第13話 おっさんズ、ライバルと出会う その4
第3騎士団の詰め所では、交代で24時間街道を監視していた。
監視には神獣騎士隊より提供を受けた双眼鏡を使っている。
そして深夜に村が襲撃を受けた翌朝、監視任務に当たっていた従卒は日の出前に街道を進み来る騎乗した兵の集団を発見した。
その数おおよそ30騎。
スブリサの1個騎士団にも相当する規模だ。
そして、騎士団の行軍であれば必ず掲げられる団旗は見えない。
その鎧も見慣れないものであり、第1騎士団が予告なくやってきたという事では無いだろう。
従卒は直ちに仕えている騎士に報告し、騎士は副団長と共に状況を確認、事態を重く見た副団長は団長をはじめ街の自宅にいる団員の元へ伝令を数名走らせると共に、総員起こしをかけ、出動準備にとりかかった。
伝令達は城門で事情を伝え、街の中に入る。
衛兵は事態を伝える為、城へ伝令を走らせる。
第3騎士団の伝令達は各団員の家を回る。
うち一人は団長であるアラゴンの家に到着し、激しく扉を叩き、緊急事態を告げた。
「何だって、正体不明の兵団が迫っていると言うのか」
「はい、おそらく日の出後間もなく詰め所付近に到達すると思われます。 副団長閣下は敵襲と見ています」
「よし、すぐに向かおう、君はこのまま城へ行き、執政官殿にご報告を」
「はっ!」
彼は既に先行した城門からの伝令で第一報を受け取っているであろう執政官に、詳細を報告すべく城へ走った。
「お父様……」
心配そうに見上げている幼い子供たち。
「起こしてしまったかい」
そう話すと、アラゴンはしゃがんで娘の目の高さで向かうと、娘と隣に立つ息子……彼女の弟の頭をなでながら二人に語り掛けた。
「大丈夫だよ。 カスティーリャはお姉さんなんだから、父さんが戻るまでエスパーニャの事を頼んだよ」
「はい、任せて下さいお父様」
姉の隣に立つ弟は力強く彼の父に誓う。
「僕がお姉ちゃんを守るよ!」
「よし、いい子だ」
アラゴンは立ち上がると前例のない事態に心配を隠さない妻に語り掛ける。
「じゃ、子供たちの事を頼む。 なに、心配はいらない、第2騎士団も控えているんだ」
「あなた、都にまで敵が来るなんで、お義父様とみ使い様はご無事なのでしょうか」
同居している彼女の義父ゴートは昨夜遅くに大英達と共に村へ向かっていた。
「神獣騎士隊が負けるはずがない。 きっと村を無視してやってきたんだと思う。
大英殿や父上を倒してきた強敵、という訳ではないだろうから大丈夫だよ」
「でも、それでも、気を付けてくださいね。 何か嫌な予感が致しますわ」
「わかった、グラナダの予感はよく当たるからね、気を付けていくよ」
そして、身支度を整えると馬を出し、詰め所へと急いだ。
アラゴンが詰め所に着いたとき、騎士団は既に出動準備を整え、先遣隊は正体不明の兵団に接触しようとしていた。
「な、なんだあの者たちは……」
近づいて見てみると、予想外に大きな体を持ち、乗る馬も自分たちが今乗っている馬より一回り以上大きなサイズに感じられる。
先遣隊は進み来る兵団に向け叫ぶ。
「止まれ、汝らは何者であるか」
だが、兵団はその呼びかけを無視して前進を続ける。
その様子を見て先遣隊は馬を降り、各々剣を抜き、再度警告する。
「止まれ、止まらねば敵意ありとみなし、必要な対処を行うぞ!」
すると、兵団は歩みを止めた。
そして、馬上で一部は槍を取り出し、一部は弓を取り出した。
「馬に乗ったまま武器を取り出して何をするつもりだ?」
「班長、もしかして、み使い殿が言われていた『騎乗戦闘』をするつもりなのでは」
「馬鹿な、そんな異世界の戦術を体得した兵がこんな所に居るはずが……」
だが、その言葉を言い終わらぬうちに、先遣隊班長は矢を受けて悶絶する。
「ぐあっっ」
「班長!」
「退避!退避!」
だが、退避の間もなく突撃して来た兵に槍で貫かれる先遣隊の騎士と兵。
徒歩の兵と馬上の兵という機動力の差だけでなく、そこにはあからさまな体格差があった。
その兵団の兵は身長2メートルを優に超え、騎士団の兵とは大人と子供程の力量差で踏みつぶす。
結果、騎士団先遣隊は主を失った馬だけが逃げおおせた。
その様子を双眼鏡で見ていたアラゴンは戦慄し、配下の騎士達に指示を出す。
「接近戦を避け、遠距離で弓を撃て、敵は騎乗戦闘が出来る巨人だ!」
従卒達だけでなく、騎士も弓を手に取る。
さらにバリスタも持ち出され、騎士団詰め所の外壁傍に配置される。
詰め所前の街道を通過されれば、敵は都へ到達してしまう。
なんとしても、ここで食い止めなければならない。
