121.小休憩
「お嬢様。お手紙が届いております」
「ありがとう。誰からかしら?」
リンリンから手渡された宛名を見ると芙雅おば様からだった。
一瞬、桐生おじ様の顔が頭をよぎりドキリとしたが内容は以前あった内容についてだった。
そう言えば…。そんな事もあったわね…。
もう遠い昔のように感じる。桐生おじ様がいきなり帰ってきてわたしの婚約に猛反対。
挙句の果てには雷覇と決闘するとか言い出した事件だった。
手紙には丁寧な文字で、お詫びとその後の経過がつづられていた。
『怜彬へ
先日はわたしの夫がお騒がせして本当にごめんなさい。
雷覇殿にも申し訳ないと言っておいて下さい。
あれから、夫はすっかり孫に夢中になって毎日会いに行っています。
しばらく秋唐国へ滞在する予定です。
もし、帰ってくる機会があれば顔を見せにいらっしゃい。
わたしも夫も楽しみに待っています。
婚約の事はもう夫は納得しております。
雷覇殿になら、怜彬を任せても良いと言っています。
よほどあの決闘が気に入ったらしいの。
今でも思い出しては、また雷覇殿と戦いたいとか言っているわ。
本当に呆れちゃう…。
迷惑かもしれないけど雷覇殿もぜひ一緒に来て欲しいと伝えてください。
これから寒くなる季節が来ます。体調にはくれぐれもご自愛ください。
芙雅より』
手紙を読み終えて静かに手紙をもとに戻す。
良かった…。桐生おじ様、婚約に賛成してくれたのね…。
やれやれと思った。あのまま反対されたままだったら、また何かしでかしそうだった。
でも…。雷覇の事をそんなに気にいるなんて。
最初からちゃんと会っていればあんな事しなくて済んだのかもしない。
桐生おじ様は元軍人で豪快な人だ。雷覇とは馬が合うかもしれなかった。
また、雷覇が帰ってきたら報告しよう…。
そう思いながらわたしは、リンリンと一緒に庭園へ散歩しに行った。
もちろん、車椅子で…。雷覇からまだ許可が出ていない。
別邸だけなら歩いてもいいなんて…。いつまで続けるのかしら?
歩けるようになってもう数日経つ。痛みもほとんどないし歩く事にも少しずづ慣れてきた。
もう…。大丈夫だと思うんだけどな~。
「そういえば…。お嬢様。あと二か月後には秋唐国の誕生祭がありますね…」
「あっ!すっかり忘れていたわ…」
リンリンに言われて初めて思い出した。
秋唐国の誕生祭。他の五神国と同じで国の誕生を祝うお祭りだ。
夏陽国や春魏国程の規模はないが、秋唐国にとっても
年に一度の大きなイベントだった。
本来ならそろそろ準備にとりかかってもおかしくない時期に差し掛かっていた。
やっぱり…。怜秋と一緒に帰れば良かったかしら?
規模は大きくないとは言え、国を挙げてのお祭りだ。それなりの準備が必要だった。
これも…。あとで雷覇に相談ね。
「教えてくれてありがとう。リンリン!雷覇に相談するわ」
「かしこまりました。お嬢様」
「リンリン!サイガとの建国祭はどうだったの?」
「とても楽しかったです」
「あ…。そう…」
物凄く無表情であっさりとした回答だった。楽しかったと言っているけど…。
リンリン元々表情に変化がない。嘘は言っていないと思うから本当だろう。
めっちゃ分かりずらいけど!
「それにお嬢様に衣装まで用意して頂いて…ありがとうございました」
「いいのよ!リンリンにはお世話になっているんだからそれくらいして当然よ!」
「ありがとうございます」
「サイガは何か言っていた?」
「とても似合うと言ってくださいました」
「ふふふ。そうなの…。今度はいつ二人で出かけるの?」
「さぁ?特に約束はしていないので…」
「そうなの…。じゃあリンリンからお誘いしてみたら?」
「私からですか…」
リンリンに伝えたら、想像もしてなかったと言った顔をされてしまった。
そんなに驚くこと?リンリンはサイガの事どう想ってるのかしら…。
うーん…気になるけど、下手に聞いて二人が気まずくなるのも嫌だし…。
「いつもサイガから誘ってくれてるんでしょう?だったら今度はリンリンの番じゃないかしら?」
「なるほど…。確かにそうですね。私からお誘いしてみます」
「ええ!それが良いわ!最近ね新しいお菓子のお店ができたんですって!」
「そうなんですか」
「わたしの代わりに見てきてくれない?とっても変わった触感が楽しめるお菓子だったの」
「かしこまりました」
ふふふ。これでリンリンは絶対に、サイガとデートするわね!
