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模型戦記  作者: BEL
第1章 異世界へようこそ
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第3話 おっさんズ、前線の村を視察する その1

 朝である。

大英も起きたようだ。


(昨日は色々な事があったが、まぁ問題ない。

普通に9時過ぎに起きた。

若いころは休みの日は11時まで寝ていたものだが、早起きになったものだ。

が、1階に降りてみると秋やんは2時間も前に起きたらしい)


「俺は疲れが出たのかいつもより2時間も遅かったが7時に起きたぞ、9時過ぎまで寝ているとは、寝すぎだー」


「なんと、年寄は朝が早くて困る」


「いや、マテ、どんぱだろ」


「というか、普段は5時に起きていたのか」



 なんて話をしていると朝食が出てきた。

昨日の話にあった朝食のためにメイドさんが朝から働いているのだ。



「おお、何もしないのに朝食が」


「いや、何もしていないのは英ちゃんだけだぞ」


「そうなのか。何か調理をしたのか?」


「いや、城から持って来るのを手伝っただけだが」


「……」


「……」



 無言でギャグをかましている二人にメイドさんが声をかける。



「さぁ、お召し上がりください」


「あ、いただきます」


「いただきます」



 食べながら雑談が始まる



「こっちでも調理できるようにならんかなぁ」


「うーむ、ガス台が使えんから難しいな」


「というか、冷蔵庫の中身は大丈夫なのか?」


「アイスと梅干以外は缶飲料とペットボトルしか入ってないから平気だ」


「梅干は……まぁ、早めに食えばいいか。常温でもそれなりに持つからな」


「アイスはマズイな。今日の昼めしは溶けたアイスだな」


「おいおい、それは無いな」



 そこで大英がメイドに話しかける



「あ、何か氷を作るか、水が氷るほど冷やす魔法みたいなものってありますかね。そこまでいかなくてもある程度冷やすだけでもいいのですが」


「えーと、魔法には詳しくありませんが、私たちは見たことがございません」



 どうやら調理の現場に「冷蔵」とか「冷凍」という概念はないらしい。



「そうか、となると、やっぱり腐る前に食べてしまわないといかんな」


「うー、俺は違うものを食うぞ」


「なんと、始末を我に押し付けて己はまともな食事をすると申すか」


「えーい、人聞きの悪い。メイドの皆さんにおやつ代わりに食べてもらえばよかろう」


「おー、その手があったか。一人で食えば地獄だが、皆で食えば天国だな」


「つーか、昼メシは城で皆と一緒だろ」


「あぁ、そうだった」



 しょうもない話は続く。

だが、有意義な話もある。



「で、どうすんだ、戦車隊でも作るか」


「どうかな、先に現状を把握しておきたいかな」


「そうか?戦車なら何が相手でも勝てそうだが」


「それはそうなんだが、ただ戦闘で勝てば良い訳じゃない。

敵の根拠地を叩かない限り、いつまでも戦い続ける羽目になる」


「あーそうか、それはそうだよな。下手したら『まーたお前か』状態にもなりかねんもんな」


「そーゆーこと。大体補給が無いから、うかつに戦車隊なんて組織しても、くず鉄を増やすだけ」


「確かに。勝っても敵が弱らないと、そのうち全車弾切れかぁ」


「昨日の話じゃ敵の根拠地は森の向こうというだけで、どこにあるか判ってない。

森の向こうってだけで戦車には無理。

行き先が分かっていたらアルデンヌもアリかもしれないけど」


「じゃ歩兵か?」


「それもどうかな。

むこうが支配する土地に少数の兵を送ってもベトナムになるだけじゃね」


「ではどうする」


「ナッターV作戦だ」


「うん?」


「迎撃オンリーでしばらく戦い、その間に経験値を稼いで飛行機を用意する。

双発爆撃機を5~6機揃えてから偵察を出して根拠地を特定、空爆でカタをつける」


「そうか、それでナッターな」


「とはいえ、補給が無いから前線を支えるのも一苦労だな。

神様は補給問題はいずれ解決するって言ってたけど、何時になるかわからんし」


「最初からいっぺんには出来ないんだな」


「神様のシステムもアジャイル開発なんだろうな」


「何じゃそのアジャ……って」



聞いたことのない用語に秋津が問う。



「一度に完成品を作ろうとすると時間がかかる。だから急ぎの時は一部の機能だけ実装して走らせる。一塊の機能群ごとに開発を進めてリリースすると思えば大体合っているかな」


