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模型戦記  作者: BEL
第4章 民と領主と王家と神
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第25話 駆ける契丹、諸侯を惑わす その3

 話は前回と同じ日に戻る。


 大英達が飛行場に来ていたのは、別に秋津に疾風を見せるためではない。

もちろん、疾風の披露は重要な要件であるが、そもそもの目的は異なる。


 では、目的は何か。

いつものように、航空機の召喚である。


 この日出現したのは、エンジンを2基持つ航空機。 つまり双発機だ。

一口に双発機と言っても、双発戦闘機のような小型のものから、爆撃機のような大型のものまで様々である。

以前「ブレニム」という中間的なサイズの軽爆撃機を召喚していたが、今回はもう少し大型のものだ。



「おお、マローダーか」



 説明を受ける前に、出現した機体の名前を言い当てる秋津の知識レベルは相当なものだ。

大抵のミリオタは、この「B-26 マローダー」と「A-26 インベーダー」の区別は付かない。

(区別が付いても、逆に言ったり、「B-26 インベーダー」とか「A-26 マローダー」とか語るポカもあるかもしれないし、同じ機種の派生型と誤解する向きもあるかもしれない)

コレ、第二次大戦飛行機オタだけが識別できるのではないだろうか。


 なお、さらに話をややこしくする事になるが、大英は「A-26 インベーダー」の1/72キットも持っている。

幸い(?)こちらはまだ制作されていない。


元のキットは「SKYFIX 1/72 MARTIN B-26C MARAUDER」。

ちなみに未作成のA-26は「ボロラエリ 1/72 A-26A/B Invader(TM)」である。



 大英は格納スペースに駐機している「ブレゲー Br 693」を見ながら語る。



「双発も大した負荷も無く召喚できてる。これなら4発もいけそうだ」


「そうか、遂に4発重爆か」


「まだB-17は着手したばかりだけどな」



 召喚されたB-26は、そのままBr 693の隣に牽引されて行った。

この2機、ちょっと同じ双発機とは思えないサイズの違いがあるがな。



 さて、では話と時間を契丹の様子に進めるとしよう。



*****



 その日、珍しく契丹達の目論見はうまく進んでいなかった。



「どうしても改宗しないと言うのですが、どうしましょう」


「そうですね、あまり使いたくはありませんが、こういう事例に対応する手段があります」



 その土地は領主と民衆の絆が強く、ボトムアップ改宗は不向きと判断され、トップダウン型を採用したのだが、肝心の領主がかなりの頑固者だった。



「何度来ても無駄だ、俺はレリアル神に転向などしない」


「いえ、今日はご領主様へ改宗を求めに来た訳ではありません」



 そう語ると、契丹は領主を前にちょっとした演説を行った。

領民たちから善政を敷く名君と讃えられている事を取り上げ、素晴らしき事と褒めつつ、多くの民が心配していると語る。

さらに、領主の頑なな姿勢が民を危機に陥れる危険を告げる。


 曰く「主神を改めねば、民草に不幸が及ぶ」と。

王家から叛逆の意志ありと取られれば、どんな不幸が降りかかる事かと。


 そして、領内各所を巡ると、その皆が敬愛する領主が神罰を受けるかも知れないと、不安を煽る。



 結局領主は「近隣所領」の領主や、御用商人、司教たちの説得により、少なくとも表向きは改宗を発表する事になった。

たとえ本心がどうであろうとも、公的立場はレリアル神を主神として崇める事を人々に示したのである。



「見事です、契丹様。 一体どのようにして、このような方法を思いついたのですか?」



 契丹は自らが知る「ある事例」について説明した。



 新しく開店した店に小奇麗なスーツにネクタイの営業マン風の男が現れる。

男は「ここで営業されるには、私共の法人に寄付を戴く事になっております。 つきましては、期日までに指定の金額をこの口座にお振込みください」と書類を渡す。


店主が「そんな話は聞いてない」と拒否しようとすると、男は「これは、この辺り一帯のしきたりとなっております。 ご寄付いただけない場合は、営業継続が困難になる事件・事故などが発生する可能性が危惧されます」と述べた。


「それは脅迫ですか」と問うと、「とんでもございません。 私共はこの地でお仕事をされる方々が、安心して仕事をできるように支援する事を生業としております。 その支援対象にならないという事です。 ただ、そのようなお店が1軒ありますと、近隣の方々の迷惑になりますので、出来ましたらご協力をお願いいたいと存じております」と告げた。


それを聞き「少し考えさせてくれ」と言うと、男は帰った。


 次の日、近隣の商店主が揃って現れ、「寄付」をするよう説得をする。 曰く、問題が起きればこの店1軒の問題ではなく、商店街全体の問題になる。

やむを得ず、その店は「寄付」を行う事とした。


 この事は後にネットで話題となり、暴力団による脅迫事例「ショバ代払え」だという意見が出たが、刃物や銃器を突き付けた訳でもなければ、払わないと殺すとか店を焼くと言った具体的な話も無い、あくまで自主的な寄付のお願いに過ぎないという意見も出た。

