120.炎覇《えんは》の日記3
「怜彬!今日はこれを食べながら日記を読もう!」
別邸でのんびり午後を過ごしていたら、雷覇が勢いよく部屋に入ってきた。
顔がキラキラ眩しいくらいに輝いている。小さい子供が宝物を見つけたみたいだ。
「何か持ってきてくれたの?」
「ああ!怜彬が気にいると思って買ってきた」
「わぁ!ありがとう。開けてもいい?」
「いいよ。開けてみて」
わたしは綺麗な水色の包装紙に包まれた箱を開けた。
中には星の形をした色んな色の一口サイズのものだった。
半透明で少し向こうがわが透けて見える。飴のような食べ物だった。
「きれいね~。初めて見るお菓子だわ!」
「最近新しくできたお店で売っている、砂糖と寒天でできたお菓子で、琥珀糖と言うそうだ」
「ありがとう。雷覇!さっそく食べましょう」
「わかった。すぐにリョクチャを持ってくるよ」
雷覇が立ち上がってリョクチャを取りに行った。
わたしは箱に入っている琥珀糖を一つ手に取って光にかざす。
キラキラ光っていて宝石みたいだった。綺麗…。
食べちゃうのがもったいないな。そう思いつつもパクっと口に放り込む。
「美味しい!それに不思議な触感ね」
「そうだろう?それが人気の理由らしいんだ」
外はシャリシャリ、中は柔らかな食感で食べていて面白い。
今まで食べたことがないお菓子だった。
「どこで琥珀糖の事知ったの?」
「少し前に街へ行った時に教えて貰ったんだ」
「そうなの…。雷覇が街へ行ってるなんて知らなかったわ」
「ちょっと自分でも色々調べようと思ってな。今度一緒に出掛けよう」
「ええ!行ってみたいわ」
ふふふ。雷覇が自分で調べてるなんて…。どういう風のふきまわしかしら?
前だったらサイガに全部聞いていたけど。花火の時も自分で調べたと言っていた。
サイガから教えて貰えなくなったのかしら?
そんな事を考えながらリョクチャを飲む。
リョクチャの苦みと琥珀糖の甘みがちょうどいい。お茶請けにはぴったりのお菓子だった。
それに見た目もかわいい。女の子が好きそうなデザインね。
これを買っている雷覇の姿を想像したら少しおかしかった。
「ふふふ…」
「どうしたんだ?怜彬」
「ううん。なんでもない…さぁ、日記を読みましょう」
「そうだな、昨日の続きはここからか…」
そう言いながら雷覇が丁寧な手つきで日記を開いていく。
わたしは雷覇の横で一緒に日記を読み始めた。
『〇年〇月〇日
今日も友人夫婦へ雷覇と水覇を預けに行った。
相変わらず雷覇は大泣き。水覇はケロッとしていた。
この世の終わりのような顔を雷覇にされてしまったが、僕は心を鬼にして預けた。
正直、雷覇が泣くたびに心が痛む。
夏輝はあっけらかんとしていて、預けたらさっさと立ち去ってしまう。
グズグズしていてもしょうがないと怒られてしまった…。
こういう時は女性の方が強い。愛の鞭とでもいうべきか…。
迎えに言った頃には雷覇は泣き疲れてぐったりしていた。
今日もご飯を食べたらすぐに寝てしまった。よっぽど疲れたのだろう。
水覇はいつもと変わらず、ニコニコして機嫌がいい。この子は本当に人見知りしない子だ。
二人の寝顔を見ながら、今日も無事に過ごせたことに感謝する』
『〇年〇月〇日
今日で友人夫婦に預けて3日目。ようやく雷覇が慣れてきた。
相変わらず泣いてぐずっているものの、初日に比べたらましになっていた。
彼も必死に環境に合わせようとしているのだろう。泣きながらバイバイと手を振ってきた。
いじらしい姿に僕は泣きそうになった。夏輝に背中を叩かれて喝を入れられる。
背中がまだじんじんといたい…。本当に夏輝の力の強さには驚かされっぱなしだ。
彼女に励まされながら今日も一日仕事に奔走する。
この国の平和の為、国民の為。そして子供達の為…。毎日、息をつく間もないがやりがいもある。
今やっていることが将来につながると思ったら頑張れる。どんなに疲れていても
子供達の顔を見たら全部吹っ飛んでしまう。本当に子供達の存在は僕にとって活力だ』
『〇年〇月〇日
今日は珍しいことが起こった。水覇が泣きだしたのだ。
いつもならすぐに離れて行って遊び始めるのだが、どうも今日は嫌なようだった。
それを見た雷覇が泣き止んで水覇の方へ歩み寄る。
彼なりに慰めているようだった。なんて仲のいい兄弟なんだ!
