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模型戦記  作者: BEL
第4章 民と領主と王家と神
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第24話 おっさんズ、国家的慶事に立ち会う その4

 秋津たち一行は王都で貴族が多く住む、いわゆる「貴族街」に来ている。

庭付き一戸建ての家々が立ち並ぶ様は、どこかの新興住宅地を思わせる。


 だがヨーロッパ風の土地なら何十も部屋のある大豪邸が並ぶのだろうが、ここではそんな大きさではない。

建築技術とか土地の広さとか、様々な要因があるのだろうが、建物のサイズ感も日本の住宅地並みなため、先ほどのような感想になるのだ。

まぁ、建っている建物は石造りや木造なので、レンガやモルタル、近代的外壁材なんかは見当たらない。


 貴族街でも奥の方に行けば、敷地内に複数の建物が建つ邸宅も増えてくるが、今いる場所では敷地自体そこまで広くない。

そんな比較的こじんまりした館の一つに馬車は進んで、門の横に止まる。


 事前に文を送っていたため、馬車の到着を見て館から3名の人物が出てくる。

一人は年配で礼服を着用した男性、一人は二十歳すぎくらいで剣士風の若い女性、最後に十代後半の高価そうな服を着た少女だ。

秋津たちも馬車を降りる。

3名は馬車の傍まで来ると、男性と若い女性は領主に向かい頭を下げる。



「殿下、お待ちしておりました」


「変わりは無いですか」


「はい」



そして少女も口を開く。



「このような所においで頂き恐悦に存じます、殿下」


「貴族らしい所作は身に付きましたか、サファヴィー」


「はい、もちろんですわ、お兄様」



サファヴィーと呼ばれた少女は笑顔で応えた。


 この館には領主の妹君であるサファヴィー=オーディスが付き人や護衛役の人と暮らしている。

彼女はこの王都にある貴族学院に通っている。

学院では魔法関係を専攻しているが、一般教養として王国貴族の常識やらなにやらも学んでいた。

ある程度以上の貴族の子弟は、10歳から18歳くらいの間に2年ほど(1年や3年の人もいるが)貴族学院に通うのが一般的で、この辺りに建つ比較的小さい家々は、そういった学生が住んでいる。

