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模型戦記  作者: BEL
第3章 魔獣の進撃
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第17話 おっさんズ、魔獣と対峙す その5

 それは戦いと言うより、駆除か演習のような現象だった。


 1.5キロという戦闘が始まるには遠すぎる距離から37mm砲に撃たれたカトブレパスは、一撃で絶命する。

近づく者に死を与える特殊能力も、キロ単位で離れた相手には効果を持たない。

4体全てが数分で肉塊に変わった。


 同じく発砲を開始した25ポンド砲は、オーガやオーク、トロール、ゴブリン・シャーマンからなる歩兵隊を爆殺する。

戦いが始まるのはまだまだ先だと思っていた彼らは、パニックになって逃げ惑う。

次々と着弾する榴弾は彼らのみならず、近くに居たゾンビや巨大ムカデまでを犠牲者に加え、侵攻部隊をズタズタに切り裂く。


 その様子と左右に展開する騎乗兵を見ていた大英は、25ポンド砲の目標を右翼のオーガ騎兵隊へと向かわせ、左翼のゴブリン・ライダー隊にM21の81mm迫撃砲を見舞う指示を出す。

快速を誇る騎乗兵達だが、接近する事も叶わず、村から遥か彼方で乗馬・乗狼共々肉片に成り果てる。


 先行部隊の凄惨な有様を見て、スミロドンとジャッカルの集団は森の中で立ちすくむ。

いや、野生動物である彼らが茫然としているのではない。

彼らを指揮・制御しているキリエルが茫然となっているのだ。



「そ……んな……」



 時間と手間をかけて集め統制した魔獣軍団が、(ミシエル)が創造し育てたデミヒューマン部隊が、次々と動かぬ存在へと変貌する。

これまでは、負け続けていたとはいえ、「戦い」をしていた。

だが、今目前で起きているコレは何か。


ただの虐殺でしかない。


 村に同時到着を目指して進軍していた軍団は、次々と遥か手前で、いや、手前どころか森を出たすぐ先で、無残な姿をさらしている。



「一体何が起きているの?」



 キリエルは猛獣達の前進を中止して、高度を上げて村へと飛んでいく。

村まで1キロの所、高度400mから村を伺う。

村の様子を拡大投影して見ると、そこでは25ポンド砲が射撃している様子が確認できた。



「この距離で撃てるの?」



誰に聞くでもない独り言だったが、同じ映像を見ていたマリエルが答える。



「撃てるようですわね」


「こんな……こんな馬鹿な事が……」



ミシエルも同じ映像を見て愕然としていた。

マリエルは冷静に分析する。



「あれは以前から映像で見ている武具を大きくした様なものだと思われますわね。

大きくなると、届く距離も長くなるのでしょう」



 半分当たりで、半分はずれである。

確かに小銃の有効射程は500m前後だから、2キロも離れた相手を撃つ事はしない。 届かなくはないが、まず当たらないし、当たっても威力が下がるからだ。

だが、これまではかなり引き付けてから撃っていた。 弾薬が少なく無駄弾を撃ちたくないためだ。

これが天使たちに銃器の射程を誤解させていたのだ。


12.7mmクラスの重機関銃なら2キロでも有効射程内だ。

そしてさらに大きな25ポンド砲は、マリエルの推測通り射程も長いが、その射程は2キロとかいうレベルではない。

森がもっと遠くても、やはり「出たらいきなり撃たれた」という状況は同じだったであろう。


つまり、今までは「やってなかった」だけで、「出来なかった」訳ではない。



「キリエルさん、作戦は中止です。 生き残りを下げて撤退してください」


「……わかったわ」



 その時、キリエルは村の中にあった対飛行生物センシャの砲身が自分に向けられている事に気づいた。

だが、その砲身はすぐに下げられた。



「うそ、この距離で?」



それは「何かが飛んできている」事を察知し、射撃しようとして、天使である事を識別して取りやめたという事だ。

つまり、直線距離で1キロ以上離れた空中の相手に当てられる能力と、その距離にいる相手が何者かを認識できる能力がある事を示している。


 悪寒を感じたキリエルは配下の魔獣・猛獣に撤退指令を送ると、飛び去って行った。