「という事は」


「まずはみ使いの召喚と模型からの現物召喚システムが実装されていて、補給問題対応とかは未実装という事だろう」


「困ったもんだな」


「ちゃんと機能しているからグリフォンよりマシ」


「何だ?そのグリフォンって」


「あら、知らんか、あー2000年代だから見てないか。

開発途中の新兵器で戦うんだけど、しょっちゅうトラブって止まるという試作機を使う部隊の苦悩が描かれたアニメじゃ。

グリフォンはその開発中の主役ロボの名前」


「それは大変だな」


「グランダーのせいで『試作機は高性能』なんて勘違いが普及しているけど、現実の試作機はいつどんなトラブルに見舞われるか判らんからねぇ。最悪落ちるし」



 もっとも、補給問題はもう一つある。極めて深刻な問題が。それについては後日話題にしよう。


 そして朝食が終わる頃、執政官が訪ねてきた。昨日会ったウエルク近衛騎士隊隊長も一緒である。

腰が軽いのか、気さくな人柄なのか、そもそも辺境伯領が都市国家レベルの小さな組織なのか、いや、それでも村の助役くらいの立ち位置なんだから、そう軽々と現れるものではない気がするが、ビリーユ執政官は自ら行動するタイプなのであろう。

用件は今日の予定について話をしに来たようである。

とりあえず、二人は現地(騎士団が居る村)を見てみようと思っていることを告げた。



「やはり現状を理解しないと、何を用意すべきかも判りませんので」


「そうですね、実際に前線を見ていただくと状況説明も早く済みますね。現地に視察の準備をさせておきましょう。

ウエルク隊長、早馬を頼みます」


「了解しました」


「ありがとうございます」


「じゃどうやって行こうか」



 大英の問いかけに秋津が応える



「車を出そうか」


「そうだね、昨日の話なら車なら20分もかからないんじゃないかな」



 それを聞いた執政官は驚く。



「20分ですと!馬車で1時間もかかる距離をですか?」


「ええ、道が良ければ10分で行けると思うんですが、さすがに舗装道路のようにはいかないと思うので」



 舗装された道ではない。となると、秋津の車はRVではなく最低地上高が低い一般車だから「通行不能」が心配ですね。

ま、馬車が通っているなら、余程のことが無い限り大丈夫ではないかな。

そこで大英がある事に気づく。



(ん、待てよ、城から出るのは初めてだ。

城と言えば城門と跳ね橋だよな。

確認しなくては)


