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模型戦記  作者: BEL
第4章 民と領主と王家と神
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第22話 契丹遼、活動を開始する その3

 その日、契丹達は王都の劇場に来ていた。

屋根のない半円形で、円の中心部分に舞台があり、座席が階段状に配されているため外縁部に行くに従い高くなっていく、半円形劇場だ。

観客席の一部には天幕が張られ、直射日光から観客を保護している。


 劇場には大勢の観客が詰めかけ、舞台上で行われている演劇を見ているが、そんなに集中してはいないようである。

演じられている内容も、契丹には簡素でやや退屈なものに感じられた。

放送局によく出入りしていた関係で、俳優やタレントの知り合いも多い契丹の目から見ても、確かに演技力もありそうだし、動きもスムーズで役者としての技量は高そうなのだが、いかんせん出し物がつまらない。

契丹はプランタジネットに問う。



「どうなのでしょう、私にはよく判らない出し物ですが、貴方方は娯楽としての面白さ、または教育的な高尚さといったものは感じられますか」


「いいえ、私もこの地について長く研究していますが、私の目から見てもあまり高度なものとは感じられません。

そもそもこれは前座で、観客もこの演劇を目的に来ている訳では無いと思います」


「なるほど、理解しました」



 やがて演劇は終わり、役者たちが舞台を降りると、司会者が登壇し次の出し物を告げる。

観客たちは口々に「待ってました!」「おー」といった声を上げる。

そして現れたのは歌い手。 遠目にも美女と判る。


 この地の気温は高く、道行く人々、そして訪れている観客たちも薄着である。

それは女性も例外ではないが、薄着という観点からは現代の若い女性がしている真夏の装いとそう大きな差異は感じられない。

少なくともファッションに疎い契丹の目から見れば、デザインや色合いはともかく布の面積的には似たようなものと思われる。

そして、TVなどで見るアイドル少女の衣装はさらに布が少ない。

だが、今舞台に上がった女性の衣装はさらに布地が少なく見える。


 観客たちは舞台上の歌い手に歓声を送っている。

老若男女問わず大興奮な様子から、相当な人気者のようだ。

舞台の左右には楽団と呼ぶには人数が少ないが、楽器と思われるものを携えた人達が控え、演奏を始める。


 歌い手は踊りながら歌い出す。

マイクも無いのに、その歌声は劇場に響き渡る。



「なるほど、これは凄いですね。 この歌については馴染みが無いため評価は難しいのですが、歌と踊りの技量の高さは判ります」



 その運動量の激しさ故か、歌い手は汗だくになりながら舞台狭しとパフォーマンスを繰り広げる。

半裸に近い姿なのも頷けるという物かもしれない。

1曲終わるたびに大歓声につつまれ、笑顔でその声援に応える。


 状況に納得したのか、契丹は席を立つ。



「では、参りましょう」


「え、まだ出し物は終わっていませんが……」


「私の用事は彼女にあるのではありません」



 そう告げると舞台裏へと向かい、プランタジネット達も後に続く。


 舞台裏では先ほど前座を務めた劇団員たちが、帰り支度を整えていた。



「間に合って良かった。 彼らに用事があるのです」


「そういえば、来る前に演劇について聞かれていましたね」


「はい。 実力を評価されていない彼らこそ、私達の協力者としてふさわしいのです」


「では、声をかけてまいります」



 プランタジネットは劇団員を呼び止め、話を付ける。

劇団の代表者が応じ、話を聞くことを了承する。

一行は大聖堂へと向かい、そこで話をする事となった。



「お時間を戴きありがとうございます。 私はリョウ=キッタン。 巡回司教をしています」


「なんと、いや、そのお姿から何か高貴な方とお見受けいたしましたが、司教様でしたか。 あ、申し遅れました、私はこのザルビンツィ劇団にて団長をしております、セルビア=ザルビンツィと申します」



 契丹は団長に先ほどの出し物について問う。



「先ほど、劇場にて皆さんの演劇を見させていただきました」


「これは、お恥ずかしい。 司教様にお見せできるようなものではありません」


「あの演劇の脚本は、団長殿が書かれたので?」


「いえ、私共は依頼を受けて活動しておりまして、あれは後から出演されている歌い手の方の付き人が書いたものです。 私も将来は自身で本を書き、それで演劇をしたいとは思っているのですが……」


