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模型戦記  作者: BEL
第4章 民と領主と王家と神
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第20話 契丹遼、異世界に立つ その3

 契丹がゲートから出ると、そこは建物の廊下のような場所だった。

ただ、窓が無いので、秘密の研究施設か、地下の様にも感じられる。


 彼が意識して体験する瞬間移動は初めてであったが、何かの違和感や浮遊感といったものは感じなかった。

単にドアを通っただけといった趣で、子供向け漫画に出てくる、なんとかドアもこんな感じなのかも知れないと思ったようだ。


 レリアル神に先導され、契丹はある部屋へと進む。

会議室風の部屋であるが、やはり窓は無い。

指し示された席に座ると、まもなく3名の人物が部屋に入ってきた。


 先頭のリーダー風の女性が口を開く。



「レリアル様、お待たせいたしました」


「おお、では説明を頼む。 おおよその話はしてある」


「はい」



 3人は契丹の正面に並ぶ席に着く。

状況としては、奥正面にレリアル神、向かって左(レリアル神から見て右手)に契丹、向かって右に女性と男性2名がテーブルを挟んで座る形となる。



「まずは自己紹介をいたしましょう。 契丹様につきましては、承知しておりますので、こちらのみ行います」



 女性は「リサエル」、その隣の細身の男性が「ボトエル」、最後に太めの男性が「ゴデエル」と名乗った。

3人は「天使」なのだと言う。



(神に続いて天使とは……しかし、「エル」で天使というと、ミカエルとかガブリエルなんかも居るのだろうか)



 宗教や創作物に疎い契丹ですら聞いたことのあるメジャーな天使名だが、それは現代のある特定の世界宗教でのお話。

言語が違えば名前も違うのだがねぇ。

ガブリエルはアラビア語ではジブリールだし。


話を戻そう。


 3人は契丹の付き人として、その「業務」を補佐するのだと言う。

リサエルは地上の専門家として地上の人々の風俗に精通している。

ボトエルは諜報を担当し、ゴデエルは肉弾戦を得意としている。


 つまり、現地の事情通に情報収集役と護衛役という訳だ。

ついでに言えば、3人とも魔法の腕は地上の人間とは比較にならない。

山奥だろうが、スラムだろうが、どんな場所でも襲撃者に後れを取る様な事は無いだろうし、そもそも周辺に一種のマインドコントロールのようなモノをかけるため、余程強靭な意思の持ち主とか、極度の困窮など強い動機が無い限り、襲おうとも思わないだろう。

それは野生動物とて同様である。



「それでですね、実際には別の名で呼んで頂く事になります」


「別の名?」


「はい、私共の名は地上では少々目立ちますし、地上では姓名があるのが一般的なためです」


「そうですか」



 歴史があまり得意ではない契丹は疑問を持たなかったので、敢えて触れる必要も無いのだが、ここで言う「地上では」とは「地上では一般庶民でも」と言い換えると良いかもしれない。

古代や中世では庶民は「名」だけなのが一般的と言われているが、この地ではその辺の村人でも「姓名」があるのだ。


 という訳で、各々「プランタジネット=リサジョ」、「ヨーク=ボトッキー」、「ハノーヴァー=ゴデサー」と名乗る事とし、契丹も姓名を逆転させ「リョウ=キッタン」と名乗る事となった。



「私たち4人は巡回司教の立場を取得して、諸侯の領地を巡り、任務をこなす。 そのように考えております」



 プランタジネット(混乱を防ぐため、今後はこのトリオ天使に関しては「地上名」を使う事としよう)は今後の予定について解説を始めた。

契丹はその内容について、随時質問をしたり、意見を述べ行動方針を煮詰めていった。

レリアル神はその様子を満足気に眺め、いつぞやの準備不足のまま召喚した勘の悪い男とは違い、今回の人選は成功だったと確信した。


 しばらくして話し合いが一段落したところで、会議室に別の天使達が呼ばれた。



「へー、このおっさんが新しい天使なんだ」


「ふーん、で、何をするの」


「リサエルさん、ご無沙汰しております」



 ミシエル、キリエル、マリエルの3人である。

さらに、リモートで天界と接続し、モリエルとその部下たちも話に加わる。

レリアル神は全員に語りかける。



「皆の認識を統一し、今後の活動が滞りなく行くようにしたい。 各々しかと心得よ」



 世の中、悪の秘密結社などでは、連絡不足やマウント合戦、最終目的の誤認や中間目標の相違などのため、互いに足を引っ張りあって作戦失敗を重ね、最後は敗北に至るというケースがよく見受けられる。