「ちょっと先に門を確認しよう。出られないとかいう事態は笑えない」



 外に出て城門へ向かう。

だが、幸い城門は広く、車が出入りするのに問題はなさそうだ。

この広さなら戦車だって出入りできるだろう。

さらに堀は無く、当然跳ね橋も無いので、橋の荷重制限を気にする必要もない。



「堀が無くて良かったよ、いくら軽でも、1トン近くあるからなぁ、こんな所で肝試しはしたくないし」



 それを聞いた執政官が聞く。



「あの『車』というものはそんなに重いのですか」



 さすがに執政官をしているだけあって、勘は良い。

1トンがどれくらいかは判らなくても、橋を超えるのが心配な重量という事は気が付いたようだ。


あの銀色の「軽」と呼ばれた「車」が、橋を心配するほど重いとは。

馬車しか見たことのない人にとっては、その重量は外見からは想像し難いようだ。

そして問いに秋津が応える



「ああ、かなり重いよ」


「そうですか、まぁ、ここは伯爵の城なんで堀はありませんが、王宮にはありますよ」


「?それはどういう事だ」


「ああ、身分によってその辺は決まっているんです」



 つまり、身分によって使っていい防御施設が決められているという事らしい。

ちなみに、騎士ナイトの場合、城壁もNGだという事だ。単なる柵か生垣のみ許されている。

そのため、ここの辺境伯領で城壁があるのは、この城だけとなっている。

高さの低い石壁なら騎士団の詰め所でも使っているが、個人宅には無いらしい。

他にも細かい規制があり、部屋の数や尖塔の高さなど、色々決められている。


 ここは封建制が生きている世界なんだという事なのだが、二人は後でもっとそれを実感することになる。


 出かけるのは午後からとなった。

そこで、昼食前に少し召喚を行うことにした。

取り出したのは個人用火器。

ミヤタ模型 1/35 MMの 「アメリカ陸軍 小火器セット」の中からM1小銃とトンプソン短機関銃、それと拳銃2丁だ。

召喚したときのインパクトは全然ないが、まぁとりあえず護身用である。



「おお、ガーランド」



 秋津は喜んで小銃を手に取る。



「使えそう?」


「昔サバゲで使っていたから大丈夫だ」



 別にサバイバルゲームで本物を使って居た訳ではないが、操作方法は知っているようだ。

ちなみに大英も観光客用のライフルなら撃ったことがある。


社員旅行でオーストラリアに行ったとき、先輩や同僚たちと射撃のツアーに参加したのだ。

彼以外は何も支えのない立射をしたせいか、命中率は散々だったが、大英は射撃位置にあるカウンターの台座にあるV字型の溝を使って銃口が揺れないようにしたため、全弾命中で、しかも1発を除いてすべて標的の中心付近に当てている。そのズレた1発は初弾で、それで照準のズレを把握し、2発目からはズレを計算に入れて撃ったのだ。


この件で先輩からは「さすが、丸を読む男だ」と言われ、しばらくの間あだ名は「丸を読む男」になったという。



「こっちはどう?」


「トンプソンか、一応使い方は判る。これがセレクターで、こっちが安全装置。間違うと危ない」


「大丈夫そうだね」


「おう、使うならコッチにするわ、トンプソンは英ちゃんには重いだろ」



 トンプソンは5キロ、ガーランドは4キロちょっと。重いという意味ではどっちも重いけどな。



「りょーかい」


「ところで、ガーランドの撃ち方は判るか」


「解説をお願いする」



 まぁ、そんなに難しいことではない。大英もすぐに理解した。


 そして午後、出発の時間となった。


執政官と共に現れたのは近衛騎士のビステルだった。

ウエルク隊長は他の仕事があるそうである。



「今後、み使い殿のお側付きとして、このビステルが付きます」


「シッキム=ビステルです。よろしくお願いいたします」


「「よろしく」」



 秋津のスペーシアに大英・ビリーユ執政官、ビステルが乗り込んだ。

それと、護衛の騎士が二人馬で付いてくる。

本当は馬車を出して兵士を8人くらい連れていきたいところだが、馬車では車に置いて行かれるので、二人だけとなった。

まぁ、車のスピードなら、途中何かに出会っても、振り切れるだろう。

挟み撃ちされたら路外には出られないから、その時は強行突破という事で。


 城から出て街の中央を抜ける。

引くべき馬の無い「自分で走る馬車」に町の人々は驚くが、何かの魔法の車なのだろうと、特に騒ぎになる事も無い。

そして門をくぐって城壁の外へ。

ここにも堀は無い。

外へ出るとY字路があり、前には街道、右方向は緩やかな丘に曲がりくねった登りの道があり、第3騎士団の詰め所に続いている。

彼らは街道沿いに進み、十字路を左折。

南に向かって進む。


車内ではエアコンから冷風が吹き出す。

執政官とビステルは驚く。

そりゃそうだね。

エアコンとか見た事も無い訳だから。

だが、後部座席に座る大英は



「エアコンは止めた方がいいんじゃ」


「ん?そんなに寒いか?」


「いや、燃費が悪くなる。

ガソリンは有限だし」


「うーん、あと5分したら止めよう。

まだ暑い」



そしてカーステレオから流れる歌を聞いて、助手席に座っているビステルが質問する。



「これは、一体誰が歌っているので?

それに楽隊は何処に?」


「ああ、これはカーステレオというもので、録音してある音楽が流れているんですよ」


「カーステレオ?ロクオン?」



聞きなれない用語に目を白黒させる執政官とビステル。

秋津は説明しながら運転を続ける。



「歌と演奏をする魔道があるとは……」



この「車」といい、執政官は驚く事ばかりだと感慨を深める。

ところで、このときかかった歌にドイツ語の歌詞がある歌があったのだが、執政官たちは歌詞の日本語の部分は理解したが、ドイツ語の部分は判らなかったようなので、翻訳システムは録音にも有効で日本語以外…少なくともドイツ語には無効ということらしい。

秋津たちもドイツ語の部分が日本語に変わっているかと期待したが、歌声は元のままだった。



 道中特に襲撃などは無かった。

時折民家もあったが、特に襲撃を受けた様子はなかった。

最近町に現れるという魔物とやらも、効率を考えて人が多いところを狙って出没しているのだろう。


その後三叉路を左折し、まもなく村に到着した。


用語集


・『まーたお前か』状態

 ある特撮ドラマ(人型機械 マシンダーZERO)でのセリフが元になっている。

悪の秘密結社「シェード」の本拠地手前で戦われた最終決戦の時、倒された幹部を回収して再生する機械が本拠地にあり、これによって、何度倒しても復活するという状態に主人公たちが苦しめられるという描写があった。

