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模型戦記  作者: BEL
第3章 魔獣の進撃
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第19話 おっさんズ、ひと時の日常を堪能する その1

 戦いから数日後、村ではある1匹の小さな蛇が討伐された。

蛇は毒を持っている可能性もあり、退治するのはそう珍しい事ではない。

そのため、普通なら話題になる事も無いのだが、討伐に参加した従卒が戦いの最中石にされた事で、「石化事案の犯人」がその小さな蛇であった事がはっきりしたため、報告が挙げられた。


 はっきりしたとはいえ、正確には犯人の一つに過ぎない。

外に犯人が居ることを否定する要素ではないからだ。


 騎士団の詰め所には蛇の絵も掲げられていたのだが、その絵を問題の蛇に合わせて柄などを修正のうえバジリスクと名を記載した。

そうして大々的に蛇狩りが行われ、最終的に4匹のバジリスクが討伐された。

そして、それ以降石化事案は起きなくなった。


 このため、暫定的ではあるが、石化事案の犯人はバジリスクと名付けられた蛇という事となった。

都にて大英達がこの件について報告を受けた翌日、神殿に毎朝届くブツとして珍しく目を見張るものが届いていた。



「おお、焼き弁」



 秋津が喜びの声を上げる。

それは弁当箱のような形状の容器で作られたカップ焼きそばがいくつも入った箱、つまり12食入りの段ボールだ。

お湯(と、スープを入れるためのカップ等)さえあれば食べられるので、この地でも問題ない。

あー、箸かフォークの類は別途必要だがね、それはカップ共々大英の家にあるから気にする必要はない。


 12食あるという事で、正餐(せいさん)では普段世話になっている面々共々コレを食べる機会とした。

普段昼食を共にしている領主、執政官だけでなく、ゴートやリディア、パルティア、ビステルらも招かれた。

ふたを半分まで剥がして中から小袋を取り出す。

残った麺を見て、ゴートが秋津に問う。



「この、固そうなものが食べ物なのであるか」


「そうだよ、お湯を入れるから柔らかくなる」


「ほほう、それは楽しみであるな」



 麺類という概念が無いため、素直に食べ物と認識している。

ラーメンや焼きそばを知ってれば「こんなものが焼きそばになる訳が無い」「馬鹿も大概にせよ」と憤る所かも知れない。

まぁ、見知らぬ他人同士では無いから、そのような失礼な発言は出ないだろうが、初めてカップ麺を目にした問屋の親父連中は、こういった反応を返して製麺会社の営業マンを困らせたと聞く。

外にも「この黄色い卵っぽい具材は石油から合成したものだ。こんなものを食べるのは如何なものか」等というデマも流れたものだ。

そんな技術が半世紀も前にあったら、食糧問題なんて石油だけで解決しとるわ。


 お湯が注がれ、2分45秒後、大英は注ぎ口を剥がして、あらかじめ粉末スープを入れたカップに容器のお湯を注ぐ。

その実演を見て、秋津の解説に従い各々同じ様に作業する。

え、3分じゃ無いのかって?

他の面々は大英の行動を見てマネをするのだから、一足早くやらないとダメであろう?

