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模型戦記  作者: BEL
第4章 民と領主と王家と神
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第23話 おっさんズ、そして準備する者たち その2

 この日大英達は午前中から村に来ていた。

リディアとパルティアも同行している。 つまり、用向きは現地召喚だ。


 大型の車両キットが地面に置かれ、いつもの如く行われる召喚。

今回は遂に90年代に突入だ。


 召喚の光が消え、90式戦車が出現する。

その車体前方には何やら不思議なモノが付いているが、これは92式地雷処理ローラと呼ばれる装置だ。

元のキットは「ミヤタ 1/35 90式戦車マインローラ(92式地雷原処理ローラ装備)」である。


 角ばった砲塔を持つこの戦車を見て、大英と秋津から自然と感想が出てくる。



「いやーコレを見るとなんか急に現代感が湧くなぁ」


「そうだなぁ、74式だと何か物語っぽく感じるが、コイツは現実感がすげーな」



 昔の怪獣物など自衛隊が出演する映画には61式が出ていた。

80年代のアニメやタイムスリップもの小説には74式が出ていた。


 特に大英がイメージしていたのは「テラシティ23」と言うOVAだ。

あるシーンで歌手の背景動画としてF4EJが飛び、74式が走るシーンが流れていたのが印象的であった。

ついでに言うとセピア色だったため、「過去の記録映像」っぽい雰囲気も醸し出していた。

実際、それを見た時は戦車こそ74式がまだ最新だったが、空では既にF15Jが飛んでいたから、F4にレトロ感を感じたのも頷ける。


 90年代や2000年代の作品なら、普通に90式が出てくるのだが、秋津はあまりその時代の作品にはなじみが無い。

大英も一部は見てはいるが、たまたま見た警察ロボ作品は「近未来感」を感じさせる演出などのため、少々印象が異なる。


 そして何より、二人が陸自の駐屯地開放などの時に目にする戦車は90式なのである。

61式は現物を見た記憶すら曖昧である。

そして北海道では74式も10式もあまりその姿を見る事は無い。

なので、74式は「懐かしい昔の戦車」であり「物語に登場する戦車」なため、その存在にリアリティを感じずらくなっているのだ。


 一方90式には「現代感」とか「現実感」を感じているわけだ。


 その後、夕方には ISU-122 が召喚された。

こちらの元キットは「ボロラエリ 1/72 ISU-122」である。

ヤークトティーガーと同様の固定式戦闘室を持つ自走砲である。

砲塔を持たないため運用に制限はあるが、守るのが主体なら大きな問題とはならないだろうという判断。

というか、より小型の普通の戦車も併用しているので、互いに補えばよいという考えだ。


 順調に装備を充実させていく召喚軍。 隣村奪還作戦発動の日は遠くないだろう。



*****



 メハム伯領を実地調査し、ターゲットとして適切であると評価した契丹は、そのまま計画を実行に移す事とした。


 ある村にて説教を行う。

村長の号令で、ほぼすべての村民が集まる。

さすがに教会の中には入り切れないので、外に設けられている説教場で話をする。


普通の村や町には「説教場」なる施設は無いが、このメハム伯領では各村の中央広場に人が話をするための台が設置されており、説教場と呼称していたのだ。

村の長老の話によれば、教会や集会場では収容人数が少なく、皆に話を伝えるのに不十分という考えから、このようになったという事らしい。


 村長に紹介された後、野外説教が始まる。

最初にリサジョが語り掛ける。



「親愛なる信心深き皆さま、本日は……」



 皆、熱心に耳を傾けている。

やや離れた人も驚きながら注目している。

それもそのはず、リサジョは魔法で声をよく通るように「補強」しているのだ。

拡声器と違い、近くにいる人に大きく聞こえる事は無いのもポイントだ。

そしてこの補強は、続いて説教を始めた契丹にも適応される。



「偉大なる豊穣の神ム・ロウ神の寵愛により健やかな未来を約束されし皆々様、今日はム・ロウ神を始めとした神々について語りましょう」



 契丹はム・ロウ神の祖父母について語り始める。



「太古に神あり。 厳しき父なる神、その名も畏れ多き創造神レリアル・ロディニア。 優しき母なる神、その名も畏れ多き大地母神カリス・コロンビア」



 レリアル神の厳しさとカリス神の優しさ、それを受けて成長する凛々しき戦神パシフィアの話。

物語調に語られるそれは、村の人々に新鮮な響きとして伝わり、「強制された集まり」だったはずが、皆引き込まれていく。

時折話し手をリサジョと交代し、飽きの来ないよう配慮された語りは「娯楽」の少ない村人たちを虜にしていく。


 話は続いてパシフィア神と鍛冶神オデウス・アトランティカのロマンスに進む。

お堅い神の話だと思ったら、意外と世俗的な流れも見られ、村人、それも女性陣の注目も高まる。


 やがて2柱は結ばれ、ム・ロウ神が誕生する。

だが、その後訪れる悲劇。

パシフィア神とオデウス神の最後に、人々は涙する。


 最後は、ム・ロウ神を立派な豊穣神として育て上げたレリアル神を讃えて終わった。



「いかがでしたでしょうか。 私たちがム・ロウ神の恩寵を受けて暮らせるのも、レリアル神あっての事。 その事を忘れてはいけません」



 レリアル神を持ち上げるフレーズが入っているためか、村長も渋い顔になるが、村人たちの熱狂の前には、そんな事はどうでもよく感じられた。

話が終わり時は夕方になっていた。

そのまま歓迎の宴が開かれる。


 宴の中、契丹は村長に語り掛ける。



「どうでしたか、私共の説教は」


「はい、大変感じ入りました。 私も村人たちが神の話をこんなに熱心に聞くのを見たのは初めてです」


