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模型戦記  作者: BEL
第3章 魔獣の進撃
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第17話 おっさんズ、魔獣と対峙す その4

 その日、森の奥では夜のうちに侵攻部隊の編成が始まっていた。



「キリエルさん、首尾はどうです?」


「順調よ、第一陣は間もなく編成が終わるわ。 予定通り出られる」


「了解しましたわ、それでは時間になりましたら、進軍開始してください」


「オッケー」



 大型の四足歩行の魔獣4体。

本来ならば群れる事の無いその魔獣は、おとなしく整列していた。


 その後ろで整列しつつある地を這う4匹の巨大な長い虫。

これも集団行動とは無縁な存在だったものだ。


 魔獣と虫が整列を終えると、キリエルの指示で、それらは村に向かって前進を始める。

辺りはまだ暗く、夜明けまではまだ遠い。

だが、その軍団の歩みは遅く、村に着くころには日は高くなっているであろう。


 彼らの後を追う様にゆっくり進み出でたのは8体のゾンビ。

脚の遅い彼らも第一陣として魔獣に続いて出撃して行った。


 続いて全身を覆う甲冑とタワーシールドで身を固め、長槍を持ったオーガの兵士「オーガ・ナイト」と、ローブを着て大型の杖を持ったオーガの魔導士「オーガ・メイジ」が現れる。

