105.別邸生活スタート~無理は禁物と学びました~
「うーん。何にしようかな~」
わたしは帰ってきて早速モチーフの図案を考えていた。
ブローチは直径15センチの正方形の白い布に、様々な糸を使って刺繍し
それを台座に取り付けて最後にフレームをはめ込む方法が一般的なんだそうだ。
出来れば花とかがいいな~。私が好きだし。何か相手の安全や無事を願うような花はあったかしら?
考えても思いつかなかったのでわたしは、別邸の書斎へ行った。
リンリンに連れて行ってもらってもいいが、それでは歩く練習にならないと思い
壁を支えにして歩いていくことにした。
片足で支えながら捻っている足を少し地面につけて立ってみる。
ちょっと痛いけど歩けなくはないわね!
すこし右足を引きずる形で歩く。ゆっくり一歩ずつ。リビングから書斎までのほんのわずかな距離も
物凄く遠く感じた。はーぁぁ…。結構体力いるわね~。
じんわり額に汗がにじむのがわかる。右足を庇っているせいで左足の負担も大きい。
「ふっ~!!やっとついた…」
やっとの思いで書斎に着いた。たった数十歩の距離だが物凄く体力を使った。
わたしはぐったり書斎の椅子に座り込んだ。
普段、自分がどれだけ雷覇に助けられていたか痛感した。
やっぱり徐々に練習した方がよさそうだわ…。
1ヶ月とはいえ全く歩いていない状態が続いている。筋力もかなり落ちていた。
「これはちゃんと歩けるようになるまで、大変ね~」
自分の足を見つめながら呟いた。
少し椅子の上で休憩した後、わたしは書斎を見渡して花言葉の本や
花にまつわる伝説・風習など記した本がないか探した。
棚の少し上の所でそれらしい見出しを見つける。
ゆっくり立ち上がってそっと手を伸ばす。少し背伸びしないと届かない高さだった。
うーん。あとちょっと…。右足を庇いながらぐっと足を延ばして本を取る。
背表紙に手が届きかかったところで、バランスを崩して横倒しそうになる。
「きゃっ…」
しまったと思った瞬間思わず目を閉じた。倒れる!とっさに右足を庇って受け身を取ろうとする。
「怜彬!」
どこからともなく雷覇の声が聞こえたと思ったとたん、どすんと
大きな音を立てて倒れ込んでしまった。
体への衝撃を想像したが全く痛くない。恐る恐る目を開けると雷覇に
抱きかかえられる形で倒れ込んでいた
「雷覇!どうして…」
「どうしてじゃない!怜彬何やってるんだ!」
起きかけに雷覇に思いっきり叱られてしまった。物凄い形相だった。
無理もない。黙って勝手に動いてこけそうになってしまったのだから。
「ご…ごめんなさい…自分でできると思って」
「転びそうになってたじゃないか!大怪我でもしたらどうするんだ!」
雷覇に荒っぽく抱きしめられた。
やっちゃった…。雷覇に心配かけてしまったわ。
こんなに叱られてしまったのは初めてかもしれない…。
「雷覇ごめんね。雷覇は怪我しなかった?」
「俺の事はどうでもいい!なんで人を呼ばなかったんだ!」
「歩く練習になると思って…」
「怜彬…。まだ治ってないんだ。無理しないでくれ」
「はい…。ごめんなさい」
「どこか痛いところはないか?足の怪我は?悪化してないのか?」
雷覇に抱きかかえられて書斎を出た。
ダイニングのソファに座って、雷覇に体のあちこし調べられてしまった。
「どこも痛くないわ。大丈夫よ」
「そうか…。よかった」
ほっとした表情でわたしの隣に座る雷覇。
もう一度ぎゅっと抱きしめられてしまった。
「怜彬。もう二度とあんな無茶はしないでくれ…」
「はい…。もうしないわ」
「本当だな?約束だぞ」
両手で頬を包み込むようにして顔を上向きに持ちあげられる。
雷覇の顔が思い切り近くなった。彼が真剣にこちらを見ているのが分かった。
「約束するわ…。もうしない」
「本当によかった。怜彬に怪我無くて…」
「雷覇…あの…んんっ」
もう一度謝ろうとしたら口を塞がれた両手で顔を抑えられてるから避けようがなかった。
突然かみつくような口づけだった。
いきなりの事でびっくりしてしばらく目を閉じることを忘れてしまっていた。
雷覇に口づけされてる!その時間が1分だったかもしれないし、数秒だったかもしれない。
「ふっ…んぅっ…」
何度もくっついたり離れたりを繰り返す。
次第に頭の中がクラクラしてきて、息も上がってくる。
わたしは必死になって彼の服にしがみつく。雷覇が物凄く怒っていることが伝わってくる。
わたしが無茶したことを怒ってるだわ…。
「はっぁ…らい…は…もうはなして…」
ようやく解放され雷覇に懇願した。
これ以上は限界だった。雷覇に触れてる。それだけでも胸が詰まる思いなのに
