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模型戦記  作者: BEL
第4章 民と領主と王家と神
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第21話 おっさんズと空の攻防 その1

 その日、第3騎士団の詰め所にて昼の召喚が行われた。

現れたのは比較的近代的な対空戦車「ZSU-23-4M」通称「シルカ」である。

元のキットは北京ドレイク社の「1:35 ZSU-23-4M AIR DEFFENSE SYSTEM」だ。


 古いミヤタ製1/35のキットに慣れていた大英は、初めて箱を開けた時、一番上にあった「履帯が1個づづ独立したパーツになっているランナー」を見て「マジか!?」となったようである。

まぁ、弛んだ履帯の処理に悩まされる事は無いから、その意味では良いのだろうけどな。


 乗員は大英に挨拶を行うと、エンジンを起動し、詰め所内に設けられた屋根付き車両置き場へと向かう事にしたが、その前に一通りのシステムチェックを行った。

シルカは走行用のエンジンと、それとは別に発電機も持っている。

移動にはエンジンだけ動かせばよいが、電子装備のシステムチェックのため、発電機も起動した。

エンジンが動いていたら発電機は止めていても良いのかもしれないが、発電機自身の動作確認も必要であろう。

まぁ、リアライズシステムで現れたのだから「稼働率100%」なので、チェックする必要は無いのだけど、念には念を入れるのである。


 そうしてレーダーを回してみると、あろうことか飛行物体を捕らえた。



「閣下、南方4キロ、高度1100メートルに飛行物体を1機確認いたしました」


「何っ」



 大英達は南の空を見るが、訓練された兵士でもない彼らが4キロ先の単機を目視で見つけるのは困難である。



「何も見えないよー」


「そうですね」


「どうじゃ、アラゴン、見えるか」


「いえ、父上、私にも見えません」



 現代人の二人だけでなく、現地人のリディア・パルティア・ゴート・アラゴン皆全滅である。

まぁ、リディアたちはもちろん、空襲という概念の無い彼らは騎士であっても空を捜索するのは得意ではない。

とはいえ、ここの人達は鳥を落として食べる事は無いのだろうか……いや、弓が届く距離ならそんなに小さくはないな。



「なぜ見えないのに来ていると判るのですか」



 アラゴンは、というか、他の皆も不思議なようである。

まぁ、目視以外の捜索手段というモノが理解の外なようだ。



「あれ、何か捜索用の魔法とかって無いの?」



 秋津の問いにリディアは「近くに隠れている人を見つける魔法ならあるけど、遠くを探す魔法は聞いた事無いなー」と答えた。

敵は地上にいるのが前提なので、遠距離探索という概念自体無いらしい。

確かに、現代でも「対地上捜索レーダー」というのはあまり聞いたことが無い。

遮蔽物の無い海上なら「対水上捜索レーダー」は普通にあるけどな。


 大英は車長に確認を取る。



「もう来たのか、進路は判るか」


「速度が遅くまだはっきりした事は言えませんが、おそらく北に向かっているものと思われます」



 ここ数日、時折村や都の上空にグリフォンが単騎で飛来していた。

時間的には昼食後しばらくしてからだったので、今日は少し早いようだ。



「北って事はこっちか」



 秋津が聞き返すと、車長はすぐに答えた。



「判明しました。 どうやら、こことは違うようで、この進路ですと最接近時でも西方に1キロ弱離れて進みそうです」



 それを聞き、大英は呟く。



「ここより北で少し西にあると言えば……」



 秋津はすぐに気づいたようだ。



「飛行場か!」



 都の上空からなら、飛行場も見えただろう。

何しろ舗装されていないから目立たないとはいえ1000メートルの滑走路があるのだ。

「何か人工物がある」と気づくのは時間の問題。



「どうする、始末するか」



秋津の問いに大英は考え込む。



(単騎なら偵察目的だろう。 手の内を明かして撃ち落とすか、イミフな地上絵を見ても何だか分かるまいと思えば放置でも良いが……)



