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模型戦記  作者: BEL
第5章 王国の混乱
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第29話 おっさんズと王都争乱 その1

 時は暫し戻る。


 議場で太后がその正体を明かした時、傍聴席では大英がメモを左隣に座るビステルに見せていた。

その紙には「せんとう に そなえて」と書いてある。

戦闘に備えてという事だ。


 ビステルは頷く。 彼は秋津教室で学んでおり、ひらがなが読め、内容を理解する事もできるようになっていた。

続いて右隣のパルティアに渡す。

彼女は手提げ袋から眼鏡を取り出すとかける。

天界より借り受けている翻訳眼鏡だ。


 パルティアは内容を理解すると、紙をリディアに渡す。

すると、衛兵がやって来て、後ろから手を伸ばしてその紙を取り上げた。



「あー」


「何だコレは……うん? なんの落書きだ?」



 残念ながら衛兵はひらがなが読めない。

リディアは立ち上がると、衛兵の方を向き、やや屈んで上目遣いで「お願い」する。

思わず衛兵はリディアの胸元に目が行く。

議会の傍聴は公的な場とはいえあくまで部外者のためリディアは正装では無い。

ケープ状のものは身に着けておらず、衛兵は大きく開いた胸元を上から覗き込む形になったのだ。



「大事なおまじないの紙なの、返してくださる?」


「な、何のまじないだ」



 リディアの思惑通りの反応を返す衛兵。

そして「それは話しちゃったら効果が無くなっちゃうから、許して」とウインクしてみせる。


 その説明自体はよくあるものなので、衛兵も不審には思わない。

そして、その紙質の立派さから、高級なまじないの為の札であると思われる。

危険はないというか、下手な事をするとかえってまずいと判断したので、返却する事とした。

決して目の保養に対する御礼ではない。

決して目の保養に対する御礼ではない。

彼の名誉のため、2回書き記す。



「失礼しました。 お返しいたします」


「ありがと」



 メモ用紙を受け取ると、リディアは座り、パルティアから眼鏡を受け取る。

そして、内容を理解すると隣の機甲歩兵に渡し、眼鏡を外してパルティアに返す。


 機甲歩兵は受け取ると、直ちに行動を始める。

通信機を持つ兵は回線を開くと「カエサルはルビコンを渡った」と繰り返し告げた。


 衛兵は議場内の出来事に目を奪われており、その通信に気づく事は無かった。



 そして王の命令が議場に轟く。



「衛兵! スブリサの者達を捕らえよ!」



 議場の衛兵達は太后とゴートに向かう。

そして傍聴席の衛兵は大英達を捕らえようとする。


 傍聴席は議場を取り囲むようにあり、丁度競技場と観客席のような感じだ。

ただ、観客席と違い奥行きは少なく、椅子は1列しかない。


 直ちに機甲歩兵の一人が議場に飛び込んで、太后の元へと走りながらM16で衛兵を撃つ。

左肩に弾を受けた衛兵は左肩を殴られたかのように、後ろに飛ぶように倒れる。

同時に機甲歩兵1名は傍聴席で、向かってきた衛兵の脚に一連射する。

たちまち先頭の2名が倒れる。


 そしてビステルが叫ぶ。



「止まれ衛兵! 我らム・ロウ神の加護を受けし者なり。 我らに逆らうは神罰を受けると心得よ!」



 いきなり謎の遠隔攻撃を受け、衛兵が倒されるのを見て、王は(おのの)く。

だが、大公は怯まない。



「何をしている! 皆で一斉にかかれ」



 ビステルもそれに応じて叫ぶ。



「神の慈悲はここまでだ! 次は命は無い!」



 動けない衛兵たち。

そして、機甲歩兵の一人がM16ライフルの銃口を大公に向ける。

ここの衛兵は愚か者では無いようだ。 大公を撃っても、それに殉じて無謀な突撃をして来る事は無いだろう。

つまり、共倒れになる危険は少ない。

ならば、ここで大公を暗殺してしまえば、全て解決である。

神罰が下ったとなれば、彼らの行動に諸侯も納得するだろう。


 指導者を後回しにして雑魚を倒しているうちに、指導者に逃げられたり、切り札を出されてこっちが逃げる羽目になって、結局「ちょっとした混乱」で済む話が、大戦争になる。

よくある話であるが、別に主人公が間抜けなのではない。(事もある)

