第24話 おっさんズ、国家的慶事に立ち会う その2
さて、30日間の停戦についての話は遅滞なく大英達に伝えられた。
「という訳なので、安心して祝うと良いわよ。 この際だから王都を見てくるのもいいんじゃないかしら」
天使アキエルは笑顔で提案する。
大英達が「そうですね」と応えると、忙しそうな彼女は挨拶の後、通信を切った。
「そうは言ってもな……」
「だなぁ」
二人は停戦の履行についてまるで信用していなかった。
何しろ、彼らの居た21世紀では、「30日間の停戦」なんてのは「数時間で破られる」のが当たり前。
「誇り高き戦士の戦いは何をしても止める事は出来ない」というのが常識なのだから。
以前も記したが
敵が約束を守る事を期待してはいけない。
という事である。
「まぁ、お二人の懸念も判りますが、大丈夫だと思いますよ」
大英達二人がみ使い召喚で現れてから、既に数か月が過ぎている。
執政官もこれだけの期間仕事を共にしていれば、流石に大英達の不信感についても十分理解出来る。
それ故執政官は、そう述べて「特別」な事情である事を強調する。
「邪神と呼ばれようとも、神ですし、ム・ロウ神との約束ですから」
大英達もその言葉を受け入れ、王都へ向かう領主のお供をする事にしたが、二人そろってスブリサを離れるのは心配なので、秋津だけが行く事とした。
まぁ、知らん人間に囲まれるのは大英の好む所ではないしな。
模型製作を進めるのが良いだろうと言う判断だ。
3日ほどして、王都からの手紙がスブリサにも到着した。
そこに記載された文言は大いに皆を困惑させた。
『我らが偉大なる創造神、その名も畏れ多きレリアル・ロディニア様に新しきひ孫、ガイア・パノティア様がお生まれになられた。』
いつものメンツを集めて会議が開かれる。
今回は司教も呼ばれた。
執政官は司教に説明を求めた。
「これはどの様に理解すればよいと思いますか」
「はっ、王家の信仰を前面に押し出したものでは無いでしょうか」
司教の顔には汗が目立つ。 夏の盛りは過ぎたとはいえ、まだまだ暑いのだが、彼の汗は気温のためではない。
王家は2代前の王より主神をレリアル神に定めている。
だが、国の主神はム・ロウ神のままだ。
たとえ王家と言えども、勝手に国の主神を変更する事は許されない。
宗教界は世俗から独立しているためだ。
だが、この手紙は大司教の名で出されている。
「大司教殿は国の信仰を司っておられたはずだが、王家になびかれたのか? それとも、何か別の思惑があるのか?」
「わ、私には判りかねます」
一層汗を流しながら恐縮する司教。
司教に厳しい視線を送る執政官だが、それを緩めると口を開く。
「まぁ、良いでしょう。 ですが、此度の式典、その内容をよく吟味する必要があるかも知れませんね」
「そうですね、出来ればそなたにもついて来て欲しい所ですが……」
領主も中央での変化、何が起きているのかについて心配を示す。
「流石に殿下が出かけられるときに私までスブリサを離れるわけにはいきませんが、ここはゴート殿にお願いしてはどうでしょう」
「おお、ゴート爺なら諸侯に顔も通じているし、重鎮として期待できますね」
ゴートは若き領主にとって、こういった公的な場では最も頼れる家臣と言っても良いかもしれない。
こうして、メンバーが決定された。
元々王都への使節団は単に式典に参列するだけでなく、王や諸侯との政治的駆け引きも伴うものであるが、今回は特別「ややこしい」事になりそうである。
数日後、前祭が終わり、王都への移動方法も決定した。
メンバーは正使である領主スブリサ辺境伯セレウコス4世と副使の元子爵ゴート=ボストルほか、随行員長として近衛騎士隊長ホラズム=ウエルク、随行員として秋津、シッキム=ビステル、通信兵の合計6名だ。 外に世話係として執事とメイド各1名が同行する。
通信兵は「アメリカ 機甲歩兵セット」の通信兵で、通信機とM16ライフルを携行するが、服装は随行員らしい服に着替えている。
通信兵の話では、この通信機は約8キロの有効距離があるとの事だ。
一行は定員4名(頑張れば6名乗れる)馬車2台と、マルダーに分乗して王都に向かう。
マルダーには秋津と通信兵が乗り、残りは馬車に乗る。
実際はマルダーには、さらに4名の米兵(機甲歩兵)が乗るが、マルダー共々王都より6キロ程離れた丘に待機する。
秋津と通信兵はそこで馬車に乗り換えて王都に向かうという予定になっている。
これは馬車は20世紀生まれの人にとって乗り心地が宜しくないため。
ちょっと村や飛行場へ行くのと違い、王都までは200キロ以上の長旅。
このため、近代的な車両にしたのだが、装軌車両であるマルダーの乗り心地が良いかと問われると、かなり疑問な気がする。
ホルヒ1aとかデザートシボレーがあるのだから、そっちにした方がもっと快適な気がするが、秋津曰く「屋根のない車には乗りたくない」だそうだ。
