第29話 おっさんズと王都争乱 その3
スブリサと王都の中間地点よりやや王都よりの空を、王都に向かって4機の航空機が飛んでいた。
双発機が2機、単発機が2機。
それぞれ、OV-10A ブロンコ、モスキート Mk.XVIII、そしてP47Dが2機である。
ブロンコという航空機は複座で、その後席には秋津が座っている。
本来は戦場を管制する兵が乗る場所だが、専門家が必要なほど大軍では無いのと、細かい直接的な判断・指示が必要なため、乗り込んだのだ。
もちろん、操縦や攻撃などはしない。 それは前席のパイロットの仕事。
そして予定より早く「カエサルはルビコンを渡った」の通信を受けた。
「おーっと、もう来たか。 英ちゃんの予想より早いな」
秋津は腕時計に目をやると、機内交話装置でパイロットに話しかける。
「予定より早いようだが、間に合わせられるか?」
「問題ありません、閣下」
秋津は必要な増速について説明を受け、残り3機に通知した。
各機は速度をやや上げ、待機ポイントへと向かう。
ブロンコは先行し状況を確認する。
王都の中心部近くから、以前行ったときには見られなかった、煙というか土煙のようなものが上がっているのが伺える。
「どうやら、戦闘に突入しているようだな」
そう判断し、各機を急がせる。 そして共に地上に通信を送る。
「ホークリーダーよりカットマン、状況を知らせよ」
「カットマンよりホークリーダー、東西より敵の挟撃を受けている。 南方地上脱出路は確保、北方より魔法に長けた追撃者あり」
「ホークリーダー了解、カットマンリーダーにつなげ」
「了解」
そして地上の通信兵は大英に駆け寄り、「リーダー出ます」と受話器に告げると、その受話器を大英に渡した。
早速秋津は叫ぶ。
「騎兵隊参上!!」
「おお、待ちかねたぞ!」
「どうよ、苦戦中か」
「ああ、だが想定内だ。 今何処だ」
「あと1分で上をパスする」
「よし、俺らの北に城壁と門がある。 それを爆撃してくれ。 東西には弓兵と魔法兵が居るんで、こいつらの始末も頼む」
「門の北の連中はどうする?」
「狙わなくても良いが、巻き添えを気にする必要は無い。 王国一の魔法使いが居るから気を付けろよ」
「了解、任せろ」
王都に人々が聞いたことのない音が響く。
それはブロンコのターボプロップエンジンの音だ。
道行く人々は何事かと顔を見合わせる。
だが、直ぐに空を見上げる者は居ない。
「空に轟音の音源がある」という状況を体験した事のない彼らは、何処から音がするのか判らないのだ。
やがて音が上からだと気づく者も現れる。
「な、なんだアレは」
空を飛ぶ物など、鳥しか知らない彼らの目に、大きな音と共に羽ばたくことなく飛ぶ姿が映る。
その姿に驚いたのは街の人々だけではない。
戦っている兵達の手も止まる。
ブロンコが城門上空を通り抜ける。
その高度は低く、秋津は地上の状況を十分に確認できた。
そして各機に指示を出す。
ブロンコに遅れて3機の攻撃隊が王都に突入する。
P-47の1機が北側から回り込み、城門に向かって急降下しつつ搭載していた2発の爆弾を投下し、機体を引き起こす。
投下された2発の爆弾のうち1発が城壁基部に直撃し、城壁が崩れる。
もう1発はやや手前に着弾し、その爆風は王立近衛魔法団の魔導士達を吹き飛ばす。
続いてモスキートは西側から侵入し、城壁の北側に2発の爆弾を投下。
1発は城壁近辺に着弾し、城壁の一部が崩壊する。
もう1発は道を挟んで議場の反対側にあった建物を直撃し、破壊・炎上となった。
城壁南側には絶対着弾させてはならず、城門も空いているので、その近辺もダメ。
この課題を、両機とも忠実に成功させた。
モスキートは旋回し、今度は南側から侵入すると、大きなダメージを受けて崩壊寸前の城門上部にロケット弾を撃ち込む。
8発のロケット弾のうち2発が直撃し、城門も崩れる。
1発は残っていた城壁に当たり、5発は門を抜けて先に着弾。
爆撃のダメージを受けて負傷していた魔導士達の数名に止めとなった。
P47の1機はロケット弾のみ搭載しており、最初から東側の兵にロケット弾をお見舞いする。
もう1機のP47もロケット弾を持っており、爆撃後戻ってきて西側の兵を叩く。
航空機の速く強大な攻撃を受け、大英達を攻撃していた王都の兵達は、あっという間に壊滅的損害を受ける。
上空から戦果を確認していた秋津は、王宮から追加の兵団が南下しているのを確認する。
「増援か、そうはさせん」
ブロンコ自体も爆装している。
ブロンコは南下する兵団の手前に2発の爆弾を投下。
大きな爆発だが、兵団から離れていたため、兵には被害はない。
周辺の建物は崩壊し、小さなクレーターが出来たが。
兵団はその様子に慄き、動きは止まる。
「ホークリーダーよりカットマン、障害は排除した」
「カットマン了解、引き続き警戒されたし」
「ホークリーダー了解」
爆弾やロケット弾により、12名の魔導士達は6名が死亡、4名が負傷し戦闘不能となっていた。
一般の兵士なら普通に全滅している所なのだが、防御魔法により、被害を低減させていた。
そこへ、ハイシャルタットが現れる。
「な、なんという……」