僕は猛烈に感動した!雷覇が成長したのだ。本当にすごい。
水覇が泣いていた原因は熱があったからだった。
今朝から元気がないと思っていたが、水覇もまた環境が変わったせいで
疲れがたまっていたらしい。可哀想な事をした…。
熱が出るまで我慢していたなんて…。夏輝と二人で反省した。
子供の体調も分からないなんて親失格だ。これからはちゃんと子供たちの様子を見て
変化に気づけるようにしよう!そう決めた』
『〇年〇月〇日
水覇の熱はすぐに下がった。
大事に至らなくて本当に良かった。熱や風邪もこじらせてしまうと死に至ることもある。
小さなうちは免疫力が弱いからとくに気を付けないとダメだと先生から教わった。
まだまだ、知らない事ばかりだ。子供ができて初めて親の有難みがわかるようになった。
こんなに毎日、色んな事があり苦労して大人になるまで育ててくれた。
きっと今の僕と同じような気持ちで過ごしていたに違いない。
今度、両親へ手紙を書こう。僕は普段伝えていなかった感謝の気持ちを
両親へ伝えることを決める。父はもういないがそれでも書こうと思った。
父にも母にも両方に感謝したい。二人がいなければ僕は生まれていないのだから』
『〇年〇月〇日
今日も友人夫婦に子供達を預けた。驚いたことに雷覇が泣かなかった。
しかも水覇と仲良く手を繋いで歩いて行ってしまった。
お互いがお互いを支え合っているのかもしれない。
ムツリとサイガにも慣れてきて、楽しそうに遊んでいたと報告を受ける。
子供の変化は本当に毎日目まぐるしく起こる。
同じ日は一日だってない。毎日充実していて刺激的だった。
もう少し子供達が大きくなったら、三人目の子供も欲しいな。
僕の家系は双子が生まれやすいから、きっと次の子供たちも双子だろう。
夏輝に話したら賛成してくれたが、子供たちが手を離れて落ち着いたらねと
念を押されてしまった。こればかりは彼女に従うしかない。』
『〇年〇月〇日
今日は友人夫婦と一緒に外に出かけることになった。
だんだん熱くなってきた。午前中の涼しい時間帯に庭へ行き子供達を遊ばせた。
雷覇も水覇もとても喜んでいた。
久しぶりに夏輝と一緒だからだろう。
機嫌よく一日を過ごしていた。ムツリから面白い話を聞かされた。
雷覇はムツリとは仲が良くないが、サイガとは仲がいいらしい。
だから将来は、水覇の従者にして欲しいと言われた。
本当にしっかりした子供だ。僕は水覇の従者はムツリにすると約束した。
彼はとても喜んでいた。いつも双子の面倒をよく見てくれている。
頭の賢い子供だった。それに周りもよく見ている。大人よりも…。
将来、雷覇と水覇がこの国の王になり夏陽国を背負う。
その時にはムツリとサイガが側にてくれると心強いと感じた』
「ふふふ。ムツリは小さい頃からムツリなのね」
「そうだな。国王に直談判するとはいい度胸だよ」
少し読み進めたところで、休憩をとることにした。
だんだん、ムツリやサイガ達との絆の深さの理由が分かってきた。
こんな小さなころから一緒に育ったのだ。サイガが雷覇に遠慮がないはずだった。
彼は国王としてみているのではなく、小さい頃から一緒に育った兄弟として見ていたのだ。
「雷覇も水覇殿も、どんどん成長していくわね。読んでいてとても楽しいわ」
「ハハハ!俺は親父の心境がよく分かって面白いよ」
「そうね!炎覇は本当に子煩悩な人ね。いつも日記の内容が雷覇達だもん」
「そうだな。親父は本当に面倒見がいい父親というイメージだったな」
「雷覇もきっといい父親になるわ」
「…そうか?怜彬もきっといい母親になると思うぞ」
「ありがとう…。本当に炎覇達みたいに幸せな家庭を築きたいわ…」
少し自分の幼少期と比べてしまった。
わたしの幼少期は炎覇達の様に仲睦まじい家族ではなかった。
父はいつ会いに来るか分からない人だったし、母はほとんど寝たきり。
毎日をラカンと過ごしていた記憶の方が多い。
「怜彬が望むなら、子供は何人でも作ろう!」
「えっ…?そ‥‥そうね‥‥」
ストレートに雷覇に言われて思わず恥ずかしくなった。
子供を作るって…。そいう事をするって事でしょう…。
全然…。想像できない。でも、雷覇と家族で賑やかに過ごす姿は想像できた。
「雷覇は女の子が生まれたら、物凄い過保護になりそうね」
「うーん…あながち否定できないな…」
「絶対そうよ!お前には嫁にやらん!とか言って相手に怒ってそうだもの」
「あー…。やりそうだな俺なら。…それで怜彬に怒られてそうだ」
「ふふふ。そうね…。娘の好きな人と結婚させなさいって言ってそうだわ」
雷覇と子供達と一緒にいる未来を想像すると、とても幸せな気持ちになった。
幸せな家庭。それがどういうものなのかわたしは知らない。
でも雷覇と一緒ならきっと築いていけると思った。
「楽しみだな!怜彬と一緒に家族ができるのは」
「そうね!大家族がいいわ!ずっと怜秋と二人きりだったから…」
「そうだな!賑やかな家庭にしよう。親父よりも忙しくなるくらいに…」
「うん…」
そう言って雷覇と見つめ合って静かに口づけを交わした。
目を閉じると、さっき話していた幸せな光景が目に浮かぶ…。
皆が笑顔で楽しそうに過ごしている光景。雷覇と一緒なら大丈夫。
わたしは温かな気持ちで雷覇と唇を重ね続けた。
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