表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
模型戦記  作者: BEL
第3章 魔獣の進撃
56/238

第19話 おっさんズ、ひと時の日常を堪能する その3

 この日、飛行機(ヴィマーナ)を見たい領主は執政官や大英達と共に飛行場にやって来ていた。



「ようこそ、空軍基地へ」



航空基地司令のマッカーサーが歓迎し、領主は手を挙げて応える。



「これが飛行場ですか……とても広い」



 領主は感嘆の声を上げ、そして長く伸びる滑走路を見て「こんな大きな構造物は見た事がありません」と述べる。

舗装はされておらず、単に岩や植物を撤去して平らに均しただけの滑走路であるが、それでも周りの景色からは浮いており、人工物である事を主張している。



「あのブルドーザーという工事用のセンシャと、兵達の努力で出来たと聞いています」



 執政官は格納庫横に停まっているG40を指さして説明した。



「なんと、工事用のセンシャまであるのですか」


「ええ」



 いや、だから無限軌道だから戦車と言うのは……もういいです。

現代人ですら説明するのは難儀するので、ここで突っ込むのはやめておきましょう。


 さて、せっかく飛行場まで来たのである。

領主の案内だけで終わらせるわけがない。

というか、案内の前に召喚を行う大英達であった。


 召喚の儀式により現れたのは単発のプロペラ機。

見た目だけでは判りにくいが、いつもの戦闘機とは違う。

それの元キットは「1/72 SVEMIRSKI IL-2 STORMOVIK "TANK HUNTER"」。

つまり、対戦車襲撃機とか攻撃機と呼ばれる機体だ。



「これが飛行機(ヴィマーナ)ですか……なんと言ったらよいか、大きなものなのですね」


「わしも、このような物が空を飛ぶというのは、想像がつきませぬ」



 何度も飛行機の召喚を見てきたゴートであったが、実は飛ぶところは一度も見た事が無い。

それもそのはず、どの機体も一度も飛ばしていない。


 戦車と違い、飛行機は整備兵が整備する。

ところが、大英は航空機整備兵のキットを持っていない。

世の中には「爆弾搭載セット」的な治具とそれを扱う兵員が付属した爆撃機のキットなんてのもあるのだが、彼は一つも持ち合わせが無かった。

つまり、「飛行機の整備は出来ない」のである。

これは、「一度飛ばすと、二度と飛べない可能性がある」という事であった。


 飛行機に限らないが、召喚時は「整備万全状態」で登場する。

さらに都合の良い事に、「使わなければ整備状態は悪化しない」という保護がかかっている。

なので、経時変化は気にしなくていい。

だが、動かせば話は違ってくる。

消耗品は消耗するし、減るものは減る。


 もちろん、召喚しているのは多くが軍用品。

一部の例外を除き「武人の蛮用に耐える」をモットーに作られているので、一度や二度の使用で動かなくなるようなブツでは無いだろう。

それでも、飛行機は特に安全性を気にすべき装備だし、起きる可能性のある事はいつか起きるので、用心するに越した事は無い。

そもそも蛮用に耐えるからといって、整備無しで使って大丈夫という訳でもない。


 という訳で、「用も無いのに飛ばす事はしない」のであった。

いや、訓練しなくて大丈夫なのかという心配とか、いざというとき、ぶっつけ本番になるのですが、といった問題はあるのだがね。

まぁ、飛行機自体は大丈夫だし、乗員たるホムンクルス達にも心配はない。

「高価なもの程よく壊れる」という事例で言うなら、ただの均した滑走路はかなり問題ない方だろう。

これが「カタパルトを作りました」とか言うなら、「テストしないと本番で動作不良しそう」な気はするけど。



「そういえば、絵画『ユマイ神への道』の1枚に飛行機(ヴィマーナ)が描かれていたと思ったのですが、かなり形が違うようですね」



 その領主の疑問にはティアマトが答えた。



「そりゃそうよ、天界の飛行機(ヴィマーナ)にはこんな横に長い板なんて付いてないから」



 そう、天界の飛行機には翼は無い。 飛行原理が違うので形も違うのである。

ま、翼の話については以前も記したので省略しよう。



 その後、格納庫に収められた数々の戦闘機や、建設が進む「舗装滑走路」の工事を視察し、一行は都へと帰って行った。




*****



 一方的な敗戦から数日後、基地ではレリアル神を迎え、天界のモリエルともリモートで繋いで天使たちの会議が開かれていた。



「これは重要な事実ですわ」



 マリエルは先の戦いを分析していて、大英の召喚軍が「弾薬」を消費している事実に気が付いた。

その考察は、弾薬を生み出すシステムが必要な点にも及ぶ。



「それはどういうことなんだ」


「魔法は魔力使っていますよね。 そして、魔力は基地局や衛星から供給されるので、事実上無尽蔵です。 まぁ発動用のオドが尽きればそれまでですが」


「そうね」


「彼らのセンシャなどの武具も同じだと思っていたのですが、どうやら違うようで、それは物理的なもののようですわ」