 天界の飛行機(ヴィマーナ)には翼が無い。 滑走路も必要としない。

つまり、天使達は滑走路を見ても「何のための構造物か判らない」と推測される。

飛行機のための施設とは考えつかないハズなのである。


 とはいえ、既に村で対空砲火を披露しているし、こうしょっちゅう上空から監視されるのも気分の良いものでは無い。

それに、もしこの間のモデラー天使のように現代人が召喚されていたら、映像を見れば飛行場だとすぐにばれる事になる。



「よし、落とそう。 できればその前に目視で確認したい。 確認は出来るかな」


「了解しました。 本車の23ミリ砲の有効射程は2500メートルですので、それ以前に目視確認は可能と考えます」


「ありがとう、確認可能になったら教えてくれ」



 目標は推測通りのコースをまっすぐ進んできた。

ある程度近づいて確認可能になった様で、騎士団の目の良い騎士が目視で発見した。

騎士に促され双眼鏡で見てみると、それは推測通りグリフォンだった。

大英は撃墜指示を出す。



「車長、有効射程に入り次第撃墜を」


「了解しました」



 そして騎士団長のアラゴンは部下に指示を出す。



「魔物回収隊を編成せよ」



 何か天界の装備品などを持っているかもしれないし、敵戦力の分析にも役立つとの考えだ。

実際、以前も侵攻してきたオーガを撃退後に死体などを回収して分析に供している。


 やがて有効射程内に入り、レーダーを利用した正確な射撃が行われる。

低速で無警戒な目標を撃つのは楽な仕事。

4門のうち2門だけ使い、各3発の砲弾が放たれた。


 6発のうち1発が胴体を直撃し、グリフォンは動かなくなって墜落した。

その様子を見て、アラゴンは回収隊に命令を発する。



「直ちに墜落予想地点に向かえ、魔物の死体を確保せよ」


「はっ、直ちに向かいます!」



 騎士達はグリフォンが落ちた辺りに向け、馬車を走らせる。

その様子を見送りつつ、大英は呟く。



「さて、どうしたものかな」


「ん、何がだ」


「いや、レーダーが魔物にも効くのは良かったけど、年中動かすって訳にもいくまい」


「でも、見つけてからレーダー動かすって逆だろ」


「だよなぁ、でも発電機の燃料が心配だな」


「戦わなくても燃料が減るのは痛いな」



 結局、基本的な監視はこれまで同様目視で行い、念のため1日1回20分ほど動かす事とした。

レーダーは監視用というより、射撃用としての利用をメインにする事にしたのだ。

今のところ敵の速度が遅いから、目視で見つけてからでも対応するのに十分な時間があるのでね。



*****



「やられたー」


「どうした」



 いきなり大声を上げるキリエルにミシエルは何事かと問う。



「街の北に何かあるみたいだから、偵察にグリフォンを送ったんだけど、落とされた」


「駄目だなぁ、偵察なら高い所を飛ばさなきゃ。 カメラは拡大出来るんだから」


「何言ってんのよ、高い所飛んでたに決まってるでしょ」


「え、じゃ何で落とされたんだ」


「知らないわよ、いきなり絶命して墜落したんだもの」



 やりとりを聞いてマリエルは推測する。



「向こうの対空武具でしょうね。 思ったより高くまで届くようですわね」


「そうかな、もしそうなら、いきなり命中って事よ、そんな事ってある?」



 つまり、下から撃たれたのなら、その前に曳光弾の光がいくらか見えると思われるのだ。



「偶然か、それともそれだけ正確に撃てるという事でしょう」


「魔法も弓矢も届かないから大丈夫だと思ったんだけどなー」


「これからは、もっと高く飛ばさないと駄目って事か」


「うーん、グリフォンをアレ以上上げるのは難しいなー。 頑張ってもあと2,300くらいしか上がれないから」


「もっと高く飛べる魔獣を用意するか、もっと高く飛べるように改造するかですか……」


「改造は駄目じゃないか。 高く飛べるようにしても、グリフォン自身がそれを認識出来ないから、うまく飛んでくれないんじゃないかな」


「そうですか、そうなると純粋な鳥系などの飛行魔獣を捕まえてくるのがよさそうですわね」


「わかったわ、考えてみる」



 キリエルは高高度偵察鳥の調達について思案する事となった。


 キリエルは考えながら魔獣舎を散歩する。

そしてグリフォンの部屋の前で立ち止まる。



「ああ、この子また一人になっちゃったわね……」



 中には1体のグリフォンが休んでいた。

相棒はもう帰って来ない。

用語集


・通称「シルカ」

 某wikiによると厳密には「ビリュサ」らしいのだが、基本的に使われていないらしいので、気にする必要はない。

もちろん、大英もそんな事は知らない。

詳しくは現実の資料を当たってほしい。



・4キロ先の単機

参考資料 本体幅(ローター部含まず)10センチ程度のドローンの目視可能距離はほぼ100メートル


つまり幅1メートルなら1キロ先まで見える。 4キロ先なら胴体幅4メートル無いと見えない。

別の計算もしてみる。

1メートル先に1/700の飛行機を置く。 これは700メートル先にある現物サイズと同じ見え方になる。

4キロ先なら約1/6のサイズ。 6メートル先の1/700の飛行機。

指さしされて「あれだ」と言われれば見えるかもしれないが、ざっくり「南の空」と言われても厳しいね。

しかも、サイズはもっと小さい。 まぁ制空迷彩とかしてない分見つけやすいかもしれないけどね。



・対地上捜索レーダー

 実は存在している。 中近距離用なので、捜索というより監視用らしく、陸自では「地上レーダ装置」と呼んでいる模様。

動くものを監視するようです。

動かない物は地形とか建物と区別できないのかもしれません。



・天使達は滑走路を見ても「何のための構造物か判らない」と推測

 滑走路が「過去の遺物」だとして、今は廃れていても「過去の知識くらいはあるだろう」から気づくのでは? と思うかもしれません。

でも、攻城塔を見ても、それが城を攻めるための構造物だと理解できる人はあまりいないのではないでしょうか。

(というか、攻城塔と言われても、どんなものか思い描けない人も多そうですが)

移動式(やぐら)とか、移動式展望台にしか見えず、用途不明な「車両」と思う人も少なくないかもしれません。

だって、櫓も展望台も動かす必要が無いからねぇ。 もし必要があったら現代でも存在しているはず。


また、現代人が火縄銃の弾を見ても、「なんだか大きめのパチンコ玉みたいなもの」としか思わず、銃弾だとは気づかないと思われます。

まぁ穴が無いから「釣りの重り」と思う人はいないと思いますが。


結局、「廃れたもの」は一般的には「用途不明なモノ」になってしまうのです。

少なくとも万年単位で「翼」や「滑走路」を見ていないのだから、「古代機械マニア/古代建築オタク」とかでない限り、気づかないだろうという話です。

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