わたしのお願いならリンリンも行かざる得ないだろう。
真面目なリンリンの事だ、この後すぐにでもサイガの所に行って約束を取り付ける気がした。
サイガにはいつも迷惑かけてるからな~。主に雷覇で…。
これくらは恩返しがしたかった。
サイガは優しいし気も付くからきっとリンリンの事上手にリードしてくれるわ!
今度、サイガに会ったら聞いてみよっと。
また楽しみが増えて、嬉しくなった。ラカンとリヨウ。リンリンとサイガ。
それぞれが仲良くなっていくのは秋唐国と夏陽国にとってもいい事だった。
それから、リンリンと話をしながらお庭を回って別邸へ戻った。
別邸へ戻ると雷覇が仕事から帰ってきたところだった。
「怜彬!ただいま」
嬉しそうに駆け寄ってくる雷覇。ふふふ。本当ににわんこだわ…。
彼のこういう時の顔はとても愛くるしい。
「ただいま!雷覇。今日は早かったのね」
「ああ。最近は黒綾殿がよく働いてくれるからな」
「まぁ。黒綾殿が?」
「ああ。他の人にも色々指示してくれているから、仕事がとても捗っている」
「そうなの…。良かったわ」
黒綾殿に告白されて以来、めっきりと会う機会が減ってしまった。
仕方ないといえ、やっぱり彼の顔が見れないのは寂しかった。
でも…。元気そうでよかった。自由に歩けるよになったらまたお菓子でも焼いて
執務室へ持っていこう…。そうすれば自然と黒綾殿にも会える。
わたしが作ったお菓子なら雷覇も喜ぶだろう。
「本当に、黒綾殿の程優秀な人材はいないよ。ずっと夏陽国にいて欲しいくらいだ」
「そんなに?雷覇がそこまで言うなんて意外だわ…」
「そうだろうか?一緒に仕事をしていると細かな所まで気を配ってくれるんだ。俺にはできない事だ」
「たしかに…。黒綾殿は初めからよく気が付く子だったわ…」
「今日も早く帰って怜彬に会ってきてくれと言ってくれたんだ」
「まぁ!本当に‥‥黒綾殿はいい子ね…」
わたしにフラれて、雷覇はライバルだったはずなのにそこまで言える黒綾殿は凄いと思った。
黒綾殿にも幸せになってほしいな~。誰かいい人はいないかしら?
それとも、黒秦国に帰ったら誰かと結婚したりするのかな?
「黒綾殿の話しで思い出したんだが、黒秦国はとうとう内政が整ったらしい」
「えっ?そうなの?」
「ああ。密偵からの報告だからまだ公にはできないが、黒爛殿はついにやり遂げたそうだ」
「よかった~。これで二人とも王位継承しなくていいのね?」
「そうだ!おそらく近々、黒爛殿からも連絡があるだろう」
「まぁ!本当?久しぶりに黒爛殿に会えるのね」
「随分…。嬉しそうだな…」
「だって、同じ弟を持つ姉と兄ですもの。しかも弟大好きという共通点がある!楽しみだわ~」
「それは…妬けるな…」
「えっ…」
急に雷覇にソファの上に押し倒されてしまった。
妬けるって言った?なんで?どうして?頭の中が疑問でいっぱいだった。
「怜彬…。君はまだわかってない…」
「分かってないって…なにが?」
雷覇にそっと頬を撫でられ、唇をなぞられる。
ドキッとした…。最近わりと穏やかだったから忘れてた…。
そういえばこの人は…銀獅子だった…。
「俺が怜彬をどれだけ好きだってことだ…」
「分かっている…つもりだけど…」
「そうか?だったらなぜ俺が黒爛殿に妬いてると思う?」
「それは…」
言い淀んで雷覇を見つめた。彼は真剣な表情だった。
心臓が急激に早く鼓動を打つ。以前、感じていた鼓動が耳の奥から聞こえる感覚…。
雷覇の瞳が熱をもって金色の瞳燃えているように感じた…。
「黒爛殿と…共通点があるから?」
「そうだな…それもある…」
「雷覇…。わたしが好きなのは雷覇だけよ?」
「知ってる。怜彬は俺だけだ。でも相手はどう想うかは別だ」
「そんな…。黒爛殿はそんな人じゃないわ」
「どうしてそんな事がわかる?黒綾殿の時もそうだったのに…」
「それは…」
「怜彬…。君は凄く魅力的な女性なんだ。それを自覚してくれ」
「それは言い過ぎじゃない?」
わたしが魅力的って…。自分でそんな風に考えたこともないからわからない。
雷覇が嫉妬している理由もわたしにはわからない。
