表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
模型戦記  作者: BEL
第3章 魔獣の進撃
44/238

第15話 おっさんズ、空軍を創設する その1

 その日ミシエル達は反省会を開いていた。

キリエルが早速発言する。



「まさかグリフォンがあんなに早く全滅するとは思わなかったわ」


「ええ、意外でしたわ」


「うーん、そうなのかなぁ」


「え、どういう事?」



ミシエルの反応にキリエルは問う。



「だってセンシャの大砲をグリフォンが受けたら、すぐ落ちて当然じゃん」


「あら、でも大砲には撃たれていませんわよ」


「それは……そうか」


「そもそも、センシャの大砲を避けるために、空から攻撃する事にしたのですから」


「でも、空に居ても撃たれたんだよね」


「見たところ、グリフォンを撃ったのは飛ぶ物に対応する専門武器のようですね」


「専門? 対飛行生物用に用意されたった事?」



キリエルは専門という事に疑問を持つ。



「ええ、間違いありませんわ。 コレを見てください」



 マリエルは2枚の写真をスクリーンに映し出す。

1枚は4号H。 もう1枚はCRUSADER対空戦車だ。



「こちらのセンシャの大砲はどう見ても『上』には向かないでしょう」


「そうね、上を撃つのは無理がありそうね」


「そして、こちらのセンシャは大砲を積まず、ずっと小さい武器ですが、見ての通りかなり上を向いてます」


「確かにそうね、空を狙っている」


「村の東西から撃っていたものも、同様の構造を持っていますわ」



そう言うと、さらに2枚の写真を映す。

そこには20ミリ4連砲とM42のボフォース40ミリ2連装砲が発砲する様が映っていた。



「まったく、由々しき事態となりましたわね」


「センシャに撃たれない様に空から直接村に突入、という戦法が使えないんだもんな」


「それもありますが、もっと根本的な問題がありますわ」


「え、他に何があるんだ?」


「あー、そうゆうことか」


「え、何? 何が『そうゆうこと』なんだ?」



女性陣2名が判って、自分だけ判らないという事態に焦るミシエル。



「あら、判りませんか? 戦神パシフィア・バールバラ様の書には『武具にはすべからく用途がある』と、ありますわ。 倒すべき相手の無い武器が作り出される事は無いのです」


「対飛行生物用の武器があるって事は、相手にも飛行生物が居るって事よね」


「あぁ、そっか」


「まぁ、生物かどうかは判りませんけど、空を飛ぶ『何か』はあると見て間違いありませんわ。 だから、その『何か』を撃ち落とすための武器が生まれた」


「生物で無かったら何だっていうんだよ、まさか飛行機(ヴィマーナ)があると?」


「あるかもしれません」


「そんな、ニンゲンにあんなモノを作れるわけがない」


「そういう先入観を持つのがミシエルさんの悪い癖だと思いますが、いかが?」


「う……」



ぐうの音も出ないミシエル。



「いつか、空からの攻撃を受ける事になるでしょう。 それが降りてきてクローやバイトで攻撃して来るのであれば、まだ良いのですが……」


「マズイわね、魔獣達もそうだけど、ミシエルの兵士も空を飛ぶ物を相手にするのは苦手でしょ」


「そうだなぁ、オーク・マジシャンの炎の矢なら空に向けられそうだけど、飛んでいるものを狙うスキルは連中には無いから、相手との距離を見誤れば、いくら誘導しても当たる気がしない。

