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模型戦記  作者: BEL
第5章 王国の混乱
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第28話 おっさんズと宗教改革令 その3

 話は数日前に遡る。

マカン村では騎士団の中である噂が広がっていた。

曰く「夜に幽霊が出る」と。



 詰め所に青い顔の従卒が飛び込んできた。



「で、出た……」


「何、どうした、何が出た」


「ゆ……」


「ゆ?」


「幽霊が……」


「馬鹿な、そんなものが」



 詰め所に控えている騎士は噂に惑わされまいと報告を否定する。

だが、別の騎士は噂を信じる。



「まて、とにかく確認すべきだ」



 しかし、騎士達が現場に行っても、何も居ない。

時間が経っているから、何か居たとしても移動したと思われる。

たいまつをかざしても、足跡などは見えない。


 翌朝、改めて現地を確認するが、何かが居た様子はない。

結局、目撃談があるだけで、証拠は見つからない。


 このような事が、毎回場所を変えて数日続いていた。

騎士団長シュリービジャヤ=エリアンシャルと召喚軍(神獣騎士隊)指揮官エルヴィン・ロンメルはこれは偶然の出来事や、疲労から来る誤認などではないと判断し、普段は南壁付近に集中している召喚軍の兵員を、村内に分散配置する事にした。

レリアル軍が絡んでいるという見立てだ。


 シュリービジャヤはロンメルに問う。



「如何に神獣騎士隊といえども、村全体を網羅するのは難しいのではないですか」


「全体を見る必要はありませんね、これまでの話を総合すれば、同じところには二度と現れていない」


「なるほど、では、目撃例のない所に配置すると」


「そう」



 その夜、予想は的中し、ブリティッシュ・コマンドスの1名が「幽霊」を視認した。

彼らは2名一組で配置されており、相棒もその存在を確認、報告に走る。



「そうか、よし、直ちに作戦に取り掛かれ」



 ロンメルは指示を出すとロシア歩兵2名を引き連れ現地へ向かう。

シュリービジャヤも8名の騎士と共に続く。


 「幽霊」はただ浮遊しつつゆっくり移動していた。

その体はやや透けており、「幽霊」と呼ばれるのも頷ける。


 ロンメル達が到着した時、コマンドスも5隊10名が集まって来ていた。

目標を見つけたので、ロンメルの指示で監視任務から、攻撃任務に変更したのだ。

集まった兵達は遠巻きに「幽霊」を包囲する。


 コマンドスの1名が前に出て声をかける。

他の兵達も松明を掲げ周りを照らす。



「止まれ、何者か!」



 だが、「幽霊」は返事をしないし、止まる事も無い。

言葉が判らないのか、無視しているのか。

いずれにしても、人間ではないのは確かだ。



「止まれ、止まらねば撃つ!」



 警告も効果は無い。

対応したコマンドスは後退し、同士討ちを避けつつ射撃を開始する。


 しかし。


 射撃は何の効果も示さない。

「幽霊」は何事も無かったが如く、浮遊したまま移動を継続している。

反撃する事も逃亡を図る事も無い。


 再度コマンドスが発砲するが、弾はすり抜けているとしか言いようがない。



「撃ち方止め」



 ロンメルは射撃に効果が無いと判断し、やめさせる。

そしてシュリービジャヤに向くと告げる。



「やってくれるか」


「お任せを」



 騎士が2名剣を構え突撃する。

そのまま斬りかかるが、空気を斬るが如く手ごたえが無い。



「馬鹿な、そこに居るのに、どうなっている!」



 斬り続ける騎士の一人に「幽霊」がぶつかる。



「うお」



 防御姿勢を取る騎士。

だが、「幽霊」はそのまま騎士の体をすり抜ける。

騎士は腰を抜かしてその場に座り込む。



「な、な、なんだ、なんなんだ」



 シュリービジャヤは騎士の一人に剣では無く松明を持って突撃させる。

騎士は松明を「幽霊」に突っ込むが、何も起きない。

