第27話 おっさんズと政変 その1
数日前の事であるが、王都ではある事件が起きていた。
その日、王宮に緊急の知らせが届いた。
「何! 父上が!」
知らせを聞き、うろたえる王。
先王は長き病で療養中だったのだが、容体が急変し意識障害も発生しているという事であった。
王と宰相は直ちに駆けつける。
「一体どうしたんだ。 何があった」
「判りません、急な事で……」
王の問いにも、治療師は的確な答えを持たない。
王はベッドに横たわる先王の元に跪き、回復を祈る。
そこに、意外な人物が現れる。
「これは……おいたわしや」
「大公殿、どうして此処に」
「いえ、王宮にご挨拶に伺いましたところ、先王陛下の事を耳にしましてな」
「そうですか」
「一体何があったのでしょうな。 そこな治療師、経緯を説明してはくれぬか」
大公は責を問うかのようなそぶりで治療師に説明を求める。
治療師によれば、昨日夜までは元気で、今朝急変したという。
「ふむ、解せませんな。 何か普段と異なる事は無かったのかね」
「そういえば、昨夜は……」
と言いかけて、治療師は宰相のほうに視線を泳がす。
「どうしたのかね」
「はい、昨夜は宰相閣下がお見舞いに来られていました」
「ほう」
後ろで行われている会話を聞いて、王は表情を変えて立ち上がると叫ぶ。
「オルメカ! 一体何をした!」
「陛下、私は何も……」
「剣を持て!成敗してくれる」
頭に血が上った王は、後先考えずに賢臣を手にかけようとする。
それを大公が諫める。
「お待ちを、陛下。 あかしも無しに、忠臣を裁いてはなりません」
「……そ、そうであったな。 私の悪い癖だ」
「ですが、疑念を持ったままでは政にも差し支えましょう」
「う、うむ」
「そして、疑惑があるまま放置する事も出来ますまい」
「……」
王も宰相も大公の言葉を待つ。
「宰相殿、ある程度の期間、謹慎されてはいかがですかな」
「謹慎ですか」
「ええ、いったん領地に戻られ休まれるのが宜しいかと。 もちろん、先王陛下がご回復され疑念が晴れれば、すぐにでもお戻りいただけましょう」
「な、なるほど、それは良い考えだな」
王も賛意を示すが、直ぐに心配事を口にする。
「待てよ、その間政はどうする。 余には相談相手が必要だぞ」
「それでは、その期間、不肖ながら私が宰相代理を務めましょう」
「なるほど、それは名案だな」
「宰相殿もよろしいですな。 私はこう見えて多忙故、お早いお戻りを期待しますが」
「ああ、承知した」
大公が何か企んでいるきらいはあるが、少し冷却期間を置くのも悪くない。
それに、政務を離れれば現状起きている事象について、調べる時間も取れるだろう。
そう判断した宰相は、提案を受け入れる事とした。
ちなみに宰相が調べたい事柄には大公の動きも含まれている。
数日後、宰相は都在住の供を連れて領地に向け出発した。
3台の馬車は王都を離れ、街道を進む。
その車列がある森の中を通過中、その行く手を遮る者が現れた。
その人数は、見える範囲だけでも30人は下らない。
宰相は騎士達と共に馬車を降りると、リーダーらしき者に話しかける。
「退け、と言っても通じぬか」
「ああ、悪いがここがあんた等の墓場になる」
「誰の差し金だ」
「依頼人の事を口にするのは三流だ。 俺たちは違う」
「そうか」
そう言うと、宰相は剣を抜く。
「このオルメカ、容易に倒れはしないぞ」
「ふっ、承知」
騎士達も、剣を抜く。
「閣下、お供します」
「すまんな」
「いえ」
(騎乗騎士を連れて来なかったのは失敗だったか……、私も危機管理がなってないな。 せめて伝令だけでも走らせたかったが……)
*****
南部諸侯の改宗を進める契丹は、立ち寄った教会である司教から手紙を受け取る。
契丹達の現在位置が判らないため、各教会に手紙が渡されていたのである。
その手紙によると、ザバック辺境伯は改宗不要なので、他の諸侯の改宗が済み次第、王都の大司教の元に報告に来て欲しいという事であった。
「これはどういう事なのでしょう」
「判りませんね」
「レリアル様よりの依頼では『スブリサを孤立化させる』でしたので、他の諸侯全て改宗してしまうのが最善だと思いますが……ヨークさん、ザバック辺境伯領について調べてもらえますか」
