表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
模型戦記  作者: BEL
第4章 民と領主と王家と神
62/238

第21話 おっさんズと空の攻防 その2

 滑走路傍に1両の装甲車が停まっている。

やや背の高いその車両はその名を「M577」と言う。

元になったのは「ミヤタ 1/35 M577 コマンドポスト」。

対象に航空機を含む高い通信能力を買われて、管制塔代わりに配置されている。

まぁ、塔では無いけどな。


 そして、これまで置物状態だったこの車両、今日初めて仕事をしていた。



「閣下、追跡は順調のようです。 目標の動きに変化はありません」


「そうか、気づかないのかな」


「ファンタジーな世界なら、レーダーとかねェだろ」


「いや、天使なら天界からレーダーっぽい何かを持ち込んでいても不思議は無いと思うけど」


「そうか、それもそうだな」



 大英の見解を受け入れる秋津。


 ところで、一体何が起きているのかと言うと、話は数刻前に戻る。



 この日、昼前に大英達は飛行場に来ていた。 当然新規装備の召喚をしに来たのである。

まず飛行場の防護用にアーチャーを召喚した。

……これだけ聞くと赤い外套の人を呼んだようにも聞こえ兼ねないが、当然そちらは関係ない。

「ミヤタ 1/35 イギリス対戦車自走砲 アーチャー」である。


 いろいろな意味で「オカシイ」車両であるが、想定される任務にとっては特に問題とはならないと判断したようだ。


 周りが平原や砂漠で見通しが良いため、固定戦闘室で砲は限定旋回式(射界は左右22.5度づつ)という形式でも特に問題は無い。

防空能力が高い場所なので、オープントップでもあまり気にする必要は無い。

侵攻する気は無いから、最大時速33.8kmという低速でも構わない。


 パーツが多く工数も半端ないキットのため、完成したのはつい最近。

このため、今頃になってやっと召喚出来る運びとなったのだ。


 無事召喚を終えたとき、M577にシルカからの通信が入った。

それによると、単機の飛行物体が都の東を北に向かって飛んでいるのをレーダーが捉えたというものだった。

目標の高度は2000メートル以上、水平距離は3000メートル以上離れておりシルカの有効射程外とのこと。

先日都の西側を通過中に落とされたので、今回は東側のコースを選んだようだ。


 報告を聞き、大英は感想を述べる。



「避けたって訳か。 まぁB-29もなんとか山の15センチ砲を避けたって話だからな、考える事は皆同じか」


「これは落とせないな」


「だよなぁ、『大戦術』ならシルカにひとっ走りしてもらえば始末できるんだがな、現実には無理だよな」


「大戦術?」


「ああ、ターン制のゲームな、飛行機と車両の速度差があんま無いから、相手のターンに戦闘機が迫って来たら、自分のターンに対空車両を突っ込ませて撃ち落とすってのが普通だった」


