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模型戦記  作者: BEL
第3章 魔獣の進撃
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第16話 天使達、魔獣軍団を編成する その2

 「拡張適応」とは何か。


 では、再びニミッツ級の搭載機に登場してもらおう。

その異世界の環境でAMRAAMの使う周波数帯に、ミサイルの動作を不可能にするレベルの電波雑音が広まっていたら、AMRAAMはホーミング出来なくなり、空戦能力は大幅に低下する。

さらにそこで敵対する飛行物体が熱を出さないなら、赤外線ホーミングも効かないから対空ミサイルが全滅となり、戦闘機としてはほぼ役立たずになってしまう。

これでは燃料問題が解決しても、「空母としての戦力価値」は大きく損なわれたままだ。

敵の飛行物体に対艦攻撃能力があるなら、問題は深刻だ。

こういった問題を解決するのが「拡張適応」と呼ぶ対処だ。


 コカトリスなら、石化スキルの発動を検知して、「こちらの世界の石化魔法コマンドの発動」に変換して起動する。

これで、コカトリスは自身の本能や習得した経験を元にして戦うことが出来る。


 スパホで言えば、敵の飛行物体が熱は出さないがニュートリノを強烈に発するなら、ニュートリノに対してホーミングするミサイルを与え、電子装備を対応するようアップデートすれば、戦闘機として復活できる訳だ。


 この拡張適応は、効果やターゲット選定まで正しく変換するなど、具体的で細かい処理を行う必要があるため、魔獣の種類ごとに異なる処置を行わねばならない。

しかも、発動タイミングや「射程距離」、期待される効果に違いが出ないようにしないと、違和感のために本来の力を発揮できなくなる。

それに、うまく合致する魔法が無ければ、変換も出来ない。


 スパホで言えば、捜索レーダーが本来の能力を発揮できないなら、それが可能になるような調整なり、改修なり、電波以外の探知手段を追加して、結果を統合してモニタに出せるようにする必要がある。

少しでも違いがあれば、パイロットは訓練の成果を発揮できない。

ニュートリノに対してホーミングするミサイルも、AMRAAMと同等の速度と機動性、それに射程を持っていないと使い勝手が違ってしまい、訓練をやり直さなければならなくなる。

