第28話 おっさんズと宗教改革令 その8
王都、スブリサ辺境伯の館では昨日の謁見について話し合いが行われていた。
ゴートは半ばあきらめ顔になる。
「やはり大公の意向は揺るぎないでしょうな」
「そうですね。 周りの人々を見ても、彼の力の強さが見て取れます」
大公は現時点ではまだ「宰相代理」。 今回開かれる貴族会議の場で正式に宰相に就任する予定だ。
それでも、王宮や王都内の貴族や実力者をまとめ上げている。
王都に来てからまだ3日だが、その様子を実感したゴートと太后は、言葉による解決が困難だという感想にたどり着いていた。
「大英殿はどう思われるか」
ゴートに話を振られ、大英も口を開く。
「そうですね、相当口が上手い相手だと感じましたから、何らかの『裏付け』を持たない者の言う事は、誰も聞かないでしょう」
「裏付け……であるか」
「ええ、この短時間に基盤を固めてしまう政治力と、港で示されている海軍力。 わざわざ逆らう者は少ないでしょう」
「対策は考えられるものか」
「どうでしょうね。 外の車で示威行動を取れれば、少しは動きがあるかも知れませんが」
デザートシボレーには機関銃が搭載されている。
さらに、元々デザートシボレーの備品では無いが、バズーカ砲も1門積んでいる。
弾は2発しか持ってきていないため、あまり無駄遣いは出来ないのが難点だが。
他にも手りゅう弾や機甲歩兵のM16ライフルにM79グレネードランチャーなど、それなりに人々を驚かせる火器はある。
通信機でマルダーと交信できるので、そちらも有効だろう。
最後は、その通信でマルダーを呼び寄せれば、(馬車やシボレーと比べれば)巨体が轟音を上げて走る様は、圧巻だと思われるし、そもそも「呼べば来る」という事象も脅威と映るだろう。
もちろん、搭載する20mm砲の威力を見せれば、それは王立近衛魔法団の魔導士が放つ魔法にも匹敵すると理解されるに違いない。
が、逆に言えばその程度である。
まぁ、戦争しに来た訳では無いからねぇ。
16式機動戦闘車でも同行すれば、城壁さえも破壊できる105mm砲で「砲艦外交」が出来そうであるが。
残念ながら1/35でも現状90年代までが限界なので、2010年代の装備はまだ無理である。
そこまで強力でなくても、ドイツの8輪重装甲車(Sd.Kfz.234/2 プーマ)とかなら、ほぼ同じことが出来るだろう。
105mmどころか75mm砲でも十分おつりがくると思うのでね。
生憎大英の保有するキット群にはドイツ軍が(販売されているキットの国別比率を考えると)少ないので、プーマも持ち合わせがない。
全装軌車両なら戦車があるけど、あまり遠征はさせたくないから、マルダー以外は連れてきていない。
途中の中継拠点にはM3系列のハーフトラックが数両いて、中には75mm対戦車砲を積んでるもの(M3 75mm対戦車自走砲)もあるのだが。
示威行動するなら、そっちを王都に連れてくるべきだったかもね。
安易に前回実績のあった方法をそのまま踏襲したのは、ミスだったかも。
「示威行動であるか。 うーむ」
「流石に『見せろ』と言われても居ないのにやると、好戦的な威嚇と思われますよねぇ」
「そうであるな」
示威行動をする必要が生じる「可能性」に備えているだけで、それを前提にしていないのだから、重装備を持ってきていないのもある意味仕方ない。
だが、そこへ来客が2名やってきた。
その二人は大公が派遣した役人である。
ゴートが応対する。
「こちらに『神獣』が来ているとの報告を受け、確認に参りました」
「ほう、宰相殿のお耳にも届きましたか」
「なぜ報告されなかったので?」
「まるで威嚇しているかのように取られると困りますからな。 聞かれればお答え申したところであるが、宰相殿はあまり神獣自体には興味をお持ちに見えなかったもので」
「宰相閣下は些末な事には関わらぬ。 だが、その些末を処理するために我らが居る。 神獣について如何なるものか検分させて頂きたい」
「存分にどうぞ」
ゴートは大英を呼ぶと、一緒に庭に出てデザートシボレーの元に役人を案内する。
「これが神獣? とても動物には見えませんが。 どう見ても馬車ではないですか」
「神が遣わしたものなれば、我らの常識は通じませぬぞ」
「そ、そうか」
大英は運転手を呼び、準備させる。
それを見て役人は大英に問う。
「今の方は、御者ですかな」
「ええ、そうですね」
役人は馬が来ると思って待っていると、シボレーはそのまま走り出して庭を一回りする。
「は、馬鹿な、馬が引いても居ないのに、走るなど……」
