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模型戦記  作者: BEL
第1章 異世界へようこそ
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第2話 おっさんズ、異世界へ行く その2

 城からこちらに向かってくる人たちを見て二人は思う。



(彼らは何語を話すんだ?

神とやらに聞くの忘れたぞ。日本語フツーに話してたからな>神

いや、聞いたからと言ってどうにかなるものでもないが)



 やってきた来た人は、30代くらいの男性、二人の若い女性、兵士らしき男性の4人。

皆結構な薄着である。ま、気温もかなり高めだしな。

太陽もほぼ真上だし。これなら日に焼けるから、肌の色が変わるというのも納得だ。


 男性が口を開く。



「こんにちは」



どうにかなるらしい。



「え、日本語?」


「ニホンゴ?何ですかそれは?」



 どうやら、こっちは日本語で話しているのに、向こうは向こうの言葉で聞いていて、逆も然り。という事らしい。

さすが魔法のある世界。

いつもの事だね。……いや、彼らが異世界に来たのは初めてだけどね。



「申し遅れました。私はこの辺境伯領で執政官を務めておりますフランク=ビリーユと申します」


「あ、これはどうも。って、そんな偉い方でしたか」



 ちなみに社交性に勝る秋津がやりとりをしている。



「いえいえ、大した者ではございません」


「えーと、私は秋津州一(あきつ・しゅういち)で、彼は大英定刻(おおひで・さだとき)です」



 ところで、難しい事情説明は不要だった。

彼らが神に救いを求め、神はそれに応えた。

細かい説明はないが、この時にこの場所に神から遣わされた「み使い」が家ごと現れるという事を知らされていたそうだ。

これは助かる。

いきなり不審者として斬られたりしたらたまらんからね。



 さて、城に案内され状況の説明と今後の対応が話し合われた。

話には指揮官クラスの騎士と思しき男も加わった。

自己紹介によると、近衛騎士隊隊長のウエルクだそうだ。



「ホラズム=ウエルクと申します、以後お見知りおきを」



で、状況は以下の通り


・ここは王国の地方領であるスブリサ辺境伯領の領主の城である。

・辺境に見たこともない生き物(魔物と呼んでいる)の集団が侵攻し、村々を脅かしている。既に2つの村が失われた。

・騎士団を派遣しているが、守るのが精いっぱいで、それすらじり貧。


 今後の対応として以下の説明が行われた。


・み使い殿には魔物の討伐をお願いしたい。

・討伐の方法は、み使い殿が神より授かった力を使ってやってほしい。

・そのための助けとして専任の神官と巫女が全面的に協力する。

・生活の助けとして執事とメイドを数人つけるので、何なりと申し付けてほしい。

・水と食料の心配は要らない。可能な範囲で何でも用意する。


 というわけで、とりあえず食や水の心配はなくなった。

この世界の金の持ち合わせも無いが、気にする必要も無い。

病気にならないなら、生水飲んでも平気だろう。


海外旅行ですら生水飲んだら腹を壊すと言われる。

ましてや異世界である。

どんな未経験の病原体(抗体が無い)や微小生物が潜んでいるかも判らない。

だが、神から授かった権能とやらのおかげで、気にする必要は無いわけだ。

水の中に何か浮かんでいたりされると気分は良くないだろうが……。


実はこれ、逆も同じ。

インディアンやインカの人々は、ヨーロッパ人が持ち込んだアメリカには無かった病原体に感染して、人口を激減させている。召喚システムは同様の事態を防ぐため、土地を含む家の内外から異世界には存在しない現代日本の病原体を除去する機能を有しており、二人にもその説明はされている。

なので、普通に接している。



 さて、肝心の「み使い殿が神より授かった力」だが、これは説明が難しい。

とりあえず、彼らは話し合いの場所を大英の家の前に移すことにした。


 家に入った大英は「判りやすくて一番簡単そうなの」を探す。



「これだな」



ミヤタ模型1/35ミニチュアミリタリーシリーズ(MM)の

「イギリス陸軍6ポンド対戦車砲」



 扱う兵士ごと棚から取り出し、外へ出た。

神の説明によれば、彼は念ずるだけでいいはずだ。

それに加え、確か現地の協力者に祈ってもらう必要もあると聞いている。



(とりあえずやってみよう。

本当にできんのか。

出来んかったら、何しに来たん。つー話になるが)



