第28話 おっさんズと宗教改革令 その6
大英達は途中幾つもの所領を通過しているが、時には関所のようなものを通る事もあった。
その度、装甲車や自動車を目にした兵士たちは驚いていた。
中には前回秋津達が通った時にも立ち会った者も居て、周りの人に「言ったとおりだろ」とかドヤ顔で話し、周りの人々が頭を掻いているなんて光景もあった。
思うに、「んなもんある訳ねぇべ」とか言われて信じてもらえなかったのだろう。
さて、王家直轄領の入り口でも同様の光景を見たのち、一行は特にトラブルなく王都近辺に到着した。
例によってマルダーは6キロ程離れた丘に待機させたが、デザートシボレーは馬車と共に王都へ進む。
初めて見る「馬も引いてないのに自分で走る車」に驚く門番。
だが、魔法で動いているという適当な説明に納得して通過を許される。
便利ですね。 魔法。
一行は王都内のスブリサ辺境伯の屋敷に到着する。
今日はここで一休みする。
リディアとパルティアは王都内用の服に着替える。
二人が4年前にここの学校に通っていた時のワンピースを手直ししたものだ。
左右を切って布を追加したそうである。 他にも胸の辺りなど多少手直ししているが、長さは変えていなのでスカート丈的には身長が伸びた分10センチ近く短くなっているが、元が膝上10センチ程度だったので、そこまでけしからん短さではない。
年齢相応になったと言えよう。 というか、二人の普段着よりおとなしいと思う。
これで王宮には行かないが、一応「都会でも通用する」服という括りだ。
「どう?」
衣装を披露する二人。
皆は麗しいと良い評価をする。
さて、そうしていると、一人の男が訪ねて来た。
応対したメイドが報告する。
「太后殿下、言われていた方がお見えになりました」
「では、客間にお通しなさい」
「はい」
太后はゴートと大英を連れ、客間に入る。
長椅子に座っていたその客は、3人が部屋に入って来たのを見ると、立ち上がって挨拶する。
「初めまして、宰相タラフマラ様の元で働いていたノヴゴロド=ズガペンシュと申します」
彼は宰相タラフマラ=オルメカの元で諜報員として活動していた者であった。
太后は以前宰相の妻イゴマレ=オルメカより彼の事を聞き、王都で合う事を約束していた。
挨拶と面々の紹介を終え、4人は座る。
ズガペンシュは残念そうに口を開く。
「私なりに色々調べましたが、未だタラフマラ様の行方は知れず、残念ながら暗殺されたものと判断しております」
「そうですか……」
太后の表情も暗くなる。
「国もタラフマラ様の隠居を決められ、ご長男のララムリ様への家督移譲が認められました」
「お若いのに重責となりますね」
「はい、ですが宰相職には正式に大公が就くとの事です」
「そうなりますか」
「今回の貴族会議にて正式に発表されるでしょう」
それを聞き、ゴートも発言する。
「予定通り。 という事であるか……な」
「私もそう思います。 必ずや証拠を掴んで見せます。 あの大公の事です、スブリサ卿も十分ご注意ください」
太后は頷き、「そう致しましょう」と応える。
「それにしても、あそこに停まっているのは神獣でしょうか」
ズガペンシュは窓から見える、玄関傍に馬車と共に停めてあるデザートシボレーを見ている。
質問にゴートが答える。
「一応そうであるな。 対外的には魔法で走る車と説明しておるが」
「なるほど。 実はマカン村にお邪魔した事があり、そこで目にした神獣についてタラフマラ様にご報告した事がございます」
「ほほう」
「報告した際は、あまり信じていなかった様でしたが、先日ゴート殿と話された後はタラフマラ様も王も神獣についての噂……私はスブリサより意図的に流されたものと思っていますが、それは真であると考えていると聞いております。 ですが大公は信じていないようです」
「まぁ、荒唐無稽な話に聞こえなくも無いであるか」
そしてデザートシボレーを見つつズガペンシュは納得する。
「そこに来ているという事は、動かない造り物などではなく、実際に活動される存在なのですね」
「そうであるな、今回現物を持ち込んだのは、大公が不用意な事を企まないよう、釘を刺すという意味も込めておる」
警戒を呼ばないための情報隠匿。
それが破れたとなれば、今度は抑止力としての情報公開。
古来より、「勝てる」という誤認が戦いの発生に影響している。
それを知る大英は、今回自動車の王都進入を決め、了承されたのである。
