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模型戦記  作者: BEL
第2章 異世界戦争
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第13話 おっさんズ、ライバルと出会う その5

 話は数刻前に戻る。



 城門の伝令から第一報を受けた領主は緊急会議を招集した。

その会議には領主、執政官、近衛騎士隊隊長、神官、第2騎士団団長、そして第3騎士団の伝令と一人のホムンクルスが参加した。



「……以上になります」



伝令の説明を受け、直ちに対応策が話合われる。

早速口を開いたのは第2騎士団団長であるパガン=バレリアだ。



「なんかはっきりしねぇえ話だが、こりゃあ、敵襲って事でいいんですかい」


「そうですね、本日近隣より騎士団級の集団が来訪する予定はありませんから」


「なら、すぐに迎え撃たなきゃなんねぇな。 第3騎士団は大丈夫なんかな」



執政官の見解を受け、パガンは伝令に問う。



「敵兵力の詳細は不明ですが、騎乗しているので、どう動くか判りません。

詰め所に向かってくれば籠城戦になるんで大丈夫だと思いますが……」


「ま、それはネェな」


「無いでしょうね」



 近衛騎士隊のホラズム=ウエルク隊長も同意見だ。

ちなみに籠城戦とか言っているが、伝令は敵兵とその馬が、自分らと自身が運用している馬より一回りも二回りも大きい事を知らない。

もし向かってきたら詰め所の壁程度、容易に突破されるだろう。


話を聞いた執政官は、大英達の留守を任されているホムンクルスに意見を求めた。



「モントゴメリー殿はどう思われますか?」



 通常ホムンクルスに固有の名前はない。

だが、彼は違った。

それは特定の人物のキットより召喚されたためだ。

「ミヤタ 1/35 MMシリーズ ゼネラルセット」にて制作された一人。

イギリスのモントゴメリー元帥である。



「これは敵の一部なのでは無いかな」


「一部ですか、それはまたなぜ」


「明るくなってから、街道を堂々と目立つ進軍をして来ている。 これが全軍とは思えない」


「そいつぁ、アレか、今来てる奴らは『囮』って事か」


「左様。 此処に呼ばれてこの方、街の周囲を見て回ったが、どの方向からでも進軍可能に見受けられる。

一番移動に不向きに見える南東に広がる森でも密度が薄く、騎兵隊の妨げにはならないだろう」


「では如何しましょう」


「周辺の監視は召喚軍で行うから、見つかるまで第2騎士団は南門外の詰め所で待機してくれればいい。

今迫る敵には61式を、そして南門からはT34を出そう。

こっちの騎士団と同等の兵力なら、戦車1台でも対処できるばずだ。

それぞれの戦車には歩兵隊も付けるし、騎士団の面々も居るので、守り切れると考えている」


「それは心強い」



 決定的戦力とも言える戦車の投入に領主も安堵の声を上げる。

執政官は会議を終わらせ、行動に移るべく領主に確認する。



「それでは、よろしいですね」


「ああ、皆さんよろしく頼みます」



 速やかに行動に移る一行。

61式は速度重視で、近衛騎士隊の先導の元西門へ向かう。

そして61式を支援すべく、その後ろを走るのは、8名の歩兵を乗せたM3A2パーソナルキャリアー。


城門へ先行した伝令により、61式が足を止めることなく進めるよう、城門が開かれる。



 敵兵団は第3騎士団の詰め所脇を通過し、あと500メートルの距離まで迫っていた。

第3騎士団と6ポンド砲の攻撃で6名ほど脱落しているが、なおも24名が突撃してくる。


 敵兵には矢傷がある者も居るが、さして気にしていないようだ。

そして致命的な部位には矢が刺さった様子はない。

別に第3騎士団の面々の運が悪いとか、腕が悪いとか言う話ではない。

単に鎧を抜けなかっただけの話。

結果、腕や脚にしかダメージを与えられなかったのだ。


 脱落した6名のうち2名は6ポンド砲の直撃を受けて即死。(うち1名は馬も死亡)