そのとき、その機械を操作していたか、その機械の前に居た戦闘には参加していない幹部だか首領だかが、何度もその機械から出てくる幹部「コワスダー」を見て語ったのが、この言葉「まーたお前か」である。


 似たような意味合いで使われるものには、ある漫画((株)渡部製作所[会社ではない。こういう名前の漫画家である]の「クソゲークエスト」)で倒れた勇者に向かって「死んでしまうとは何事じゃ」とか言ってやり直しをさせる。などがある。まぁ、こちらはどっちかというと、今風に言えばブラック職場っぽいエピソードだが。


 本編での用法で言えば、敵が無限に出てくる状態を言う。

解決策は、昭和に流行ったCMで言う「臭いにおいは元から絶たなきゃ駄目」である。あー今は水洗トイレだから何の話かは判らんね。



・アルデンヌ

アルデンヌの森と言えば判るだろうか。

第二次大戦でドイツ軍の戦車がこの森を抜けて進撃、連合軍は予想外の事態に驚く事になった。

(それも二回もな)

戦車が森を抜けてくるというのは常識外で、それは現代でも同様の事。



・ナッター

 工具のことではない。

 ドイツの垂直発進ロケット弾戦闘機 Ba 349 でもない。

「ナッターV」は大英達が小学生の頃放映されたロボットアニメである。

正式には「超電磁メカ ナッターV」と言い、超電磁から始まる5機合体ロボアニメの2作目になる。

御多分に漏れず、この時期のロボットアニメでは、基地に敵が攻めてくるのを迎え撃つか、街に出てくる敵を迎え撃つ。という迎撃オンリーで話が続き、最終決戦で攻めてきた敵の首領を撃破して大団円。つまり迎撃に始まり迎撃で終わるのだが、ナッターVのラストは敵の星まで出かけて行って戦うという所が特徴である。

そう、迎撃のち敵根拠地攻撃という作戦を「ナッターV作戦」と呼んでいるのだ。

似たような展開の作品は他にもあるとは思うが、印象深いため選ばれた。



・2000年代だから見てないか

 2000年代は秋津は関東地方に居て、大英とは親交が途切れていた。

2010年代に北海道の実家に戻ってきて、大英達と親交を再開した結果、「沼に引きずり込まれた」のである。

近年ではガソリンスタンドで窓を拭いてもらっていた時、カーステレオからアニソンが流れて、店員から

 「おっ、戦場幼女っすね、息子さんの趣味ですか?」

と言われて

 「い、いや、息子は居ません。私のです。いやー悪友に勧められて……」

 「良い友人っすねw」

というエピソードがあったそうである。

ちなみに、村までの道中でもこれのOPとEDがかかっている。ドイツ語の歌詞があったのがコレ。



・グリフォン

 大方本編で大英が説明しているが、例によって不正確。

正確に言うとグリフォンは試作機ではない。

拾い物を動かすために開発中のシステムを取り付けた「発掘兵器」である。

つまり、バグってハングしまくっていたのはグリフォン自身ではなく、作りかけの制御システムのほう。

なお、作品のタイトルはグリフォンジーン。



・グランダー

 プラモ界にグラプラという一ジャンルを築いたアニメの主役メカの名前。

当初は1機だけ残った試作機という設定だったが、長年の間にサイドストーリーがいくつも作られたため沢山存在するようになった。そのせいか、最近は「グダはグランダーの量産型ではない/グランダーはグダの試作機ではない」なんて説明も見られるようになった。

(グダとは作品後半にM4シャーマンの如く大量に登場して質より量の力で敵を圧倒したGS)

もっとも「試作機は高性能」という流れはファーストと呼ばれる最初のアニメより、続編のβグランダーのほうで目立つ。



・荷重制限

 大英は心配しすぎである。

馬車が通れる橋なら、おそらく軽自動車でも問題ない。

ワインの樽とかを満載すれば、相当な重さになるからね。

70kgの樽を10個積めば、荷物だけで700kg。馬車自体の重さと馬の体重を考えれば、1トン超えは確実。

設計スペックを満たしていれば、気にする必要はない。

ま、老朽化するとどうなるか分からないが……。



・丸を読む男の「丸」とは

 これは同名の実在する雑誌がある。劇中でも同じジャンルの雑誌である。いわゆる「軍事総合誌」。


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