唇まで深く合わさってしまったらどうしていいか分からない。
「駄目だ。これはじっとしていなかったお仕置きだ…」
「んぅ…」
そう静かに言ってまた深く唇を重ねられる。お仕置きという言葉に心臓が鷲掴みされた感じがした。
背中がゾクゾクする。雷覇…。どうしよう。
何も考える余裕がなかった。ただただ、彼の唇を受けとめるだけで精一杯だった。
「怜彬…。本当に危ない事はしないでくれ…」
「はっ…はぁ…」
「君がまた怪我したと思うだけで、生きた心地がしない」
「ご…めんなさい…はぁ…」
ようやく解放されて、呼吸を整える。頭がボーっとして何も考えられなかった。
顔や首筋のあちこちに雷覇の口づけが降り注ぐ。
ちゅっちゅっという音だけが部屋の中で響く。
もう絶対に無理するのはやめよう…。
ううう…。恥ずかしい。何かある度にこんなお仕置きをされてはたまらない。
心臓が持たない。いくつあっても足りないわ…。
わたしは自分の心臓の鼓動を感じながら、雷覇が静まるのを待った。
「それで…。書斎で何の本を探してたんだ?」
「あ…。花言葉とか伝説とかの本を探してたの」
「よし。わかった一緒に取りに行こう」
「うん」
雷覇が立ち上がって私を持ちあげる。
もう一度書斎へ行ってさっき取ろうとしていた本を雷覇に伝えた。
「これでいいか?」
「うん。ありがとう」
わたしは本を受け取ってぎゅっと抱きしめた。
はぁ…。リンリンにお願いすれば良かったわ。
これからは高い所の物はちゃんと人を呼ぼうと思った。
「あ…そう言えば!雷覇に聞きたいことがあったんだわ」
「何を聞きたいんだ」
「あと2週間もすれば建国祭が始まるんでしょ?」
「ああ…。確かにそう言えばこの前、水覇がそんな事を言っていたな」
「え?雷覇知らなかったの?」
「建国祭を取り仕切るのは水覇だからな。俺は基本参加するだけなんだ」
「そうなんだ…。水覇殿と二人で模擬戦をするんでしょ?わたしそれが見たくって!」
「そうなのか…。それは今年は気合をいれて臨まないといけないな!」
わたしが見たいと言った事が嬉しかったのか、雷覇がの表情が明るくなる。
「あとは花火大会もあるんでしょ?」
「あるな。怜彬はそれも見たいのか?」
「うん!見てみたい。秋唐国ではやらないもの」
「分かった。一緒に見れるように調整してもらおう」
「ほんと?」
「ああ。その日の花火大会は一緒に見よう」
「やった~!ありがとう!雷覇」
わたしは雷覇にぎゅっと抱きついた。
よしよし…。これで当日ブローチを渡して告白すれば完璧ね!
あとはモチーフを決めるだけね!
「怜彬…。あのついでと言ってはなんだんだが…」
「なあに?」
雷覇が珍しく照れくさそうに尋ねてきた。
「その…だな…」
「どうしたの?改まって」
「いや…。やっぱりいい。忘れてくれ」
「え?すっごっく気になるんだけど…」
「いいんだ!大したことじゃない」
「そう?本当に大丈夫?」
「ああ…。大丈夫だ」
遠慮がちに笑って雷覇が立ち上がった。
急にソワソワしてどうしたのかしら?
「それよりも、怜彬は本を読まなくていいのか?」
「そうね!じゃあ今から読ませてもらうわ」
「俺は何か飲み物でも持ってこさせよう…」
雷覇はリンリンに飲み物を頼むために出て行ってしまった。
何が言いたかったのかしら?とっても気になるけど…。
言いたくないなら無理に聞かない方がいいわよね!
わたしは、雷覇が話してくれるまで待とうと決めた。
資料に目を通しながら、モチーフの案を考える。
ブローチは戦場に行く人に渡すものだから…。安全や無事を願うものが良いわよね~。
パラパラと本をめくっていると桃の花の言い伝えの記述が気になった。
桃の花には古くから、仙木・仙果と呼ばれ、不老長寿を与え、邪気を払う神聖な力があると信じられている。
なるほど…。邪気を払うなら、戦場に赴く人に渡してもおかしくはないかも。
それに花言葉も「私はあなたのとりこ」「天下無敵」という意味があると記載されていた。
あなたのとりこってところが恥ずかしいけど、天下無敵はなんかは雷覇っぽいと感じだ。
よし!桃の花のモチーフのブローチを作ろうっと。
わたしはさっそく桃の花のデザインを紙に書きだした。
ふふふ。雷覇…。喜んでくれるといいな~。
あとは花火大会も楽しみよね~。どんな服を着て行こうかしら?
またリンリンにお願いして見繕ってもらおうっと。お祭りなんだしちょっと気合を入れてもいいよね?
告白もするんだし…。いつも通りじゃ雰囲気出ないかもしれないし…。
そう思うとどこか心が浮き立つ感じがした。
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