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模型戦記  作者: BEL
第4章 民と領主と王家と神
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第22話 契丹遼、活動を開始する その1

 その日、マリエル達は偵察結果の分析をしていた。



「都の北方に何かありそうと言う事で偵察しようとなったのですが、グリフォンは途中で落とされてしまいましたね」


「そう、それでもっと高く飛べるファルコンフィッシュを送ったの。 今度はうまくいったわ」


「無事帰ってきたんだっけ?」


「そうよ」


「後を付けられたりしてないよな」



 ミシエルは心配を示す。



「確かに、『対飛行生物武具』があるという事は、向こうにも飛行生物が居るかもしれません。 そのため、魔法探知をかけていましたが、何も反応は無かったので、大丈夫でしょう」


「そうか、なら安心だね」


「で、結果はどう?」


「こちらをご覧ください」



 マリエルが左手を振ると、スクリーンに撮影された拡大映像が映る。



「このように、整地された土地が広がっていますが、建造物は極わずかです」


「何だろう、あ、あっちは工事中だな」


「ええ、さらに拡大しているようです」


「判らないわね」


「推測ですが、これは矢弾を作る工場を建てようとしているのではないかと思いますわ」


「そうか、僕たちの襲撃を避けるため後方に作るって事だな」


「ええ、戦に使う砦をこんな遠くに作る意味はありません。 ですが、工場ならむしろ離れている方が安全と考えてもおかしくありませんわ」



 戦場となっている村は都から見て南にある。 つまり、かの地は逆側にあるのだ。

もちろん、南に位置する彼らの軍勢が都の北から侵攻した前例は無い。



「という事は、連中の矢弾には限りがあるのね」


「ええ、そう考えて差し支えないと思いますわ。 工場が必要という事ですから、矢弾消耗作戦は有効でしょう。 自信をもって進めましょう」


「りょーかい!」



 「飛行場」とか「滑走路」という概念を持たない彼らは、飛行場を見て建設中の工場団地だと誤認したようだ。

まぁ、弾薬に限りがあるのは当たりだけどな。




 その頃、契丹達はクニルト領主の館へと向かっていた。



「それにしても、あまり乗り心地は良くありませんね」



 契丹が乗り慣れた自動車と違い、馬車は揺れや振動が多く閉口していた。

そんな彼に、隣に座っているプランタジネットが応える。



「ご辛抱ください、この馬車はこの地の職人に作らせたものですから」


「天界で、こう見た目はこの地の馬車で、中身は乗り心地の良いもの。 という馬車は作れなかったのでしょうか」


「それは難しいですね、やはりどうしても外から見ても気づく違和感のある部分が出来てしまいます」


「そうですか」


「ええ、実は以前私がこの地の調査に赴いた際に、まさに契丹様の言われた様な『模造馬車』を使っていたのですが、ある貴族の使用人から奇異な目で見られてしまいました」


「なるほど」


「やはり部外者である私共では、似せるにしても限界があります。 そこで現地で作らせたこの馬車を参考にして天界にて製作を依頼してみたのですが、構造上どうしても同じに出来ない部分があると聞いて居ます」


