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模型戦記  作者: BEL
第3章 魔獣の進撃
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第18話 神々の戦い

 天界の病院に入院しているム・ロウ神の元へ夫であるユマイ神と息子であるディヤウス神、娘であるティアマト神が来ていた。

簡単に言えば、一家が揃った形だ。



「それじゃもうすぐ逢えるのね」


「そうよ、この子も早く逢いたいって言ってるわ」


「ホント?!」



いや、何かのたとえの類だと思います。


 ひとしきり家族の会話を楽しんだのち、話題は「お仕事」へと移る。

ティアマトは自らの「活躍」を母に自慢し、彼女も娘の成長に目を細める。



「そうなの、大丈夫なの」


「もちろん、任せてお母さま」


「よく飽きないなー」


「兄さまも行ってみれば判るわよ」


「止めとくよ」


「それじゃ、あたしはもう行くね」


「はい、いってらっしゃい」


「母上、僕も研究があるのでこれで失礼します」


「はい、がんばってね」



 子供たちが去り、病室には二人が残る。



「貴方にも子供たちにも迷惑かけてしまって、ごめんなさいね」


「なに、問題ないよ。 二人ともいい経験になっているし。

それに、この戦いは君にとって、いや、この世界にとって、とても大切なものなんだ。

皆協力出来てむしろ良かったと思うよ」


「ありがとう。 でも、もう少しタイミングを考えた方が良かったかしらね」


「ま、成り行きというか、動き出したら止まらない所はあるよね、君もお爺様も」


「ふふっ、そうですね。 笑い事ではありませんが……」



夫婦の会話として聞いていると微笑ましいのであるが……




 1年ほど前


 この星を管理する神2柱は口論となっていた。



「ム・ロウよ、ニンゲン共には管理者が必要じゃ。 なぜこの事が判らぬ」


「いいえ、お爺様、ニンゲンの事はニンゲンに任せるべきです。 彼らは十分進化しました。 神の見守りさえあれば、もはや直接の指導や管理など不要です」


「それは違うぞ、進化しても管理する上位者がおらねば、必ず問題が起きる。 それも極めて重大な事がな」


「それは、やらせてみなければ判らないでは無いですか」


「もし……我ら神族に『上位者』が居て我らを管理しておったなら、あの(いくさ)は起きなかったであろう」



あの戦……彼らの中で「あの戦」と言えば、一つだけであった。

純粋な神族がレリアル神とム・ロウ神の二人だけになってしまった戦である。



****



「オデウス! しっかりしろ!」



 戦神パシフィア・バールバラは、荒野に倒れぐったりしている夫、鍛冶神オデウス・アトランティカの元に駆け寄り、抱き起す。

意識を失っていたオデウスは、体をゆすられ目覚める。



「……ここは……」


「気が付いたか、私だ、判るな!」


「う……パ、パシフィア?」


「そうだパシフィアだ!」


「い、いけない、すぐここを離れるんだ!」


「何を……うぐっ」



 パシフィアの体を何本もの槍が貫く。

それは仕掛けられていた罠。

正攻法では決して敵わぬ戦神を倒すためのもの。



「パシフィア!!」



 その直後、いくつもの巨大な光球が二人に襲い掛かる。

それはもはや防御魔法を失っていたオデウスの体を焼き尽くす。


 後に発見された記録によると、攻撃者は「妻の最後を見なくて済んだのだ。 これは同じ家の者としての、せめてもの温情である」と語ったとされる。



「オ、オデウスっ」



 攻撃により目は光を失ってしまったが、周辺探知魔法により、夫が絶命して炭の塊となった事と、それを抱き上げていた自身の腕が地面に崩れ落ちた事実を認識した。

瀕死のパシフィアはバランスを崩し地面に……夫だったモノの上に突っ伏し、自らも助からない事を悟る。



「くっ、ラ、ラインオープン・父上」



 最後の力を振り絞り、レリアル神へ通信を繋ぐ。



「パシフィア! どうした、今何処じゃ」


「ち、父上、申し訳ご、ございま……せん」


「パシフィア」


「後を、ム・ロウを…頼み…ま…」


「パシフィア!」



 娘の命が尽きた事実。 それがレリアル神の精神に届く。



「どうしたの、お爺様、お母様は? お父様は?」



 傍に立つ幼いム・ロウ神の問いに、レリアル神は答えられない。

そして、何秒、何分経っただろうか。 やっと口を開く。



「ム・ロウよ、暫しそこで待っておれ」


「おじい……さま?」



 今まで見た事も無い夜叉か鬼のような形相の祖父の姿に、ム・ロウは固まる。

レリアル神はゲートを開き、奥の館を出て、戦場側まで行く。

そして、敵対する勢力の神と両軍の天使に意識を集中する。


 二神を失った自軍の天使達は敗走し、散り散りになっている。

敵軍は決着を付けようと、軍勢を集結させているようだ。

それを確認すると、静かにコマンドを開始した。



「コール・サテライト、アクセス・レリアル・ロディニア」


[レリアル・ロディニアと確認。利用了承]


「スタートアップ・インドラ・レベル・キマシマム・オーバーロード・マルチプル・セブンス」


[カテゴリー7魔法の利用には最上級認証が必要。 要認証情報提供]


「レムリア星系統括管理官 創造神レリアル・ロディニア TID16824-41007-56577」


[最上級認証クリア、インドラシステム接続、起動確認]


「ターゲット・セット・センス・オールエネミー」


[ターゲット確認、ターゲットは神を含む。 間違いないか要確認]


「間違いない、続行せよ」


[継続了承、セット完了]


「エグゼキュート・コマンド」


[コマンド了承、実行]


