第24話 おっさんズ、国家的慶事に立ち会う その5
この日は貴族会議と称される会議が執り行われた。
会議場に集まる諸侯。
出席しているのは代表者だけで、多くの場合領主本人である。
スブリサの場合、今回は領主が出席しているが、彼がこの会議場の席に着くのは初めてであった。
貴族会議自体は2年に1回開かれているが、領主は年若いため、これまでは代理を出していたのである。
今回の貴族会議は臨時のものであり、案件的にも慶事に関する形式的なものだろうから、大丈夫だろうという事で領主が出席した。
ちなみに代理は前々回はエリアンシャル伯爵で、前回はゴートだった。
実のところ、会議と言っても、何か重大な議決を行うものではない。
議会制民主主義の国会とは違うのである。
2年間の王の治世に関する報告と、決定事項の伝達、出席者数名の演説会などがその内容であった。
今回はこれらの代わりに、ガイア神誕生に関する報告と、それに伴う決定事項の伝達、そして神官と大司教など宗教界による演説会がその内容であった。
「……我らが偉大なる創造神、その名も畏れ多きレリアル・ロディニア様。 慈悲深き豊穣神、その名も畏れ多きム・ローラシア様。 そして新たなる神としてお生まれになられた、その名も畏れ多きガイア・パノティア様を讃え……」
諸侯の反応、そして王や宰相から釘を刺されたためか、演説ではレリアル神とム・ロウ神の名を両方出す大司教であった。
まぁ、公式見解は文字数に制限のある書簡と違い、言葉による演説では無制限だからという事である。
会議は昼には終了となった。
本来の貴族会議も朝始まって昼には終わるのが常であり、特に短いわけではない。
違いがあるとすれば、今回は明日までの2日間で会議は終わりなのだが、通常は数日続くという事である。
昼には正餐であるが、通常とは異なり比較的簡素な内容だった。
もちろん、これは夕方の午餐と比較しての話であり王の名の元に出される料理は豪勢であったが、量的には少なく、飲料にもアルコール類は含まれていない。
というのも、この後体を動かすイベントが控えているためであった。
昼の正餐の後、この日の午後は舞踏会となった。
え? 舞踏会は夜じゃないのかって?
夜は暗いでしょ。 蛍光灯やLED電球がある訳じゃ無いんだから。
まぁ、王の元には魔法兵団があるから、得意な者を集めて「照明魔法」を駆使すれば会場を照らすのも可能ではあるけど、それって能力の無駄遣い的な感じではないかな。
「王の魔法兵団は凄い」ではなく「何に使ってんだこの馬鹿王は」となりかねないという所だ。
楽団が音楽を奏でる中、舞踏会で踊る諸侯代表。
いや、代表と言っても必ずしも領主という訳では無く、踊りの腕と見た目で選抜された者が踊っている。
スブリサの代表は王都遠征組だけではなく、現地からも選ばれている厳選されたペアだ。
そして各地から来た諸侯の使節団や、王都在住組も観客として舞踏会を見ている。
ここは単なる余興の場ではない。
諸侯の威信がかかった競争の場である。
上手いペアは必然的に会場中央に動いていき、皆の注目を集める。
そんな皆の目を集めているのはサファヴィーであった。
「さすがは姫さんだなぁ」
秋津はこの地の踊りはもちろんのこと、現代の踊りもさっぱりだが、サファヴィーの踊りが華麗である事は理解した。
そしてそのお相手は領主である。
つまり、兄妹で踊っているのだ。
周りの貴族たちも、口々に褒めている様子が伺え、二人の踊りはハイレベルなのだろうと思われる。
そんな様子を見て秋津は「会議は踊るされど会議は進まず」なんて言葉を思い出して苦笑した。
なぜ笑うかって? アレは別に人々が踊りを踊っている訳ではないからね。
そんな二人を蔑むような眼で見る男が居る。
「スブリサ卿は政より芸事が得意なようだな」
王の呟きを聞きながら、宰相は違う事に頭を回していた。
(あのステップは……何処かで見た気がするのだが……)
創作ダンスでは無いのだから、どこかで見ているのは当然である。
だが、宰相が気にしているのはそういう意味では無い。
何か場違いな気がする様なのだが、その理由を思い出す事は出来なかった。
(やれやれ、年は取りたくないものだな)
「どうした、オルメカ」
黙りこくった宰相に王は声をかける。
「あ、いえ、何でもありません」
やがて舞踏会も終わり、午餐つまり夕食である。
贅を尽くした料理・飲み物が提供された宴なのだ。
だが、この宴、立食パーティー形式である。