つまり、ここは学生街だったりするのだ。


 え? 寮? そんなものは無い。

貴族の子弟を預かるようなそんな責任重大な施設がある訳なかろう。


 ちなみに「高価そうな服」といっても、欧風のドレスを想像すると間違い。 暑いですからね。

剣士風の女性はサファヴィーの護衛役として何処にでも(学院にも)ついて行く人で、実はサファヴィー専属騎士隊の騎士だったりする。


 領主も以前学院に通っていた。

彼が王都に来るのは、学院卒業以来の事であった。

一行は屋敷に入る。



「懐かしいな、近所もここ(屋敷)も全く変わっていない」



 まぁ10年やそこらで色々変わるような動きの速い世界ではないんで。

そして、今サファヴィーが使っている家は以前領主が住んでいた家だった。

それは半分偶然、半分必然。


 学生街の家は各貴族の持ち物では無く、借家。

不動産屋といった職は無いため、個人的なコネ・繋がりで契約が行われる。

サファヴィーが来た時、領主の時と同じ大家に依頼したら、たまたまここが空いていたという事だ。


 久しぶりの兄妹の対面であるが、積もる話は置いといて、「領主一行」と「王都を調査する諜報員たち」の会話から入る。

スブリサ辺境伯の屋敷には公的な大使とそのスタッフがいるが、学生の立場で諸侯の子弟と関われる存在は、それはそれで貴重なのだ。

ちなみに彼女が来るまで3年ほどは、適切な人材が居なくてスブリサの貴族の子弟で学院に通う者はいなかった。



「王都はレリアル神を崇めたお祭り体制のようだけど、学院内はどうだい。 諸侯の子弟たちの反応はどうだろうか」


「かなり混乱していますわ。 決闘もどきの喧嘩やら魔法での襲撃とかもあって、かなり殺伐としてきています」


「なるほどね、若者は血気盛んだからねぇ」



 いやいや、盛んで済ましていいのか、ソレ。

現代人はそう思うが、ゴートは違うらしい。



「建前抜きで直接ぶつかるのは若者の特権であるな」


「爺の言う通りですね、サファヴィーは大丈夫かい」


「もちろんですわ、入学直後に手を出してきた相手を吹き飛ばしましたから、誰も歯向かってきませんわ」


「ああ、その話なら聞いてる。 相手は10日ほど寝込んだんだっけ」


「ええ、もう少し長く休んでもらいたかったですけど、これみよがしにブレストプレートを付けて来ましたわ」


「何事も最初が肝心ですな」


「ええ、爺の教えを実践致しました」



 そんな訳で、学内では宗教戦争のような様相を呈し始めているらしい。

純粋な学生諸君は単純にレリアル陣営、ム・ロウ陣営、中立勢力と分かれているかと言うと、そうでもなく、むしろそれまでの友人関係・人脈のほうが重要らしい。

サファヴィーは「強者」として認識されている事もあり、北部諸侯の子息も手は出さない。



「しかし、学校がそんな状態で良いものなのか」



 秋津は話について行くのに苦労しながら、ゴートに聞く。



「うん? 何か問題でもありますかな」



 問題ないそうです。


 とはいえ、性急に本音で激突する若者の動きは、将来の諸侯の動きを予言していると言えなくもない。

何も手を打たなければ、王国内乱の種ともなろう。

まぁ、王家も黙って見てはいない。 内乱などどいう事態は防ぐだろう。

内乱はな。


 それにしても、慶事をきっかけに暴力の嵐が吹き荒れる学校っていったい……。



 その後一緒に通っている護衛役(3名が日替わり交代)からも話を聞き、お仕事の時間は終了となり、夕食の時間となったのであった。



*****



 留守番役の大英はこの日、第3騎士団の詰め所の建物に来ていた。



「これがグリフォンか」



 そこには先日撃墜したグリフォンの剥製のようなものが、置かれていた。

横には首についていた首輪が置かれている。

それにはカメラっぽいものが付いているが、割れている物を復元したものなのでおそらく動作していない。 一応念のためレンズ面に見える所には蓋をしている。

それらを見ながら、大英は横に居るティアマト神に問う。



「天界にはこんな生き物が居たりする?」


「居ないわよ、どっかの異世界から連れて来たんじゃないの」


「どっかの異世界って、そんなものがあるん?」


「よく判んないけど、あるみたいよ。 そうだ、アキエルに聞いて見よう」



 ティアマトは通信で呼び出したアキエルに聞いてみる。



「あー、これね、そうねぇ、マリエルなら異世界ゲート開けるから、テイマースキルを持ってるキリエルが連れてくるってのはアリかな」


「あるんだ異世界」


「いくつかあるわよ。 こんなのが飛んでるのは『トウリ』かしらね」


「へー、ところで、この首輪だけど、この丸いのカメラだったりする?」


「どれどれ……そうね、これは偵察用のカメラね」


「生きてる?」


「うーん、ちょっと待ってね。 ……魔力は検知されないから、死んでるわね」


「そうなんだ。 どんな性能なんだろ」


「そうね、光学倍率は500倍くらいかな」


「500!」


「最大よ、最大。 それにこのタイプはレーザー補正付いてないから、そんなに良い絵は撮れないと思うわ」


「そうなんだ」



 とりあえず、千メートル上空からでも、手に取るように地上の様子を確認できる性能のようだ。

上を向いている人が居たら、個人の識別はもちろん、その表情も判る。

免許証とか持って上に向けていたら、その全ての文字が読めるだろう。

蜃気楼がゆらゆらしているような天気でなければ、最大倍率でも問題なく使えるだろうしね。