何やら大きな音が連続していたが、まさかこんな事になっているとは。
それが彼の第一印象だ。
飛行機や爆弾を知らない彼らにとって、轟音や爆発音から破壊は連想できない。
暫し茫然となっていたが、直ぐに我に返ると、配下の元へと駆け寄る。
部下たちは倒れ、動けるのは僅か2名。
予想だにしない損害だ。
追撃を任せた副官が膝まづく。
「団長、申し訳ございません」
その副官の傷も決して浅くはない。
「これが、神獣の力なのか……」
「わかりません、空を飛ぶ物から何かが落とされ、この様な有様となりました。 防御魔法が無ければ、全滅していたかと」
「そのようだな」
建物や城壁の崩れ方を見るに、防御魔法を忘れたとか失敗したという事では無いだろう事は、容易に推測出来た。
「お前たちは休んでいろ」
そう言うと、ハイシャルタットは城門だった何かに向かって走り出す。
「お待ちを、我らもお供します」
動ける2名の魔導士がついて行こうとする。
「ならん、足手まといだ」
それを聞き、2名は無念の表情で姿勢を崩し、跪く。
城門の残骸にたどり着くとハイシャルタットはその体を浮かび上がらせ、崩れた城門を超える。
そして、南側の少し開けた所に移動していく大英達を見つけると、火球を放った。
「させない!」
サファヴィーの風魔法が火球の軌道をそらせ、攻撃を無力化する。
「まだ抵抗するのか、というか、一人で?」
「あれは王立近衛魔法団団長ハイシャルタット卿、一人で魔法団戦力の半分に相当する強者じゃ」
ゴートは額に汗を浮かべる。
「単独の個人を空から撃つのは無理か……」
各機は機銃を積んでいるから、その気になれば機銃掃射も出来ようが、接近されればその手は使えない。
「しょうがない、最速で脱出しよう」
大英はリュックを降ろすと、中から四角い缶を取り出す。
そのフタを取ると、リディアとパルティアに声をかける。
「よし、召喚だ」
「りょーかい!」「はい」
ゴートとバンホーデルは改めて剣を構えると、ハイシャルタットの前に立ちはだかる。
そして太后とサファヴィーは防御の風を展開する。
火球、雷、氷の矢、さらには残骸を利用した石の雨。
ハイシャルタットの攻撃は悉く退けられる。
「馬鹿な、二人掛とは言え、この私の攻撃を受け流す魔導士が居るとは……」
そして彼の注意を引き付ける問題がもう一つ。
マルダーがその機銃を撃ってきているのである。
浮かびつつ距離を詰め、さらに敵の放つ謎の光弾を避ける。
これでは、攻撃に使える魔力など、彼にとっては「たかが知れている」レベルになってしまう。
ほかの魔導士なら、そのどれか一つだけで精一杯なのだがね。
だが、風魔法を操る二人にも疲れが見える。
「どうやら、ここまでですね」
彼がそう思った時、光の霧が目標を包み込んだ。
「何事か!」
攻撃を中止し、防御魔法を強化して不測の事態に備えるハイシャルタット。
だが、それは攻撃魔法の発動では無かった。
霧が晴れた時、そこには見た事も無い謎の物体が出現していた。
「な、なんだアレは……」
ハイシャルタットは警戒し様子を伺う。
一方、大英達は速やかに行動する。
「皆さん、コレに乗り込んでください。 機甲歩兵はマルダーに搭乗して撤収」
皆、驚く間もなく大英の指示で走る。
現れたのは1機のヘリコプター。 「ベル UH-1D イロコイス」だ。
エンジンを始動し、ローターが回転を始める。
大英達が乗り込むと、空に舞い上がる。
「な、馬鹿な、空を飛ぶだと……」
攻撃しようとするハイシャルタット。
マルダーは撤収のため南に向きを変え、砲塔は前方を警戒している。
攻撃がやみ、ヘリもまだ低空のため、魔法攻撃なら有効だと判断したのだが、その攻撃を実施する事は出来なかった。
マルダーにはもう一つ砲塔のようなものが付いている。 そこに装備された後方機銃をハイシャルタットに向けて撃ちだしたためだ。
急遽ハイシャルタットは後退し、シボレーだった残骸の影に隠れる。
そして時機を逸した彼に、再度のチャンスは訪れなかった。
馬よりも早く走り去るマルダーと、空の向こうに消えるイロコイス。
その姿を見送るのみであった。
用語集
・ホークリーダー
航空隊の1番機は通信の際に「なんとかリーダー」と名乗る事が多い。 スカルとかは有名。
ホークが選ばれたのはエクストリーズィーベンに登場する特殊戦闘機「エクストリーホーク」シリーズから取ったという事だ。
・カットマン
某小説に登場する男の名前から付けられたコードネーム。
100人が死ぬ選択肢と、1000人が死ぬ選択肢を提示されたら、迷うことなく100人が死ぬ方を選ぶ。
全員を助ける方法を探して手遅れになって全滅させてしまう事も無ければ、仲間が100人の中に居ても気にしない。
さらに目的の為なら手段は選ばない。
その男の名字は「切谷」。 その「切」の字から付けたものである。
大英達は大公暗殺も視野に入れていたのでね。
・騎兵隊参上
西部劇とかで危機に駆け付ける。 というイメージ。
なので馬が出てくる訳ではない。 出てきたのは戦闘機だね。
大英はあまり見た事は無いが、秋津はなぜかこの手の60年代にやってたような西部劇をよく見知っている。
なーに、再放送で見ただけだがね。




