115.怜彬《れいりん》と怜秋《れいしゅう》の気持ち
久しぶりの怜秋です!( *´艸`)
書いててとってもほっこりしました♡
「無理ですね!僕は雷覇殿を認めてませんから!」
バッサリ切れ味のいい返事だった。これくらいはっきり言われると逆に清々しいわ…。
怜秋に、わたしと雷覇の結婚を正式に認めてほしいと話した。
結果は惨敗。まったく取り付く島もないといった感じだった。
「なぜだ?俺のどこが認められないんだ!」
それでも諦めることなく食い下がる雷覇。こういう時の彼の空気を読まない感じは凄いと思った。
「どこって?全部ですよ!包容力はない、自分勝手で自己中心的。周りの迷惑を顧みない行動。どこを見てあなたを認めろと?」
「最初はそうだったかもしれないが、今は心入れ替えて、怜彬と真面目に向き合ってる」
「そんな事、当然でしょ!そもそも、あなたが姉さんを泣かしたこと僕は怒ってるんですからね!」
「う…。それは…弁解の余地もない」
怜秋…。やっぱり前の事…根に持っていたのね…。
怜秋が話している姿を見ると、水覇殿に見えてくる。
とても12歳には見えない。雷覇の方が子供のように見えてしまうくらいだった。
うーん…。やっぱり難しかったか~。最近ちょっとずつ姉離れ出来てきてるから
大丈夫かなとは思っていたけど…。そもそも、雷覇の最初の印象が良くない。
いきなり押しかけてきて求婚し挙句の果てに脅すようにして長期滞在だ。
怜秋が嫌がるのも無理はなかった。
「とにかく!姉さんと雷覇殿の結婚は絶対に認めません!」
「ブハッ!!」
後ろで控えていたサイガが噴出して笑い出す。また何かのツボにはまったようだ。
「サイガ!何を笑っている…」
ギロリとサイガを睨む雷覇。本気で怒っているようだった。
「いや~!すまん!ついな…。雷覇が最初に秋唐国へ行った時と同じだなと思って…ククク…」
とうとうお腹を抱えて笑い出すサイガ。
そんなサイガを今にも飛び掛かりそうな形相で見つめる雷覇。
そういえば…。雷覇が秋唐国へ来た時もこんな感じだったっけ?
あの時はわたしが物凄く反対していた。結婚なんてありえない!絶対しないとか言って…。
「サイガ!笑い過ぎよ。雷覇も落ち着いて」
わたしは見かねて、雷覇とサイガの会話に割って入った。
まぁ…。今日はこれくらにしないと。怜秋も意固地になっちゃうわ…。
「怜秋。時間を取ってくれてありがとう。秋唐国へはいつ帰るの?」
「明後日には出発するよ!その時には珀樹殿も一緒に」
嬉しそうに話す怜秋。よっぽど珀樹殿が気にいったらしい。
ふふふ。それならわたしは無理に帰る必要はないわね…。珀樹殿がいれば大丈夫だろう。
「うーむ。ひとまずは諦めよう…。怜秋殿、つぎに会った時は認めてもらうぞ!」
「だからその態度が気に入らないって言ってるんです!なんでそんな上から目線なんです?」
「頼んでるだろう?どこが上から目線なんだ!」
「自覚ないんですか?ほんとうに…。なんでこんな人がいいんだか、姉さんは…」
「怜秋…。雷覇もいい所は沢山あるのよ?」
「ありがとう。怜彬!」
「雷覇は黙ってて!」
「ブッハハハ!あー腹いてー…。お前ら面白すぎだろ」
すったもんだの末話し合いは終わった。何も進展してないけど…。
雷覇とサイガは仕事があるから執務室へ戻って行った。
わたしは、怜秋と二人で応接室にいる。
「ふぅ…。怜秋ってよっぽど雷覇が嫌いなのね…」
「嫌いだね!姉さん…。やっぱり雷覇殿と結婚したいの?」
「したいわ!雷覇の事好きだもの。向こうも好きって言ってるし…。そんな人には早々巡り合えないと思うの」
「はぁ…。よりによって何で雷覇殿なのかな~。もっと男性は沢山いるのに…」
「ふふふ。そうね…。でも、わたしに体当たりでぶつかってきてくれた人は雷覇だけだったわ」
「そんな…。姉さんが望めばどんな男性とでも結婚できるんだよ?」
「そうかしら?皆、わたしが【死神姫】って言われるようになってから離れて行ったわ。それからは一度も求婚されたことがないもの」
「それは…そうだけど…」
「ね?雷覇は凄いでしょう?わたしが何て呼ばれてようがお構いなしなの!わたし自身を見て好きだと言ってくれてるの」
そう怜秋に伝えると、黙り込んでしまった。
ほんとうに、ただの一度も雷覇から王女だからとか、傾国の美女だからとか好きだとは
言われたことがない。いつもわたしだけを見て、わたし自身を好きだと言ってくれている。
そんな人はそうそういない。【死神姫】と呼ばれてからは全くと言っていいほど縁談が来なかった。
わたしもそれで納得していたし、結婚するつもりもサラサラなかったからどう呼ばれていても良かった。
確かに雷覇の行動は自己中で自分勝手に映るかもしれない…。
でも、裏を返せばそれだけ必死になってわたしを求めてくれているという事だ。
周りの目を気にせず、周りに何と言われようと自分の意志でわたしを好きだと言ってくれている。
わたしが逆の立場なら同じようにできたかしら?
