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模型戦記  作者: BEL
第4章 民と領主と王家と神
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第24話 おっさんズ、国家的慶事に立ち会う その7

 この日は式典の最終日である。

パレードが開かれ、王自慢の兵団が行進する。

その様子を沿道に集まった王都の民が見ている。

各地より来ている諸侯は、沿道に建つ平屋建物の屋根に仮設された観覧席や、2階建ての2階に設けられた観覧場から眺める。

秋津たちスブリサの面々もその中にいた。


 最初に現れたのは馬上の騎士達。 皆巨大なランスを持っている。

ビステルはその居並び行進する騎士を見て疑問を呈する。



「あんな大きな槍で、どうやって戦うんでしょうか?」



 持っているだけでも大変そうだが、馬の乗り降りにも苦労しそうである。

戦いになったら、振り回すにしても長さのわりに太く、無駄に重そうである。

それを見て秋津はまるで当然の事のように答える。



「え、そのまま突撃だろ」


「そのままとは……まさか馬に乗ったままですか!?」


「ほかに無いだろ……あぁ、そうか、スブリサじゃ騎乗戦闘って考え方は無かったか」



 辺境の地では騎乗戦闘という概念自体無く、「異世界の戦術」扱いされていたが、王家の軍はそれを習得しているようだ。

秋津は、まさか「王の兵士はとても腕力が強く、馬から降りてあのランスを振り回して戦う」なんて馬鹿な事は無いと推測している。


 その推測が当たっているのかどうかはこの時点では判らないが、おそらく正しいという答えは後で得られる事になる。

だが、その前に、行進の様子の続きを見るとしよう。


 ランスを持った槍騎士に続いて現れたのは、短弓を持った弓騎士達だ。

やはり馬に乗り、行進している。

この2隊だけで100名を超えており、強力な常備軍があるようだ。


 続いて歩兵集団が行進する。

その規模は300人を超えている。

ビステルはまたも感嘆の声を上げる。



「これはすごいですね、騎士団10個分くらいいませんか」



 だが、ウエルク隊長は数とは違うところを見ていた。



「いや、これはパレードの為に徴用された兵だろう」


「え、そうなんですか」


「行進をよく見るんだ、足並みや隊列に乱れがある。 日ごろから訓練を積んでいる兵ではない」


「あっ、そう言われてみれば……。 さすが隊長ですね」


「数に圧倒されず、冷静にきちんと観察すれば良いんだ。 戦いの時も同じだぞ」


「はい、分かりました!」



 とは言うものの、全員共通の防具と武器を持っている。

兵は臨時雇いとしても、武具は揃えているのだろう。

傭兵なら、装備は組織ごとにバラバラになるだろうし、農民ならこれだけの武具を一通り持っている事は無い。

見えるのが全てとは限らないが、これだけだとしても相当な数であり、用意するのも使える状態を維持して保管するのも大変だろう。

だが王家はそれをやっているのだ。



「ちょいと聞いて良いかな」



 秋津は領主に話しかける。



「ええ、構いませんよ」


「各所領では中央に税金とか払っていたりするのかな」


「税金ですか……ああ、そうですね、毎年貢物を収めているので、それが税金に相当するかも知れませんね」


「なるほど」


「何故そのような事を聞かれるので?」


「いや、これだけの軍備を揃えているという事は、王家の経済力はどんだけだと思ったもので」


「そういえば、そうですね」


「言っちゃなんだが、王家と言ってもちょっと所領が大きいだけの一領主だよな」


「そうですね、人口の多い街も多いし、王都も大きいので面積を見るとそうでもないのでしょうが、経済力はダントツですね」


「それでも、直轄領からの税収だけで維持できる軍事力じゃあないように感じたんだけど、どうだろ」



 秋津は話をゴートやウエルクにも振る。



「確かに、吾輩もこのパレードを見て少なからず驚き申した。 ここまでの力を持ち、それを誇示する王家の意図は図りかねる」