参加人数が不定なのと、食べる事より貴族同士の交流の場としての意味合いが強いのだ。
現代の料理を知る秋津の目から見ても、ハイレベルな料理が並ぶ。
そんな中、舞踏会で注目を集めたサファヴィーの元には、次々と若い男性がやって来ては挨拶をしていく。
それへの対応をそつなくこなす彼女の社交性はかなり高い。
まだ十代だと言うのに、秋津は何か威厳のようなものを感じた。
さすがは領主令嬢と言えるだろう。
というか、秋津の感想は「さすがあの太后の娘」。
さて、宴の場には諸侯とその関係者だけでなく、宗教界の人々も参加していた。
その中には巡回司教である契丹も含まれていた。
「ふむ、私も職業柄様々な宴に同席しましたが、この雰囲気は独特のものが感じられます」
「契丹様の世界でも、この様な諸侯が集まる宴が開かれるのですか」
「そうですね、やんごとなき方々は居ますが、そういった進歩から遠い人たちとは関りが無かったので、よく判りませんね」
「それではどの様な宴に出られたのですか」
「こちらで通じる表現で言うのは難しいのですが、主に芸事を生業とする方々や、教育に携わる方、情報伝達を行う人々の間で催される宴に招かれました」
「なるほど、ではあのスブリサのサファヴィー=オーディス嬢はどう見られましたか」
「舞踏会で注目を集められていた方ですね」
プランタジネットの問いに、契丹は深刻な顔で答える。
「舞踏に関しては所詮は素人の中の一番に過ぎません。 彼女は踊り子ではなく政治家に見えますね。 皆さんは舞踏会での活躍に注目していますが、私は諸侯と会話をされる今の姿にその神髄を見ます。 末恐ろしい方であると」
本来の意味の「アイドル」に相応しいという評価であると共に、現代日本での「アイドル」としても通用するかも知れない。
少なくとも魑魅魍魎の跋扈する芸能界でも生きていけそうなオーラを感じた契丹であった。
だが、それは君主を否定する進歩主義にとっては仇敵という存在だ。
「彼女が学生として王都に籠っているのは僥倖ですね。 領主の妹として外交の場で活動されると、私たちの仕事に悪影響となりかねません」
「そうなのですか」
「ええ、少しギアを上げて、彼女が『外交官』になる前に、諸侯の考えをまとめてしまうのが良いでしょう」
そうして宴が続く中、契丹と秋津はほぼ同時に相手を認識した。
それは肌の色に起因している。
現地の人々は天使や日本人、西洋人がモデルのホムンクルスについて全く違和感を感じていないが、実は肌の色がやや異なる。
認識を調節する魔法の影響で、違和感が無くなっているのだ。
だが、召喚天使・み使いである契丹と秋津には認識調整はかかっていない。
このため、視界内に居れば「現地の人ではない者が居る」と判るのだ。
「ふむ、プランタジネットさん、あの方は日本人に見えますが、レリアル様の敵になる天使ですかね」
「少々お待ちを」
プランタジネットは対象を確認する魔法を使う。
召喚天使であれば、直接危害を加える事が禁じられているため、調べればすぐに判る。
まぁ、調べずとも召喚天使・み使い同士は至近距離まで近づけば、互いに認識出来るけどな。
「お待たせしました。 ご推察の通り、あれなるはム・ロウ神の召喚天使で間違いありません。 すぐ傍まで行きますれば、契丹様にもその事が判るはずです」
「そうでしたか、余計な手間をかけてしまいましたね」
「いえ、近づく前に知っているのもアドバンテージでしょう」
「では、この機会を逃す手はありませんね」
「どうされるので?」
「相手がどんな人物かを知れば、今後の対策にも役立ちます」
そう告げると、契丹は秋津の方へと歩みを進めるのであった。
用語集
・領主令嬢
領主の娘ではないが、前領主の娘なので間違いでは無い。
もちろん、紹介する際にこう言った表現は使わないがな。
・君主を否定する進歩主義にとっては仇敵
でも個人崇拝も進歩主義の十八番なんだが……。
・実は肌の色がやや異なる
なのでリディアとパルティアも、
原形を留めていないが某潜水艦(潜水「艦」なのに艦長ではなく「船」長が指揮する)が元ネタとされるアニメのヒロイン
や、
某ロボ作品で宇宙帝国の女王(「帝」国なのに女帝ではなく女「王」)の娘なのになぜか地球で生活している11歳のヒロイン
なんかと同様なハズである。 多分。
・互いに認識出来る
だって召喚天使・み使いは「対象を確認する魔法」なんて使えませんから。
システムとして認識できるようにしておかないと。
誤字修正 2021/08/21
禁じれらているため
↓
禁じられているため