何も気にせずその人に想いを伝えることが出来たかしら?
「怜秋も誰かを好きになればきっとわたしや雷覇の気持ちが分かるわ…」
「そんな日は来ないよ…。僕が好きなのは姉さんなんだから」
「そうかしら?先の事なんて誰にもわからないわよ!わたしも絶対結婚しないつもりだったけど、今は雷覇と一緒に生きていたいって思うもの…」
「先の事なんて僕には分からないよ…。今を大切にしちゃいけないの?」
「怜秋…」
「なんで姉さんは雷覇殿の事ばっかりなんだ!ちょっとは僕の気持ちもわかってよ!!」
「怜秋!!」
怜秋が泣きそうな顔で部屋を出て行ってしまった。
ああ…。怒らせてしまったわ。
怜秋がこんなに駄々をこねたのは初めだった。
小さい頃からいつも物分かりが良くて、いい子だった。反抗期かしら…?
怜秋の後を追いかけようとも思ったけどやめた。
一人にした方が良いと思ったからだ。わたしも、弟離れしないとね…。
小さい時の怜秋を思い浮かべながらそう決心する。寂しい…。
ずっとわたしの弟と思っていたけどそうじゃない。彼も大きくなり成長して大人になる。
いつまでも私と一緒にはいられない。
「怜彬様…。追いかけなくて良いのですか?」
見かねたラカンに声を掛けられた。
「大丈夫よ。怜秋もやっと自我が出てきたのだと思うの…。今はそっとしておきましょう」
「かしこまりました」
「わたしは別邸へ戻るわ。ラカン連れて行ってくれる?」
「はい。承知いたしました」
怜秋…。あなたの事もちゃんと愛してるし、大好きだわ…。
それが一緒にいない事だとしても気持ちは変わらない。
いつか怜秋に伝わるといいな…。わたしはそんな事を考えながら別邸へ戻って行った。
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姉さんが…。とうとう雷覇殿に伝えてしまった…。好きだと。
僕は姉さんに対して感情的になって大きな声を出しそのまま部屋を飛び出した。
悲しかった。悔しかった。この気持ちをどうしたらいいか分からない。
絶望しかない…。今までずっと姉だけを見て、姉だけの事を考えてきた。
母の様であり、姉の様であり僕の好きな女の人…。
これまでも、これからも変わらない。ずっと一緒にいられると思い込んでいた。
「うう…。ぐす…」
「怜秋様?どうされたのですか?」
振り返ると珀樹殿が僕の後ろに立っていた。
いつの間にか僕は姉さんの庭園に来ていたらしい…。
「珀樹殿…。べつに…なにもないです…」
僕は俯いてその場をやり過ごそうとした。
でも、珀樹殿にそっと手を握られて止められる。
「怜秋様。ちょっとお散歩に付き合っていただけませんか?」
にっこりと微笑む珀樹殿。
白い髪の毛が風に吹かれてそよいでる。珀樹殿の髪の毛が光に透けて透明になっているように見える。
綺麗だ…。一瞬そんな事を思ってしまった。
「ここのお庭、怜彬様がお世話されてるんです。ご存じでしたか?」
「はい…。前に姉から聞きました…ぐす」
何事もなかったの様に話をする珀樹殿。
今は何も言いたくないから、その気遣いが嬉しかった。
「とっても綺麗ですよね…。どの花もみんな…熱心にお世話されているんだなと感じます」
「そうですね…」
珀樹殿に手を引かれてゆっくりと庭をめぐって歩く。
一人になりたいと思っていたけど、珀樹殿が傍にいてくれるのは不思議と心地よかった。
「わたし…。怜秋様の気持ちよく分かります」
唐突に珀樹殿に告げられる。
もしかして…僕が姉さんを好きな事しっているのかな…。
「私もずっと雷覇様に片思いをしてました。10年も…」
「そんなに長く…ですか」
「はい。でも想っていただけで何も行動してませんでした。いつか自分を見てくれるんじゃないか?いつか私を選んでくれるんじゃないか?そんな妄想ばかりしてました」