「幽霊」も松明も、互いに相手が存在しないかの如く通り過ぎ、燃え続ける。


 ロンメル達はどうする事も出来ず、ただ「幽霊」を監視するだけだった。



「これは映像なのか? だが、投影する機器など無いが……」



 そして10分ほどすると、「幽霊」は姿を消した。



「何という事だ。 これは閣下に報告しないとな」



 翌朝、ロンメルは報告をまとめると都に通信を送り、み使いの指示を仰ぐ事とした。



 その報告が届いたのは、大英達が王都に向かって出発した後であった。

報告を受けた秋津はティアマト神が現れるのを待ち、彼女を連れてマカン村に向かう。

事が事だけに、天使の意見を聞きたいと思ったためだ。


 村へ向かう道中、秋津はティアマトに通信を開いてもらい、アキエルに相談する。



「弾も剣も火もすり抜けるって、どんな奴だろう」


「ちょっと考えづらいわね。 そんな『生物』は異世界でも見たこと無いし」


「だけど、どの方向から見ても存在しているって事は、映像って訳じゃ無いよな」


「どうかしら、3D映像の投影なら可能だけど」


「ホログラムか、でもそれならロンメルでも気づきそうな気もするんだが」



 ロンメルが生きていた時代にホログラムなんて無い。

しかし、召喚されたロンメルには現代の知識も付与されているから、知っているはずだ。



「でも多分無理ね、『勢力圏下』でないと投影は出来ないから」


「勢力圏下?」


「そ、今話してるこの映像だって投影してるものだけど、これが出来てるのは今いる場所がム・ロウ神の勢力圏下だから」


「じゃ無理だな」


「でもね、例外はあるの」


「例外?」


「誰かが居れば、そこは一時的に勢力圏下扱いになるのよ」


「という事は、村の中にレリアル軍の何者かが侵入しているって事か」


「そうかも。 まずはソコを調べてみるべきね」


「厄介だなぁ。 小さな蛇とかだったら気が付かんぞ」


「それは無いわ」


「え、何で? あ、蛇に投影は出来んてこと?」


「いえ、投影自体は術者が近くにいる必要は無いわ。 だけど、蛇には知性が無いから、勢力圏下として扱われないの。 勢力圏下扱いになる『誰か』は知生体のみよ」


「知生体か。 ソレってロボットも含むのか?」


「ロボット?」


「昆虫型メカみたいなやつで、人工知能とか入ってる奴」


「あーあー、そういう発想は無いわねー」



 天界ではスパイメカ的な物を必要としないため、作られていないようだ。



「試した事は無いけど、多分無理じゃ無いかなぁ。 魔法を使う機械はあっても、天使の代わりが出来る機械を作った事は無いから、知性はあっても生物扱いされないと思う」



 サイズに関わらず、メカが居るだけでは勢力圏下として扱かわれないらしい。



「ちょっと待って、え、そうそう、あーなるほど」



 アキエルは誰かと話しているらしい。



「お待たせ、やっぱ無理ね。 ゴーレムの運用実験した記録が見つかったんだけど、通信が繋がらなくなったから、物理的な通信機を組み込んだってなってる」


「おーゴーレムか、あるんだ」


「研究者の玩具よ、量産されてる訳じゃ無いわよ」


「でも、あるって事は敵として出てくるかもな」


「それはあるわね。 ミシエル君なら魔法生物も扱うから、多分作れるわね」


「魔法生物? まてよ、レイスとかってあり得るのか?」


「レイス? うーん、聞かないわね。 音がそのままって事は翻訳されてないか……。 どんな物?」


「幽霊の一種で、物理攻撃が効かないですり抜けたりする」


「幽霊かー、それは現実の存在ではないわね」



 ファンタジーっぽいモンスターは色々現れるが、ファンタジー世界では無いから、幽霊とかは居ないらしい。

アキエルは横に居るスタッフに聞く。



「ねぇ、どっかの異世界に居たりしない?」



 返事は芳しくない。



「だよねー、判る範囲じゃ居ないわ」


「ミシエルとやらが作り出す事は無いか」


「流石に実体が無い生物やらゴーレムってのは考えずらいかな」