「言い過ぎじゃない。怜彬は隙が多い。それにつけこんでくる奴もいる」
「黒爛殿は違うと思うけど…」
「どうかな?怜彬と話しているうちに好きになるかもしれない」
「じゃあ…。黒爛殿と話してはいけないって事?」
「そうじゃない…。ただ気を付けて欲しんだ。怜彬は他人との距離が近いから」
「そうなのね…。意識してみるわ」
急に雷覇が真剣なトーンで話すから、緊張した。そんな事考えてるなんて…。
「それならいい…」
そう言って雷覇の髪の毛がサラサラと肩から流れ落ちる。
綺麗な銀色の髪。そんな事を思っていたら雷覇と口づけを交わしてた。
この体勢で‥‥口づけは恥ずかしい…。
「んっ‥‥」
そんな事思いつつも、雷覇から伝わる感触や熱が心地いいと思ってしまう。
ずっとこのままでいれればいいのに…。
雷覇に触れられると時が止まったように感じる。
周り音が聞こえなくなって、自分の心臓の音だけ。世界から切り離されたような感覚になる。
「はぁ‥‥」
「怜彬の、そんな顔を見ていいのは俺だけだ…」
ようやく口づけから解放されて雷覇に耳元で囁かれる。
これには鳥肌がった。ざわざわと背筋に風が吹いたような気がした。
「そんな顔って…どんな顔?」
「ふっ…。内緒だ」
そう言っておでこに口づけされて起こされた。
ふぅ…。体熱い…。きっとすっごくドキドキしたからね。
雷覇も気になる言い方するな~。変な顔って意味かしら?
その後しばらく、雷覇の顔を見ることが出来ず一緒に食べた夜ご飯は味がしなかった。
「あ…。雷覇。芙雅おば様から手紙が来てたの」
わたしはそう言って雷覇に手紙を見せた。
手渡された手紙に目を通して、ふっと微笑む雷覇。
きっと桐生おじ様の所を読んでいるのだろう。
「良かった!俺と怜彬の婚約を認めてくれたのだな」
「ええ。雷覇の事も気にいったみたい」
「そのようだな。俺もぜひ手合わせしたいと返事を書こう」
「え?大丈夫?本当にそうなるわよ…。おじ様の事だから」
「構わないさ、秋唐国へすぐには行けないが、夏陽国に来てくれたらいつでも相手すると書いておくよ」
「それはそれで…大変そう」
どっちにしったって、手合わせすることには変わりなかった。
二人とも熱いからな~。無駄に体力あるし・・・ずっとやっていそう。
「桐生殿は一度、ゆっくり話もしてみたかった。いろんな経験をしてそうだしな」
「経験は沢山しているでしょうね…。一年の大半を国外で過ごしてるんだもの」
ニコニコ楽しそうにしている雷覇。雷覇も桐生おじ様の事好きなのね。
まぁ…。それはそれでいっか…。仲がいいのはいい事だし。
「それから、雷覇に相談があるのだけれど」
「どうしたんだ?改まって」
「わたしもすっかり忘れてたんだけど、二か月後に秋唐国で誕生祭があるの」
「なるほと…。帰国したいってことか?」
「うーん…ちょっと迷ってて、準備があるから早めに帰った方が良いとは思うけど夏陽国程、大規模じゃないから大丈夫な気もするの」
「そうか。俺はどちらでも構わないよ…怜彬が決めるといい」
「わかった。ありがとう雷覇」
「そのお祭り俺が参加してはダメだろうか?」
「雷覇が?」
雷覇の顔を見たらとても行きたそうな顔をしている。
興味津々って感じだった。うちのお祭りに興味を持ってくれるのは嬉しいけど…。
夏陽国の後じゃ、ちょっと気が引ける。
「怜彬の生まれた国のお祭りだ!ぜひ参加したい!」
「わかったわ…。怜秋に手紙を書いてみる」
「ありがとう!怜彬。俺も明日、スケジュールを調整してもらうよ」
なんだか、色んな事がまた始まりそうな予感がした。
黒爛殿の来訪に、秋唐国の誕生祭…。
またバタバタしそうね。それまでに炎覇の日記を読んでしまおう。
日記はあと半分で終わるところまで来ている。あと3日もあれば読めるだろう。
明日も雷覇は早く仕事が終わると言っていたからまた二人で読もう。
そんな事を考えながら、雷覇とリビングで話をした。
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