第13話 おっさんズ、ライバルと出会う その6
大英達がゾンビとの戦いに後始末を付けて広場に戻ったところ、監視塔の兵はこれまでとは異なる存在の接近を確認した。
「未確認飛行物体確認!」
マテ、未確認を確認って何を言ってるのか判らんぞ。
それはともかく、鳥ではない空を飛ぶモノが現れたのは初めてのようだ。
大英と秋津が双眼鏡で見ると、翼が付いている獣のように見えた。
まだ遠いため、識別は難しいが、4体ほど飛んでいるのは判った。
「こいつは、何だ?」
「何だろうな。 とりあえず飛んでるな」
「どうする」
秋津が問うが、その時大英は4体の獣とは別に、何か小さいものが飛んでいるのに気づいた。
「あれ、あの4体の真ん中を見てもらえるか」
「うん? ……あ、あれか」
「どう思う?」
それを簡単に言い表すと、何かの前方に小型の環形蛍光灯が付いている。 ……だろうか。
それは、アレに似ていた。
「ありゃあ、天使……か?」
「だよな、だとすれば単なるモンスターじゃなく、向こうの『み使い』って事になる」
「うーん、遂にお出ましか」
「となると、流石にいきなり撃つ訳にもいかんなぁ」
「まぁ、そうだな」
実は二人がム・ロウ神より聞いている「規約」に、このようなものがある。
それは
互いに相手のみ使いを攻撃する事を禁ず
であった。
ただし、これはある程度……そうですね、ルールというものを理解できるだけの知能を有するか、その知能を有する者に直接制御されている存在に限られる。
オークやゴブリンレベルだと、おそらくアウト。
ゴブリンにはボスに従う以外にルールという概念は無いし、オークやコボルトは直感的に理解できる簡素なルールでなければ無理。
少なくとも「敵なのに攻撃しちゃいかん」という高度(?)なルールは理解できない。
という訳で、み使いとお供のモンスターという集団であれば、直接制御されてるだろうから、いきなり撃つという選択は出来ないのである。
それでも、大英は8トンハーフトラック20mm4連高射砲とCRUSADER Mk.III ANTI-AIRCRAFT TANK Mk.III、そしてM42に戦闘準備を発令し配置につかせ、各対空火器に発砲許可を出した。
相手だって挨拶して終わりという事は無いだろうからね。
なお、88ミリ砲は至近距離の相手には使えないから出番はない。
「うーん、シルカが間に合っていればなぁ」
「あれ、この間広げてなかったか?」
「まだサフがけと初期塗装が終わったばかり。 組み立てには着手しとらん」
「そうか、でもアレくらいなら大丈夫だろ」
「まぁ、今見えてるのが全部ならな」
大戦型の対空自走砲と対空戦車、それに戦後型の対空戦車。
外にも対空砲架に付いたM2重機関銃が数門ある。
弾を温存するため、対地射撃もさせない様に規制して来たから、弾薬も十分ある。
ヘリより遅そうな4体の飛行生物くらいなら、問題なく殲滅できるだろう。
まさか音速で飛んだりしないだろうし。
20mm4連高射砲は西、CRUSADERは中央、M42は東に展開し、防空網を完成させる。
密閉型砲塔のCRUSADERを前線に置き、オープントップや、防盾のみの2両を東西からの支援に配置するという考えだ。
射程で考えれば40ミリ砲を積んだM42が中央なんだろうけどな。
こうして対空火器の展開が終わったころ、見えていなかったモノを二人は確認する事となる。
「……何だアレ」
「虫……かな」
「はぁ、ファンタジーな虫か……」
昔テーブルトークで「虫」に酷い目にあわされた秋津は、思わずため息を出した。
「刺す虫でなきゃ大丈夫じゃないか」
「あの数でか?」
ざっと見ても10匹は下らない。
「まー、困ったな」
「ああ」
二人の脳裏に、どこぞの映画でヘリコプターが舞うシーンのBGMが流れる。
飛行集団は村の南壁10メートルくらいまで近づいてくると、止まった。
集団を率いるヒトの様な姿をした者は、態勢を頭を前方にした飛行姿勢から直立に変え、高度20メートルに浮かぶ。
白く短いワンピース。 左右に広がる白い翼。 青いボブの髪。 そして頭上には白く輝く輪。
そして叫んでもいないのに、その声は辺り一帯に届く。
「初めまして、ム・ロウ神の天使さん。 あたしはキリエル。 レリアル様の天使よ」
険しい顔で見上げる大英達を前に、キリエルは優雅に自己紹介をした。
そして彼女の後方上空には4匹のグリフォン、それに羽の差し渡しが1メートルを超える巨大なハエが10匹以上という「空中機動軍」が従っていた。
「それはご丁寧に! でも、ちょっと遠いんですが! あと、首が疲れる!」
大英が叫ぶと、キリエルは「あぁ」という顔をし、高度を5メートルまで下げた。