「なるほど、安堵致しました」


「はい?」



 契丹は団長に、自分の専属劇団として巡回司教の仕事を手伝ってほしいと依頼する。



「なんと、私共にその様な仕事が出来るのでしょうか」


「ええ、貴方方こそ、私の仕事に必要なのです。 協力していただけますか。 当面は私が用意する脚本にてお仕事をしていただこうと思いますが、劇団の知名度が上がれば、将来は脚本もお任せできるかもしれません」


「そ、それは、何と申し上げたら良いか、ぜひお受けしたいと思います」


「それでは、受けてくださいますね」


「そうですね、今お世話になっている方々にお話を通さねばなりませんので、すぐとは参りませんが、ご協力させていただきたいと思います」


「ありがとうございます。 私たちが直接交渉する事がありましたら、こちらのリサジョが対応しますので、何なりとお申し付けください」



 こうして、契丹は現地にて新たな協力者を得た。



*****



 この日、大英達はマカン村にて打ち合わせをしていた。

詰め所に集まったメンツはSAS隊員からの報告を受ける。



「それでは、アンバー村の様子をご報告いたします」



 アンバー村とは、レリアル軍に奪われた2つの村のうち、マカン村に近いほうの隣村である。

SASはアンバー村から2キロの場所までジープにて接近、その後1キロまで徒歩にて近づいて双眼鏡にて偵察を行った。



「外から見る限り、村が活動している様子は見られません」



 周辺の土地はそのまま放置されており、農地として整備されてはいない。

村の垣根も外周の建物も損傷したままで、修繕された形跡はない。

見える範囲では村の中や周辺に動く影は無く、豚頭人間や犬頭人間といった魔物はもちろんのこと、家畜や野生動物の姿も見られない。


 この報告に、秋津も首をかしげる。



「これはどういう事だろうな」


「占領してないって事だよね。 村を獲っても全く活用していない」



 そう語る大英は、村人を追い出せる力を誇示する事ではないかと見解を述べる。



「この戦争の目的自体が『神の勝負』なのだから、村人を追い出した時点で目的は達成している。 魔物も天使も村のインフラには興味ないんじゃないかな」


「つまり、領土を広げるんじゃなくて、難民を生み出すのが目的か?」


「おそらくね、彼らは最終的にはこのマカン村からも人々を追い出し、都に全員集めてから陥落させるのを目指しているはず」



 その見解にシュリービジャヤは疑問を呈する。



「それなら、全員を『追い出す』より『噂を伝える』少数を逃がして『皆殺し』にした方が効果的なのでは無いでしょうか」


「現地に居ればそうかもしれませんが、やはり人は『目の前で起きている事』に目を奪われると思います」


「あぁ、そうか」



 一般人相手なら、うわさが広まったほうが効果的かも知れないが、「判断する人」を対象とする場合、話は違ってくる。

民主主義の世界なら「判断する人」は一般人だが、君主制の世なら判断するのは統治者である。

つまり、統治者が「彼方の村が皆殺しに合って全滅した」という報告を口頭や文書で受けるより、難民が押し寄せた末に、直接目の前で大勢の民がパニックに陥ったり、死に行くさまを見せられた方がインパクトが大きいという話だ。


 経済制裁の結果、食料や薬が不足して10万人が死亡したというニュースを「言葉」で聞いても、誰も気に留めないが、泣いている赤ん坊を抱えた包帯まみれの爺さんが「妻も息子夫婦も爆撃で死んだ」とTVカメラの前で語る映像が流れれば、反戦デモが起きるのである。