*****



「撃ち方止め!」



 敵の撤退を確認し、大英は攻撃中止を指示し、各指揮官は号令を発した。

騎士団や村人たちから歓声が上がる。

敵はその姿を見せたかと思ったら、すぐに撃破された。

村に全く近づく事は出来ず、遥か彼方でその侵攻の意志は挫かれた。


 ついこの間まで戦いは騎士が敵と切り結んでいた。

だが、神獣騎士隊が現れてからは、離れた所から敵を倒すようになった。

それまでも弓を射る事はあったが、それで戦いが収まる事は無かった。 しかし、神獣騎士隊は「射撃」だけで多くの敵を倒した。

それでも、これまでは目の前で戦っていたが、遂に遥か彼方で決着が付くようになったのだ。


 敵は遠くに見える土煙の中で倒れ、全く近づく事は出来ない。

村人達の感じた安心感は大きい。

現代人なら、爆音を聞き、遠くに立ち上る煙を見れば心中穏やかではなくなるだろう。

だが、村人達にとっては、頼もしく安心をもたらす光景なのだった。



「やりましたね、大英殿」



 エリアンシャルは笑顔で語り掛ける。



「あ、ああ」



 意外にも大英の顔に喜びの表情は無かった。

だが、それは魔物や敵兵を大量虐殺したという事に恐ろしくなったという様な「戦場を目にした一般的な日本人の反応」とは違う理由である。

そんな様子を見てエリアンシャルは続ける。



「ん、どうしました」


「あ、いや、やっちゃったな……と」


「?」


「いいんじゃないか、アレで敵もしばらくはおとなしくなるだろ」



 秋津も肯定的に捉えている。



「まぁ、そうだな」



 大英も気を取り直す。



 大英は何を心配しているのか。

彼は常に敵に情報が伝わるのを警戒し、出来るだけ最低限の戦力での戦いを心掛けていたのだが、今回は敵を圧倒してしまった。

つまり彼の基本方針に反する事態なのだ。



「何か心配事でもあるのであるか」



ゴートの問いに大英は答える。



「そうですね、無駄に強いと、周辺から余計な注目を浴びて、しなくていい戦いを誘発しかねないと思うのです。

補給が無い以上余計な戦いは避けたい。

そもそも、うちらは邪神からこの地を守る事が使命。

近隣諸国・諸侯を怯えさせて人間同士の戦争を誘発しては本末転倒。

目立たないよう秘密主義を採りたいから、派手に無双しないほうがいい」


「なるほど、神獣騎士隊でもみ使い殿達については、あまり表立って語らぬようになっていましたな」



一応表向き神獣騎士隊のリーダーは顧問であるゴートという事になっている。



「無駄に強いと、敵の対応がそれを基準にインフレして、追いつけなくなる危険がある。

ゲーム…と言っても判らないかもしれませんが、物語なんかで弱い主人公が最終的に魔王に勝てるのは、その成長に相応の敵が現れたから。

雑魚が来て、小ボスが来て、中ボスが来て、大ボスが来て、幹部が来て、側近が来て、最後に魔王と対決。

戦うたびに成長し、『大幹部が出向くような案件ではない』とか言っていたのが、『俺様が出向かねば』になるから、勝てる。

もし、小ボスの直後が幹部だったら、そこでゲームオーバーですよ。

幹部はやはり『気が削がれた』とか言って撤退してくれなきゃ。

とにかく、敵のインフレをこっちの戦力拡充スピード以下に抑えないといけない」


「あぁ、それな、判る」



秋津は完全に理解した。

ゲームを知らないゴートにエリアンシャルも大筋は理解できた様だ。

ゴートは周辺について見解を示す。



「わしは近隣については特に心配は無用であると考える。

ここより南に人の国は無いし、外は諸侯の所領であり、そもそも国の外におる諸民族は国家と呼べるような組織は作っておらず、侵攻を誘発する事は考えにくい。

わしの知る限り近隣諸侯も人格高潔で、他所を羨んで良からぬ企みを成すような事は無いであろう」


「そうですね、ボストル殿の言われる通りだと思います。

ただ、遠くの諸侯や王については、どう出るか……」


「むう、確かに、王都近辺ではレリアル神に傾倒する者も少なくないからな。 気を付けるに越した事は無いか。

であるが、表立って動くことは出来まい」


「その辺りは、武力より、政治的な要素が強そうですね」