 地面に置かれた6ポンド砲を見て黄緑色のツインテールの少女が尋ねる。



「これは、なんですか?」


「これは大砲と言うもので、討伐にはあまり使えないと思うのですが、

とりあえず、うまくいくかどうかのテストをしたいと思います。

こちらの方でどなたか神に祈っていただきたいのですが」


「私が祈ります」



 もう一人の巫女らしき少女が名乗り出た。

二人とも先ほど最初に会った4人の中にも居た少女だ。

そして神官が儀式を取り仕切る。



「では、はじめます。リディア、パルティア、準備は良いな」


「「はい」」


「任せたぞ、うまく行くよう祈っておる」



 取り仕切ると言っても、実際に儀式に参加するのは神官ではなく、二人の少女だった。

大英とパルティアと呼ばれた巫女の少女が手を合わせ、二人のそばに立つリディアと呼ばれた少女が何か唱えた。


そうしていると、6ポンド砲が光に包まれる。

光が消えると、茶色だった6ポンド砲は半透明の灰白色に変化していた。

そして


なんと!


近くに6ポンド砲が原寸大で現れていた。

いや、原寸大というのは語弊がある。

実物大模型ではない。

現物そのものが現れていたのである。


一緒に現れた3人の兵士は立ち上がって大英に敬礼し、彼を閣下と呼んだ。



「こ、この方々は……そしてこれは……」



 これが神より賜りし力。

秋津が感心して言葉を漏らす。



「本当にできるんだな」



 大英も感慨深く応える。



「全くだ」



 大英と秋津は現物となった6ポンド砲に歩み寄り、その手で触り、現物の存在を確認する。



「あ、これは失礼、あちらの白っぽく変わった小さなものは『模型』というもので、こちらの大きなものは『現物』となります」


「はぁ」


「そして、彼らはホムンクルスと言う人に似た存在です」



 神から受けた説明によると、機械(兵器や機器、乗り物など)は「そのもの」になるが、人員は人間ではなく、人の姿をし、人と同じ事ができる別の存在になるという話。



「とりあえず、コレが何をするものかお見せしましょう」



 早速実験してみる。

石を積んで作った標的を作り、それを撃つ。

3人のイギリス兵士の姿をしたホムンクルスが砲弾を装填し、発砲する。

大きな発砲音とともに、標的は砕け散った。



「す、すごい、これならどんな敵も倒せますね」



 深紅のポニーテールを揺らし、巫女の少女が目を輝かす。

だが、大英は



「いやー、それはちょっと難しいかな」


「なぜです」


「騎士殿はわかりますよね」



大英の問いかけにウエルクが応える



「はい、み使い殿。

これはバリスタやカタパルトと同様のものですね。

狙いをつけるのが遅く、攻撃までの時間が長すぎます」



 6ポンド砲は元々対戦車砲。

どんな相手かはわからないが、モンスターとはいえ、生身の相手を撃つのにはあまり向かない。

威力がありすぎる。

いや、オーバーキルは悪くないが、徹甲弾しかない6ポンド砲では1発で1体しか倒せない。

撃つのにかかる時間を考えると、機関銃のほうがマシ。


それよりなにより、弾数が足りない。

わずか数発しか弾がないのだから。

だが、ここで大英はある事に思い至った。



(この世界の技術力では弾も装薬も作れないしな。

いや、待てよ、何も同じ性能である必要はないわな)


「神官殿、この弾とこの火薬をつくれますか?」



 初歩的な火薬の作り方を教えて鉛で砲弾をつくれば、なんとか威力は劣っても、実用にはなるかもしれない。



(……あ、雷管が作れなきゃ発砲できん。

砲も作るなら着火方式はどうとでもなるが……今必要なのはそれではないな)


