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模型戦記  作者: BEL
第3章 魔獣の進撃
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第14話 おっさんズ、幼女と知り合いになる その1

今回より第3章です。

「うわー、人がいっぱいだ」



 街の裏通りに続く横道から、大通りに出てきた少女……いや幼女は通りを行きかう人を見て目を輝かせる。

白いワンピースに腰まで伸びた長い赤紫の髪、見た感じ4歳くらいの幼女は通りに沿って領主の城へ向かう。


 だが、少々人目を引く姿である。

そもそも、白い服自体珍しい。

一般の民衆が着る服は茶色である。

別に規制があるのではなく、経済的に利用できる素材は茶色というだけの話である。

白いという事は、絹のような高価な素材でできているものしか知られていない。


 そんなものを幼女が着て、しかも一人で歩いているのだ。

高価な服を着るような「お嬢様」なら、当然傍に居るはずの従者が居ないのは、不自然な事だった。


 そうして歩いていると案の定、定番の輩が現れた。



「やぁ、お嬢ちゃん、どこにいくの」


「うん? どこでもいいでしょ」


「そうかぁ」



 彼女の目の前の男がそう言うと、彼女の後ろから忍び寄った男が彼女を抱きかかえ、脇道に走った。

話しかけた男も歩いてその後に続き、脇道に入るとダッシュで奥に消えた。

通りの喧噪の中、気づく者は居ない。

目立つ白い服と言っても、忙しい多くの民衆にとっては注目を続けるほどインパクトのある話では無いのだ。

哀れ、幼女は人さらいの餌食となってしまうのか。


 だが、そうはならなかった。



 幼女は何事も無かったかのように横道から現れた。



「全く、100年早いわ」



 幼女らしからぬ謎の言葉をつぶやくと、また歩みを再開した。

その後ろ、横道の奥にはやたら精密だが、イマイチ芸術的ではないポーズの2体の彫像が立っている。

それが何者かは、敢えて言及を控えよう。


 さて、幼女の歩みはちょくちょく中断する。

通りに立ち並ぶ店の品々、道行く人々や店頭で営業に勤しむ店主の掛け声、領主の都には「初めて訪れた」幼女の興味を引く事象には事欠かない。

朝出発したのに、城門にたどり着いた時はもう昼になっていた。



「まっすぐは行けないわね」



 城門自体は開放されているが、門番が二人立っている。

いくら幼女と言っても、通してくれそうにない。

彼女は、あたかも当初からの予定通りであるかのように、道を90度左に曲がって、門から離れていく。

それから数分後、城の周辺から彼女の姿は消えていた。



 城内では昼食の後片づけが行われていた。

以前も記したが城の食事は1日2食、昼頃の正餐(せいさん)と夕方の午餐(ごさん)である。

我らの現代世界では午餐は昼のランチで正餐は夕方のディナーなのだが、ここでは中世と同じで正餐が昼食である。

今はその正餐後の片づけをしているのだ。


 忙しなく働く人々の横、城の中庭を白い服の幼女が周りを眺めながら歩いている。

外に居たはずの幼女はいつのまにやら中に居た。

一人のメイドが気づいて声をかける。



「あら、どうしたのお嬢ちゃん」



 見かけない幼女の出現に、どこからか迷い込んだと思ったらしい。

だが、城壁で囲まれた城の中に迷子が現れると言うのは、ちとオカシイ。



「ん、お姉さん、み使いに会いたいんだけど、知らない?」


「え?!」



メイドは事の異常さにようやく気付いた。



「あ、貴方何者?」


「む、いじわるね、教えてくれないんだ」


「だ、だれ……」



 大声を上げようとした所でメイドは意識を失い倒れた。

幼女はそれを無視して歩き去った。

メイドが倒れているのはすぐ見つかったが、幼女は既に見えない所まで行っていた。


 幼女は城前の広場に出た。

数人の騎士が訓練をしているのが見える。

そして城の中から、騎士や使用人とは異なる服を着た二人組が出てくるのを見つけた。



「あれね」



その二人の元へ向かおうとしたとき、不意に肩をつかまれた。



「何者だ」



彼女が振り向くと、一人の騎士が肩に手をかけていた。



「何するの!」



彼女は振り払うと、走り出す。



「曲者! 曲者!」



 騎士の叫びを聞いて、訓練をしていた騎士も彼女を見つけ向かってきた。

後ろから騎士、前にも騎士が広がって包囲しようとして迫る。


だが、彼女はむしろ嬉しそうである。

まるで鬼ごっこでもしているかのように。


そして目的の二人組がこちらを向いて立ち止まっているのを確認すると、小さくつぶやいた。



「エンジェル・オン」



すると、彼女の頭の上に白い輪が現れ、背中から数センチ離れた空中に差し渡し1メートル程の白い羽が2つ左右に広がる形で現れた。

それは正しくレリアルの天使キリエルがいつも使っているアレである。



「うお、な、なんだ」



騎士達は突然の事に戸惑う。



「えーい」



 掛け声と共に幼女は空に3メートルほど浮かび上がり、向きを変えて人が走る速度を超える高速で飛ぶ。

あっという間に目的の二人の傍を通り過ぎ、5メートルほど離れたところで急停止。

幼女の前には二人組、そこから10メートル以上離れて駆けてくる騎士たち。



「な、なんだ」



 二人組は幼女を見上げて動揺している。

レリアルの天使が城に現れた?


 いや、そうではない。


彼女はニコッと笑うと、右手を左胸前にかざし、叫びつつ右前に伸ばす。



「我が名はティアマト!