「物凄い魔法文明をもってしても、出来ない事はあるのですね」


「ええ、その通りです」



 実のところ、馬車はゲートを通って人里離れた場所に現れ、そこから領主の館へと向かっていた。

ミシエル達の基地から走り続けていた訳ではないのである。

つまり、大した距離を走った訳ではないのだが、自動車や電車に慣れた現代人にとっては、短時間でも厳しい乗車環境だったようだ。

もちろん、それは馬車の性能だけではなく、街道自体に舗装道路のような平坦さが無いのも理由である。


 なお、ゲートポイントは国中にあり、元々プランタジネットが地上を実地調査する際に利用していたものである。


 やがて馬車はある町へと到着する。

そびえ立つ城壁は、そこが領主の居る都である事を現していた。


 馬車を降りたプランタジネットは慣れた様子で門番と話をする。

直ぐに門が開かれ、馬車は街の中へと進む。



「スムーズですね」


「ええ、何度か訪れておりますので」



 間もなく、馬車は領主の城へと着き、城門の横に停められる。

馬車を降りた一行は門で待っていた者に案内され、城の中へと進む。

そして謁見の間へと到着する。


 奥には年配の領主が座り、その隣には妃と思しき女性が立つ。

手前左側に高齢の男性が立っており、そして手前右側に立つ執政官が挨拶する。



「ようこそおいで下さいました」



 一行の先頭に立つ契丹は恭しく頭を下げ「謁見を賜りありがとうございます」と応じ、自己紹介を行う。



「神学を研究しております、リョウ・キッタンと申します」



 続いて、同行の3人も自己紹介を行った。


 左側の高齢の男性はこの地の司教であった。

今回の訪問は彼の取り計らいで行われたものである。


 一通り自己紹介を聞いたのち、その司教に領主の妃は声をかける。



「司教殿、この方々が乱れた信仰を正し、あるべき姿にして下さるのですね」


「はい、左様でございます」



 そして妃は契丹達に向き直り、声をかける。



「キッタン殿、期待していますよ」


「ははっ」



 挨拶を終えた一行は、司教と共に城内にて祭壇が置かれた部屋へと移動し、実務的な話を行う。



「最善な方法としては、巡回司教になられるのが、よろしかろう」


「巡回司教ですか。 それはどの様なものでしょうか」


「領主・領地に縛られず、国内各地を自由に移動し、活動できる司教としての資格になります」


「なるほど」


「巡回司教に任じている方は、ここ100年余り誰もおりません。 ですが、キッタン殿であれば、大司教も認めて下さると信じます」


「そうですか」


「自信をお持ちくだされ。 紹介状の用意もできております」


「ありがとうございます」



 紹介状を受け取った契丹達は、領主主催の晩さん会に出席し、この日はこの地に宿泊する。



 翌日、一行は王都に向け出発する。

もちろん、正直に王都への道を走る訳ではない。

ゲートを使ってショートカットする。

そのため、本来馬車であれば丸2日かかる行程を、その日の午後には王直轄領に着いていた。



「あまり早すぎるのもどうかと思いますので、近くの村にて1泊致しましょう」



 プランタジネットの提案を了承し、契丹達は村に入り、教会にて宿泊する。

情報伝達手段に乏しいこの地であれば「計算が合わない」事(昨日の今日でもう到着)が問題になる事はまずないが、やはり極端なのは良くない。

そういう判断であった。


 契丹は村人の歓待を受け、その生活様式を見ながら思考をめぐらす。

素直で素朴な村の人々、教会で吟遊詩人の語りを聞く人々。


 吟遊詩人には詳しくない契丹であったが、それでも酒場や街角の広場で楽器を鳴らしながら歌うのが吟遊詩人というイメージを持っていた。

だから、まさか教会で語るとは思わなかった。

驚く契丹にプランタジネットは語る。



「ええ、教会は村人達にとって集会場であり、娯楽施設であり、すべての中心ですから」



 そういう事である。

ある程度の大きな街であれば「分業」されているのだろうが、小さな村では一つの施設が多くの役割を持つ。

現代日本のように「専用施設」で溢れ、用途外使用を認めない非効率がまかり通るほど裕福な社会ではないのだ。


 ちょっとした寄り道ではあったが、この地の風俗・風習、そして社会に不案内な契丹にとっては、気づきや学びの多いイベントとなった。


 翌朝早く出発した一行は、めざす王都に到着した。

用語集


・魔法探知

 魔力の使用を探知する装置または行為。

魔獣が飛行しているなら、探知出来たと思われるが、ホムンクルスが飛行機を操縦していても、消費量が少なすぎて引っかからないのである。


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