「そうですね、王都の賑わいは大きなものですが、もしこの兵力を維持し続けるなら、貢物が無ければ首が回らない事態にもなる気がします」


「だが、臨時という事であるならば、歩兵に限ればこの数倍を徴用できるであろうな」


「ですね」



 これには秋津も驚く。



「数倍!? 人間はともかく、武器はどうすんだ?」


「このパレード用の武具は揃っておるが、戦となれば種類こそ揃えるが見栄えまでは拘らないであろうよ」


「つまり、多少傷物でも倉庫にぎっしりか」


「そう推察しておる」



 そんな感じで驚きからの会話が続くが、他の諸侯も同じようで、皆パレードを見てざわついている。

そして、最後に切り札が登場する。

王立近衛魔法団だ。


 人数はこれまでと違い、僅か30名ほど。

いや、これでもスブリサの基準だと1個騎士団にも匹敵する人数だが、100とか300、さらにその数倍と言った3桁4桁の数字から見れば「僅か」と言いたくもなる。


 先頭を歩く若き団長アールパード=ハイシャルタット率いる王立近衛魔法団は、戦闘用魔法を習得した精鋭中の精鋭。

ハイシャルタット卿自身、王国最強の魔導士と謳われており、一人で魔法団戦力の半分に相当するという噂だ。

……つまり一人で29人分の働きをするって事だな。



 さて、今日のパレードは単なる行進ではない。

行き先には練兵場がある。 諸侯の客人たちは練兵場に移動し、今度はそちらで閲兵となる。



 秋津たちも練兵場に行き、指定された席に着く。

そこはコロッセオを思わせる階段状の観客席を備えており、様々な用途に使われる多目的な建造物だ。


 槍騎兵が隊列を揃えて駆ける姿を披露したのち、弓騎兵が現れる。

弓騎兵は素早い動きで部隊を展開すると、馬に乗ったまま目標を射る。

流石に走りながらではないが、40名の弓騎兵が放った40本の矢は、20メートルほど先に用意された的に全て命中した。



「な、なんと言う事だ!」

「信じられん」



 会場のあちこちから、驚きの声が上がる。

馬に乗ったままという不安定な状態で、弓を射り的に当てる。

観客たちにとっては、それだけでも驚きだが、それを40名もの多人数が全員やってのけたのだ。

それは特別な達人が披露する妙技ではなく、部隊単位での行動である。


現代の感覚からすれば、走りながらならともかく、止まっているのだから当たるのは当たり前な気もするが、この地の人々にとっては驚くべき事象のようだ。


 秋津は会場のざわめきから、騎乗戦闘はスブリサが辺境だから知らないのではなく、どうやら諸侯は皆知らなかったようだと理解した。

そして、20メートル程度の射程で驚く事に「驚いた」。

まぁ、全員必中となれば、あまり遠くに的は置けまい。 一人外しただけで「イベント」的には失敗だからねぇ。

だから近い的なのだが、どうも諸侯の面々はこれを「近い」とは認識していないのか、全弾命中という状況に判断力を無くしているのだろうか。


 彼がそんな事を考えながら見ていると、次は魔法団の出番のようだ。

臨時雇い兵ではマスゲーム的な事も出来ないだろうから、順当な所か。


 会場に木で出来た高さ1メートル程の馬が運び込まれる。



「木馬かよ」



 思わず声が出る秋津。

そして魔法団の魔導士が一人前に進み出る。 団長ではなく、一般の団員だ。

コマンドを唱えると大きな炎が現れ、掛け声と共に50メートルほど離れた木馬に向かって飛んでいく。


 それは木馬に命中し、木馬は炎に包まれる。

その炎の火力は強く、僅かな時間で木馬は燃え尽きてしまう。

まるで新聞紙で作った紙馬に石油をかけて火を付けたのかと思うほどである。

その様を見てビステルは驚愕する。



「うわ、凄い、あれセンシャでもやられちゃうんじゃ。 どうですかね?」


「ちょい待ち」



 秋津は手を立てて「STOP」の意思表示をすると、スマホを取り出し、電源を入れる。

メモアプリを起動すると「ききみみ たててる やつ が いることは あるか」と入れ、その画面を見せる。

