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117.独り立ち


怜秋れいしゅう殿と仲直りできたのか?」


別邸に戻ると雷覇らいはが帰ってきていた。心配そうにわたしの方に歩み寄ってくる。


「うん…。仲直りしたわ」


「そうか…。よかった。すまない…俺の態度が原因で喧嘩したのだろう?」


「ううん。雷覇らいはのせいじゃないわ。怜秋れいしゅうにも色々思うところがあったみたい」


「そうか…」


わたしは、怜秋れいしゅうがわたしの事を女性として好きだという事は雷覇らいはには言わなかった。

怜秋れいしゅうも知られたくないかもしれないし…。

雷覇らいはと一緒にリビングのソファに腰かける。


「でも、色んな話をしてね、雷覇らいはとのことを前向きに考えてくれるって」


「そうか!それは良かった」


雷覇らいは…。本当にありがとう、わたしの気持ちを尊重してくれて…」


「そんな事当たり前だ。お互いが納得した形で結婚したい。その為ならどれだけでも待つよ…それだけの覚悟が俺にはあるんだから…」


「うん…。ありがとう。怜秋れいしゅうの事はそんなに長くはないと思う。わたしの事を大切に想ってくれてるもの。ずっと反対なんてしないと思うわ」


「まぁ…。反対したくなる怜秋れいしゅう殿の気持ちも分かる。ずっと一緒だと思っていた姉を取られるんだ。腹も立つし認めたくもないさ…」


「そうかもね…」


わたしは雷覇らいはの肩にコテンと頭をもたげた。

雷覇らいはが優しい人で良かった。怜秋れいしゅうとのことはきっと解決するわ…。

大丈夫。雷覇らいは怜秋れいしゅうもわたしの事を大切に想ってくれてる…。

本当にいがみ合ったりはずがない。二人がわたしが悲しむようなことはしないだろう。


怜彬れいりん…。明日、怜秋れいしゅう殿と一緒に帰らなくても大丈夫か?」


「え…?」


夏陽国かようこくに来て随分長くなるし、今の怜秋れいしゅうとの状態なら一緒の方が良いかなと思ってな…」


雷覇らいは…」


意外な申し出だった。まさか雷覇らいはに帰国を促されるなんて…。

確かに…。今…怜秋れいしゅうと一緒に帰った方が良いかもしれない。

仲直りしたとは言え、まだまだ不安定だ。傍にいてあげた方が怜秋れいしゅうも安心するだろう。


ただそれが、怜秋れいしゅうの為になるのか?と言われるとわからなかった。

正直、複雑な気持ちだった。怜秋れいしゅうの傍にいてあげたい。

でも彼の傍にいることで自立を妨げることになるのではないか?とも思う。


「俺はもちろんずっと怜彬れいりんにいて欲しいし、毎日会いたい。でも…それは結婚してからでもできると思ってな…」


「ありがとう…雷覇らいは。ちょっと一晩考えるわ…」


「わかった。決まったら教えてくれ」

そう言って雷覇らいはに抱きしめられながら軽く頬に口づけされる。

どうしよう…。怜秋れいしゅうと一緒に帰った方がいいのかしら?

今回は珀樹はくじゅ殿も一緒だし…。わたしがいなくても大丈夫な気もする。

珀樹はくじゅ殿になら素直になれると言っていた。

今まで他人にあまり懐かなかった怜秋れいしゅうが…。


よし!ここは思い切って、怜秋れいしゅうと離れてみよう!

凄く不安だし、心配だけどわたしも弟離れするいい機会かもしれない!!

わたしはそう決心した。大丈夫…。怜秋れいしゅうなら…。

明日は笑顔で見送ろう。そう決めたのだった。




「じゃあ、姉さん。またね…」


「うん…怜秋れいしゅう。気を付けて帰ってね」


次の日わたしは怜秋れいしゅうを見送るため、入り口前に立っていた。

怜秋れいしゅうの表情は思っていたより明るい。

心配の必要はなかったかもしれない…。


珀樹はくじゅ殿。怜秋れいしゅうのことよろしくね!」


「はい!お任せください。怜彬れいりん様」


わたしは二人が乗り込んだ馬車を見送った。

馬車が見えなくなった。ああ…。怜秋れいしゅうも独り立ちするのだな…。ふとそんな事を考えた。

そう思ったら涙が出てきた。


怜彬れいりん…大丈夫か?」


「うん…。大丈夫…」


泣いている事に気が付いた雷覇らいはに優しく抱きしめられる。

小さい頃から見守ってきた怜秋れいしゅうを思い出す。

初めて怜秋れいしゅうを見た時は、天使かなと思った。

わたしの指を小さな手で握り締めてきた途端にわたしが守らないと…。ずっと傍にいよう。

そう決心したのを鮮明に覚えてる。初めてお姉ちゃんと呼んだ時、初めて歩いた時。

どれこれも、大切な宝物だ。かわいいくて優しくて時々、ズバッと指摘してきて…。

わたしの大切な怜秋れいしゅう…。


「やっぱり一緒に帰った方がよくないか?」


「ううん。これでいいの…ぐす」


「そうか…」


わたしは涙を拭いて空を見上げた。雲一つない綺麗な空だった。

大丈夫。怜秋れいしゅうとわたしは姉弟だもの…。

その絆はずっと変わらない。少し寂しいけど、わたしには雷覇らいは

多くの友達もいる…。そう思いながらお城の中へ入って行った。



「もう歩いても大丈夫ですよ。最初はゆっくり歩いてみてください」


「はい!ありがとうございます。先生」


わたしは主治医の先生に足を診てもらっていた。

怪我をして1ヶ月と半月。かなり時間がかかったがもう痛みもない。

先生からもゆっくりなら歩いてもいいと許可も出た。

わたしはゆっくり部屋の中を歩いてみる。前に比べて痛みもなく歩くことが出来た!


