第29話 おっさんズと王都争乱 その4
交渉決裂の際に実施する攻撃計画は、事前に立てられていた。
そのため、秋津は予め予定時間に間に合うように航空隊を発進させていたのである。
まぁ、機械時計の無い世界だし会議の流れ次第で色々変わるから、時間ぴったりとはいかないけどな。
大英の予想よりは、ちと展開が早かったようだし。
そんな訳なので、もし話し合いで解決していたら、秋津たちは何もせずに帰投したであろう。
結局、ルビコンを渡っちゃったんだけどね。
そして計画立案には王都の情報が活用された。
-- 数日前 --
館で大英達が会議をしている。
大英は館の執事から、王都の建物について聞いていた。
「という事は、議場は城壁に接して建っているのですか?」
「いえ、正確には接していません。 城壁から議場に続く通路を通じて接しています」
「なるほど、なら城壁を破壊しても、議場は平気だね」
「破壊ですか、可能なのですか。 あの車にそんな力が……」
「いやいや、シボレーはもちろん、マルダーでも無理」
「では、どうやって」
「石造りの構造物だからね。 車両なら戦車でも持ってこないと無理だろうけど、そんな時間は無いから空爆にする」
「くうばくとは何であるか?」
ゴートも聞き慣れない用語に首をかしげる。
「飛行機から爆弾と言う『周りを破壊するモノ』を落とすんだ。 村で遠くの魔物を倒した砲弾を大きくしたような物だね。 戦車だと何日もかかる上、トラブって来れなくなるかも知れないけど、飛行機ならスブリサからここまで1時間もかからない」
「1時間と言えば何であったかの」
「ゴート様、24回経過すると1日になる時間の長さです」
ビステルがゴートに教える。
「おお、そうであったな。 しかし、そんな短い時間で来れるとはな」
「それで、この城門近辺の建物について聞きたいのです」
「議場の反対側にあるこの建物は倉庫となっています」
「倉庫? こんな所に?」
「ええ、貴重品専用で、王家に献上される品々や、王より下賜される物品が収められています」
「なるほど」
「会議の日はほぼ無人ですね。 前後の日は献上品の検収や、下賜品のまとめで役人が居ると思いますが」
「では、この北に続く建物は」
「こちらは王宮勤めの兵達の宿舎ですね。 日中であれば休暇を取っている騎士や兵以外は、雑用をする従士が数名いるくらいですが」
「なるほどね、なら、これらは誤爆や巻き添えで破壊しても平気だね」
大英が建物内の人数を気にしているように見えたので、ゴートは確認の発言をする。
「ごばくとはなんであるか」
「爆弾は狙った所に落ちるとは限らないんだ。 目標を逸れて違う所に落ちる事もある。 それが誤爆」
「巻き添えというのは……いや、意味は分かるのだが……」
「爆弾は威力が大きいからね。 使うのは500ポンド爆弾だから辺り一帯吹っ飛ぶ」
「なるほど、もしかして大英殿は相手の被害を気にされておるのか?」
「別に気にはしないけど、恨みを買わないに越した事は無いかと」
「なるほど、それはもっともであるな」
ゴートも納得する。
「諸侯が居る議場には絶対落としちゃいけない。 ってのも徹底しないとな」
「でありますな。 それにしても、違う所に落ちる……であるか。 大英殿の世界の武具でも、その様な事が……」
「あー近年のものなら精密爆撃できるんだけど、今手元にある戦力ではそれは出来ないんで」
「うーむ、まだまだ戦力は発展途上であるか」
「まぁね。 と言う訳で、これで交渉がダメな時の対応は出来そうだな」
-- 現在 --
疾走するマルダーは王都の城門を超える。
入って来る時に破壊しているので、城門は空いたままである。
いや、ちゃんと「通せ」と話はしたんだがね。
残念ながらというか、当然の如くと言うか、門番が拒否して木製の扉を閉めたんで、そのまま通過した次第。
現代のAFVの力なら、人力で開閉する扉程度なら前進するだけで破壊出来るのだ。
ちなみに王都の出入り口に堀は無い。
もしあったら、20トン以上あるマルダーは通れなかったでしょうな。
王宮の周りにはあるんで、当然のように可動式の橋が架かっているとか。
さすがにアレに乗り上げたら落ちるだろうなぁ。
さて、マルダーが出て数分後、スブリサとザバックの馬車が城門を抜ける。
特に追っ手は無い。
門番も逃げ出しており、管理する者は居ない。
さらに数分後、サファヴィーの館からの馬車と騎兵が脱出。
その間、秋津の航空隊は追っ手が居れば機銃掃射をすべく、上空から監視していたが、その機会は無かった。
UH-1は王都から1キロ程の平原に着陸し、待機する事とした。
「それにしても、驚き申した。 飛行場を使わずとも飛べるとは、まさに神の飛行機であるな。 しかもそれに乗れるとは……」
ゴートも感慨深い様子だが、リディアは大はしゃぎである。
「ねーねー、これってティアマトちゃんの飛行機と同じなのかな」