大抵の場合、いきなり指導者を討ったりすれば、その後主人公たちは包囲網から脱出できず共倒れになる危険が高い。

首尾よく成功させても、周りの人々から卑怯者と思われて、結局より悪い状況になる事も懸念される。

まぁ、お話を盛り上げるために主人公の知能を下げて、ボスが逃げられるようにするという「ご都合」な事もあるだろうけど。


 だが、その「死者を1名に抑える穏便な解決策」は、やはり実施できなかった。



「そこまでだ!」



 議場に声が響くと同時に、大公を狙っていた機甲歩兵は金縛りに遭って銃を落とす。

大公は声の主を見て礼を言う。



「おお、ハイシャルタット卿! 助かったぞ」


「裏で待機していて正解でした。 宰相閣下の見立て通りでしたね」



 議場の裏では王立近衛魔法団が待機していた。

団長以下12名の魔導士が議場に突入したのだ。



「これは、マズイわね」


「マズイか?」


「魔導士が13人も居たら支えられないし、あのイケメンは王国最強よ」



 リディアの情勢判断を受け、大英はプランBに切り替える。



「よし、総員撤退だ」



 それを受け、ビステルは「ブルータスが来た!」と叫ぶ。

皆何の事か判らず固まっていると、ゴートと太后は機甲歩兵と合流し議場から脱出しようと動く。

ザバック辺境伯と従者も合流し、一緒に脱出する。 なお、ザバックからの傍聴者は居ない。

リディアは金縛りを解除して機甲歩兵を自由にする。

この程度の魔法なら、術者以外でも解除できるようだ。



「そうか、逃げる符丁か、そうはさせん」



 だが、その直後、議場を光が包む。

リディアの魔法で閃光が発生したのだ。


 予め目を覆っていた一行は問題なく逃避を継続。

衛兵と魔法団の面々はしばらく視界を奪われる事態となった。

それは団長たるハイシャルタットも例外ではない。



「馬鹿な、このハイシャルタットを手玉に取るなど……」



 結局のところ、よーいドンで力を競うなら最強でも、実戦はそうはいかないという話だ。



 外に出た一行は内側区画から外へ向かう。

門までの距離は数十メートル。 遮る者は居ないが、後ろからは騎士達が追ってきている。

衛兵より強力な武装と訓練を受けた者たちだ。


 機甲歩兵が後方にグレネードランチャーを発砲する。

それは騎士達の真ん中で炸裂し、至近距離で直撃を受けた騎士数名はそのまま絶命し、残りの者達も破片によって傷を負い、行動不能に追い込まれる。


 ビステルは先行し門番に門を開けるよう命ずる。

騎士達が轟音と共に吹き飛ぶ様を見た門番は、抵抗せず門を開けると、逃げて行った。


 門を抜けると、デザートシボレーが待っていた。 これで脱出!