「そうでしたか、この村を初め、メハム伯領の方々は熱心な信者だと聞いて居ましたので、これが普通だと思いましたが」


「いえ、確かに信心に於いては何処の諸侯にも負けないと自負しておりますが、ここまで盛り上がる事はありませんでした」


「なるほど、普段はどのような形で信心を示されているのですか」


「厳しい戒律を守り、祈りを捧げております」


「朝皆さんが行われていた祈りの会ですね」


「ええ」


「ですが、皆さんの様子には熱心さが欠けていたように思いましたが」


「はい、近年は戒律を正しく守れない者が増えており、ご領主も懸念されております。 ですから、ぜひ巡回司教様のお力で……」


「いえ、それは出来ません」



 契丹は右手を立てて、否定の意志を示す。



「な、なぜです?」


「貴方もご覧になったでしょう。 私共の説教を聞く人々の姿を」


「はい」


「正しき信仰とは、人々の心の中よりいずるもの。 与えられた戒律を、その意味も解らず形だけ真似ても、正しき信仰とは呼べません」


「なんと……」


「御覧なさい、人々の笑顔を。 聞きなさい、人々の笑い声を。 これこそが信仰の力の成せるもの」


「確かに……」


「ム・ロウ神は人々に戒律を求めているようですが、少なくともム・ロウ神を立派な神に育て上げたレリアル神は、そのような物を求めてはいません」


「……」


「村長、人々に幸福をもたらす正しき信仰と、その信仰を捧げるべき神が誰であるか。 今宵よくお考え下さい」


「わかりました」



 堅苦しい戒律に飽き飽きし、その実践もいい加減になりつつあった民衆だが、契丹らの話に引き込まれ、歓声を上げていた。

その姿に、村長も契丹の指導に従う決断を下す。


 翌朝、契丹は村長からの話を受け、すばらしい決断だと褒めたたえる。



「私共はこれから村々をまわり、正しき信仰について説いていきます。 いずれご領主様の元にも伺います。 それまでは『正しき信仰を捧げるべき神』については触れずに済ますのが良いでしょう。 余計な軋轢を生んではいけませんからね」


「はい、承知いたしました」


「人々を笑顔にする。 それが正しき信仰です。 忘れないでください」



 こうして、最初の村の改宗に成功した。

大きな落差が成功の秘訣と言えよう。




*****



 王宮の一室に国王タワンティン7世と宰相オルメカ、それに大司教が集まっている。

それは特に何かあっての事ではなく、定期的な報告である。

大司教が近況報告として告げた内容は、若き王にとって聞き慣れない言葉を含んでいた。



「諸侯の信仰を正すべく、巡回司教の派遣をはじめました」


「巡回司教? それは何だ?」


「はっ、国内各地を巡回し、布教や説教を行う特別な司教でございます」



 説明を受け、宰相が問う。



「ほほう、ここ100年程空席だった役職ですな」


「はい、ですが、それは適任者が居なかったための事。 昔から必要性は論じられてきていました」


「なるほど」


「現在の様に諸侯によって信ずる神が異なるという状態は望ましい姿ではございません。

皆が王家の信ずるレリアル神を主神と仰いでこそ、国もまとまり、民も平穏に過ごせましょう。

そして王家の主神と国家の主神が異なるという現状も、改められるものと存じます」


 主神の統一という部分に気を良くした王は「すばらしい」と感想を述べ、巡回司教の事業を進めるよう告げた。



「御意、それでは失礼いたします」



 大司教が去った後、宰相は王に進言する。



「王よ、この件、注意が必要です」


「うん? なぜだ? 国家の主神をレリアル神に改めるのはお爺様も父上も成し遂げられなかった事だ。 成功すれば偉業として歴史に我が名が残ろうぞ」


「それはその通りでございますが、主神統一が果たされれば、教会は現在とは比較にならない権力を持つと思われます」


「そ、そうなのか」


「はい、現在は諸侯により信ずる神が異なるため、教会の力も分散しております。 ですが、統一されれば、王にも匹敵……いや、王をも凌駕する権限を持つやも知れませぬ」


「そんな馬鹿な、考えすぎでは無いのか」


「だと良いのですが……」


「まあよい、お主が……賢人として知られる宰相オルメカが言うのだ、あながち外れてもいないだろう。 今から対策を考えれば、問題をうまく回避できるのではないか」


「ははっ、検討いたします」



 一部の変化は様々な影響を周りに及ぼす。

新たな問題の発生に宰相は頭を悩ますのであった。

用語集


・テラシティ23

 背景動画のシーンはメインキャラの一人である「(今でいう)バーチャルアイドル」が軍部の広告塔と化した状態でのものなので、ストーリー上は嘆かわしいシーンとされる。

(ただし、劇中ではファンたちからは実在の人物と認識されている)

そのうち、本当にこのキャラを実際のバーチャルアイドルとして登場させたりしないだろうか。 アニメはリブート企画が動いているという話が出たようだが。



・警察ロボ作品

 ここで想定しているのは劇場版2作目。



・ボロラエリ

 イタリアを代表する模型メーカー。



・その名も畏れ多き

 神のフルネームを口にする場合は、こういったフレーズから入る。 なので、2柱の名を語る場合は、2回使う事になる。

他にも「畏れ多く」とか「御名を口にする不遜をお許しください」と言ったバージョンがある。



・王をも凌駕する権限

 その昔、ローマ教皇は諸国の国王を凌駕する権力を持っていました。

カノッサという単語を調べると、宰相の懸念が判るかもしれません。

もちろん、宰相はそのエピソードを知る筈も無いのですがね。

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