「いや、違うけど、まぁ機能としては似てるかも」
「ふーん、でもすごいなー、街や人があんなにちっちゃくなっちゃったし」
「そうですね」
パルティアも静かに興奮している。
召喚した車両に乗る機会はたまにあっても、馬が居ないだけで馬車とあまり違わない。
むしろ秋津や大英の車のほうが珍しいモノが付いていたりする。
それに対し、UH-1は空を飛ぶ。 やはり空を飛んだという経験は違いますねぇ。
やがて、マルダーや馬車などが合流する。
皆が揃ったのを確認し、通信兵は秋津に合流完了を通知した。
「よーし、最後の仕上げだ」
ブロンコは王都城門から続く街道を爆撃する。
距離を取ったので爆発の影響は城門には届かないが、道には大穴が空く。
それは追っ手が現れた時に無言の圧力となろう。
残っていた2発の爆弾を落として身軽になったブロンコは、配下のモスキート、P-47Dと共に帰路についた。
大英達も、UH-1に乗り込み離陸する。 流石に速度的に秋津航空隊にはついて行けないから、単機で飛んでいく。
そして、マルダーと馬車たちは地道に陸路でスブリサへ向けて進むのであった。
*****
「な、何という事だ」
議場から外に出て、石造りの建物や城壁が崩れ炎上している様を見て、王は愕然とする。
「こんな、こんな事が……一体何が起きたと言うのだ」
「陛下、皆が見ております。 落ち着きなさいませ」
「あ、ああ」
王と共に惨状を見て、大公は難しい顔となる。 そして横に控える王立近衛魔法団団長に問う。
「ハイシャルタット卿よ、これは神獣の成した事なのか」
「おそらくは。 配下の者によりますれば、空を飛ぶモノが何かを落とし、それの力でこの様な状況と相成ったと」
「つまり、空を飛ぶ神獣……いや神鳥か。 そのような者まで居ったとは。 この戦、勝てるか」
「はい、神獣と言えども無敵ではありません。 城門の向こうに焼け死んだ神獣の躯がございます」
「ほう、そなたが倒したのか」
「いえ、配下の者が倒しました」
「なるほど、神獣恐れるに足らずだな」
「御意」
「ならば、不届き者共に王威を示さねばならぬな」
「ははっ」
そして大公は、まだ茫然と佇む王に向かうと恭しく語る。
「直ちに兵をまとめ、諸侯にも戦力供出の令を出します。 必ずや報いを受けさせましょうぞ」
「お、おお、そうか……、頼んだぞ」
「ははっ」
2日後、臨時で再度開かれた貴族会議で、大公は諸侯に対しスブリサ・ザバック討伐軍の編成を発表。
そして、諸侯に対し各々騎士団および徴兵した兵団を編成して参加させるよう要請した。
形の上ではお願いだが、事実上の命令である。
諸侯は各々の思惑で、それに対応する。
ある者は戦功を上げて地位の向上を目指すべく、3個騎士団と大規模徴兵した数百人規模兵団の派遣を目論む。
またある者は形だけ従い、予備の騎士団を一つだけ出す。
そして前宰相オルメカの居たヌヌー伯領はサボタージュを考える。
貴族会議は終了し、諸侯は戦争準備に奔走する。
そんな情勢の中、ヨークは大英達に先行しスブリサに入っていた。
「まずはどんな人物なのか。 そこから調べなければ……」
だが、社交的で都の人達や村人ともコミュニケーションをよく取っている秋津と違い、大英は大抵家に引きこもって模型作りをしているのである。
人々に聞いても、その人となりを知る事は難しいのであった。
用語集
・トラブって来れなくなる
無限軌道での長距離移動はあまり好ましくない。
外れたりするリスクがあるんでね。
トレーラーを使うのが望ましいが、大英君はそのようなモノを持ち合わせていない。
世の中にはあるけどねぇ、ドラゴンワゴンとか。
・使うのは500ポンド爆弾
旧日本軍で言えば、250キロ爆弾に相当。
なお、ブロンコだけは重量半分の250ポンド爆弾を積んでいる。
・恨みを買わないに越した事は無い
王には恨まれるだろうが、下級兵を含む庶民の恨みは買いたくない。
そうする事で、上と下の認識を乖離させるというのは、よくある手法。
逆に庶民を熱狂させることで力を何倍にも増幅できるのは、リメンバーパールハーバーを見た通り。
・近年のものなら精密爆撃
レーザー誘導爆弾なら使えるだろう。
GPS誘導爆弾は当然アウト。
え? スペースシャトル使ってGPSを打ち上げる?
シャトル&発射台は持ってないし、GPS衛星も発射基地も何もないのだが。
・20トン以上あるマルダー
キットの解説書によると23トン。
一方、wikiで見ると30トンを超えるらしい。
wikiの値は追加装甲を装備している後期型なのかもしれない。
・大抵家に引きこもって模型作りをしている
普通に秋津と出かけて指揮やら調査とかしている事が多いように見えるが、気のせいである。
何か起きた時だけ描写しているから、そのように見えるだけ。
何も起きていない日に街や村に出る事は無い。