「承知」
情報を集めつつ、任務を続ける契丹であった。
*****
先日の戦闘結果に、ミシエル達は混乱していた。
「アレは何なんだ、全く魔力は検知されなかったぞ、故障か?」
「敵の魔力だけが検知されないなんて器用な故障がある訳ないですわ。 それにしても判りませんね、魔力無しに飛行機が空を飛ぶなんて……」
「それより、飛行機がある事の方がオカシイじゃない。 魔法も使えない文明に飛行機が作れるはずが無いでしょ」
「でも、どう見たって生き物じゃ無いだろ」
「それはそうだけど」
キリエルの言う「魔法も使えない文明」とは、地上の事では無く、現代文明の事を指している。
彼らも、「天使による兵器召喚」については理解しているのだ。
ただ、空を飛ぶには「重力を制御する魔法」が必須という、固定観念から抜け出せないだけである。
古代文明の大事業を現代人が再現しようとすると、ブルドーザーやパワーショベル、ダンプカーなどが必要になる。
多くの人は、それらを使わずに偉業を成し遂げる方法を思いつく事は出来ない。
それと同じなのだ。
ごく一部の研究者を除き、たとえ自分たちより原始的であっても「馴染みのない文明」が使う手段には理解が及ばないのだ。
とりあえず、理解できなくても起きた事は受け入れなければならない。
「敵には飛行生物を簡単に屠ることが出来る飛行機がある」
これを前提に、作戦を考え直す事を余儀なくされる。
だが、彼らも「飛行生物」との戦いを想定して準備しているので、そんなに深刻さを感じてはいない。
「まぁいいや、機械だろうと生き物だろうとやる事は同じさ、飛んでる奴を落とせばいいんだろ」
「そうですわね、敵の能力を分析してみましょう」
「多分追加のテイムが必要ね」
気を取り直して、対策を進める天使達なのであった。
ところで、アンバーが奪取された事には、まだ気が付いていないようだ。
*****
大英達は飛行場に来ていた。
空戦の結果について報告を受けると共に、パイロット達を激励する。
そして新たな召喚に挑戦する。
「じゃ、やろうか」
「「はい」」
いつになく真剣な表情のリディアとパルティア。
今回の召喚は少し負荷が高い。
そして、少々疲れを感じつつも、無事召喚は完了した。
登場したのは小型の爆撃機。 Ju-87B シュトゥーカ だ。
単発機としては大きいが、双発機も普通に召喚しているのに、何で負荷が高かったのか。
それは元キットにある。
元キットは「BANTO 1/144 WAR BIRDS CLUB Ju-87B」。
普通のプラモデルではなく、いわゆる食玩というやつだ。
ブラインドボックス仕様で、何が入っているかは開けるまで判らない、塗装済みの組み立てキットだ。
スケールも1/144と新たな段階に入った上、塗装済みのため、負荷が高かったのだ。
だが、これで空軍の増強は一段と進む事となる。
1/72のキットを完成させるには、それなりに工数がかかる。
1/144の食玩キットは、その数倍の効率で数を揃えられるだろう。
こうして、増強を進める大英達であったが、王国では彼らを驚かせる事態が進みつつある事を、まだ知らない。
用語集
・BANTO
食玩キットを販売しているメーカーだが、実はもっと有名な商品を大量に展開している。
よく見かけるのは同じく 1/144 で、接着剤や塗料の使用を極力控えるキットだ。
そのグラプラと呼ばれるキット達は模型売り場の半分を制圧する。
大英も旧世代のため普通に塗装と接着剤を必要とする「1/144 連合軍 量産型グラディエーター=スーツ キューブI型(1/250SCALE キューブI型付)」を持っているが、架空の存在なので、当然召喚出来ない。
余談だが、このグラプラの1/2食玩というものがあり、大英も2つばかり保有している。
1/288キットではない。1/144キットの1/2模型である。 だから箱には「1/144」と書いてある。
中身はランナー配置や強度の関係、解説書の文字サイズの問題もあり、普通に1/288キットだけどな。