たとえその犠牲者の数が経済制裁の1000分の一であっても、そちらのインパクトの方が遥かに絶大なのだ。

ましてや、それが映像ではなく、目の前の現実なら、たった一人の犠牲者でも、目にした人の怒りは外とは比較にならない。


 遠くの村で村人を犠牲にするより、全員を都に集めて、一気に地獄を見せた方が効果的なのだ。

その方が最終的な死亡者数は少なく済むだろう。 ある意味レリアル神らしい作戦だが、一応これは大英の推測である。



「という事は、村は無人で奪還は容易となりますか」



 ビステルの問いに、大英は「そうだね……」と暫し考えた後答える。



「戦いにはなりそうも無いけど、簡単とは言えないかも。 それに『無人=知られずに済む』とはならないんじゃないかな」


「そうだなぁ、地雷やトラップもあるかもしんないし、監視カメラ的な何かがあるんじゃねぇか」



 秋津も同意見だ。 大英は出した結論を語る。



「やはり、奪還後の維持に確証が持てるようになる。 それが第一条件だな。 敵が居なさそうだからと、すぐ侵攻するのはやめた方がいい」



 地雷とは何かについて解説する必要は生じたが、話を聞いて騎士団の面々も同意した。


 マカン村から見てアンバー村は西にある。

一方、敵が現れる森は南にある。

以前も記したが、アンバー村の奪還は「前線を押し上げる」のではなく、「戦線が伸びる」のだ。


 こうして、オブザーバーとして会議に参加していた各村長も同意する。

皆は偵察情報を元に今後の方針を確認・共有したのであった。



*****



 ム・サン王国を統べる国王タワンティン7世、20代の若き王は、日々隠居した父に認められることを考えていた。

そんなある日、王宮の一室で休む王の元に宰相オルメカが足早に現れた。



「どうしたオルメカ、お前らしくもない」



 いつも落ち着いている彼が、慌てた姿を見せるのは珍しい事だった。



「はっ、お見苦しい所をお見せし、面目次第もありません」



 40歳の宰相は王に謝罪すると、要件を告げた。



「南方にム・ロウ神の遣いが現れたと言う噂が広まっております」


「ム・ロウ神の遣い?」


「はっ、辺境に現れた魔物を神より授かりし力で一掃したと」


「何を馬鹿な、神の力だの魔物だの、荒唐無稽な」


「自分も仰せの様に思ったのですが、念のため配下の者をスブリサ辺境伯領に派遣したところ……」


「なに、現実だったのか」


「その神の遣いについての真偽は判っておりませんが、かの地の村人は皆口々に魔物が一掃される様を見たと申していたそうです」


「そんな事があったのか。 だが、話が大げさ過ぎる。 スブリサの騎士が夜盗を討伐したとか、動物を退治したという話が誇張されているのではないか」


「それが、その魔物を倒したという『神獣』の存在も確認できております」


「何だ、その神獣とは」


「ム・ロウ神の遣いに率いられた神の力を持つ獣であると言われていますが、詳しい事は判りません。 配下の者も戦う所はもちろんの事、動く様子すら見ておりません」


「動かないだと? そんな獣が居るのか? 眉唾ものだな」


「そうかも知れませんが、スブリサでは最近その神獣の名を冠した『神獣騎士隊』という新しい騎士団を編成したという話は、裏が取れており、その名が示す通り神獣もそれに所属するそうです」


「新しい騎士団か……そちらの方が問題だな、神獣についての真偽はともかく、武力を貯えるのは謀反の兆しだ」


「やはり、王もそう思われますか」


「ああ、魔物討伐を口実に武力拡張を行っているのではないか。 実際は存在せず、村人に指示して口裏を合わせているやもしれぬ」


「確かに、配下の者は旅の商人として接しておりますからな、よそ者であることは彼らにも明白」


「スブリサ伯の考えが知りたいな。 神獣騎士隊について説明させられぬか」


「公的な使者を送っても真意は掴めますまい」


「何かウマイ方法は無いものかな。 この件、思った以上に重大かもしれんぞ。 よき対処を考えよ」


「ははっ、お任せください」



 謀反の芽を摘んだとあれば、父も褒めてくれるだろう。

一人前になったと認めてくれるかもしれない。

そんな考えが王の心に浮かびつつあった。

用語集


・TVなどで見るアイドル少女

 これ、実際には「現代」ではなく80年代を想定したほうが良いでしょう。

契丹は最近のアイドルが出てくるTV番組は見ておらず、彼が若かりし頃に見たイメージそのままだと思われます。


・以前も記した

 「第15話 おっさんズ、空軍を創設する その2」にて

>アンバーの奪回は「前に進んで」ではなく、「横に進んで」なので、単純に防衛拠点が増える。

>前線構築すら出来ていない「点と線」の防衛体制で戦力分散とか自殺行為だ。

という部分ですね。


誤字修正 2021/10/09

 マカン村から見てアンバー村は東にある。

               ↓

 マカン村から見てアンバー村は西にある。


逆でしたな。

東にあるのはザバック辺境伯領。

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