「コマンド・コンプリート・クローズ・サテライト」



 巨大な7本の光の矢が上空に現れ、レリアル神の敵へと飛んでゆく。

それは前線の軍勢とそれを率いる神の元のみならず、後方の神達の元へも向かう。



「滅びよ」



 そう呟くと、レリアル神はゲートを開いて姿を消した。


 7つの巨大なキノコ雲と共に、レリアル神の敵は「全て」消滅した。

そして、それは、レリアルとム・ロウの二人を残して「神族が滅亡した」事を意味していた。



****



「お主の両親も、かの家の者も、皆あの戦で失われた。 各々(おのおの)が同じ立場で異なる意見をぶつけ合う。 それは戦を呼び、死を呼ぶのじゃ」


「それは……」


「あの戦が無ければ、お主も普通に神と結ばれ、孫たちも半神などになる事は無かったであろう」


「私は、ユマイと結んだことを悔いてはいません。 子供たちには申し訳なく思いますが」


「それは判るが、次善の判断であろう。 ほかに道が無い故の。 それに、お主も親なら判ろう。 子に先立たれる事がどんなものか」



 半神の寿命は短い。

ディヤウスもティアマトも、おそらく親であるム・ロウより先に寿命を迎えると推測されている。



「戦という物は、取り返しのつかぬ事態を招く物じゃ。 だからこそ、絶対なる調停者、上位管理者が必要となる。 それが諍いを鎮める事で、各々は争い無き世界で平穏に暮らせるのじゃ」


「ですが、それでは彼らは、家畜と同じではないですか、そんな世界では、きっと進歩も変化もありません」


「そのためのエルフ族、ドワーフ族じゃろう。 ニンゲンとは異なるヒトとの関わりが、彼らの切磋琢磨を促す。 自らと遜色ない異文明と接する多様な価値観との邂逅が、争いではなく進歩をもたらすのじゃ」


「それは不自然です。 神工(しんこう)種族を地上に送るのは、この星の環境と未来にどんな影響を与えるか判りません」


「じゃが、フローレシエンシスは滅び、ネアンデルタールの滅びも、もはや避けられぬ。 このまま行けば、ニンゲンはこの星唯一のヒト族となろうぞ。 そうなれば、ニンゲンの都合という単一の価値観による弱肉強食の競争、そして闘争に向かい、争乱の世界となるのは必定。 それはお主が望む姿ではあるまい」


「それは、そうですが……」


「3つの種族による『三すくみ』が成立する事で、程よい緊張と進歩が生まれる。 バランスが崩れそうになれば、管理者としての天使がこれを調整・調停する。 まさに理想郷じゃろう」


「しばらく考えさせてください」



そう告げると、通信を終了させ、ム・ロウ神の映像はレリアル神の前から姿を消した。



「理想を追うのも良いが、その理想は民の不幸の上に築かれる。 多くの者はそれを望まぬ」



孫に理解してもらえないレリアル神は、そう呟くのであった。



 数日後、ム・ロウ神は意を決して祖父に挑む。



「お爺様、やはりこの星の事はこの星の民に任せるべきです」


「なぜそう思う」


「私たちには管理者は居ません。 ですが、私たちは文明を発達させ、星の海を渡り、数多の現地文明を育てています」


「そうじゃな」


「私たちにできた事なら、この地の民にも出来るはずです」


「我らの導きなしに、いずれ星の海に船出する時が来ると、そう申すか」


「はい」


「その文明が星々にあだなす存在にならず、手を取り合って未来へ進める仲間となると言い切れるか」


「それは言えません。 ですが、誤った方向へ向かうのならば、大洪水によるリセットこそ使うべきで、民を直接支配・洗脳するような不当な介入は認められません」


「大洪水は多くの命を奪う愚行じゃ、それこそ認めがたき蛮行ではないか」


「いいえ、教訓により学び、正しき道へ向かうのですし、初めから正しき道を進めば、起こさずに済みましょう」



 2柱の意見は合わない。


そして、遂に両者は「戦って決着をつける」事を選ぶ。

だが、神同士が戦えは破滅をもたらす事を知っている。

その道は選べない。



「止むを得んな、わしも記録でしか知らぬが、大昔には神が命を賭さぬ戦いがあったと聞いておる。 その作法に則り、決着を付けようぞ」


「その様な方法があるのですか」


「ああ、ある」


「判りました、直ちに取り掛かりましょう」


「む、良いのか、今のお主の体は戦いには向かぬのではないか」


「ご心配なく、命を賭さぬ戦いなら問題なく遂行できるでしょう」



 それは天使率いる軍団による「代理戦争」だった。

ただし、天使と言えども、戦闘用魔法を行使しての直接戦闘は禁止である。

古くは、神達がまだその母星にしか住んで居なかった頃、天使に指導された存在が戦いを行い、その結果を持って勝敗を決したという。


 両神に仕える天使たちはその「戦争」の準備にとりかかる。


ある者は戦士となる亜人を生み出し、またある者は強力な戦闘力を誇る野生動物を従える秘術を生かそうと考える。


 そんな中、ム・ロウ神の側近である天使アキエルは全く違うアプローチを採用する。

それこそが「リアライズシステム」。

そう、模型からの現物生成(召喚)。

これが「戦いに有効」と気づいた彼女は、主人たるム・ロウ神に採用を提案する。


かくして、ム・ロウ神は現代からのみ使い召喚を実施したのであった。


用語集


・神工種族

人が作れば、人工。 神が作れば神工。 ということ。



・代理戦争

そういや、戦い自体は信者が行い、神は土地の上げ下げとかの間接的な事しかできないゲームがありましたな。


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