3名は馬が矢を受けて振り落とされ、孤立したところを囲まれて立ち直る前に数人がかりで討伐。

最後の1名も馬が矢を受けたが、こちらは落とされず持ちこたえたものの、動きが鈍ったためバリスタに撃たれて鎧を貫かれ倒された。


 だが、これが精いっぱいだった。

騎士団との衝突を望まない敵兵団は詰め所に矢を射かけつつ前を通り過ぎてしまったのだ。

脱落した兵も置き去りに前進を優先していた。

そしてここまで近づかれると、城壁の上に設置されている6ポンド砲は俯角が足りず攻撃できない。

さんざん矢を射かけられた第3騎士団にも、追撃する力は残っていなかった。



 騎馬の進撃は早くあと1分もすれば城門に届く。

だが、そんなあと一歩という所で24名の兵団を絶望が襲った。


 城門に現れた61式は、瞬く間に城門から20メートル前進して停止、即座に発砲。

その90ミリ砲より放たれた榴弾は、先頭を走る騎馬を含む5体を一撃で葬った。

突撃隊長を失って混乱状態となった兵団だが、総指揮官は戦車からの攻撃と認識したのか、直ちに対応する。


 兵団は街道の外まで散開しつつ前進する体制に移行し、進軍を継続する。

だが、その程度で何とかなるほど世の中は甘くない。


 数度にわたる砲撃で、兵団は10名を割り込む。

敵が接近したため、61式は砲撃をやめ同軸機銃からの攻撃に切り替えだが、砲塔旋回での追随は難しくなって来ていた。

もうあと1分早ければ61式だけで片付いたとは思うのだが。


 しかし、その事は何の慰めにもならない。

61式の横に停車したM3A2より降車したアメリカ兵が小銃を撃ち始めたのだ。

1発被弾しても、落馬もせずに突進を続けるが、8名の歩兵と1名のドライバーから撃たれているのである。

被弾が1発で終わる訳も無く、2発3発と増える被弾に耐えられず、一人また一人倒れていく。

運悪く61式からの銃撃を受けた兵は一気に数発被弾する事となり、姿勢を維持できず落馬する。 そして二度と立ち上がる事は無い。


 最後の1名が何かの叫び声を上げつつ突撃するが、頭に小銃弾を受け即死、落馬した。

数頭残された大型の馬たちは、逃げ去っていったのだった。



「あー、終わっちまったか」


「あぁ、バレリア卿、今しがた片付いたところです」



 戦いを見ようと城壁の上を西に走ったパガンだが、6ポンド砲が置かれた西端に着いたときは、もう終わっていた。

ササンは悔しがるパガンを見て苦笑する。

そしてその後を駆けてきたモントゴメリーは当然という顔で語る。



「観戦したかったのはやまやまだが、守る事が第一だからな」


「そりゃそうだ、旦那の言う通りでさぁ」



 その時、ほっとした彼らを驚かせる現象が起きた。

城壁上の兵達が騒ぎ出す。



「な、なんだあれは!?」


「空に……空に、ヒョウが飛んでいる!」



 モントゴメリーが見上げると、上空に1頭のヒョウらしき物体が飛んでいた。


いや、正確にはヒョウではない。

ヒョウは飛ばないという意味では無く、翼があったからだ。


 モントゴメリーは双眼鏡でその「翼付ヒョウ」を見てみる。

飛んでいると言っても、結構な高度があるため、視界内に収めるのは容易だった。

そして、それはヒョウに似ているが、頭には鳥のような(くちばし)がある。

その姿は紋章で見たグリフィン……多くの日本人にとってはグリフォンに似ていると感じた。



「なるほど、ファンタジーな存在が現れるとは聞いていたが、ここまで奇想天外なものを実際に目にすると、驚きは禁じ得ないな」



 グリフォンなら、その体はヒョウではなくライオンだとされているが、この地にライオンは居ないようなので、ヒョウに見えたようだ。

というか、頭が猛禽類なので、体だけならヒョウもライオンもどっちでも同じようなものだろう。


 ササンは心配そうに問う。



「モントゴメリー殿、危険は無いのでしょうか?」



 およそ鳥とは呼べぬ獣が飛んでいるという異常事態に遭遇しているのだ。

心配になるのも無理はない。


 改めてよく見ると、首輪のようなものを付けている。

そして1頭だけでゆったりと同じところを旋回している。