「ひでぇ話だな、やっぱターン制は航空戦には向かんな」


「そうか? 交互ターン制だから問題なだけで、AirStrikeのようなプロットターン制なら十分問題ない」


「いやいや『10秒間目隠しして飛ぶ』ってのは重大な欠陥だ」



 話が脱線しているのを見て、ゴートが咳払いをする。



「で、どうしますかな」


「あ、すいません」


「いかんいかん、申し訳ない」



 そして、大英は空を見て、格納庫を見て、発言した。



「対空砲で落とせないなら、利用するか」



 戦闘機を上げて空戦で落とすという方法もあるのだが、それは取らず、送り狼を付ける事にしたのだ。

やがて飛行物体は視認できる距離に現れた。

飛行場には「37mm FLAK37」があるので、当たれば落とせるだろうが、目標高度2000メートルでは当てるのは困難なので、無駄弾を撃つ事になるだろう。


 大英達もホムンクルス達も皆小屋の中に隠れ、地上に動く者は居ない。

車両・砲も航空機も屋根の下に隠れ、上空からは平らな滑走路と小屋が見えるだけとなる。

やってきた飛行物体は双眼鏡で見る限り、大型の鳥の様な姿をしている。

それは、しばらく上空を旋回した後、元来たコースに戻って飛び去った。


 推測通り、飛行物体は飛行場の偵察が目的だったようだ。



「よーし、グラディエーターを出せ、コマンドポストも展開!」



 マッカーサーの命令と共に飛行場のスタッフは忙しなく動き始める。


 滑走路に出されたのは複葉機。 シーグラディエーターである。

元のキットは「1/72 SKYFIX GLOSTER GLADIATOR Mk I」。

複葉機なのに3翅プロペラという変わり種だ。

軽快に離陸すると、「鳥」の後を追う。


 いくら足の遅い複葉機でも、鳥よりはずっと速い。

もちろん、相手はただの鳥では無いだろうが、その飛行速度は、やはり生物としての常識の範囲内だった。

やがてシーグラディエーターは鳥の後方3キロに付き、追跡態勢に入った。


 シーグラディエーターは追跡が順調で、相手に不審な挙動は見られない旨連絡を入れる。

こうして、その連絡をM577が受けたのである。


 やがて、鳥は森の上空に達する。

そのまま飛び続けた鳥は、1キロ程進んだ所で高度を下げ始める。

そして、森の端から5キロ程の所で地上に降り、森の中に姿を消した。


 その様子を追跡していたシーグラディエーターだが、そのパイロットの目にはただの森しか見えなかった。

高度を落として詳細を確認する手もあるが、流石にハイリスクだろうという事で、そのまま引き返す。


 報告を受けた大英と秋津は残念そうに語る。



「うーん、基地らしきものは見えずかぁ」


「参ったな」



 これでは爆撃目標を定められない。

ナッターV作戦が遂行できんという事だ。

秋津は大英に尋ねる。



「どう思う?」


「森の中まで降りてから、本来の基地に進んだか、基地は見えない所にあるか、森に見えたのが欺瞞かだな」


「うーむ」


「本来の基地が遠いなら、かなり遠い事になるなぁ」


「ありえないな」



上空の飛行機から見ても、地平線まで森が続くのみ。

つまり、森を切り開いた土地や建造物が確認できなかったという事は、もし地上にあるなら数十キロでは済まない距離になる。

鳥の飛行速度を考えれば、そんな遠くから飛んできたとは考えられない。

もちろん、地上部隊の根拠地も、徒歩のオークの移動速度を考えれば、そんな遠くなはずはない。


 大英はティアマトに聞く。



「建物を隠して森に見せかける魔法ってある?」


「ある事はあるけど、それずっとやり続けないといけないから、あんまり使ってないと思うわ」


「なるほど」



 光学迷彩みたいなものなら、起動中はずっと電源供給が必要。

それと同じで、一時的に使うならあるが、常時やりっぱなしというのは魔力供給という観点から無いだろう。

こちらの接近に気づいて展開したのでなければ、「無い話」という事になる。



「地下の可能性が高いな」


「だな」



 大英が呼び出せる装備で地下を攻撃するのは困難だ。

1/700が使えれば、ランカスターからグランドスラム、F15EからGBU-28バンカーバスターという手もあるし、最悪起爆を地表近くに調整して核攻撃という方法も無くはない。

