女の事だ。誘ったら絶対の外で食べようとなるはずだ。
よし!これで計画は完璧。準備も完璧だ!あとは当日を待つばかり。
途中で怜彬に気が付かれないように細心の注意を払いながら記念日までの日々を過ごした。
~当日~
黒爛殿を見送ったあと自然に怜彬と昼食をとる約束をして別れる。
リンリンにはなるべく部屋に戻る道を遠回りして時間を稼いでもらい、裏庭作りの仕上げに取り掛かる。
今の所…順調だ。あとは怜彬に金木犀の苗木を渡して
彼女に気持ちを伝える。それでこのサプライズ計画は完成だ。
いつにもまして緊張する…。いつもならサラッと言ってしまっている想いも
改めて伝える前提で考えると心臓がドキドキした。こんな緊張感は久しぶりだ。
戦の前くらいに緊張している。ふぅ…。深呼吸して気持ちを落ち着ける。
大丈夫…。彼女は人の気持ちを無下にしたりする女性ではない。きっと受け取ってくれる…。
何度もそう自分に言い聞かせる。
「怜彬…。昼食をとる前にちょっときてくれないか?」
「いいわよ。どこへ行くの?」
「それはついてからのお楽しみだ。目を閉じてくれ」
「いったい何?凄く気になるじゃない」
「いいから。目を閉じて。怜彬」
彼女がそっと目を閉じる。俺はゆっくり怜彬を抱き上げて裏庭に向かった。
心臓の音が大きく鼓動を打つ音が聞こえる。ドクン…ドクン…。
額に汗がにじむ。怜彬をそっとベンチに座らせるように下した。
準備してもらった苗木を手に持ち、怜彬に声を掛けた。
「怜彬…目を開けて」
「わかった…」
驚いた様子であたりを見渡す怜彬。すぐに今いる場所が、裏庭だという事に気が付いた。
そしてゆっくり彼女に近づき方膝をつく。緊張のあまり苗木を持つ手が震える。
「怜彬。君と出会ってもうすぐ一年だ…」
「雷覇…」
「怜彬…。これを君と一緒に植えようと思って…」
そして怜彬の目を真っ直ぐ見て伝えた。俺の今の素直な気持ちを…。
「色んな事があるかもしれないけど、こらからもずっと俺の傍にいて欲しい」
目を見開く怜彬。そして見る見るうちに瞳に涙が溢れこぼれた。
一瞬嫌われたのか?とドキリとしたが、彼女は何も言わずに俺に抱き着いてきた。
良かった…。ほっとして俺はぎゅっと怜彬を抱きしめる。
「わたしも雷覇の傍にいたい。ずっと…」
「ありがとう…怜彬…愛してるよ」
「わたしも愛してます。雷覇…」
消え入るようなか細い声を出しながらも怜彬は受け入れてくれた…。俺の気持ちを…。
やった!!サプライズは大成功だ!!俺は心の中でガッツポーズをした。
怜彬はとても喜んでくれている。さっき流した涙は嬉し涙だろう。
出会って4年…。再会して1年。
長かったが、ようやくスタートラインに立った。
「初恋は実らない」とよく言われているようだが、俺はようやく自分の初恋を手に入れた。
もう二度と離さない。彼女と離れない。
ずっと恋焦がれていた人。怜彬。俺が人生を捧げてもいいと思える女性。
初めて彼女を見た日から今までずっと‥‥ずっと怜彬の事だけ考えてきた。
「怜彬。君に会えて、君を好きになって俺は本当に幸せだ」
「雷覇…ぐす…」
震える声で何とか言葉にしたといった感じの怜彬。綺麗だ…。
彼女の泣き顔はまるで肖像画から出てきた女神像そのものだった。神秘的で眩しくて…。
でも可憐で艶やかで…。何とも形容しがたい怜彬の美しさ。
俺はうっとりとして彼女を見つめる。彼女の瞳は涙で溢れているがその中の輝きはキラキラ輝いている。
綺麗なアメジスト色の瞳…。初めて会った瞬間から囚われて惹かれ続けている彼女の瞳…。
やっと俺だけのものにできる…。もう他のやつには渡さない。
俺は怜彬の小さな唇に自分の唇を重ねて口づけした。
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