「イゴマレ様より『万一の際は、ヌヌー伯領は表向きは大公に従いますが、実質中立を維持するよう理由を付けて不作為に努める』と伝えるよう言付かっております」
「それが良いでしょう。 反旗を翻したりすれば、無事では済まないでしょうし、私たちも助けに行くことは難しいですから」
こうして、ズガペンシュとの会談は終了した。
表向き商人の彼は、今後も連絡員として活動する事となる。
そう、元々宰相の個人的な諜報員であり、王国の諜報員では無いため、王も大公も彼の存在を知らないのである。
この日は客の多い日でもあった。
続いてザバック辺境伯の使節がやってきた。
「これはザバック卿、お久しぶりです」
「メーワール殿もご健勝で何より」
「先般はご支援を賜り、大変助かりました」
「いえ、全くの微力で、申し訳なく思っています」
ザバック辺境伯は太后より10歳ほど若い。
5年ほど前に隠居した先代を引き継いで領主となったもので、彼の両親は健在である。
なお、お久しぶりと挨拶しているが、前回二人が会ったのは数か月前であり、そんなに久しい訳ではない。
ザバックは共にレリアル神を主神に頂く事を拒否する者同士で、古くからの隣人であり、太后の出身地でもある。
今回の貴族会議開催についても、協同で対処すべく、あらかじめ打ち合わせておく事項は多い。
そのため、トップ自ら訪ねて来たのであった。
ザバック第1騎士団団長のバンホーデルも同行しており、ゴートとの再会を喜ぶ。
「久しいな、ゴート」
「全く久しぶりであるな」
旧知の仲である二人は「また白髪が増えたな」とオッサン会話になる。
そして挨拶も終わり、会談が行われる。
会談には大英や同行しているバンホーデルの息子も参加し、貴族会議での対応や、今後の展開についてのテストケースの考察、対応策などが話し合われた。
トップと実務者の会談の後、そのまま両者は午餐を共にする。
その場にはサファヴィーとその付き人もやって来た。
前回は領主がサファヴィーの館を訪れたが、今回は向こうから来た形だ。
「母上、お久しぶりです」
「サファヴィーも元気そうで何よりです」
リディアとパルティアもサファヴィーとの再会を喜び、話し込む。
領主の妹と神官の娘、どうやら以前より親しかったようだ。
食事が終わりザバック一行は彼らの館に帰って行った。
そして、サファヴィーは最近の王都の情勢について報告する。
「港には大公領からの船が増えています」
「それは、マウラナからの兵が来ているという事であるか」
「いえ、確かにマウラナ兵は増えていますが、それよりも商人や職人の行き来が増えています」
「経済的結びつきを深めているという事ですね」
「はい母上、そして賄賂も増えているようです。 以前の宰相オルメカ卿は賄賂を受け取らなかったのですが、大公は逆に要求しているようです」
「むう、地位を最大限活用しているという事であるか」
「そう思います。 学内でも大公支持派が力を付けており、レリアル神支持者の間でも格差が開いてします」
「敵が消えたり弱まれば、仲間同士で争い出すという訳であるな」
「そうですね」
元々王は政を宰相任せにしていたが、それは大公が宰相になっても変わる事は無い。
宰相が変わったことが、王都の空気にも影響を及ぼしていたのであった。
そして翌日。 一行は王と新宰相に挨拶するため王宮に向かう。
用語集
・スブリサ卿も十分ご注意ください
「スブリサ卿」とは太后個人を指しているのではなく、スブリサそのものを指して使っている。
太后個人を卿付けするなら、領主では無いのでオーディス卿と呼ぶのが正しい。
ただし、代表者として扱うならスブリサ卿と呼ぶのも間違いとは言えない。
・神獣についての噂
「神獣が魔物を一掃した」という話。
・王も大公も彼の存在を知らない
「彼の正体を知らない」ではない。
もちろん知らないのだが、そもそも一介の商人の事を知る由も無いのである。
・マウラナ
マウラナ大公領。 王都のある本土から離れた島々からなる。
・宰相が変わったことが、王都の空気にも影響を及ぼしていた
日本では「誰がやっても同じ」とよく言われるが、それは大抵政権に反対意見を持つ者たちの詭弁である事が多い。
願望を述べている者。 民心を騙そうとしている者。 違いを認識する能力の無い者。 自身が感心を持つごく狭い領域しか見えない者。 予言の自己成就のための工作活動をする者。
色々居ますね。
誤字修正 2022/01/15
サファビー
↓
サファヴィー