だが、現状ではスケール的に無理。

1/72のランカスターはあるが、トールボーイもグランドスラムも運用できない通常タイプのキットだ。

流石の大英もミヤタの1/48「アブロ ランカスター ダムバスター/グランドスラムボマー」は持っていなかった。



「一応、向こうも気づいて、気づかないふりをしつつ、森に偽装した可能性もあるから、確定は出来ないけど、方針を考え直す必要はありそうかな」


「やっかいだなぁ」


「どっちにしても、向こうにも『空軍』があるんだから、こっちの空軍の整備も続けないとね」


「結局、『予定通り』ってこったな」


「ああ」



 そして夕方の召喚で「ブレニム」という双発の軽爆撃機を召喚した。

元のキットは「SKYFIX 1/72 BRISTOL BLENHEIM MkIV」だ。

戦闘機型とのコンパチだが、戦闘機は間に合っているので爆撃機として制作したようだ。



 戦場は広がりつつある。

だが、その広がりは思いもよらない所にまで及んでいる事に、大英達はまだ気づかない。

用語集


・「オカシイ」車両

 砲が後ろ向きの英国面溢れる逸品である。

興味を持たれた向きは、検索してみてくだされ。



・パーツが多く工数も半端ないキット

 組み立て説明書は20ページに達する。

しかも、実車の解説は別紙のため、この20ページには含まれていない。



・なんとか山の15センチ砲

 久我山高射砲陣地の五式十五糎高射砲の事。

B-29が避けたという話はよく流布されているが、該当する一次資料(米軍記録)を提示したものは見た限り確認できない。

避けるも何も同じ場所を通る必要が無かったという見解もある。(実戦での発砲は8月1日。2週間後には終戦である)

なお、後日偵察機は来たらしいから、避けた説にも一定の説得力はある。

ちなみに撃墜記録も無いという話。 まぁ、被害を受けた機体は基地まで帰れず硫黄島に不時着したという説もあるので、それが本当なら二度と飛んでこないだろうから結果は似たような物だが。



・大戦術

 パソコン用のシミュレーションゲームの草分け的存在。

最初に出たのは「現代大戦術」という物で、当時の現代戦を現していた。

メジャー化したのは「大戦術II」という陣営ごとに異なる兵器を使えるようになったものから。

後に登場兵器として第2次大戦を想定したオプション(ユニットエディタに付属するサンプル)も現れている。

「大戦術III」からはリアルタイム的なシステムになったため、対空車両が「駆けつける」のは現実同様無理になった。

あーでもIIIはバグが多すぎて商品としては落第品だけどな。 もうどうして発売に踏み切ったのか理解できないレベル。

当時は現代のように「ネットで毎週アップデート」とかいう時代ではない。

バグを修正しても、それを配布する手段がほとんど無い(事実上フロッピーディスクを郵送するの一択)のだから、しっかりデバッグする必要がある。

この会社のバグてんこ盛り体質は、後の作品や後継会社にも受け継がれており、しまいには「バグでは無く仕様」を通り越して「え?何が問題なの?」レベルに到達。

これは、これだけの知名度を誇り、多数の機器にて発展型シリーズが販売されているにも関わらず、コアとなるべき会社が流浪を繰り返しているのと無縁ではない気がする。



・シルカにひとっ走り

 いくら「鳥」が遅いと言っても、シルカのほうが遅い。

追いかけても間に合わないし、先回りして待ち伏せるのも無理な話。



・10秒間目隠しして飛ぶ

 AirStrikeでは1ターン10秒なので、プレイヤーは10秒後の位置を推測して自らの機動を計画(プロット)する。

これを指して秋津は「10秒間目隠し」と表現している。



・SKYFIX

 実は初出ではないのだが、諸般の事情によりここでの解説となる。

イギリスの老舗模型メーカーである。



・後方3キロ

 AirStrikeで言えば、1ヘックスは約250~400メートルなので、7~12ヘックスくらいになる。

なお、1ヘックスの長さは公式な設定ではなく、速度や射程から推測される「このくらい」という値である。 なので、かなり幅がある。

ちなみにAirStrikeで優勢(相手の移動を見てからプロットできる)を取るためには6ヘックス以内である必要がある。

これ以上離れると、相手の戦闘機動を読んで追跡するのが難しいものと思われる。

見た感じ限りなく点に近くなり、機首がどっちを向いているのかも判らなくなるような気がする。



・降りてから、本来の基地に進んだ

 基地の位置を秘匿するため発進場所が複数あるロボ作品では、帰投する際も様々な所から戻っていると思うのだが、いきなり基地に帰還するシーンしか記憶にない。

忘れているだけなら良いのだがな。

追跡されたら基地の場所がすぐばれるだろう。

なお、EVAの話ではない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