 とはならなかった。



 門の外には騎士と雑兵、魔導士からなる部隊が待ち受けていた。



 門の外はT字路の様に道路が通じた広場になっている。 門を開けば十字路だね。

そして、左右(東西)と前方(南)の3方向に騎士達が待ち構えており、包囲された形だ。

大英は感想を述べつつシボレーのドライバーに聞く。



「さすが大公、用意がいいな。 ところでどうやって来た?」


「はっ、小官が到着したときは道は開けていましたが、その後、建物の陰より兵が現れました」


「最初からこうなる事を見越してたって訳か。 さすが、伊達じゃないな」



 大英は内側区画を囲む城壁と、もう一つの出入り口を見る。

それは大英達傍聴者が入った入口だ。



「あの入り口を封鎖したい。 出来るか?」


「お任せを」



 相談を受けた機甲歩兵は、シボレーの荷台からバズーカ砲を持ち出すと、構える。



「後方確認!」


「よし」



 発射されたロケット弾は入り口上部に着弾する。

石造りの城壁は損傷し、入り口はその機能を失う。

戦車を倒すバズーカ砲の威力を考えると被害は軽微に見えるが、成形炸薬弾は石を相手にするようには出来ていない。

それでも、目的達成には十分な打撃であった。



「これでしばらく開く事は無いでしょう」


「ありがとう」



 そうすると、三方から矢が飛んできた。 雑兵達が矢を撃ち始めたのだ。

大英の隣に立っていたシボレーのドライバーが矢を脚に受ける。

すると、その部位が凍結し、さらに氷が広がって動けなくなった。

それを見てリディアが叫ぶ。



「いけない! 魔力付与されてる」


「なんだそれは」


「当たると凍る魔法が付いてるの」



 流石に王都の兵は辺境の騎士団とは違う。

魔法と弓を連携して使っている。

巨大な魔法でドカンと一発というのは、強力な魔導士で無いと出来ない。

当然、世の中そんな強力な奴ばかり居る訳じゃ無いし、街中でそんな派手な事は出来ない。

だからと言って、貧弱な魔法をそのまま放っても軍事的な意味は無い。


 能力の低い魔導士でも使え、低コストで効果を発揮する手段が研究されていたのだろう。



「効いてるぞ! 流石はハイシャルタット卿考案の戦法だ! 我らでも戦えるぞ」


「撃て撃て!」



 次々と放たれる矢。

何かバリアのような矢除けの魔法でもあれば良いのだが、生憎リディアもパルティアもその手の魔法は持ち合わせていなかった。



「とにかく応戦だ。 術者・射手が居なくなれば、矢は飛んでこない」



 機甲歩兵はM16ライフルで応戦する。

次々と倒れる兵達。

だが、倒れているのは盾を以て前に出ている雑兵と、それを指揮している騎士だけ。

盾ではM16の小銃弾を防ぐには非力だが、人間の壁は後方の弓使いや魔導士へ弾が届くのを阻害していた。



「シット! 一体何人居やがる」



 倒しても、すぐに次の兵が立ちはだかる。

状況は改善しない。

機甲歩兵の一人が矢を受け、腕が凍結する。

ゴートはリディアに問う。



「リディア殿、お主の魔法で氷を何とか出来ぬか」


「無理無理、魔法の氷だよ、これを火の魔法で溶かしたら腕も消し炭だよ」


「丁度良くは出来ぬか」



 凍傷のダメージはパルティアの治癒魔法で緩和されているが、それでも氷自体はそのままだった。


 M16の弾が切れた機甲歩兵がシボレーの荷台に上がったが、矢の魔法は生体にだけ効果を発揮する訳では無かった。

運悪く被弾したルイス軽機関銃も凍結し、動作しなくなっている。

だが、機甲歩兵の目的はソレではない。

彼はバズーカ砲で使う残り1発のロケット弾を拾うと、正面南方の敵に向ける。


 本来は対戦車兵器で、トーチカなど硬目標を撃つものだが、ぜいたくを言っている場合ではない。

後方を確認すると、敵兵集団に向け放つ。

直撃を受けた兵と、その後ろに居た兵達は当然として、周辺の兵も多くが倒される。


 実はバズーカの弾であるHEAT弾は何も前方に対してだけ効果がある訳ではない。

正面を貫くメタルジェットはその火力の2~3割程度。 残り7割~8割は榴弾同様周辺にまき散らされる。

普通の榴弾と比べれば火力は低いが、徹甲弾を撃ち込むのとは訳が違うのだ。



「これで道が開けた……っ」



 多くの兵が倒れたが、新たな兵が湧いてきて前面を埋め、そしてまだ矢は飛んでくる。

正にきりがない。

朝鮮戦争で義勇軍の人海戦術に見舞われた米兵の気分もこんな感じだったろうか。


 ザバック辺境伯を守る従者は、ザバック第1騎士団団長のバンホーデルだ。

彼の技量をもってすれば、剣で矢を落とす事もやってのける事が出来るが、疲れが見えるようだ。



「ふむ、ゴートよ、互いに年はとりたくないものだな」


「なんの、まだまだじゃ」



 ゴートも太后を庇いながら2本のダガーで矢を落とす。

まだまだと言っているが、やはりその額には汗が浮かぶ。



「うーむ、大英殿、これはまずいのではないか」


「思った以上に用意が良いな、自信の裏付けアリって奴か」



 そう言いつつ、左腕の時計に目をやる。

それにしても、王都の兵の人数は予想以上に多いようだ。



「もう少しだ、もう少し耐えてくれ」


「承知!」



 ゴート、そして面々は気合を入れなおし、敵に対峙する。

用語集


・衛兵より強力な武装と訓練を受けた者たち

衛兵がガードマンや警官なら、騎士達は職業軍人。



・街中でそんな派手な事は出来ない

別に良いじゃ無いですか、エクス…うぐぐ

やめなさい。(いろんな意味で)

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