「そっちには拡声魔法無いのね、これは失礼。 でも大丈夫安心して、そっちの声も増幅するからちゃんと届くわ」
「それはどうも」
「で、貴方が天使?」
「ああ、私が大英」「俺が秋津」「この二人がみ使いだ」
大英と秋津はリハーサルもしていないのに、息の合った回答を述べた。
「そう、じゃこっちも紹介するわね。 スクリーン・オン」
キリエルの声と共に、その左横(当人にとっては右横)に差し渡し10メートルはありそうな半透明の映像投影領域が現れる。
「なっ、まぁ、そうだよな」
一瞬驚いた大英だったが、即座に納得した。
ヒトを空中浮遊させたり、ファンタジーなモンスターを生み出せる技術力があれば、この程度は朝飯前だろう事に思い至ったようだ。
騎士団の面々は動揺しているようだが。
そしてその「スクリーン」にはミシエルとマリエルが映る。
「向こうがミシエルで、こっちがマリエルよ。 どう? そっちも見えてる?」
「よく見えてるよ」
「問題ありませんわ」
これまで戦場を見ていたカメラはここまで村に接近出来なかったが、キリエルがカメラを身に付けて飛んできているため、今までとは違い村の様子もよく見える。
「それで、向こうは上手く行ってるの?」
「それだけど、ダメみたいだ」
「え、なんで?」
「そこの天使さんも、ム・ロウ神に選ばれるだけはあったって事ですわ」
「向こう? 何の話だ?」
秋津が疑問を呈すると、マリエルが答えた。
「実は、貴方方の留守を狙ってオーガ集団に都を強襲させたのですけど、全滅してしまいましたの」
「なん……だと」
マリエルの言葉に驚く秋津。
「まさか、あれだけの戦力を後ろに残して来ているとは、思ってもみませんでしたわ」
(全滅? どうやって知った?)
やれやれと、掌を上に手を広げてがっかりしている女性の姿を見ながら、大英は疑問を持った。
彼は、これまでの戦いから、敵には「全てを見渡せる手段」は無いと考えていた。
なので、最後の一人が「部隊は全滅です」とか報告して倒れたとでも言うのか? そんな不自然な事はあるまい。 という考えだ。
そこへ、フンクワーゲンの兵が大英に駆け寄る。
「閣下、モントゴメリー元帥より通信です。 都にてグリフィンらしき空を飛ぶ獣が1体、高空を旋回していると。 如何致しましょう」
「グリフィン? 何だろう……とりあえず放置で。 追って指示する」
グリフィンが何なのかはよく分からなかったが、モントゴメリーからの話を聞いて疑問に対し一つの推測を立てた大英は、それが正しいか確認する。
「今日は村や都の様子も見れているのですかな」
「ええ、初めて見たけど、車って言うのかな? 沢山あるのね」
辺りを見回しながら答えるキリエルの胸元に、何かアクセサリーの様な物が付いているのが見える。
彼女は見た限り、他にそういった装飾品を身に着けていないため、違和感を放っていた。
(スクリーンの様に目に見えないバーチャルなカメラ(?)という線もあるのかもしれないが、アレがカメラと考える事も出来る。
グリフォンの首にも同様の物が見えるしな)
「それより、都は無事なのか!」
大英とキリエルの「のんき」な会話に秋津が割って入る。
これにはマリエルが答えた。
まー、キリエルに聞いても答えられないしな。
「大変遺憾ですが、都自体は無事ですわ」
「そうか」
安心した秋津に大英は「外に被害がありそうだな」と話しかける。
それを聞いてマリエルは
「どうせ帰ればわかる事ですから、隠しても意味が無いのでお知らせしますが、外に居たそちらの騎士団には被害が出ていますわ。 こちらからすれば、とても戦果とは呼べませんけど」
「それはご丁寧に」
という大英の反応を見て、マリエルは
「これからここで戦果があれば、レリアル様にも悪くないご報告が出来ると思いますわ」
と笑顔を見せた。
そして、マリエルの発言を聞いたキリエルは宣言する。
「それじゃ、お話はここまで! これからが本番! 終わりよければ全てよし! 戦闘かいしぃー」
そう叫ぶと、一気に後ろに20メートル下がって距離を取り、高度を50メートルまで上げる。
「え? 終わり?」
「ご健闘くださいな~」
口をはさむ間の無かったミシエルは当惑し、マリエルは悪役かよと突っ込みたくなる別れの言葉を残す。
そしてスクリーンは消え、ハエの集団が村に飛び込んでくる。
「対空戦闘!」
「総員戦闘開始!」
大英とエリアンシャルの号令と共に、皆は未経験である飛行生物との戦いが始まった。
用語集
・天使とみ使い
今回の話の流れだと、同じものですね。
同じものに陣営によって違う呼び名があるのはよくある事。
なお、レリアル神の天使は天界の天使。という場合は前者と後者で同じ天使でも意味が違いますが。
・悪役かよと突っ込みたくなる別れの言葉
マリエルも相当御冗談がお好ホワッ!?