それでもパイロットなら説明して訓練すれば、いずれ何とかなるかもしれないが、魔獣相手では理解して慣れてもらうのは難しい、というか不可能だろう。


 この拡張適応を難なくこなすのだから、ミシエルが優秀なのか、天界のテクノロジーが凄いのか、まぁ両方でしょうね。



 なお、魔獣を手なづけるのは、キリエルの能力による結果であって、生体改造的な処置とは関係しない。



 その後、数回のハンティングで、魔獣舎は7割程度まで埋まった。

各適応手術も順調に進んでおり、キリエルの指揮能力を考えれば、1回戦うには十分おつりがくる数の魔獣が揃ったと言えよう。

増築工事はまだ完了していないが、十分魔獣軍団を編成できるインフラとして機能している。



「よーし、みんな調子いいわね」



 賑やかになった魔獣舎の様子に、キリエルは満足顔である。

中を見回る彼女はグリフォンの部屋に入る。



「どう、新しい仲間とうまくやってる?」



 声をかけられたグリフォンは喜びの声を上げ、その意思を伝える。

それを聞いてキリエルは「よかった」と微笑んだ。

一緒に連れて来られた仲間は全滅し、直後はさみしそうな弱弱しい声を上げていたが、今は元気になったようだ。



 数日後、次の戦いに向けて作戦会議が開かれた。

マリエルが説明を始める。



「今回の作戦は、魔獣軍団の運用をテストするものになります。

村の陥落は目指しますが、作戦目的はあくまで実戦テストですので、無理はしないようにお願いしますわ」


「でも、落としてしまっても良いのよね」


「もちろんです」


「兵員はどうするんだい」



 ミシエルの兵士も数を増やしている。

ミシエル本人が適応手術で忙しくても、兵の生産はオートで進んでいる。



「もちろん参加していただきますわ。

異なる種類の魔獣同士の連携だけでなく、兵士たちとの連携も今回テストする重要事項です」



 そうして、具体的作戦が説明され、レリアル神の決済を経て、決行日時が決定された。



*****



 その日大英達は執政官から少し昔の出来事について話を聞いた。


「今から60年ほど前に、王家でお家騒動がありました。

愚鈍な長男の王位継承に反対する諸侯が次男を擁立しようと動いたのです。

ただ、本当に長男が愚鈍だったかと言うと、判りません。

実は次男と次男を推した諸侯はレリアル神の信者でした」



 それを聞いた大英は「え、レリアル神は邪神だったのでは?」と問うと、執政官は答えた。



「はい、確かにこの近辺ではずっと邪神とされています。

200年ほど前に大飢饉に見舞われた時、レリアル神にいくら祈っても事態は変わりませんでしたが、ム・ロウ神に祈る事で、人々は救われました。

それ以来、我々はム・ロウ神の信者なのですが、中央ではそもそもその大飢饉は起きていません。

それでも国の各地でム・ロウ神への信仰が高まると共に、何もしなかった王への反感が高まったのです。

そして諸侯の一人が王を打倒し、今のム・サン王国が開かれました。

このため、この国では基本的にはム・ロウ神を敬う事が正しい信仰で、レリアル神は邪神と定められています。

ですが、やはり元々中央に居た諸侯は飢饉の影響を受けていません。

そのためか、王家が定めた信仰に表向きは従いつつも、裏ではレリアル神への信仰を捨てていない諸侯は少なくないと思われます。

そして先ほどの次男の系統が今の王家なので、国家の信仰と、王家の信仰が食い違うという由々しき状況になっています」


「それは中々闇が深そうですね」



 そして秋津がうんざりした顔で「やっぱ宗教は対立の原因だなぁ」と感想を漏らす。

だが、大英は別の感想を持ったようだ。



「これは危険な話ですね」


「危険?」


「うち等は『ム・ロウ神』の関係者というか、代理人のようなものだよね」


「そう、なるか」


「だからこそ、このスブリサの人達も皆『好感度MAX』で接してくれたわけだ。

大抵の異世界じゃ『見下されたけど、実は強かったざまぁで、すんません先生、それなんてツンデレ、うるさいもう遅い』がごっそりスキップ状態だったのが、真逆になる」



 何か色々省略されすぎて、もはや何を言っているのか判らない状態だが、秋津には通じたらしい。



「……やべぇな」


「そう、レリアル神の信者からすれば、うち等は『仇敵』。

好感度ゼロで塩対応どころか、暗殺者が来てもおかしくない」



 やや置いてかれた感があるが、なんとか付いていった執政官は発言する。



「流石にここに暗殺者は来ないとは思いますし、彼らから見れば邪神の使徒と思っているかもしれませんが、仮にも神の関係者ですから、めったな事はしないでしょう」


「そうですか、そういや村での戦いでも互いの天使への直接攻撃は禁則事項でしたね。 まぁ、その禁則を守ってもらえる保証は無いのですが」



 大英は敵が約束事を守るという事をまるで信用していなかったりする。

なので、執政官の発言を聞いても警戒心は薄まらない。

慎重派故の事だが、この件については秋津も同感だ。



 1945年のソ連による中立条約を無視した日本侵攻。

 アメリカ軍による国際法違反の日本人一般民衆80万人大虐殺。


 学校の歴史授業では、20世紀に入る前どころか明治の半ばで終わってしまう事が多いため、この事実を知らない人も少なくない。

だが、ウォーゲームやミリタリーモデルに親しむ彼らは、明治以降の歴史にも詳しい。

そして、現代社会では「勝てば官軍」である。

たとえ決まりや約束を破っても、勝ちさえすれば不問になる。

この「のどかな世界」では違うのかもしれないが、若いころに染み付いた「不信感」は簡単に消えるものでは無い。


 敵が約束を守る事を期待してはいけない。


これが大英達のスタンスなのだ。



 ちょっと深刻な話になったところで、昼の料理が出来たらしく、テーブルに運ばれてくる。

それを見て、というか、その匂いを感じて秋津は声を上げる。



「おお、焼き鮭」


「うまく出来たみたいだね」



皿の上には焼かれた鮭の切り身が載っている。

執政官はそのピンク色というかオレンジ色というか、そんな色の切り身を見て聞く。



「これがみ使い殿の世界で食べられている料理ですか」


「おお、簡単なものだけど旨いから」


「では、いただきます」



人数分用意された焼き鮭を皆美味しくいただいた。


 実は、毎朝届くブツとして、今朝届いたのが「鮭の切り身」だったのだ。

元はどこかのスーパーの商品のようで、白いトレイに入ってラップがかけられた状態で届いた。

冷蔵庫の無いこの世界では、速やかに消費する必要がある。

そのため、全てが本日の昼食に使われたのだ。


 ここの人達は鮭を食べる習慣は無い。 というか、鮭自体見た事も無い。

同じ地球なのだから、鮭も存在すると思われるが、ここのような南国には来ないのである。

調理は秋津の指導で行われ、無事成功したようだ。

いや、そんなに難易度のある料理ではないから、当然成功するだろう。

バター焼きとか言ったら、「バターが無いやん」という事態になっただろうが。


 久しぶりの鮭を食べながら、大英は敵が村に来る天使の軍だけではないのではないかと、そう思うのであった。

用語集


・AMRAAM

 アメリカ軍の戦闘機で使用されている空対空ミサイル。

これはリアルでも同じため詳細は検索とかすれば判るので、説明はそちらに譲ろう。



・キリエルの指揮能力

 何でも数が増えればよいという物ではありません。

配下の魔獣の数が多すぎれば、隅々まで目が届かず、意図したとおりの作戦行動は困難となる事もあると思われます。



・通じたらしい

 トレンドワードが並んでいれば、一応通じるよね。

通じない? 支離滅裂? そんなワード知らない?

何を言いますか、一行で人気作品を何十個もいっぺんに解説している名文じゃないですか。

判らないなら、トポロジーを勉強しなさいな。

え、名文なんかじゃない? そうですか。

確かに、30年くらい前のワードも紛れてますねぇ。



・明治の半ばで終わってしまう

 これはリアルでも同様では無いかと思われますが、別に統計的調査は行っていないので、「このお話はフィクションです。実際の事柄とは関係ありません」の定型文を記しておきましょう。


日清戦争を教えると、「日本が戦争で勝ったことがある」という事実を教えなければならなくなるため、それがイヤなのでその前で打ち切っている。

そんな陰謀論もあったりします。

でも、歴史を教える教師が全員「教員1年生」な訳では無いのですから、毎年やっているのに「スケジュール見積もりが甘く時間が足りなかった」という言い訳はオカシイですよね。

近年では教職員の組合の意向にとらわれず、自分のスタイルで授業をする教員も増えているようで、昭和期まできちんと教えられた経験を持つ人も珍しくないみたいですね。

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