特に何かを目標に進むわけではなく、降りてくる様子も無い。



「何とも言えないが、おそらく攻撃を目的とはしていないのだろう」


「そうなのですか」


「攻撃する気なら、もうやってるだろう。 偵察か監視のために飛んでいると推測できる」


「空から監視とは……あのような遠くから一体何の意味があるのでしょう」



 空を飛ぶという「驚くべき存在」の使い方として、偵察や監視というのは謎な行為に思えたようだ。

だが、第1次世界大戦を経験しているモントゴメリーにとっては、まさしく「飛行物体」の適切な使い方という認識だ。



「火とか吹いたり、急降下してきて襲い掛かってこない限り危険は無いが、アレが伝説に言うグリフィンなら、火を吹く事は無いだろう」


「では放っておいても問題ないですか」


「いや、閣下に対処を相談する。 ここの対空火器なら墜とせるが、対空火器の使用は閣下の許可が必要だ」


「対空火器という武器はあのような遠くにも届くのですか。 すごいですね。 それにしても大英様はなぜその対空火器の使用に厳しい制限をかけられているのでしょう」


「それは、わが軍に対空能力がある事が知れる事になるからだな。 対空能力があるという事は、航空機を持っていると推測され得る」


「そうですか。 飛行機(ヴィマーナ)を持っている事を知られるのは、そんなにマズイ事なのでしょうか」


「よろしくないね。 敵もこちらの航空機に対処する手段を講じてくる。 初めて戦線投入する際の奇襲効果も失われる」


「なるほど、判りました」



 ササンも魔導士師見習いという「頭」を使う職なだけに、理解は早いようだ。



 だが、大英達は相談を受けられる状況では無かった。




 そのヒトの様な姿をした者は、村の南壁南側10メートルの距離で高度20メートルに浮かんでいた。


 白く短いワンピース。 左右に広がる白い翼。 青いボブの髪。 そして頭上には白く輝く輪。

そして叫んでもいないのに、その声は辺り一帯に届く。



「初めまして、ム・ロウ神の天使さん。 あたしはキリエル。 レリアル様の天使よ」



 険しい顔で見上げる大英達を前に、キリエルは優雅に自己紹介をした。

そして彼女の後方上空には4匹のグリフォン、それに羽の差し渡しが1メートルを超える巨大なハエが10匹以上という「空中機動軍」が従っていた。


大英と秋津は、どこぞの映画でヘリコプターが舞うシーンの幻聴を感じるのだった……。

用語集


・モントゴメリー

普通のホムンクルスは戦いは出来るが、考察や推測は人間ほど得意ではない。

だが、特定個人のキットからの召喚のためか、現実の「バーナード・モントゴメリー」本人には及ばないが、ある程度高い能力を発揮するようだ。

ちなみに某ゲームの鯖ではないので、力を開放すると戦車軍団が現れて敵を蹂躙するとか、空挺兵の大軍が現れて撃ちまくるといった事は起きない。

ホムンクルス特有の能力(日本語や現地語を操ったり現代兵器についての理解など)は別として、実際のモントゴメリーに出来ない事は、彼にも出来ない。

なお、性格や言動はキット経由で情報を引き出せないらしく、実際の「バーナード・モントゴメリー元帥」とは必ずしも一致していない模様。

それでも、防衛戦は得意のようですね。



・グリフォン

wikiによるとフランス語読みだそうだ。

そしてグリフィンは英語読み。

だからモントゴメリーはグリフィンという、我々にはなじみの乏しい呼び方で呼ぶ。



・第1次世界大戦

初めて飛行機が投入された大戦争。

飛行機は最初は偵察機として使われ、その後「敵の偵察機の活動を阻害する」ために「戦闘機(駆逐機)」が発明された。

空から爆弾を落とすより先に、空から敵情を調査したり、砲撃後の戦果確認などに使われたのである。

だから遠隔攻撃する手段が無ければ、偵察に使うと推測したのだ。



・どこぞの映画

アレですね。ベトナムな感じの映画。

なお、曲自体は映画のBGMではなく、クラシック音楽。

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