「ところで、このカメラみたいな感じで天界のもので、こっちで使っていいものってあったりする?」


「うーん、渡せるのは無いかなー。 そのカメラもレリアル様とム・ロウ様の話し合いで性能とか上限決めてるんだよね」


「あら、意外と大変なんだね」


「無いと戦いにならない物は使えるけど、それでも無駄に高性能にならないように、細かく決めてるのよね」



 実は几帳面な神々であった。

やりとりを聞いて居たアラゴンはグリフォンを見て感想がこぼれる。



「それにしても、このような姿の者が飛んでいるとは、信じがたいですね」


「そうだよなぁ、この小さな羽でどうやって飛ぶんだろう」


「あーそれ、それは魔法の補助があるからだと思うわよ」


「そうなの?」


「あたしも詳しいことは知らないけど、トウリでの生態は魔力で浮遊して、羽は推進用って事の様だから」


「さすがファンタジーモンスターだな」


「でもねー、そのままだとこっちでは飛べないのよ」


「え? どういう事ですか」



 アキエルは異世界の魔法がこの地では効力を持たない事を説明する。

その説明内容は以前書いたので省略しよう。



「そうかぁ、敵さんの天使もやるもんだねぇ」


「そうよー、ミシエル君だって優秀なんだから。 戦いについてはともかく、生物学者としては一流よ」


「りょーかいです」



 大英は「現実は小説のようにはいかないな」と思うのであった。

小説なら主人公に敵対する者には知能が低下するデバフがかかるケースが目立つけど、現実にはそんな甘い話は無いって事ですな。



*****



「やっと戻ってきましたね」


「はい」



 巡回司教として諸侯の領地を巡っていた契丹達は、この日王都に戻ってきた。

諸侯が集まるめったにないイベント。

この機会を任務に生かすべく、契丹は想いを新たにするのであった。



 役者は揃った。

王都での式典とそれに続く数々のイベントは、各々の思惑が渦巻く頭脳戦の戦場へと変貌するのであった。

用語集


・貴族学院

 神学や一般教養、帝王学的な物が中心で、後は本人の趣味嗜好で剣術とか魔法を選択科目としている。

なお、メーワール太后は通った事は無い。 ま、妃になる前は建前上平民ですからねぇ。



・サファヴィー専属騎士隊の騎士

 5名が王都に滞在。 全員女性。 さらに全員戦闘用魔法が使える、意外とエリートな方々。

ただし、集団戦は苦手。 要はSPですね。

なお、リアル世界では女性で戦う騎士はほぼ居ないそうです。



・彼女が来るまで3年ほど

 それは4年前になるが、その時の学生は1年だけ在籍していたのが3名。

実はリディアとパルティア、それにササンである。

そんなまとめないで、うまくばらけるようにしてはと思わなくもないが、諜報員的な仕事はオマケなので、そちらをメインにして「派遣」している訳ではない。

なお、3名は同じ屋敷に住んでいて、その時の様々なラッキーな出来事(トラブル)のため、今もササンはリディア達にあまり頭が上がらない。



・入学直後に手を出してきた相手を吹き飛ばしました

 風魔法でサファヴィーの服をけしからん状態にしたため、怒った彼女の風魔法による反撃で、前に立ちはだかった鎧装備の護衛ごと石壁に叩きつけられて気絶。

それで護衛と壁に挟まれ逆に被害増大で肋骨骨折となって全治30日という話。 むしろ主人をクッションにした護衛の方が軽傷。

なお、壁の補修費用も先方持ちである。

11日目から学校に戻ってくるあたり、治療魔法の力もあるけどこの地の人は頑強ですネ。

その時着ていたブレストプレート内はコルセットのようなもので胸を固めていたという。

貴族の子弟もただの箱入りお坊ちゃんではないという事だ。

……という校内暴力もびっくりな話だが、特にお咎めは無い。 まぁある意味実力主義な学校である。



・剥製のようなもの

 厳密には剥製ではない。 大英達もこの地の人々も剥製の作り方は知らない。

とりあえず皮を防腐処理して、木で組んだ型に貼り付けたもの。



・500倍

 驚くのも無理はない。 大英の天体望遠鏡の最大倍率が200倍なのだから。

(適切な接眼レンズを用意すれば、もっと引き上げられる。 彼は持っていないが、メーカーサイトを見たら2.5mmのがあるから400倍までいけるようだ)

あのデカブツの2.5倍の倍率をボタン電池みたいな姿のカメラが叩き出すとはね。

ちなみに何度か出てきている双眼鏡の倍率は7倍。

とはいえ、偵察用カメラとしては実は倍率はかなりどうでも良い数値。

肉眼で見る望遠鏡とは違うのである。

解像度というか分解能の方が大事。

だって倍率はデジタル処理でいくらでも拡大できるのだから。



・レーザー補正

大気の揺らぎを検出しリアルタイムで補償光学システムを稼働させるためのもの。

リアルでは天文台が使っているシステムに似たような機能のもの(レーザーガイド星)があるが、偵察衛星とかは地上を見るから(全体が明るいから)21世紀の技術では実現不可能。

やりたいなら、違う方法を考える必要があると思われる。

解像度を1ミリ以下とかにしたいなら要るかもしれないが、現在民生用なら30センチくらいだから多分軍用でも全く必要ないでしょう。

どこぞのイージス艦映画のように、手旗信号をあの解像度で宇宙から撮ろうと思ったらあった方がいいかもね。

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