いいじゃん、幌とか展開すれば。 まぁ、マルダーには一応空調があるか。
そんなわけで、いつもであれば気にしないのだが、今回は護衛として召喚兵員を連れていく事にしたのである。
レリアル軍とは停戦しているが、王周辺の不穏な動きにより「念のため」の対策を施すのであった。
こうして、一行は出発した。
中世チックな馬車と歩兵戦闘車という不思議な車列は一路王都を目指す。
数日後、道中特に問題は発生せず、一行は無事王都に到着した。
乗ってきた馬車は王都内のスブリサ辺境伯の屋敷に置かれ、一行6名は挨拶のため、屋敷に常備している市内移動用の別の馬車で王宮に向かう。
道中、初めて見る王都の様子に秋津は感想を漏らす。
「すごい賑わいだな」
スブリサの都での祭りも結構な賑わいを呈していたが、王都のそれは桁違いのものとなっていた。
だが、ビステルをはじめ秋津以外の面々は、やや険しい顔をしている。
「どうしたんだ、そんな難しい顔して」
「秋津殿は文字が読めないので判らないと思いますが、そこかしこの垂れ幕にはレリアル神とガイア神の名が掲げられています」
「そうか、なるほどな」
道中、港の様子が見えた。
王都は北東部が海に面しており、大きな港がある。
そこには秋津の目にはガレー船に見える船が多数停泊しているのが見えた。
見える範囲に限ると、その船に掲げられている旗は王家のものとは違っていた。
やがて一行は王宮に到着。 王に謁見するため、控室に誘導された。
そこには先客がいた。
「これはこれは、スブリサ卿、長旅ご苦労様」
「いえいえ、マウラナ大公こそ、船旅はいかがでしたか」
「良い旅でしたよ、神の御加護の賜物ですな」
マウラナ大公領を治めるマウラナ大公の一行だ。
王国の諸侯の中で最大勢力を誇り、大公を名乗る唯一の貴族。 王都の東にある諸島の島々を丸ごとその領地としている。
現王家とも仲が良く、王国の安定は王家と大公家の友好の賜物と語る人も居る。
逆に言うと、お家騒動により追放された先王家との仲は良くなかったらしい。
港に見えたガレー船はこのマウラナ大公領のものだった。
大艦隊と共に王都にやって来ているようである。
「来る途中、港に控える大公閣下の大艦隊を目にしました。 いつもながらその威容には圧倒されます」
「何々、大したものではありませんよ」
儀礼的挨拶と続く雑談は大公が呼ばれたことで終わる。
「では、お先に失礼するよ」
スブリサの2倍以上となる15名を超える大使節団は、謁見場へと去って行った。
そんな彼らを見送った後、ゴートはぽつりとつぶやく。
「相変わらず目が鋭い方でありますな」
マウラナ大公はゴートより若い40歳ほどの男。
高い地位に似合わず野心家の目をしているというのが、彼の見立てだ。
スブリサは兵を目立たぬよう少数(装甲車1台分)連れているが、大公は艦隊を率いて来ていた。
祝賀イベントなはずが、思いの他きな臭い状況である。
「こりゃ海千山千の猛者の集まりになりそうだな」
いきなり最初から大物に出会い、先行きが心配になる秋津であった。
用語集
・世話係として執事とメイド各1名が同行
一見2名だが、実際は馬車2台の御者も居るので、4名になる。
(御者は定員に含んでいない)
・通信機
実際にキット化されている通信機が何なのかは不明であるが、本作では「AN/PRC-77」として召喚されている。
・4名の米兵(機甲歩兵)
うち一人はドライバーなのだが、マルダーにはドライバーが居る(自動補完)ので予備というか、普通に小銃を持つ事になる。
・自動補完
通常は用語集にて出した言葉は説明しないのですが、今回は例外。
これは「フィギュアの補完機能(居ない事が見えているが、機能させるために必須の人員を補完する)」とは似て非なる機能で、「見えない人員は存在しているものとして召喚される」という機能。
戦車を召喚すれば、戦車兵が定員搭乗しているのはこのため。
ただし、あくまでそのキットから召喚されるブツ自体の人員に限られる。
マルダーの場合、ドライバーなど3名が召喚されているが、輸送するべき「西ドイツ歩兵(ドイツ連邦軍歩兵)」は召喚されない。
あくまで車両としてのマルダーを運用するための人員のみ補完されているのである。
・マルダーには一応空調がある
このNBC対策用と推測される空調がクーラーとして機能するのかどうかは不明。 乗員に聞けば判るはずだが、本作では我輩に不明な物は不明なので、触れないでおく。
・市内移動用の別の馬車
速度(に耐える構造)や長時間の搭乗のための居住性よりも、見た目と装飾を重視している。
車幅が狭く、街中での運用に特化しており、引く馬も体力を気にせずに白馬を選んでいる。
また、王都の役所に登録し、王宮に繋がる内側区画内の走行を許可されている特別な馬車である。