レンジャーの弓だって飛行機を想定したら全然届かないだろうし」



腕を組んで考えるミシエル。



「やっぱり飛んでいる奴は飛んでいる者で戦うのが一番じゃないかな。 でも、もし飛行機なら離れた所から攻撃してくるな。 飛竜(ワイバーン)ならどうにかならないか?」


「飛竜だからってブレスを持ってるとは限らないわよ、それに相手が飛行機だとすると、ブレスの射程じゃ空戦なんて無理よ」


「そっか……」


「対処法はおいおい考えましょう。 私もパシフィア様の書で空戦について調べてみますわ」



こうして、頭の痛い問題を抱えた天使たちであった。



*****



 大英達は都より北方の地に建設された飛行場に来ている。

そう、先日より工事していた飛行場は、1000メートルの「均し滑走路(無舗装)」が完成し、暫定オープンとなったのだ。

現在は、隣に2000メートル級のコンクリート舗装滑走路を建設すべく準備中である。

風向きは比較的一定のようなので、横風滑走路については、現状後回しらしい。


 そして大英は滑走路の端に一つのキットを置くとリディアとパルティアに向けて語る。



「さて、いよいよ1/72の召喚を実施する時が来た訳だ。 十分余裕が出来るまで待ったから、特に問題は無いと思うけど、ま、やろうか」


「随分ちっちゃくなったのね」


「がんばります!」



二人……いや、少なくともパルティアは気合が入っているようだ。

ちなみに小さいという指摘は、以前召喚した飛行機が1/48だったので、それと比較しての事。

実は、別の理由もあるけどな。



「じゃ、しっかり見せてもらうわ」



一緒についてきたティアマトは、初めて見る召喚儀式に期待を示す。



 かくして、召喚は実行され、1機の飛行機が姿を現す。

大英もパルティアも特に疲れは見えない。



「よし、成功だね」


「はい!」


「ふーん、なかなか面白い見世物ね」


「あれ、大きくなっても……ちっちゃくない?」



 ティアマトは儀式自体に対して、そしてリディアはその飛行機を見ての感想を漏らす。

その飛行機は「ポリカルポフ I-16(Polikarpov I-16 Type24)」。


 実はI-16はかなり小さい。

1/72のキットで長さと幅だけ見れば、1/144の艦攻なんかと大差ない。

胴体が太いから1/72だと判るが、そこを無視すると1/144では無いかと思うほど。

あまりに寸詰まりなその姿は、ある種ユーモラスである。


 そのため飛行機についての知識を持たないリディアも、以前召喚した鍾馗(1/48 or 1/50)と比べて小さいと感想を持ったのである。

最初に召喚したのが鍾馗なので、コレが基準になっているのだ。

ちなみに同時期に召喚している97式戦闘機(1/48)と比べれば、そう大きな違いはない。

大英は小さいと言う主張に、反論を行う。



「いや、コレで正しい。 召喚はちゃんと成功している」


「そうなんだ~」



 だが、秋津が重大な点に気が付いた。



「おい、コレ、まずくねぇか」


「ん? どうした?」


「パイロットが居ねぇ」


「あ……やっぱりそうなるか」



ゴートはよく判らないが、何か問題が発生しているらしい事は理解した。



「大丈夫なのであるか」


「そうですね……」



 いつもであれば、乗員が大英に挨拶をするのだが、今回「閣下」の呼びかけは聞こえない。

元のキットは飛行機キットの大手長谷部製作所の製品。

実は、このキット、パイロットのフィギュアが付属していない。

しかもコクピットは単葉機でありながら、同時期の複葉機同様開放されているタイプ。

戦車のように「中にいるから見えないだけ」という訳にもいかず、機体だけで乗員が居なかったというオチなのであった。


 普通の環境であれば、召喚済みの93中練(通称赤とんぼ 1/48)があるんで、そちらのパイロットに乗ってもらえば良いのだろうけど、燃料補給に難があり、専任の整備士も居ないのでは、慣熟訓練をするわけにもいかず、かと言ってぶっつけ本番で出撃というのも無い話。

これは、せっかく召喚したのに、お蔵入りですかねぇ。

てなわけで、1/72初召喚の成功と言う頂点から、選択の失敗という「どん底」への気分急降下な所で、その様子を見ていたティアマトが口をはさんだ。



「それ、心配いらないわよ」


「うん? そうなの」


「詳しい事はわかんないけど、『人がいない問題』はなんとかするってアキエルが言ってた」


「そうなんだ」


「でも、何時になるかはわかんないから、それまで仕舞っとけば」


「あぁ、そう」



 ぬか喜びであったが、まぁ無駄にはならないようなので、解決される時を素直に待つ事にする大英であった。

ちなみにI-16を選んだのは、1/72の完成している飛行機で一番古く小さい機体だから。

具体的に利用用途を想定してのものでは無いので、正直経験値稼ぎ用というのがその一番の存在意義だったりする。

だから、飛ばせなくてもそう大きな問題ではない。

まぁ、寒冷地仕様の機体がこんな暑い所でちゃんと運用出来るのかを考えれば、本当に「1/72召喚実験」でしかないかもしれない。

もちろん、ナッターV作戦時の護衛 or CAP用としての利用は考えているのだろうけどね。


ちなみにこの時点での「航空戦力」は

 ソ連空軍戦闘機 ポリカルポフ I-16

 日本陸軍 二式単座戦闘機 鍾馗

 日本陸軍 97式戦闘機

 日本海軍 93式中間練習機

以上。


 うん、少ないね。 しかも古すぎる。

とはいえ、こんなんでもグリフォン相手なら無双できそうだが、一度の出撃で弾を使い切りそうなので、戦力的には実質使い捨て。

(もちろん、捨てずに保管しておくのだが)