怜彬れいりん…。本当に歩いて大丈夫なのか?」


心配そうに付き添う雷覇らいは

前に転んでしまったこともあってわたしがあることに否定的だった。


「大丈夫よ!ほら、前よりもちゃんと歩けてるわ」


「だが怜彬れいりん、前みたいに転んでしまったらどうするんだ…」


「今度は無理せずゆっくり歩くわ。ずっとこのままだと一生歩けない気がするもの!」


雷覇らいは様、ご心配なのは分かりますが、健康上あまり歩かないのも宜しくありません」


「そうれはそうだが…。もし、万が一という事があるではないか」


先生に諭されても、わたしが歩くことに賛成しない雷覇らいは

本当に過保護ね~。全然痛くないし、ゆっくりなら歩けてる。

わたしもいい加減、車椅子生活は終わりにしたかった。


雷覇らいは…。最初は別邸だけにするから…ね?」


「そうか…。じゃあ、別邸でだけだぞ?」


「うん!ありがとう、雷覇らいは


「それ以外はダメだからな!絶対に別邸だけだぞ」


「分かったわ。約束する」


ひとまずは、何とかって感じね…。もう~。本当に大丈夫なのに‥‥。

まぁ雷覇らいはが過保護になるのもお母様の影響があるから強くは言えないけど…。

雷覇らいはが子供の時に、ある日突然頭を打ってそのまま亡くなってしまった。

明日の約束を果たせないまま。

そう思うと雷覇らいはがちょっと可哀想だと思ってしまう。


「わたしは別邸へ戻るわ。雷覇らいははお仕事があるんでしょう?」


「いや!別邸へ送っていく」


そう言っていつものように抱っこされてしまった。

主治医の先生には微笑ましい笑顔でお見送りされてしまった…。

いつもの事なんだけど、ううう。やっぱり恥ずかしい。

もう少しの辛抱よ!歩けるようになったら、雷覇らいはに抱っこされながら移動もせずに済む。

雷覇らいははずっとこのままでもいいって言いそうだけど…。


「ありがとう。雷覇らいは


「ああ。なにか欲しいものはあるか?」


「大丈夫。何かあればリンリンに言うわ」


「…そうか。じゃあ仕事に戻るよ」


少し残念そうに部屋を出る雷覇らいは

仕事に行くだけましよね。成長したな~。雷覇らいは…。

わたしは雷覇らいはが帰ってくるまで書斎で過ごすことにした。

もうすぐお庭作りが始まるわね…。楽しみ~!

ある程度の大枠は決まっているため、来週から本格的に作り始める予定だった。

どんなお庭になるかしら…。わたしは図面を眺めながら完成図を想像する。

小さなベンチが合って、大きな木があってその周りに沢山の花を植えて…。

想像するだけでワクワクした。


「そう言えば…。どんな木の種類を植えるか決めてなかったわ…」


植える場所や気候によって木の種類も変わってくる。

わたしは木がたくさん載っている本を本棚から探し出す。

うーん…確かこのあたりに…。…?あれ?

見ると図鑑の後ろに何か引っかかっているのを見つけた。

何かしら?わたしは図鑑を取り出して、本と本の間に挟まっている冊子を見つけた。

手に取ってみるとすこし使い古した紙でできた冊子だった。


表紙をめくると見覚えのある筆跡が目に飛び込んできた。


『〇年〇月〇日


今日はいよいよ妻の出産予定日だ。ここ最近ずっと心配で眠れない。

子供たちに会えると思うと楽しみだが、妻になにかあると思うと不安で仕方がない…。

妻も子供も無事であることを祈るばかりだ。』


これって…。まさか‥‥。


『〇年〇月〇日


とうとう子供が生まれた!しかも二人とも男の子!とても元気そうだった。

妻も元気にしていた。本当に安心した。今日は久しぶりにぐっすり眠れそうだ。

名前はもう考えている。雷覇らいは水覇すいは

僕の漢字を一文字とって考えた。きっと優しくて強い子になるだろう』


炎覇えんはの日記だわ…。

内容を読み進めると、炎覇えんはの日々の出来事が書かれた日記だった。

こんな所に置いていたなんて…。

日記を書いていたこと自体知らなかった。わたしはそっと筆跡を指でなぞる。

懐かしい炎覇えんはの字…。丁寧な文字でつづられた日記はとても読みやすかった。


「読んでもいいものかしら…」


2ページほど読み進めたところで手を止めた。

日記はその人の心の内側が書かれていることが多い。

故人の日記を勝手に読むのはちょっと気が引けた…。雷覇らいはが帰ってきてから相談しよう。

わたしはひとまず日記を机の上に置いて、別の本を読み始めたのだった。

最後までお読みいただきありがとうございます( *´艸`)

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