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模型戦記  作者: BEL
第4章 民と領主と王家と神
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第23話 おっさんズ、そして準備する者たち その1

 ある日の午前中、大英の家で大英・秋津・ゴートの3人のおっさんが実験(?)をしていた。



「兵の展開はスピードが重要だ」


「速度を重んじろという事じゃな」


「通じてるね。じゃ次」


「大量のゴブリンに対するソリューションを遂行するためイノベーションが必要だ」



と両手を前に出し妙な動きを付けつつ語ってみる。



「何を言われているのかわかりませんな。 『大量のゴブリンに対するそり……なんとかを遂行するためい……なんとかが必要だ』と聞こえておる」


「俺にも分らん」


「一般的な外来語は翻訳されてるけど、新語、流行語、意識高い語は音がそのまま聞こえてるわけだね」


「何だその『意識高い語』って」


「『エビデンス』とか『ベネフィット』とか『アジェンダ』とか」


「あれか、意識高い系が使う言葉か」


「そう、それ」


「それで『ろくろ』を回してそうなポーズをしたんか」


「その通り。

じゃ、これは通じるかな。 オート変数で配列なんか作るとスタックオーバーフローを起こしてハングするから、ヒープにメモリを確保してポインタで使うべきだ」


「全く判りませんぞ『おーとへんすう』とは何であるか」


「同じく」


「よし、コンピュータ用語もダメっと」


「今の日本語で言えるか?」


「自動変数で配列なんか作ると…って無理。 スタックオーバーフローの説明は出来ても、一言で言える日本語は無い」


「おーい、それじゃ判る訳ないだろ」


「自動変数とは何か説明できる?」


「いや」


「じゃ日本語で言っても同じじゃん」


「それは……、そうだな」



 実は、時折開かれる秋津教室で日本語を教えているのだが、話が通じる時と通じない時があったのだ。

生徒が騎士と言う事もあって、戦いに関係する本を教材として利用しているのだが、秋津が読み上げても、その読み上げた言葉に判らない単語があると言う話なのだ。

それは主に近代兵器に関する専門用語である事が多いような傾向が見られたので、他の分野でも一度検証してみた次第である。



「戦車と同じだね、必要なら単語としてそのまま覚えてもらうしかないんじゃないかな」


「そうだなぁ、それしかないな」



 日本語の習得はえらく大変だったりする。

別に騎士達に「外国語」どころか語学の概念が無いだけの問題ではない。

秋津が読み上げる内容は自動翻訳で彼らの言葉になっている。 これを意図的に停止させることはできない。

このため、仮名に関して「音」と「文字」が一対一に対応しているという日本語の特徴が失われているのだ。


 それでも手探りの中、次第に成果を上げつつあり、ビステルなんかはカタカナを完全に読めるようになっている。

ひらがなは、まだだがな。

カタカナは固有名詞でよく使われている事もあり、先に習得出来たようだ。



*****



 王都で巡回司教としての活動に備えて準備を進める契丹達の元には、様々な情報が集まる。

吟遊詩人や行商人、各所領から派遣された王都在住貴族や留学生、その他……。


 それらの情報を検討し、契丹は最初の目標をメハム伯領に定めた。

まだ劇団は使える状態ではないため、4人だけでの行動となる。



「契丹様、メハム伯は熱心を通り越して狂信的とも呼べるム・ロウ神の熱心な信者と聞いています。 なぜメハム伯領を標的に選ばれたのですか?」


「それは簡単な事です。 ここの領民を改宗させるのが容易だからですよ」


「え? それはおかしくないですか? 領主も貴族・役人も皆特に熱心で、領民への宗教的指導も常日頃から積極的に行われているそうですから、難易度が高いのでは」


「それは違いますよ。 むしろ熱心すぎるからこそ、簡単なのです」


「そうなのですか?」


「熱心であればあるほど、些細な問題を見逃すことが出来なくなる。

そのため、領民に対しても、順守するのが困難な『信仰の証』を要求してしまう。

そこそこの信心しか持たない多くの人々にとって、そんな『めんどくさい』相手への支持は弱らざる負えない。

そこに我々の付け入る隙が生まれるのです」


「なるほど、確かにそうですね。 やりすぎ故に住民の忠誠心も下がってしまう訳ですね」


「そういう事です。 もちろん、報告だけで決定する訳にはいきませんので、実際に見に行きましょう。

自身の目・耳で確かめたのち、的確な作戦を立てる。 遠回りに見えても、確実な道です」


「判りました。 では出立はいつに致しましょう」


「そうですね……」



 契丹は先輩たちから聞いていた「失敗談」を覚えていた。

学生運動の熱気の中、日本中が自分たちを支持し、革命は絶対成功すると信じていた。

だが、運動は鎮圧され、諸先輩たちは地下に潜るが、その団結は次第に失われていった。

些細な「理想」の違いを互いに許せず、それは「内ゲバ」と呼ばれる事態に至る。

政府や大人たちを相手にしていた活動は、ターゲットを昨日までの仲間に変更してしまう。


 不寛容。


結局理想主義に走った活動は一般市民はもちろんの事、同志の支持さえ得られず、霧散してしまったのだ。