「物理的?」



 ミシエルの問いに、マリエルは記録映像を示す。

そこには、25ポンド砲に砲弾を装填し、発砲する様子が映っていた。



「これらの棒状の物体が無ければ、この武具は力を発揮しません」


「なるほど。 弓矢の矢のようなものか」


「改めて過去の記録を調べてみましたが、他の武具も、筒のような物や小さな棒を束にした帯のような物を使っています」



 映像は村の手前で伏せながら射撃する機関銃に弾帯が吸い込まれていく様子に変わる。



「そうか、敵が攻撃して来ても、魔力の発動が検知されないのは、これが理由だったんだな」


「そのようですわ。 そこで、今後の方針としては、この物たち、そうですわね、何か名前が無いと不便なので、矢のようなものと言う事で、矢弾と呼びましょう。

この矢弾を彼らがどうやって用意しているのかを調べる必要があると思います」



 それを聞いて、モリエルが発言する。



「ふむ、その着眼点は重要だね。 僕が理解している範囲では、リアライズシステムで生み出された武具は矢弾も合わせて出現する。

従って、矢弾自身の模型が存在しない限り、いずれは尽きる事になるはずだ」


「なんだ、それなら調べなくても『限りある』って事で決まりじゃん」


「その結論は早計だと思うよ、ミシエル君。 僕が理解しているのは、以前公開されて僕が実用に供するようカスタマイズしたリアライズシステムだ。

ム・ロウ神の陣営には発案者であるアキエル君がいるんだ。 どんな改良が行われ、どんな新機能が付加されているかは判らない」


「あー、アキエルさんねー、彼女の考えにはついていけないわー」



 キリエルが半分あきれ顔で語るが、悪く言っているのではない。 むしろ誉め言葉として語っている。



「いずれにしても、矢弾を消耗させるべく、戦力の整備をするのがよろしいと思いますわ。

消耗すれば可能なら補充を試みるでしょうし、不可能なら倒さずとも無力化できるのですから」


「それじゃ、その方向でどんな魔獣を連れてくるのがいいか考えてみるわ」


「戦士はどうしよう、特定の目的に会う亜人って難しいな」


「敵の武具への対応はキリエルさんに任せて、ミシエルさんの軍団は占領など知恵と人型である事が必要なミッションに注力すれば良いと思いますわよ」


「うーん、そうだねぇ、でも何かできる事が無いか考えてみるよ」


「そうですね、お願いしますわ」


「それでは、方針としては決まったかな」



 モリエルの語り掛けにマリエルは頷き、レリアル神に向く。



「この方針で行こうと思います。 よろしいでしょうか」


「ふむ、そうじゃな、良かろう」


「ありがとうございます」



 会議が終わり、レリアル神は天界に戻る。

そして戻ったレリアル神はモリエルを執務室に呼んだ、



「どうじゃ、例の件進んでおるか」


「はい、該当者の絞り込みを進めている所です。 数日中に最終候補を3名まで絞り込めるでしょう」


「そうか、サポートする要員についてはどうじゃ」


「そちらの人選は済んでおります」


「よし、わかった。 下がってよろしい」


「はっ」



 地上に派遣されている天使達には内緒で、レリアル神は別のプロジェクトも進めていたのであった。

用語集


・SVEMIRSKI

 読みはスベリキ、意味はスペース。 ロシアの模型メーカーである。

そのラインナップではワルシャワ条約機構所属国の装備が充実している。

もちろん、これは国を示すもので、時期を示してはいない。

IL-2 シュトゥルモヴィークはワルシャワ条約機構が生まれる前の機体だし、機構が無くなった後のロシア軍装備のキットも多い。



・飛行機の整備は出来ない

 厳密には全くできない訳ではない。

戦車などの整備を専任とする整備兵は用意できる。

専門外とはいえ、パイロット達と協同で行えば、素人よりはマシな働きをしてくれるだろう。

とはいえ、専門家と同レベルの整備は期待できない。

実際は専門の整備兵のキットがあったとしても、補修部品も治具も無ければ満足な整備は出来ないだろうけどな。

本格的な整備をこの地で行うには、1/700の格納庫とかを召喚するまでは難しいと思う。



・起きる可能性のある事はいつか起きる

 マーフィーの法則にある「起こる可能性のあることは、いつか実際に起こる。」ですね。



・発動用のオドが尽きれば

 電池式の石油ストーブというものがあります。

アレが暖房として機能しているのは、電池からの電気がニクロム線を熱しているからではなく、熱くなったニクロム線によって着火された石油が燃えているため。

石油がいくら残っていても、電池が切れると点火できません。

それと似たような話で、体内の魔力であるオドが切れれば、魔法の発動は出来なくなるのです。

まぁ、ストーブならマッチなりライターなりで点火する手もありますけどね。



・矢弾と呼びましょう

 我々なら、弾薬と呼びます。


2023-11-03 脱字修正

消耗さるべく

   ↓

消耗させるべく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