「そうであるな、ここは召喚兵力には頼れん。 我らがしっかりせねば」


「ええ、同感です。

で、敵についてですが、言われる通り敵の強化は心配ですね。

今日見た敵も、全く未知の獣でしたし。

あの距離であの大きさ、かなり大型の生物ですよね」



エリアンシャルの見解に、ビステルは「そうなのかな」という表情を示す。



「ビステル殿は違う考えのようですね」


「あ、いえ、エリアンシャル卿の言われる通りだと思います。

ただ、あの獣を倒した武具はかなり前に召喚してここに置かれたので、こちらの強化の方がずっと先行している様に感じたもので」


「その辺りはどうです」



エリアンシャルに振られ、大英も見解を示す。



「確かに、現状はこちらが優勢ですが、今回の『大敗』を受けて、今後どうなるかは判りません。

現状が抑えて来た成果であれば、今後は厳しくなるかも知れません」


「そんなに深刻にならなくても大丈夫じゃないか? 74やヤークトティーガーもあるから、強固な鱗を持つ地竜系が来ても平気だろ」



 普段とは逆に楽観的発言をする秋津。

対人ストレスが減って気分が向上しているのかもしれない。



「まぁそうだけど、どんな想定外が現れるか判らんし」



 相変わらず超慎重派な大英であった。

それでも、表情は明るくなったようだ。

さっきまでは「やべーやっちまった、どうしよう」という感じだったが、今は「怒りに任せてやらかした。反省はしてない」ぐらいに軽くなったようだ。

「食い物の恨みは恐ろしい」なんて言葉があるが、今回は食べ物ではなく「朝の睡眠」を邪魔された事が原因なのであった。

怒りに任せるとろくな結果にならない。

教訓ですね。 反省はすべき。



 戦い終わり、昼食の時間となった。

大英達は第1騎士団や村の代表者たちと食事を共にする。


そこで今後の事が話題となった。

敵の襲撃を撃退し、残る顕在化している懸念は謎の石化事案だけである。

これについて、バジリスクの可能性に気づいた大英はトカゲにも注意を払うよう求めた。



「コカトリスを想定していたけど、バジリスクかもしんない。 小さなトカゲにも注意するのが良いかも」



それを聞いた秋津は「うん?」と首をかしげる。



「どうしたん」


「いや、バジリスクってトカゲだっけ?」


「あれ、違ったか」


「うーん、違うような気が」


「戻ったらMEモンスターエンサイクロペディアとか見てみるか」


「そうだな」


「とりあえず、何か爬虫類的なモノだろうから、それらに警戒をしよう」



 一応の結論を得て、大英はブリティッシュ・コマンドス指揮官に指示を出した。

なお、ブリティッシュ・コマンドス指揮官も会食に参加している。

ただ、ホムンクルスなので、水を飲むのみであるが。



 こうして、一応事態の収拾がついたと判断した一行は、都に帰るのだった。

用語集


・カトブレパス

 某wikiでは牛くらいのサイズと形状だが、本作では長さ・幅はその2~3倍はある。

形状は牛と言うより亀に近い。 もちろん甲羅は無い。

その即死能力が何の魔法に変換されたかは、不明。

とりあえず、「即死魔法」は存在していない。



・気が削がれた

 とある、母親が石像にされた少年の冒険物語の漫画で、大幹部が撤収する際に語ったセリフである。

大英はその本は持っていない。 友人の土井が持っていたのを読んだのだ。



・対人ストレスが減って

 新人に普通の指示をすると「それ、パワハラっすね」とか言われて拒絶されるのがストレスだった様である。

便利な言葉ですね、 やりたくない時は「パワハラ」って言えば拒否できるんだから。 楽な商売w

文句を言わず熱心なビステルとの日々は、秋津の精神的健康を改善しつつあるようだ。



MEモンスターエンサイクロペディア

 某古典RPGのモンスターについての図鑑。

ファイル状でページを追加出来るような造りになっている。

大英はMEI(モンスターエンサイクロペディア1)の日本語版を持っている。

ちなみにMEIによるとバジリスクは「蛇」。

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