「珀樹殿…」
「今思えば滑稽ですよね。何も行動していないから相手には何一つ伝わっていない…。自分の気持ちばかり考えて周りを見る余裕もなかったです…」
「僕も同じような感じでしょうか…?」
「ふふふ。どうでしょう?でも…。誰かを一途に想う気持ちは一緒だと思います。それが叶わない。伝わらないと思う事の辛さも…」
「僕は…どうしたって弟だ…。姉さんのただ一人にはなれない…」
そう考えるとまた涙が出てきた。秋唐国第一王女・怜彬の弟。
それが僕の立ち位置だ。姉さんにとっては僕は家族で弟だ。よく分かってる。
ずっとそれでいいと思っていた。この気持ちが届かないとしても、姉さんが傍にいてくれるなら
僕はそれだけで幸せだと思っていた。
でも、雷覇殿の登場でその立場が一変する。
今まで何の変哲もない、穏やかな日々が終わる。姉さんの心を奪って攫ってしまう…。
あんなに頑なに結婚を拒んでいた姉が、あっさり雷覇殿と一緒になる事を決める。
どうしたって納得がいかない。姉を取られたような気持でいっぱいだった。
「怜秋様は、怜彬様にとってただ一人の人ですよ…。たった一人の大切な怜秋様です」
「でもそれは弟だからだ…。僕がどんなに姉さんを好きでも姉さんにとっての特別は僕じゃない…」
「ほんとうに…そうでしょうか?怜彬様は怜秋様の事をそんな風に考えていますでしょうか?」
「だって…。現にそうじゃないか。僕の事よりも雷覇殿を優先してる…僕の気持ちを分かってくれようとしていない」
「もし仮に怜秋様の気持ちを無視しているのであれば、すぐにでも雷覇様と結婚されていたのでは?」
「それは…」
僕を真っ直ぐに見据えて、凛とした表情で話す珀樹殿。
何の迷いも戸惑いもない声。曇りのない瞳…。
珀樹殿に見つめられるだけで、緊張して胸が高鳴るのを感じる…。
何だ?この気持ちは…。
「怜秋様にきちんと話して結婚しようとする怜彬様は、大切に想ってると思います。本来なら誰の同意もなく結婚はできますから…」
「たしかに…そうだね…」
「雷覇様も強引に話を進められますが、結婚せずにとどまってらっしゃる。それは怜秋様の気持ちを汲んでいらっしゃるのではないですか?」
「そう言われてみれば…」
珀樹殿の言う通りだ。夏陽国の国王である雷覇殿が
結婚すると言えばすぐにでも叶うだろう。誰も反対はしないしできない。
軍事国家の権威を使って脅してもいい。そうしないのは、雷覇殿なりの誠意なのだろうか?
「私、前にここで怜彬様に言われたことがあるんです。気にも留めなければ足元の花にも気が付かない。でも周りをちゃんと見れば沢山の事が見えてくると…」
「珀樹殿…」
「それで目が覚めました。いつも俯いて自分の事ばかり考えてるだけじゃなく、前をちゃんと見て回りの人達を大切にしようって思えるようになりました」
「僕にできるかな…そんな事…」
「きっとできます!怜秋様はとっても優しくて賢くていらっしゃいますもの」
「ありがとう…珀樹殿。ちょっと楽になったよ」
「ふふふ。良かったです」
そう言ってまた手を繋いで庭を眺めて歩いた。
さっきまでのどろどろとした気持ちは消えて、心が穏やかになっていた。
初めてかもしれない。姉さんに対する気持ちを誰かに打ち明けたのは…。
今までいけない事だと思って隠していた。誰にも相談せずに一人で抱え込んでいた。
珀樹殿に話すことで初めて姉に対する気持ちを肯定する事が出来た気がした。
そう考えると不思議と楽になれた。
後でちゃんと姉さんに謝ろう…。仲直りをしようと思った。
珀樹殿が傍にいてくれてよかったな…。繋いだ手を見ながら僕はそう感じたのだった。
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