ちなみに大英は硬めを好みとしているので、問題ない。


 最後はふたをすべて剥がして、ソースをかけてよく混ぜ、ふりかけをかけて出来上がり。

ビステルは湯気が立ち上るカップを見て「これはいい匂いがしますね」と発言する。



「さあ、皆さんどうぞ」


「この、細長いものをどうやって食せばよいのだ」



 ゴートは食べ方が判らず、ビステルは素手で麺に触って食べようと試みる。



「熱っ、しかもべとべとしますね、コレは食べるのにも修行が必要なのでしょうか」



 そうでした、彼らの食文化に麺類は無い。



「あー、こうやって食べるんだ」



 そう言うと秋津は箸で麺をほぐし、すすって途中で噛み切って……という一連の動作を実演する。



「箸と言うのでしたな、だが、これは難しいですな」



 ゴートは箸を使った事は無い。

いや、ゴートに限らず、こちらの人々は誰も使った事は無い。

確かに難しい。


 だが、その横で涼しい顔でフォークを使って大英は食べていた。

そして「コレを使えば?」とフォークを掲げる。

実際、各々の席には箸と共にフォークが置かれており、どちらも使える状態であった。



「そうするー」


「こちらが良いですね」



 リディアとパルティアもフォークを手に取り、食べ始める。



「そうですね、私もこちらを使わせていただきます」



 領主もフォークを手に取る。



「うーむ」



 自分以外の全員がフォークで焼きそばを食べるという謎光景に秋津が唸る。



「焼き弁がスパゲッティになってしまった……」



 まぁ、いいじゃないですか。

ちなみに大英がフォークを使っていたのは、別にフォークの使い方を説明するためではなく、単なる習慣である。



 翌日。



 この日届いたブツは、前日よりもさらに彼らを驚かせた。



「まさか、これが届くとは……、すげーな神様」



 滅多な事では驚かない大英が驚きを隠さないそれは、「ウインド 日本海軍駆逐艦 冬月 1945」。

1/350の駆逐艦のキットである。

一応アキエルの説明ではキットも「狙っている」という話であったが、実際に「当たり」を引いたのはこの時が初めてであった。



「大英殿が驚かれるとは、そんなにすごいのですか」



 神官の問いに、「ええ」と答える大英。

そして秋津も状況は理解している。



「そういや持ってなかったんだな」


「ああ、ミヤタや長谷部なら千円くらいは安くなるような気がしたんで、そっちから出ないかなと待っていたんだ」


「そういや聞かないメーカーだな。 デキは大丈夫なのか」


「評判は悪くないから大丈夫じゃないかな。 というか、元は別のメーカーから出てたような気がするんで、ウインドの評判を気にしてもあまり意味が無いかな」



 そして箱を開けて船体パーツを取り出して見る。



「思いの外大きいね」


「そうだな、スケール合ってんのか?」


「比べてみるか」



 大英達は神官に別れを告げると、家に戻り棚にある1/700の秋月を持ってきて、並べてみる。



「確かに2倍だ。 合ってる」


「合ってるんだ」



 長さ2倍なら面積4倍、体積8倍。

立体物なだけに、本来以上に大きく見える錯覚のようなものがあるのかもしれない。



「これは戦力としてはどうなんだ」


「戦力としては微妙だけど、スケール的には有難いかな」


「というと?」


「1/350クラスの在庫は少ないからね、1/700への橋渡しを考えると貴重だよ」


「それじゃ大当たりって訳だ」


「まぁ即戦力にはならないし、そもそもスブリサには海が無いし」



 現在召喚可能なのは1/72まで。

そして海が無ければ艦船は召喚できない。

いや、やってやれない事は無いけど、地面の上に出てきて二度と動かせない。

艦種によっては艦底部が丸く、横倒しになって、いきなりくず鉄状態。

砲台代わりにもなりゃしない。



「海が無いって事は、1/700とか1/350とかを召喚しなくても戦いに決着が付くって事だろうか」


「それならそうで、別にいいけど……」



 此処に来たばかりの時も同じ様な話をしてましたな。

海が無いという情報が増えて、余計先行き不透明ですが。



「でも、やっぱり海軍主体のキット群を持っている以上、意味も無く選ばれたとは思えない」


「そうだな」


「使わないならそれに越した事は無いけど、使う前提で予定を立てとかないとね」



 そう語る大英。

そして彼の作業場では「1/200 海上自衛隊 護衛艦みねぐも」の建造が開始されていた。

並行して「1/100 ベル AH-1G ヒューイコブラ」そして食玩の「1/144 プレーンキットコレクション vol.1 WWII日本海軍機編 05 紫電二一型"紫電改"」も作業中のようだ。



 紫電改は見たところ残るはデカールだけ。 コブラはまだ形になっていないようだ。

そして、横には近々作業にとりかかるらしいキットの箱が積まれている。

「1/700 日本海軍砲艦 橋立」「1/35 90式戦車マインローラ(92式地雷原処理ローラ装備)」「1/72 ブレゲー Br 693」



「随分ばらばらだな」


「ん?」


「いや、スケールや種類がな」


「ああ、現状に最適化すると危険だし、優勢だから今のうちに先に備えとこうと」


「なるほどな」


「Br693以外は、一応それぞれの『最先端』とか『最前線』な感じで選んでる」



 橋立は駆逐艦以下の超小型艦。 1/700のとっかかりとしては、港湾雑船や魚雷艇に次ぐだろう。

90式戦車は年代ですね。 1/35は最も年代が進んでいるので、間もなく90年代も召喚可能になる。

コブラはベトナム戦争の頃だし、「みねぐも」も昭和40年代と比較的古めの小型艦である。



「いつも1/72の車両ばっかりじゃ飽きるしね」



 特定分野だけの専門モデラーだとそうでもないのだろうけど、大英のような雑食は色々違うものを作りたくなるのである。



 そんな折、いつものように地上にやってきたティアマトは、いつもと違い執政官の元へと向かって行った。

用語集


・デマも流れたものだ

 カップ麺とは無関係だが、当時は「りんごを綺麗に見せるため、果物屋ではワックスをかけている」なんてデマも流れていた。

手にべたつくアレはリンゴから分泌されているので、油やワックスをかけているのではない。

大抵のデマは三流週刊誌が流していると言われていたが、真偽の程は判らない。

まぁ、当時の三流週刊誌のライター(に限らない)は、物書きのプロであっても、取材対象については素人。

しかも、自身を偉い人物と勘違いして取材先を見下して人の話をろくに聞かないのだから、思い込みで嘘や間違いを並べ立てるのはいつもの事。

だがそれを「記事なんだから正しい事が書いてあるはずだ」なんて信じる人も少なくない。

近年ではメディアはよく**ゴミ呼ばわりされているが、何も近年急にゴミになったのではなく、昔からなのである。



・ウインド

 新進の模型メーカーである。 パソコンのOSは関係ない。



・評判は悪くない

 なんかレーダーにリサーチミスがあるとか言う噂もあるが、それを考慮しても皆が待ってたと絶賛する声をよく聞く。



・プレーンキットコレクション

 M-toys社の1/144の航空機の食玩シリーズの一つ。

ブラインドボックス仕様で何機種かある中の一つが入っている。 以前は4~5機種だったが、最近は2機種に限定したvsシリーズに移行している。

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