実際、本件で件の「法人」の構成員が逮捕された訳でもなければ、誰かが訴え出て裁判になった訳でもなく、刑事的にも民事的にも「何事も無い」事案であった。

もちろんワイドショーが取り上げる事も無く、ネットの片隅の噂話として忘れられていく。



ある人物はこう言っている

 寄付を求められた人が寄付をした。 ただそれだけの話。 これが現実だ。

 それを脅迫だとか語るネット民は中学校からやり直すべきだ。


何の事は無い。

「お前の家の婆さん、よく公園を散歩してるんだってな、階段から落ちて死ななきゃ良いけどな」作戦である。


 契丹が若いころから仲間達が選挙の際に幾度も使ってきた方法だ。

そしてコレを使って選挙違反に問われてお縄になった仲間は一人もいない。

契丹自身は使った事のない手法であるが、進歩主義を標榜する者として、その利用法は熟知していたのだ。



「当事者である私たちの言葉では動かない人でも、仲間から説得されれば動かざる負えなくなる。 それが人という物です」



 ここで契丹も知らない情報を付け加えよう。


 本件は単なるうわさ話ではなく、現実であった。

結局、その後その店は閉店したそうである。

なお、余談であるが、その「近隣の商店主」たちの店は「明示的な」不買運動が起きた訳でもないのに、お客が寄り付かなくなって売り上げ不振になり、廃業を余儀なくされたという。

確かに、巨大ネット掲示板を見てもそれらしき書き込みは無かったのだが、仲間だけが見るSNSでは「ブラックリスト」が出回っていたそうである。



 さらに契丹の快進撃は続く。

次に標的となったのは、ドンソン伯領であった。



「ム・ロウ神が悪しき使者を遣わしているですと、それは本当なのですか?」



 領主は驚いて聞き返した。

契丹は頷くと話を続けた。



「ええ、ホアビン伯領の領主であるニアニ家は長年ム・ロウ神の熱心な信者でしたが、先日レリアル神へと改宗しています。 それが原因だと思われます」


「そうだったのですか……ソソ殿は敬虔な信徒と聞いたていたのですが」


「ソソ様は隠居されており、今の当主はご次男のムラービト様です」


「なんと、先日ガイア神生誕祭で会った時はお元気の様でしたが」


「急な病で臥せられ、家督を譲られたと聞いています」


「そうでしたか」


「ホアビン伯領の民衆は比較的レリアル神を信じていたため、ニアニ家との間に軋轢が続いていました。

それでも代々ニアニ家の領主様は善政を敷き、民衆も信仰の違いは気にしないでしたのです。

ところが、ム・ロウ神の遣わした者が民衆を無理やり改宗させようと、レリアル神の熱心な信者を惨殺するなどの犯罪行為を行ったのです。

ム・ロウ神は平和を愛する神という言い伝えを信じていた今代当主のムラービト様は大いに失望したそうです。

そしてニアニ家はレリアル神への改宗を決意されたとのことです」



 真剣な面持ちで契丹の説明を聞くドンソン伯と重臣たち。

契丹の話は続く。



「ム・ロウ神の強引な行為も、正しき信仰を広めるためには必要なのかもしれませんが、二つ問題があります」


「それは何でしょう」


「一つは、このホアビン伯領のケースのように、逆効果になってしまうという事です。

そしてもう一つ、レリアル神を刺激してしまった結果、レリアル神も悪しき使者を遣わすようになったことです。

そしてここドンソン伯領には、レリアル神の使者が侵入していると報告を受けています」


「まさか」


「ホアビン伯領の改宗を見て、この地域全体をレリアル神の配下に収めようと目論んでいると思われます」


「なんと」


「彼らは狡猾です。まず民衆が気づいていない不満を自覚させ、それをム・ロウ神のせいにして改宗させ、民衆と領主の間に信仰の違いを生み、それが一揆へと繋がり、最後は領主が改宗を余儀なくされる」