豊穣神ム・ローラシアが娘、創造神ティアマト・アドリアなり。

者共、頭が高~い」



 ドヤ顔で目を閉じ悦に入る幼女。

本人にとっては決めポーズなのだろう。



「えーと、神……様……?」



 大英の問いに、ゆっくり降りながら「そうじゃ、神じゃ」と応える幼女。

やはり何処でも幼女は「~じゃ」と語るものらしい。

って、それオカシイだろ。



「本当なのか?」



 秋津は疑いの目を向ける。

無理もない。 その衣服、その輪と羽、いずれもキリエルと同じなのだから。



「むう、疑い深いのね。 そこより突っ込むところがあるでしょ。

あ、そうそう、神官はいる? 神官ならあたしの神性を認識できるはずよ」



衛兵が一人城に向かう。



「もう、全く受けないじゃない。 アキエルに騙されたわ」



 どうやら外見不相応な「~じゃ」に突っ込みが欲しかったらしい。

だが、これだけ異常事態がてんこ盛りだと、そんな所に突っ込む余裕なんで誰にも無いのであった。


なお、神官については呼ぶまでも無かった。

衛兵が報告に入る前に騒ぎを聞きつけ、城からマラーター神官が現れたのだ。



 神官は一目見ただけで、その自称神の幼女を神だと認識した。



「おお、ティアマト様、ご尊顔を拝し恐悦至極にございます」



 感涙にむせぶ神官を見て「うむ」と胸を張る幼女、いや幼神と言うべきか?



「本当に神様なんだ。こんなに小さいのに」


「小さいは余計。

あたしは生まれた時から神なんだから大きさは関係ないの。

全くヒトは草の如く、すぐ大きくなるんだから」


「うん? 草?」



何を言っているのか判らないという表情の秋津に対し、神官が説明する。



「ティアマト様はこう見えて二十歳なのですよ」


「なぬ!?」



 大英達が来る少し前の春に「ティアマトの日」というティアマト神生誕を祝う祝日があり、今年は20回目だったのだ。

ちなみに生誕そのものを祝った祭り(0歳時)は「ティアマトの日」ではない。

祭りの後制定された祝日なので、回数と年齢は一致している。



「それじゃ、毎年祝っていて、もう20回祝ったと」


「はい。 今年は20回目という事で、本来は盛大な祭りをする予定でしたが、戦のため簡素なものになりました」



 しみじみと珍しいものを見るような眼の秋津に対し、ティアマトは不満そうに見上げながら



「珍しくなんかないわよ。 神族はヒトより長命なんだから、成長が遅いのは当たり前でしょ」



そう、語るのであった。



「そういえば、親子なのに名字が違うんだ」



 大英は違うところが気になったようだ。



「うん? 名字? 神に名字なんてないわよ」


「大英殿、ティアマト様の御名の『アドリア』は名字ではございません。

もちろん、ム・ロウ神の『ローラシア』もですが」


「そうなんだ」



 ファミリーネームが無い状態でのミドルネームみたいなものか。

というか別の解釈を大英は思いついた。



「あれか、宮みたいなものか」


「宮?」


「皇族とかが、何とかの宮なにがし、っていうじゃん」


「ああ」


「だから、アドリア宮(アドリアのみや)ティアマト様って訳だ」


「なるほど、よくわかった」


「何なの『みや』って」



逆にティアマトには訳の分からない説明になり、不機嫌そうな顔で大英を見上げる。



「高貴な方の名前の区切りですよ」


「そう、まぁいいわ」



納得するとティアマトは「ここにゲートポイントを置くわね」と言い、コマンドを唱える。



「クリエイト・パーマネント・ゲートポイント」



コマンドに合わせるように近くの地面に光る魔法陣が現れる。



「セット・ユーザー・ティアマト・アドリア・レストラクション」



魔法陣は回転を始め、中央に光が集まると、やがて光も魔法陣も消える。



「コマンド・コンプリート」



一呼吸置いてティアマトは「これで直接ここに来れるようになったわ」と語った。


 ゲートは何処でもかしこでも開けるわけではなく、制限がある。

ゲートポイントがある場所にしか開けないのである。

そうでなければ、街中を歩くことなく、いきなりここに現れたであろう。

そして、誰彼構わずゲートポイントを使うことも許されない。

今回ティアマトは自分専用のゲートポイントをこの城の敷地に設置したのである。


 続いて神官を見て「祭壇はどこ?」と聞く。



「城の中にございます」


「じゃ、案内して。 み使いも来なさい、お土産があるから」


「あ、はぁ」



 大英と秋津は顔を見合わせると、神官、ティアマトと共に神殿部屋へ向かった。

用語集


・草の如く

この場合、意味的に似た言葉としては「青人草」がある。

神から見ればヒトは、ほっといても、勝手に生まれてどんどん増える存在という認識。

ゴキは「1匹見つけたら30匹は居る」なんて言われるし、ネズミ算なんて計算もあるが、それと似た感じ。

長命の神から見れば、100年に満たない寿命のヒトはある意味虫やネズミのような存在かもしれない。

とはいえ、少子化に悩む現代日本を見たら、ティアマトも違う認識を持つ事であろう。

「絶滅危惧種」とか「天然記念物」とかね。



・ゲートは何処でもかしこでも開けるわけではなく、制限がある。

み使い召喚の時にム・ロウ神はいきなり大英の家の中に現れたが、これはゲートとはまた別の魔法。

というか、現れた時点で既に家ごと移動中だったのだがね。


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― 新着の感想 ―
[一言] 本作に感化されて戦車の模型が作りたくなったので、久々(二十数年振り)に作ってみました。 HOBBYBOSS 1/72 メルカバMk.ⅢD(LIC) 中国製ですけど造りは細かく、モールドも…
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