彼らを中核とし、オーク、トロールが集結する。

徒歩移動のゴブリン・シャーマンも加わった。

その総数は48名に上る。


 彼ら歩兵隊は目的の村への到着時刻を同期させるため、隊列を整えつつ出撃時刻を待つ。

そう、今回天使たちが選択したのは「同時到着強襲作戦」であった。


先日の侵攻作戦では各部隊を連携させて

 ゴブリン集団での夜襲

 夜明けと共にトロールとゾンビで東西から挟撃

 疲弊したところで飛行生物で攻撃

という計画だったが、予定とは違う展開になった挙句、各個撃破されたので、今回は一気に集めて飽和攻撃する方法を採用したのである。



*****



 夜が明ける。


 敵が現れる南方の森を監視していた兵は、そこに見慣れない生物の姿を確認した。

それは四足歩行獣のようであった。


 その姿は、現代知識を持つホムンクルス兵にとっても、あまり馴染みのないものであった。

そう、牛・馬・象・豚・キリン・狼・カバ etc... どれともイマイチ違って見える。

敢えて言えば、キリンの足と首を短くしたようなものだろうか。

或いは、カバの脚を大きくして首を少し伸ばしたと言えばいいだろうか。


 その「謎の生物」が4体揃って向かってきている事から、「自然現象」では無いと判断し、警報が出される。



 連絡は都の大英達にも届く。



「何してくれちゃってんだー」



 新しく出来た館の2階で寝ていたところで、早朝に叩き起こされる形になった大英はかなりご機嫌斜め。

朝に弱い彼は「敵許すまじ」と思うのであった。

隣の部屋で寝ていた秋津も同じく起こされたが、朝が早い彼は既に目を覚ましており、直ちに村へ向かう準備に取り掛かった。



「いくぞ、早くしろ」


「あー待て、今行く」



 とりあえず水だけ飲んで外へ出る。

ゴートとビステルも駆けてくる。



「はあっ、こんな朝から敵襲とは、全く戦の作法も何もあったものでは無いな」


「急いでください、ボストル様」



 50歳を過ぎているゴートにとって、息子より若いビステルの走りについていくのは難しいのだ。

そうこうしているうちに、ゴートより遅く家を出た第3騎士団団長のアラゴンが追い付いてきた。



「父上、お急ぎください」


「おおっ、判っとるアラゴン」



とはいえ、先日まで現役の騎士団長として活動していたゴートは、現代人の大英達とは比較にならない運動能力を持っている。

一行はすぐに大英達との合流を果たし、その場には執政官も到着した。



「新しい敵が現れたそうですね」


「ええ、詳しい事は判りませんが、毎回新しいモノが現れているので、いつも通りですね」



 大英の言うとおり、毎度「新兵器」との対峙という事態なのだが、それは相手にとっても同じなので、お互い様である。



「閣下、遅れました」


「おー、流石みんな早い」



 息を切らせたモントゴメリーと第2騎士団団長パガンが現れる。

ホムンクルスと言っても、別に特別高度な運動能力を持っている訳ではない。

年齢と鍛錬の度合いに応じた体力なのである。

だから、走れば息も切れるのだ。

ま、モントゴメリーと比べるとずっと若いパガンは息を切らしてないけどな。



「おお、それじゃ後は頼む。 想定通りまずはプランAで」


「了解です、閣下」



 大英達が都を留守にするときは、都に残る召喚軍の指揮はモントゴメリーが執る。

その時の基本作戦はあらかじめ話し合ってある。

もちろん、その作戦は敵の変化に応じてアップデートされている。


 戦いは召喚軍だけで行うのではなく、騎士団とも連携して遂行される。

騎士団を率いるアラゴンとパガン両名も、モントゴメリーとコミュニケーションを欠かさず、今この時もこれからの対応を協議する。


 連絡は空港にも届けられ、指揮官であるマッカーサーは警戒態勢を発令する。

工事を止める事は現状無いが、戦闘部隊はパトロールを強化するのであった。


 前回の襲撃では、村だけでなく都にも敵が押し寄せた。

そのため、今回も敵が現れるかも知れないので、防備は怠れない。


 そこへメイドさんたちが包みを持ってやって来る。



「こちらをどうぞ、朝食です」


「おう、ありがとう」



 秋津は二人分の朝食が入った包みを受け取り、笑顔で応える。


 こうして、準備が整ったところで、大英・秋津・ゴート・ビステルの4名は米兵の運転するウィリスに乗り込み、村へと出発した。

大英と秋津は移動中の車内で朝食を取る。

それは移動中でも食べられるように、パン……というか、ナンに似た感じのものであった。



 村では新たな敵への対応が始まっていた。

25ポンド砲と37mm砲を積んだハノマーク、それにM21自走迫撃砲が戦闘態勢を整えた。

敵までの距離は2キロに満たない。

どの砲もいつでも攻撃を開始できる。

また、3両の対空車両も配置に着いた。


 だが、事態は動いていた。



「新手だ、不明獣の後ろに細長い生物4体と人型の生物8体を確認、さらに後方に人型の生物らしき集団見ゆ」



 敵の戦力がはっきりしていない状態では、どう対応すべきかの判断は容易ではない。

ましてや、弾薬に限りがある召喚軍はうかつに発砲する訳にはいかないのだ。

敵の進軍速度が遅い事から、ドイツ指揮官は第1騎士団団長のエリアンシャルと協議し、大英達の到着を待つ事とした。

既に都を出発したとの連絡を受けており、到着まであと20分もかからないだろう。

一方、敵が至近距離まで進んでくるのは3時間以上かかると見積もられている。

ただ、突然進軍速度が上がったり、新手が高速で進んできたときは、25ポンド砲か37mm砲による射撃を開始する方針だ。

もちろん、飛行物体が出現となれば、当然それなりに高速だろうから、直ぐに対空車両による対応が行われる。


 そうして大英達が到着し、直ちに双眼鏡で敵を見ながらのブリーフィングとなる。

そこへ、更なる報告が届いた。



「後方敵集団は大小48体の人型兵員と確認、以前見られた重盾は無いようです」



だが、その報告を受けているさなか、もう一人の兵が報告に走ってくる。



「新手です! 敵歩兵集団後方左右に騎乗兵と思われる集団を発見、詳細は確認中!」


「なっ、いったいどれだけ現れるんだ」



エリアンシャルは驚きの表情で敵のいる方向を睨む。



「よし、敵先鋒四足歩行獣を37mm砲で攻撃、後方歩兵集団を25ポンド砲で攻撃、弾種共に榴弾」



大英は先制攻撃を決断した。

用語集


・新しく出来た館

 領主が「第2話 おっさんズ、異世界へ行く その3」で建設すると語った「み使いの館」です。

大英の家から搬入したのは寝具だけなので、大々的な引っ越しとかはありません。


・ナンに似た感じ

 ナン自体はまだ存在していない。 あくまで似た感じの何か。


・榴弾

 37mm砲の榴弾は正しくは徹甲榴弾(AP-HE)だそうである。

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