 今後起きるであろう展開に息を呑むドンソン伯と重臣。



「ですが、周辺の領主様と協力されれば、邪神の悪しき陰謀もその力を失う事でしょう」


「そううまく行くものでしょうか」


「お任せください。(わたくし)はそのために派遣されました」


「おお、心強い」



 ドンソン伯と重臣達は契丹の言葉を信じ、彼とその部下が領内にて行う活動を認める事とした。


 だが、契丹の説明は現実とは食い違っていた。

ホアビン伯領は領主も領民もすべて敬虔なム・ロウ神の信者であり、ソソは病などではなく、クーデターで長男と共に幽閉されている。


 ホアビン伯領で民衆の虐殺は確かに起きていたが、それは改宗前ではなく改宗後。

指揮したのはム・ロウ神の遣わし者ではなく、現領主。

だが、情報通信手段の乏しいこの世界。

ドンソン伯に嘘を見抜く術は無かった。


 いや、新聞TVといった報道機関やネットから情報を得られる現代に置いても、印象操作・情報操作によって騙される民衆は少なくない。

いや、多数派と言っても言い過ぎではないかもしれない。

その情報操作の最前線に身を置き、数々の印象操作によって政権を苦しめ、時には政権交代の演出にさえ関わった契丹が直接行動しているのである。

この世界にメディアやネットがあったとしても、ドンソン伯達が騙されるのを回避することは困難だったのではないだろうか。


 その後、契丹は「力及ばず申し訳ございません」と謝罪の文をドンソン伯へ送る。

その文を読むドンソン伯は、館に民衆が押し寄せ、レリアル神を主神に据えるよう求める声を聞き、うなだれるのであった。



 こうしてある時は止まり、ある時は順調に進めていく。


 そして、次のターゲットで契丹は時間をかけて相手に言わせるよう誘導していた。

その様は傍で聞いているプランタジネットには歯がゆく感じられた。

その日の説得も遠回しで、結論を得ぬまま終わった。


 宿に戻ったところで、彼女は契丹に問う。



「契丹様、どうせ結論は決まっているのですから、こちらから然るべき道を教えて差し上げた方が親切なのではないでしょうか」


「そうですね、多くの人にはその方が早かったり、そうしないと永遠に終わらない事もありますが、あの方の場合は違います」


「そうなのですか、効率的方法が一番だと思うのですが」


「あの方は権力に酔うタイプの人物です。 そういう方の場合、下の者や外部の者が言う事は、決して受け入れません」


「受け入れないとは、正しい事が判らないような知能的に残念な方なのですか」


「いえ、見た所ちゃんとどの道が正しいかは理解できています。 ですが、それよりも『誰の指図か』が大切なのです。

商売で言えば、他人の指図で大儲けするぐらいなら、自分の考えでやって大損する道を選ぶ。 たとえ事前にそうなるとわかったとしても。 です」


「え、わざわざ損をする方法を選ぶなんて、意味が判りません」


「その事が正しい事、良い事に価値は無く、自分の考えである事に価値があるのです。 なので、『自ら思いついた』という形にしなければ、いけないのです」


「なんという非論理的な……」


「天界の神々や天使の方々は違うのかもしれませんが、それが人間というものなのです」


(こう言っている私も、長年続けている考え方に間違いがあるのではと思うときもあるのですが、それでもやめることが出来ない。 誰かに指摘して欲しいと思いつつ、指摘してきた相手を論破してしまう。 私も所詮論理的では無い人間という事ですね。 まぁ論破できているのだから、きっと私の進歩的な考え方は正しいのだと思いますけど)



 ハンドル握ると性格変わる人っていますよね。

権力者の場合は、24時間権力者なので、性格は変わりっぱなし。

冷静になって自らを省みることが出来る権力者はあまり居ません。

だから、世の中「名君」やら「名経営者」といった存在は歴史に残るほど希少種なのです。


やがて時間はかかりはしたが、契丹の誘導は功を奏し、その領主は

 「自ら気が付いた凡人には判らない信仰上の問題点を解決するため、レリアル神を主神とするという『誰にも思いつかないであろう』斬新なアイデアを思いついた」

事で、改宗を行った。


 プランタジネットは毎度異なる手法を駆使する契丹に、改めて感服するのであった。



 その頃、王都の大司教の元には、各地の司教より改宗についての情報が集まっていた。

順調な展開だと喜ぶ大司教であったが、王御前での会議で宰相より聞かされた言葉に耳を疑う。


曰く「宗教界は王国の転覆を目論んでいるのか」と。

用語集


・B-26 インベーダー

実は実在する。

戦後に命名規則が変更されたためで「A-26 インベーダー」の事。

「*-26 *ーダー」というただでさえ紛らわしいのに、それをさらに「ややこしくする」というお話でした。



・A-26A/B Invader(TM)

なんだろう。 ボロラエリ社はInvaderを商標登録でもしているのか?

同社の「Spitfire Mk.IX」にはTMは付いていないから、キット名に全部付けている訳でもない。

もちろん、インベーダーの名前がインベーダーTMな訳でもない。

メタな話をすると、会社名は架空だけどキット名は本物。 なので、TM付きで書いております。



・ちょっと同じ双発機とは思えないサイズの違いがある

ブレゲー Br 693はフランスの小型双発支援爆撃機。 元々戦闘機として設計されたので、B-26とは比較にならない程小さいのである。

長さだけなら、単発のP-51とほぼ同じ。 幅はずっとあるけどな。

キットについては以前解説済みなので、省略しよう。



・本件は単なるうわさ話ではなく、現実であった。

勘違いする人がいるといけないので、定型文を示しましょう。

「このお話はフィクションです。 実際の事柄とは関係ありません」



誤字修正 2022-07-31

リレアル

レリアル

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