 霊的な存在自体が空想上の物で、天界にも居ないし、天界の魔法を以てしても生み出せないらしい。

そうしているうちに、村に到着した。

一行はそのまま騎士団詰め所に向かい、実際に対峙したロンメル達を加え会議となる。



「これは難しいわね。 こうなったら実際に観測して見ないと……」



 そこまで言ってアキエルは言い淀む。

詳細な観測を行うには通信か開いている必要があり、そのためには天界の天使または、それに相当する存在が現地に居る必要がある。



「何か問題でもあるのですか」



 シュリービジャヤの問いに、アキエルは「自分を含め、今手が空いてる天使が居ない」と告げた。



「そうですか、それは困りましたね」


「何を困る事があるのよ、私が居るじゃない」



 ティアマトの発言に皆彼女の方を見る。



「待って、ティアちゃん、幽霊が出るのは夜よ、寝る時間よ」


「だって面白そうじゃない」


「分かったわ、ちょっと待ってね」



 そう言うと、アキエルは席を外す。

秋津は心配する。



「大丈夫なのか」



 見た目だけなら4歳児だし、実年齢でも20歳の女の子だ。

それだけでも戦場を歩き回るべきでは無いうえ、神である。

まぁ、この世界の常識なら20歳なら立派な戦士として認められようが、そうであっても体格4歳児のVIPを前線に出すとかありえないだろう。

もちろん、神に攻撃するなど禁則事項で戦時協定違反だが、どんな事故が起きるかは判らないし、相手に知性が無ければ禁則に従う事も期待できない。



「これは、皆心して護衛に当たらないと」



 シュリービジャヤも頭を抱えるが、当の本人はやる気である。

すると、通信ウインドウにアキエルが戻ってきた。



「調整付いたわ、余り戦い向きでは無いけどエミエルを行かせる」


「なーに、あたし一人でも大丈夫よ」


「そうはいかないわよ」



 結局のところ、元の仕事より重要な仕事が出来たので、天使を送る事にしたという事だ。

まー偉い人が来るから予定を組み替えるってのは、サラリーマンなら判る話だね。

なら、エミエル一人で良さそうな気もするけど、ティアマトが見たいって言ってる以上しょうがない。



「じゃティアちゃん、データ送るからゲートポイントお願いね」


「しょうが無いなー」



 しぶしぶ了承して、データを受け取ると、そのまま詰め所の中でコマンドを唱える。



「クリエイト・パーマネント・ゲートポイント」

「セット・ロードデータ・エミエル・レストラクション」

「コマンド・コンプリート」



 他者用のゲートポイントの設置は専用のデータを参照させる。

自分用と違い、個人認証用の情報を外から与える必要があるためだ。


 床に魔法陣が現れ、やがて消えた。



「出来たわよ」


「ありがと、じゃエミエル、お願いね」


「はーい」



 そうすると、魔法陣があった位置にゲートが開く。

現れたのはメイド服……フレンチメイド服を着た18歳くらいに見える少女。

確かに護衛を任すには向かないような気がする。

短めのスカートと長い金髪の可憐な姿をしている。

着ている服を別にすれば、むしろどこかのお嬢様風で、護衛される側ではなかろうか。



「これは、なんと可憐な」



 すぐさま彼女の前に進み、跪くシュリービジャヤ。

いかにも騎士といった風情ですね。



「あ、起きてください、そんな事されるような存在じゃ無いですから」


「そうよ」



 ティアマトはやや不機嫌顔。

自分に対しては傅かなかったのに、天使に傅くとは何事ぞ。 という事らしい。

まぁシュリービジャヤから見れば、子供と淑女は対応が違うのだろう。



 この日は秋津も村に泊まる。

皆は今夜も出現すると見込まれる「幽霊」に対応すべく準備を進めるのであった。

用語集


・『勢力圏下』でないと投影は出来ない

逆に言うと、勢力圏下ならどこでも出来る。

物理的な機械が近くにある必要は無い。

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