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模型戦記  作者: BEL
第3章 魔獣の進撃
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第17話 おっさんズ、魔獣と対峙す その1

 その日、ティアマト神は大英の家で読書をしていた。

見ているのは「虹ビーの宇宙」というコメディ漫画の単行本だ。

うん? 漫画を見ているのを読書と呼ぶのかと? そこは気にすべきところではない。

気にすべきところは別にある。


 で、その姿を見て大英は問う。



「読めるの?」


「もちろん」



そう答えるティアマトの顔には、アキエルがかけているような丸眼鏡がかけられている。



「もしかして、その眼鏡のおかげ?」


「そうよ」



翻訳システムは音声は翻訳してくれるが、文字は訳してくれない。

だが、その眼鏡は文字を訳してくれるようだ。


 それを聞いてティアマトの横に居たリディアが「貸して貸して」とせがむが、ティアマトは「意味ないよ」と応じる。



「えー、なんで?」


「これ、み使いの国の言葉を天界の言葉に翻訳しているだけだから、貴方が使ってもやっぱり読めないのは変わらないの」


「そうなの? こっちの文字にする事は出来ないの?」


「……」



首をかしげて上を見上げるティアマト。

ややしばらくして、コマンドを唱えた。



「コール・ヘルプ」



すると、ティアマトの正面に映像が現れる。

何やら受付嬢風の女性が映っている。



「ご用件をどうぞ」


「翻訳のディストに地上語ってあるの?」


「ございます。 ソース・ディスト指定より、標準語・日本語・地上語を任意に指定できます」


「出来たんだ。 判ったわ、ありがと。 ヘルプ・クローズ」



 映像の中の女性が一礼すると、映像は消えた。

天界でもお辞儀をして敬意を示すのだろうか。


 ティアマトは設定を変更して「日本語⇒現地語」モードにした眼鏡をリディアに渡す。

リディアはその眼鏡をかけ、虹ビーの1巻を手に取る。



「おー、すごい、読めるようになったよー」


「姉様、私も……」


「じゃあ交互に使おう」



リディアは1話読み終えると眼鏡と本をパルティアに渡す。

パルティアも1話読み終えると一式を姉に返す。

そうやって交互に読み始めた。


 最初はにこやかにその様を眺めていたティアマトだが、すぐ飽きて他の物品を求めて、大英の家の中をさまよい出す。

すると、本を見ている姉妹が「急に読めなくなった」と声を上げた。

何事かとティアマトが戻ると、「あ、読めるようになった」との事。

再び離れると、3~4メートル離れるた所で、また読めなくなった。


 そうしていると、何やら聞いたことの無い音楽が部屋に流れる。

と言っても、小さく聞き取りづらいのだが、一人だけ結構な音量で聞いている者が居た。

ティアマトが「アンサー」と唱えると、彼女の前に映像が浮かぶ。



「なにー、どうしたの」


「ティアちゃん、眼鏡落としてない?」



 アキエルからの通信だ。

眼鏡のセキュリティ機能が働いてシステムが自動停止と自動起動を繰り返していたので、連絡を寄越したとのこと。

ティアマトは眼鏡を貸したことを話すと、二人とも事態を理解したようだ。


 この眼鏡、使用者から離れると使えなくなるようにセキュリティ機能がついていた。

面倒な機能だが、スマホにも同じ機能が付いていたら、落としただけで人生が終わるような事態に遭遇する事は避けられるように思うし、そういう内容の映画も「昔はそうだったねー」と懐かしネタになるだろう。