それは創作物の中だけとは限らず、現実の組織でも事情は似たようなものである。

様々な情報や、実際の天使達が運営している各組織の実態から、レリアル神は「ワンチーム」として全員の認識を合わせる事が必要と考えたのだ。


 かくして、各々の役割や、今後の予定について解説・質疑応答が行われ、契丹も「戦闘部隊」の存在と役割、そして戦っている「敵の天使」について理解した。



「なるほど、おおざっぱに言えば、私たちが諸侯をレリアル様支持に誘導し、スブリサの地を孤立化させその士気を挫き、交易や交流を停止させて戦力を削ぎ、実働部隊の勝利につなげる。 という事ですね」



 契丹のまとめを聞き、レリアル神は頷くと「その認識で合っておる」と述べた。



「それにしても、実働部隊の皆さまは若い方ばかりのようですが、レリアル様が直接指揮を執られているので?」



 契丹の問いには、マリエルが答えた。



「まぁ、お上手ですわね、基本的な指揮は(わたくし)が執っておりますわ」


「なんと」


「天界にて(いくさ)に最も詳しい者が、そこなマリエルじゃ」


「そうでしたか」



 そこへミシエルが口を挟む。



「大体若いって言ったんて、みんなリョウより年上だよ」


「ええっ、見た所お二人は10代後半、マリエルさんも20歳前後のようですが」


「僕もキリエルも80歳過ぎてるよ、マリエルなんかリョウの2倍は生きてんじゃないか」


「な……」



 実はこの部屋で契丹は一番の年下だったと言う事実に絶句する。



「言うておらんだが、天界の天使はヒトより長命じゃからな、じゃがその精神は見た目通り故、気にせんで良い」



 レリアル神に続き、プランタジネットも語る。



「私たち3人も同じですが、実年齢はお気になさらず。 地上でもリョウ様が年下に見える私たちに『目上の者』のように接すれば、周りの人々から奇異に見られるでしょう」


「わ、判りました」


「年齢よりも何を成すか、何を成せるかが重要じゃ、ヒトの様に短命な者と違い、天使、いやワシら神も含めてじゃが、日々の『密度』が薄いからの」


「ヒトの学習効率の高さには、いつも驚かされています」



 地上研究の第一人者たるプランタジネットもそう語る。



(『年齢よりも何を成すか、何を成せるかが重要』ですか、素晴らしい思想です。 今の日本にも必要な考え方かも知れませんね。

聞いたところ敵の召喚天使は軍隊を好む軍国主義者・守旧派なのでしょう。 もしかしたら年齢を笠に着るような体制的ネット民なのかも。

進歩の敵守旧派との戦いに従事する仲間を支援する仕事。 俄然意欲が湧いてきました)


「それでは、この契丹遼、全力で取り組みさせていただきます」


「うむ、頼んだぞ」



 契丹は3人の仲間と共に、旅立つ。



*****



 秋津教室が開かれたりする建物。

と言うか、今も1階では秋津教室が開かれている。

今日は「日本語」の授業だ。


 で、その2階には床に簡素な地図が描かれ、その上に白化したキットが置かれている。

これは召喚した兵器がどこに配置されているかを示している。

先ほど召喚した「ミヤタ 1/35 ドイツ野戦整備チーム装備品セット」の一式をひとまとめにして都の位置に置く。


 セットと言うだけに様々な機器と整備兵で構成されているので、プラスチックのファイル入れにまとめ、「整備チーム」のラベルを書いて付加してある。

実はラベルは戦車などにも付けている。

何しろ白化しているので、離れるとぱっと見何が置いてあるのかよく判らないためだ。



「ふむ、後は……シルカを騎士団の詰め所に置けば防備は一通り揃うかな」



 大英は、次は侵攻用部隊の創設について思案するのであった。

用語集


・歴史があまり得意ではない

 進歩主義者の多くは未来に目を向けるという建前のためか、過去の事をあまり学ばないケースが多く見受けられる。

「進歩していない時代の事に、学ぶべき価値などない」という事なのだろうか。

そのためか、彼らの持論は時系列とか因果律を無視しがちなのだが、当人たちがそれに気づく事は無い。

だが、その主張で「歴史」という単語をよく使うのは滑稽と言えるかも知れない。



・まぁ、お上手ですわね

 若く見られて喜ぶのは日本人だけで、諸外国では「侮られている」と逆の感想を持つ人も少なくないと聞く。

だが、天界の天使達のメンタリティは日本人に近いようである。



・簡素な地図

 正確性から言えば、鉄道の路線図のような地図。

近代的測量術が無いため、拠点間の距離や方角については、あまり正確ではない。

そもそも部屋の中にキットを置くのが目的なので、その辺を正確に描く必要は無いのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今までの戦闘が「将棋」対「チェス」みたいなかんじで、双方の駒はバラバラだけど一つの盤上で戦っていたけど、今後は「大戦略」対「信長の野望」のようにまったく違った戦略で戦っていきそう。
感想一覧
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