「それと、叩くと発火するような物はありますか?」


「うーん、ちょっと判らないので、魔術師と鍛冶師に相談してみましょう」


「よろしくお願いします」


(ただ、この城で使うならともかく、前線の村では敵が多すぎて接近を阻止できそうにない。

敵が100メートル先で止まっているならともかく、10メートル以内に入られたら照準を合わせるのも難しいだろう。

せめて弾が榴弾なら使い手もあるのだが。


と言っても57ミリの砲弾では大した威力はないな。

そもそも着弾すると炸裂する榴弾はこの世界の技術では作れないだろうからねぇ。

実戦で使うには他の兵器を召喚する必要があるだろうな。


ただ、大きいものほど召喚するのは大変そうだ。

また、スケールが小さいものほど大変に感じる。

そして時代が新しいほど大変な様だ)



 うん、大変が3つも重なってバカっぽい文章になっているが、大英に代わって吾輩が前向きな意見を述べておく。

「気にしたら負け」だ。

というか、人に見せる文章なら推敲もするだろうが、心の声ですからね。

TVで言えば、ドラマのセリフではなく、生放送のコメントだから。


 話をまとめると


ジープは簡単、軽戦車はまぁ簡単、中戦車は普通、重戦車は難しい。

飛行機なら単発戦闘機は簡単だけど、4発重爆は難しい。

スケールなら

1/35は簡単、1/48はまぁ簡単、1/72は普通、1/100や1/144は難しい。1/700なんて論外。

時代で言えば

M3リーは簡単としても、10式戦車は難しいわけだ。


(ま、それで車両ですらない6ポンド砲を選んだんだがな。

ちなみに、これは想像だが、難しいものほど疲労も大きくなるはずだ。

6ポンド砲を「召喚」しただけで、どっと疲れが出た。

吾輩だけでなく、巫女の娘にも疲労の色が見える。

難易度の高いモノなら疲れも大きくなるだろう)


(ただ、これは経験を積めば難易度は下がると思う。

やってみて分かったけど、6ポンド砲を召喚する前はハンティングタイガー……というか、ヤークトティーゲルはどう見ても無理ゲーに感じたんだけど、今は無理っちゃ無理だけど、前と比べれば難易度が落ちているように感じる。

多分レベル?が上がれば、1/700の艦船だっていけるだろう。

いつかは1/800のニミッツはもちろん、1/3000の「いずも」や食玩ノンスケールのエンプラも召喚できるんじゃないかな)


(疲労度についも、レベルが上がれば問題は無くなるだろう。

アレだ、総MPが10しかないときに消費MP5の魔法を唱えたら、半分持っていかれるが、総MPが50なら、消費5は1/10しか使っていない事になる)


(騎士の姿を見る限り、この世界の軍事能力は10~15世紀レベル。ま、一部紀元前っぽい格好は見られるが……。

とりあえずどんな敵かは知らないが、この騎士が戦える相手なら、現代どころか二次大戦中の装備でも無双できるだろう。

それが神の狙いなんだろうな。

今すぐは無理だが)


(うーん、異世界転生モノのラノベや「なれる」なら、最初っから大戦車隊で無双三昧どころか、大艦隊で蹂躙して……ってそれだと世界大戦でもやらん限り話は2,3話で終わるか。

ま、地道に経験値を稼ぐとしますか)



 色々思考をめぐらす大英であった。

用語集


・インディアン

 インドの人を指す言葉ではない。

近年ではネイティブアメリカンと言う言葉が使われることが多い。

ただ、当人たちの中には、ネイティブアメリカンのほうに良くない意味合いを感じる者も居るそうで、そういう人たちはむしろインディアンと呼ばれる事を好むと聞く。

 本稿では大英達が子供の頃より親しんでいるインディアンの方を採用させてもらった。

(大英達がセリフとして発することは無かったのだがね)



・ミヤタ模型

 プラスチックモデルの大手メーカー。

モデラーなら知らない者はいない。



・なれる

 小説投稿サイト「小説家になれる」。

ようするにリアルワールドで言う「なろう」の事だ。


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