ティアマトはあと2つ用意して欲しいとねだる。

アキエルは「うーん」と暫し唸る。


横で話を聞いていたビステルも期待感を示す。

大英の家には軍事系雑誌が豊富にあり、彼の興味をそそる書物に事欠かない。


結局、もう一つだけ用意し、使用者設定はアキエルがやるという事で、ティアマトの希望に限定的に応じたのだった。

あまり天界のブツを誰彼構わず使わせる訳にはいかないと言う事のようだ。



 数日後。



 この日は村にて召喚を行う予定を立てており、朝からリディア達がやってきた。

その二人の姿を見て、秋津が声を上げる。



「おお、これは」


「どう、似合う?」


「よく似合ってるよ」



 虹ビーを見て、ヒロインたちが着ているセーラー服を作り着て来たのだ。

褒められてクルクル回るリディアと、浮かれる姉を見て赤くなってその行為を止めるパルティア。



「ね、姉様、回ってはダメです」


「え、そう?」


「はい、ダメです」



秋津と大英は明後日の方向を向きながら、話が終わるのを待つのであった。



 今回村へ向かうのは、大英・秋津・ゴート・リディア・パルティア・ビステル、そしてティアマトの7名だ。

以前は秋津の車と馬車に乗っていたが、今回は全員車で移動する。


準備が整ったところで、一行は2台のジープに分乗し、村へ向かう。

2台のうち1台は以前よりあった1/35のウィリスMBより召喚した車両。


もう1台は最近召喚したもので、元は富士山の1/76「M3A1」の「小型軍用車両」である。

このキット、M3ハーフトラックとジープ、それに数名の兵員が入っているが、M3はM13という対空車両としても制作可能であった。

そのため、ハーフトラックは不足する城の防空用として制作したのであった。

大英曰く「こいつがあったのを忘れていたよ」だそうである。

そういえば、この間の「防空の話」では出て来なかったな。


もっとも、対空兵器としてのM13であるが、その火力は12.7mm機銃2門なので、余り能力があるものでは無い。

故に、忘れていたのもしょうがないよね。 というレベルだったりする。



 ウィリスを運転するのは、米兵であり、非常時の護衛も兼ねていたが特に問題は起きず、無事マカン村に到着した。


 村は現在も第1騎士団が守りを担当している。

すぐに騎士団長のシュリービジャヤ=エリアンシャルが出迎える。

挨拶もそこそこに、リディアはエリアンシャルに駆け寄る。



「どお? 可愛い?」


「あ、はい、見違えました。 これは、み使い殿の世界のお召し物ですか」


「そーそー」



期待通りの反応を受け、上機嫌のリディア。

この日のために服を作ったのですかね。

リディアはお目当ての彼を前にクルクルと回ってみせる。

今回はシュリービジャヤが止めに入る事となった。



 そんな彼女を見てティアマトは首をかしげる。



「何でリディアは機嫌が良いの?」


「え、それは姉様がシュリービジャヤ様に会いたかったからだと」


「なんで?」


「えーと……」



答えに困るパルティア。



「何か面白いものでも見せてくれるの?」


「そんな事は無いと……」


「何か美味しい物を食べさせてくれるの?」


「そうでもないような……」


「訳が分からないわ」



そう呟くとティアマトは二人の事に興味を失ったのか、村の様子を見に向かった。

ビステルは直衛のため、すぐその後を追う。

「お、お待ちください」と声をかけるが、神は待つことなく気まぐれに歩き回るのであった。



二人のやり取りを見ていたゴートは、パルティアに話しかける。



「ティアマト様は二十歳になられたが、二十歳と言えばパルティア殿はもちろんのこと、リディア殿よりも年上であるが、興味の方向は見た目通り4歳相当なのかも知れぬな」


「そうみたいですね」


「それにしても、エリアンシャル卿との件、神官殿はご承知か?」


「気づいてはいるようですが……」



 リディアは長姉で神官家であるアルサケス家の跡取り。

シュリービジャヤもエリアンシャル家の嫡男にして次期当主。

つまり、リディアは婿を取る立場であり、シュリービジャヤは婿にはなれない立場である。

よって、二人が付き合ったり、その先へ進むことは両家共に認められない話なのである。


今後の事を思い、良からぬ火種の心配を抱え込むパルティアであった。



 さて、ここでの召喚はやはり燃費の良くないものである。

まずは昼の召喚、戦車のような戦車でないような、やや分類が判りにくい車両となった。

それは

 富士山の1/76「M4A3シャーマン 105mm榴弾砲」

である。


近距離の火力支援用戦車ですかね。

短砲身の105mm砲を積んでいる戦車です。

敵が兵員中心なので、威力のある炸裂弾を使う車両と言う訳です。



 その後、食事を終えた一行はそのまま第1騎士団との会議に入る。

最近の状況と、今後の方針についての話しだ。


そのさ中、伝令が入ってくる。



「失礼致します、村人より捜索の依頼がありましたが、いかがいたしましょうか」



 シュリービジャヤが事情を聞くと、村の女性が詰め所にやってきて、朝に西の畑に出かけた旦那が昼になっても戻らないので探してほしいという訴えがあったとのこと。

普段であれば、普通に村人が捜索に行く所だが、今は戦時。

シュリービジャヤは、捜索隊の派遣を許可し、編成は現場に任せる事とした。



 会議も終わり、夕方の召喚の時間となる。

この召喚では昼とは逆の方向性の戦車が召喚された。

 富士山の1/76「バレンタイン歩兵戦車」

である。


なんか富士山製が多いが、単なる偶然である。 多分。


 バレンタインは主砲が徹甲弾しか持たず、兵員と戦うには不向きである。

同軸機銃はあるので、全く無意味という訳ではないが、不向きは不向き。

しかし、「これまでの敵」に最適化した装備を揃えると、「想定外の敵」が現れた時に対応しきれない。

そう考える大英は、敢えてこの車両を選んだのである。

なお、箱絵を見ると砲塔が大きくIII型っぽいが、実際のキットの中身はII型のようであった。

このためか、召喚された車両は「バレンタイン II」であるのだが、詳細な資料と知識を持たない大英と秋津には細かい区別は付かない。

ま、2ポンド砲を積んだ遅い軽戦車と理解できれば十分であろう。



 こうして、村での用事も完了した所で、彼らを驚かせる報告が届いた。

それは



「帰ってこない村人の代わりに、当人にそっくりな彫像が見つかった」



であった。

用語集


・虹ビーの宇宙

 一見普通の中学生だが、実は宇宙人というヒロイン虹美と様々な登場人物が織りなすコメディ漫画。

全13巻の作品なのだが、大英の家には10巻までしか無い。

続巻の発売間隔が年単位で伸びて「何処まで買ったか」が判らなくなったのが原因。

なので、きっと後で「この続きはどうなった」問題が発生するであろう。

それが描写されるかどうかは不明であるが。



・細かい区別は付かない

世の中には丸やオールド・ミリタリー、AFVジャーナルなどにバレンタインの特集があるかもしれないが、大英の所蔵する書物にはいずれも存在していない。

このため、キットの解説書を別にすれば、バレンタインの詳細を確認する事は難しい。

電気もネットも無いから、wikiとか参照できないしねぇ。

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[一言] まさか四号ちゃんを召喚するつもりじゃ……
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