互いに顔を見合わせて驚く役人達にゴートは追い打ちをかける。
「だから神獣と申しておる」
「そ、そうでしたな」
一回りして戻ってきた所で、木で出来た的。 というか木人を用意する。
デモンストレーション用に作っておいたものだ。
その木人を庭の端、その後方には林しかない場所に立てる。
シボレーはその反対側の端、約100メートル程離れた所に移動する。
「何をするのだ?」
「今より神獣の咆哮をお見せする」
運転手は荷台に移動すると、そこに設置されているルイス軽機関銃を発砲する。
聞いたことのない発砲音に驚く役人。 咆哮という説明がぴったりだ。
だが、その直後、別の事にもっと驚く事となる。
「な、なんという」
7.7mm機銃弾を数発受けた木人は木っ端みじんになっていた。
この距離でこれだけの威力。
しかも、この威力は即発揮されたのだ。
普通の弓では有効射程外。 斜めに撃って威嚇したり、多数で多数の敵に一斉に放ち、まぐれ当たりを期待するといった運用ならともかく、単体の相手に単騎でする事ではない。
バリスタならこの距離でこの威力もあり得るが、命中精度は高くないし、撃つにのかかる時間も長い。
しかも、この「神獣」は馬車より速く動き回るのである。
それでもこの役人、文官では無く戦士。 驚きはしても腰を抜かす事は無かった。
「これが噂の神獣の力。 しかと承知致した。 しかし、戦いの最中神獣を此処に連れてきて大丈夫なのですかな」
「何も問題ない。 此度は王都に連れてくる故、神獣の中でも大人しい者を選んでおる」
「選んで……で、では、この様な神獣がまだ他にも居ると」
「左様。 騎士隊を編成しておる故、数十体の神獣が居り、随時新たな神獣を賜っておる」
「す、数十体……しかも増えているのですか」
青くなる役人。
「敵も増えておる故な。 ……いかがされた? 顔色が良くない様であるが」
「あ、いえ、心配には及びません。 それでは失礼いたします」
役人は礼を言うと、王宮へと戻って行った。
期せずしてその能力を見せつける機会が得られた事で、大公の態度が軟化してくれることを期待するスブリサの面々であった。
その頃、大公の元に彼が待っていた報告が届いた。
「そうか、やはりそうであったか。 判った。 下がってよろしい」
「はっ」
報告には以下の様にあった。
スブリサの太后はいずれかの貴族の出と推測される。
現王家の体制に変わった後、いくつか断絶している貴族の家があり、そのいずれかと思われる。
正体を隠していることから、現王家とは対立する立場を持つのは確実。
これを裏付ける証として、太后は輿入れ直後より貴族としての振る舞いに習熟しており、平民というのは偽りであろう。
「これは使えるな。 会議の場にて公表し、虚を突かれて混乱したところを追い込んで討伐令を……」
そうして笑い出す大公であった。
そんな上機嫌の大公の元に、続いて神獣について確認に行った役人の一人が報告に来た。
その報告に驚く大公。
「馬鹿な、それでは王立近衛魔法団の下級魔法兵にも匹敵する強さではないか」
「ええ、それも長い詠唱も無く、やってのけました」
「自分で馬のように走り、詠唱も無く魔法を放つか」
「こんな神獣がスブリサには何十体も居て、しかも増えていると言うのです」
「つまり、王立近衛魔法団にも匹敵する戦力があり、それが強化されているという訳か」
「そうなりますね」
「まぁ、ハイシャルタット卿が居れば問題なかろうが、そのような戦力を持つと言うのは危険だな。 判った、下がってよろしい」
「ははっ」
一人になって考え込む大公。
そして結論を得る。
「やはりこのままにして置くわけにはいかんな。 これ以上神獣が増える前に手を打たんと……」
力の誇示により対応の変化を誘う。
どうするか迷っていたり、我彼の戦力差から今後の対応を考える相手には通用する方法であっても、既に方針を固めている相手には効果は無いのであった。
自身の戦力に絶対の自信がある相手に対しては、その自信を打ち砕くようなレベルの誇示が必要だろう。
だが、それをこの遠い地で実施するには、必要性の認識は薄く、レリアル軍との戦時下でもあるため実行部隊の編成も難しいのであった。
結局、スブリサ・宰相間で直接会談の機会は許されぬまま、貴族会議開催の日となった。
用語集
・匹敵すると理解される
硬い物を砕くデモンストレーションをすれば、もっと強力だと理解されるだろう。
たとえば、騎士の鎧を撃つとかね。
ただ、戦場に出る騎士は脅威を見抜くが、後ろで指揮するだけのお偉いさんには、派手な爆発を見せる魔法の方が強そうに見えるだろう。