*****



 この日、ミシエルは新しい兵団の編成をテストしていた。



「一応実験は成功だけど、コレを投入できる状況ってあるのかな」



テストを見ていたマリエルは「そうですわね」と首をかしげる。



「現状、全滅覚悟で投入するのであれば、使いどころもあるのですが」


「だよなぁ、でも全滅しちゃあ意味ないよな」


「ええ、相手の矢弾が尽きた後まで待てば、画期的な作戦行動が望めるのですけど」


「それ、何時になるだろう」


「そこなんですよね」



 二人の前を「飛ぶ」のはヒポグリフ。 その背にはオークが乗っている。

空中機動兵団という訳だ。

しかし、大英達の「対飛行生物武具」に狙われれば、あえなく撃墜されるだろう。


 対空火器を制圧することなくヘリボーンを強行すれば、悲惨な事になる。 それと同じだ。

だが、制圧すべき戦力が今のミシエル達には無いのだ。



「なーに、不景気な顔してんのよ」



 上機嫌で現れたのはキリエル。



「しょうがないだろ、アレを安全に突入させる方法が……」



 ミシエルのセリフは大きな羽ばたき音と強風によって途切れる。



「お、おい、これは……」


「苦労したわ、流石に限界を感じたわよ」


「うまくいったのですね」


「ええ!」



 彼らの前に現れたのは大きな飛行生物。

弓矢を通さぬ鱗を持ち、近づく者を焼く炎を吐く。

その尾には毒がある強力なモンスター。


飛竜(ワイバーン)だ。



 魔法によるサポート無しに飛行を実現する強力な翼を広げるその姿は、空の王者にも見えた。

もちろん、世の中にはドラゴンというもっと強力な存在があるが、あちらは「飛べる生物」であって、戦いは地上で行うか、空中に停止した状態で行う。

だが飛竜はその名が示す通り「飛んだ状態」で戦うのだ。

そもそも、竜自体飛べるのに、わざわざ「飛」が付加されてるのはそういう事なのだろう。

少なくとも、天使達の認識ではそうなっている。



「相手に飛行機(ヴィマーナ)さえ無ければ、空はこっちのものね」


「だけど、対飛行生物武具はどうすんだ?」


「そこは数とスピードで押し切るしか無いわね。 そうだ、フォースフィールド付加出来ない?」


「ブレス持ちだと余剰魔力が無いから無理だけど、持ってなければ行けるかも」


「一部だけかぁ」


「盾役として最初に突入させるのが良いかもしれませんわ、そこまで細かい指揮はとれますか」


「少数精鋭で行くならやれると思う」


「少数だと敵の攻撃が集まってしまいますわね」


「そこよねー」


「囮が要るかな」


「そっか、その手があったか」



 キリエルには囮についてアテがあるようだ。



「懐かないから制御は難しいけど、放っておいても人間に向かって行くヤヴァい鳥が居るのよ」


「そんなのが?」


「アレですわね」


「そう、アレ」



 なにやら納得しているキリエルとマリエル。

次の作戦について、アイデアがまとまりつつあるようだ。

用語集


・スタックオーバーフロー

 某翻訳ツールによると、スタックを中国語では「堆」と書くらしい。

堆積物だと思えば、まぁ意味は通じる。

従って、無理やり日本語にすれば、「堆積超過」という感じだろうか。

コンピュータプログラムが明治時代にあれば、普及する日本語訳も作られただろうし、戦前にあれば普及しない日本語訳も登場したかもしれない。

(まぁ、戦前戦中でも専門用語を多用する海軍では別に無理に日本語化はしなかったから、技術用語まで日本語にはならないかもしれない)


よって他の部分も無理に日本語にすれば例の文は

 自動変数で配列なんか作ると堆積超過を起こして異常停止するから、山積領域に記憶保持領域を確保して参照変数で使うべきだ

となるだろうか。

なお、ポインタを参照変数と呼ぶのは誤解の元である。 参照型変数という字面はよく似ているが明らかに違うものがあるのでね。



・『めんどくさい』相手

 こんな話があります。

プレイステーション2が登場するより昔のお話。


「ソニーのプレステはサターンよりメモリ少ないからさー」


それを聞いた彼は真っ赤になって怒り出した


「プレイステーションはソニーなんかの製品じゃないぞ! ソニー・コンピュータエンタテインメントの製品だ! こんな常識も知らないで偉そうなことを語るな!」


 時々居ますよね。こういう「めんどくさい人」。

こういう人がいると、プレステファンであっても、彼を支持せず離れていくでしょう。


 もし「プレステファンの切り崩し」を狙っている人が居たら、「支持者の少ない」彼こそ、「第1ターゲットとすべき『周辺層』」と判断されるでしょう。

集団中央のボリュームゾーンを攻めても、相手のお仲間たちから「集中砲火」を浴びて失敗しますが、「賛同者の少ない周辺層」であれば、成功率は上がる訳です。

最も正確で最も熱心だから「ピラミッドの頂点」かと言うと、さにあらず。

そういう人はヒストグラムの端に位置するのです。


 些細な「誤差」を「許せない」完璧主義や理想主義の人が増えると、その組織は「内ゲバ」を始める事になります。

つまり、敵にとっては、有難い存在。

これを昔の人は「過ぎたるは猶及ばざるが如し」と言いましたとさ。


ちなみにSCEは名前が変わり、今は「ソニー・インタラクティブエンタテインメント」と言うそうです。

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