ビステルは日本語教室の成果で「ひらがな」で書かれた日本語なら、ある程度読んで理解できるようになっている。



「あ……、はい」


「すまんな、もう一回言ってくれるかい」


「はい、魔法団の攻撃は凄い威力ですよね、どう見ます?」


「そうだなー、アンナスゴイノハミタコトナイナー、サスガ、オウノマホウダンダ ダレモ カテナインジャナイカナ」



 それを聞き、ゴートは笑いをこらえつつ語る。



「秋津殿、棒読み過ぎますぞ」


「おう、わかるか」



 つまり、大丈夫という事だ。 まぁあの炎は意外と高温のようだが。

彼らは知らないが、レリアル神は「魔道ではセンシャには傷もつかん」と言っていたが、コレを見れば「傷しかつかん」と言い直すかもしれない。

流石に辺境の魔導士よりは強い魔法を習得しているようだ。

そしてゴートは真顔になると告げる。



「しかしながら、団長はもっと凄い魔法を持っているはずであろう。 ここで見せてはくれないであろうがな」



 一行は王家の軍事力が諸侯とは比較にならない事を改めて認識した。

これなら、反乱などがあれば、諸侯を動員するまでもなく、さくっと制圧できるのではなかろうか。


 だが、秋津は少々違和感を持つ。

「これだけの戦力があるのに、なぜスブリサの危機に兵を送らないんだ?」と。

隣のザバックは兵こそ送る余裕が無かったが、物資を融通してくれた。

だが、王は何もしない。


もちろん、あの魔物軍団が相手では、王の騎士団であっても苦戦は免れないし、み使いの戦力が無ければじり貧で壊滅するのは避けられないだろう。

でも、敵が強いから逃げているなどという事では無いはずだ。



 一連の行事が終わり、スブリサの屋敷に帰る途中の馬車の中、ゴートに聞いてみる。



「それは難しいであろうな。 各領主はその領地に対する責任を持っておる。 助けを求めるという事は、統治や守護が出来ないと言っているようなもの。 領地を返上する覚悟が必要であろう」


「それじゃ、そもそも助けを求めてないって事か。 じゃお隣さんの援助って?」


「ああ、ザバックの事であるか、あれは太后様の個人的縁によるものであるからな。 王に対する責務には抵触しない」


「そうかぁ、大変なんだな」



 貴族は領民から金品を巻き上げて遊んで暮らしている寄生虫な訳ではない。

成すべき責務や、守らねばならない矜持を持つ存在なのである。



 こうしてガイア神誕生を祝す式典は全日程を終えた。


 翌日、秋津たちは土産物を確保し、さらにその翌日、スブリサへの帰途に就いたのであった。

用語集


・常備軍

いわゆる中世には存在しないが、現代と古代においては存在している組織。

中世を文明後退期と捉えた場合は、文明が進むと現れる組織という言い方もできる。

戦いが無くても兵に給与を支払う必要から、国家(またはそれに類するもの)の経済力がある程度無いと編成できない。

つまり、文明の程度の問題では無く経済力の問題。

もちろん、程度が低い場合は経済力も乏しいのだけどね。

なお、需要は常にあるので、可能なら持つのが当たり前。

従って、貴族の私兵レベルを超える兵力を抱える王家の経済力は相当に大きい。



・武具は揃えている

日本の戦国時代でも農民を徴用した足軽に使わせるための「御貸具足」なる武具一式を用意していたそうです。



・大丈夫という事だ

実はあまり大丈夫ではない。

ガソリンエンジンを積んだ戦車を後ろか上から狙い、エンジングリルを直撃すれば、炎上するのではなかろうか。

というか、直撃ならディーゼル車でも安心できない。


とはいえ、正面から撃たれてもその熱が車内まで伝わる事も無いだろうし、そもそも彼らは「戦車の弱点」を知らない。

1~2秒だけ前面装甲に向けて火炎放射するようなものだと思えば、「大丈夫」という見解もそう外れてはいないだろう。

ちゃんとハッチとか閉めておけばな。


大体、誰が相手でもそこまで接近されるような戦い方をしてはいけない。

現代歩兵ならRPGとか持ってるからねぇ。


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