それを考えると、少ないを通り越して空軍の戦力化はまだまだ先の話だね。



「それにしても、なんであんな『板』が横についてるの? 邪魔じゃないの」



 屋根と柱のみで出来た格納庫に並ぶ「飛行機」を見て、ティアマトは大英に問う。

ティアマトが知る飛行機(ヴィマーナ)には「主翼」は付いていない。

天界のソレは翼の揚力で飛ぶものではないのである。

つまり、「邪魔な」翼がなければ、もっと詰めて並べられるだろう。 という話だ。



「えーとな、あれは翼と言ってな、あれの揚力で飛行機は飛びあがるんだ。 だから、付いてないといけない」



 問われた大英に代わり、飛行機には一言ある秋津が解説を始める。

だが、ティアマトにはちょっと難しい話だったようだ。

まぁ、現代日本であっても、二十歳の女性に揚力の話をしたところで、大抵通じないだろう。

いや、男でも大抵通じないな。 性別は関係ない。


 うまく話を呑み込めなかったティアマトはアキエルを呼んで、再解説を求める。



「いや、いきなり呼ばれても、どんな話になってるか全然判らないんだけど」



そりゃそうだ。

とりあえず、秋津が経過を説明すると、アキエルは事態を理解した。



「あー、なるほど、揚力ね、うーん、そうね……」



 どう説明したらよいか悩むアキエル。

彼女にとっても、あまりなじみのない現象なので、それをかみ砕いて説明するのは、思いの外難題。

丁度、我々21世紀の人間に「エレキテルの原理を説明せよ」とか「茶運び人形の内部構造を解説せよ」なんて課題を出したようなものだ。

すると、大英が口を開いた。



「コレを見て」



 ティアマトが目を向けると、地面に大きな四角が描かれ、真ん中に棒が1本置かれ、日の字のような感じになっていた。

分れた四角の中には数個の石が置かれている。

アキエルの映るスクリーンもそちらを向く。


 ちなみに現代のスマホやノートPCなら、それを持って内蔵自撮りカメラを撮影目標に向けるのは「こっち」の操作。

だが、空中に浮かんでいるアキエルのスクリーンを操作しているのは、「向こう側」のアキエル本人。

ティアマトは何もしていない。

そして、ハード的なものは何も見当たらないが、アキエルに映像を送っているカメラは、スクリーンの位置からその向いている方向を写している。


 話を戻そう。



「この真ん中の横棒が横から見たあの板だと思ってくれ」


「うん」


「上の箱の空気が少なく、気圧が低いとする。そして下側の箱の空気が多く、気圧が高いとする」



日の文字の下半分には10個の石が置かれ、上半分には3個の石が置かれている。



「この状態だと下側は混雑しているから、上に広がろうとする。逆に上側は空いてる」


「うんうん」


「で、こうなる」



 大英は棒を上に移動し、石の密度が同じになるようにする。

当初真ん中にあった棒は、かなり上に移動し、13個の石はほぼ均等に配置される。



「この棒を『上に移動』させた力が揚力の正体。 気圧差で飛行機は浮かび上がるのさ」


「なるほど~。 じゃ重い飛行機ほど、大きな板が必要になるのね」


「その通り」



 随分端折った説明だった(そもそも、なぜ上側の気圧が下がるのかを説明していない)が、ティアマトは理解できたようだ。

見た目は4歳でも、頭の中身が二十歳なのは伊達ではない。



「おーなるほど、ありがとー。 助かったわ」



 アキエルも礼を述べた。

一方、リディアとパルティアにはこの説明では通じない。

I-16を格納庫に収めるのを指揮して、戻ってきたゴートと同じく運搬を手伝っていたビステルは途中から聞いていたから、尚更訳が分からない。



「えーと、この石は何を現しているのかな」



 分子の概念を持たないリディアは、石が何を現していたのかが理解できないのだ。

結局その解説は、空気は酸素分子と窒素分子から出来ている事や、気圧とは何かを説明する所から始まるのだった。


 その解説の間、ティアマトは秋津を従え格納庫に並ぶ4機の飛行機の傍で「珍しい物」の鑑賞を楽しむ。

やがて解説は終了し、一行は都へと戻る。



 都に戻った後、城で食事を済ませ、ティアマトは街へと出かける。

商店を見て回るのだそうだ。

神官にリディアとパルティア、それに数名の騎士がそのお供として付き従う。


 そして大英達は城にて行われる、今後の方針を話し合う会議に向かうのであった。

用語集


・ポリカルポフ

 某wiki では違う表記が採用されている。

  ポリカールポフ設計局の解説では「ポリカールポフ」。

  I-16の解説では「パリカールパフ」。

 外国語なので、発音は正確に表されないのかも知れない。

本稿では模型メーカーが採用している表記に合わせてある。



・CAP

 帽子ではない。

日本語で言えば「戦闘空中哨戒」。

敵に飛行生物が居る事が判ったので、防空も必要なのである。

とは言うものの、敵を視認してからでは遅いだろうが、シルカやゲバルトのレーダーで見つけてから緊急発進しても間に合うのではないだろうか。

(両方ともまだ召喚してないけど)

……いや、敵が近くから飛んでくるのなら、間に合わないか。



・なぜ上側の気圧が下がるのか

 翼は単なる板ではありません。

翼に当たる気流の流れは、上側が早くなるように設計されています。

そして早くなる結果、気圧が低下するのです。

当然のことながら、静止している状態では揚力は発生しません。

揚力は流体中(液体中ではない。空気も流体である)で発生するものだからです。

なお、本気で揚力の説明をしようとすると、本職の物理学者でも容易ではないので、大英程度なら色々端折るのは当然なのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