街からはアラゴンに遅れて連絡を受けた騎士達が次々と詰め所に到着し、総員が揃う。
だが、騎乗したまま移動する敵兵団はそれまでのゆっくりした進軍を改め、馬の機動力を全開にして走り出す。
それを見て騎士達は動揺する。
「なっ、まずい、敵はこっちを無視して街に向かう気か」
「させるか、バリスタ射撃はじめ!」
第3騎士団に配属されていた4基のバリスタから大型の矢が敵兵団に向け発射される。
だが、バリスタは高速で移動する集団を撃つための装備ではない。
そして漫然と「集団」めがけて放たれた矢は、どの馬にもどの兵にも当たらず、全く効果を示さなかった。
「敵兵団健在!」
「総員、射撃戦はじめ!」
アラゴンの号令で各々弓を撃ち始める騎士団の面々。
最初は射程距離を稼ぐ曲射で、続いて直接狙う撃ち方へと切り替える。
だが、敵は第3騎士団を無視するつもりは無かったらしい。
確かに減速することなく街道を駆けてくるが、そのまま弓を持った兵は撃ち始める。
詰め所にも敵の矢が届く。
それは最初から狙いをつけた直接照準だ。
その大きく高速の矢は鎧を容易く貫通し、一発で団員を戦闘不能にしていく。
「なんという威力だ」
「あの距離から直接狙ってくるとは」
「しかも走る馬上から撃って当ててくるなど……」
第3騎士団が苦戦していると、突如敵の1体が「爆散」した。
爆散と言っても、別に爆発したのではない。
真っ赤に広がったのは火炎ではなく血しぶきだ。
「な、なんだ?」
その破壊された体は右の方に散らばっている。
左から右に高威力の何かが飛んできて当たったようだ。
左から飛んできたという事は、街からという事になる。
双眼鏡を持った従卒がそちらを見ると、城壁の上に煙が上がり、その下に「大砲」が見えた。
「団長! 街の城壁から援護です!」
「おお!!」
崩れかけた士気が回復する。
城壁の上では兵士が6ポンド砲砲身の掃除を行っている。
砲尾を離れ、掃除を待つササンは戦果確認のため双眼鏡を見る6ポンド砲指揮官に語り掛ける。
「どうです、当たりましたか?」
「はい、命中です」
「それは素晴らしい」
距離的には、相手が戦車なら当たって当然な距離なのだが、大きいとはいえ所詮人サイズなので、かなりラッキーだったと言える。
もっとも、砲兵たちは「兵団」ではなく、一人の「兵」を狙って射撃していた。
ラッキーは偶然と同義ではない。
きちんと狙う事が結果に繋がるのだ。
そして、街の向こう側でも戦端が開かれていた。
「来やがったか、モンティの旦那の言ったとおりだ」
都の南門から歩いてすぐの森の手前に第2騎士団の詰め所がある。
もっとも、宿舎の建物があるだけで、塀で囲われても居ないし練兵場も無いし、監視塔も設けられていない。
敵襲が予見されるという事で宿舎横に集まった第2騎士団の精鋭たちは、街の城壁上で監視をしていた神獣騎士隊より届いた「正体不明な兵団発見」の報を受け、意気が上がる。
そして彼らを率いる団長パガン=バレリアは状況確認の為先遣隊を送り出す。
「いいか、こんな裏手からやって来るんだ、間違いなく敵だ!
だから馬を降りるんじゃねぇぞ。 攻撃して来たら全力で逃げろ」
「判ってまさぁ、お頭!」
「お頭じゃねぇ! 団長だ!」
先遣隊は右手を挙げて挨拶すると、兵団へ向け馬を走らせる。
それを見送ると、横に控えているT-34/85を見上げ、その横に立つ男に話しかけた。
「敵は30体は居そうだが、やれますかい」
「問題は無い。 だがT-34だけで事は済まない。 第2騎士団も作戦に不可欠な要素だ」
「それは有難い! センシャだけで終わっちまったら、俺も団員もつまんねぇしな」
それを聞き、およそ軍服とは思えない服(いや、そういうデザインの軍服ではなく、そもそも軍服ではない)を着ている男はニヤリと笑った。
先遣隊は謎の兵団に接触する。
先の第3騎士団に相対した時と同様、質問には答えない。
先遣隊は騎乗したまま警告を発する。
兵団が弓や槍を構えたのを見ると、先遣隊は踵を返して離脱を図る。
その背中に矢が襲い掛かるが、撃たれる事を想定していた先遣隊はそれをやり過ごして詰め所へと戻る。
彼らの背中には木の板を何枚も入れたバックパックがあり、矢による被害を受けない様になっていたのだ。
「お頭~~! 攻撃してきやしたー! 敵と認定でいいっすね!」
「応よ!」
そして先遣隊と入れ替わりに、T-34が前進し、射撃位置を確保する。
準備を整えたT-34は騎馬軍団に向け85ミリ砲を撃ち込んだ。
1発で二頭の馬と馬上の兵が倒され、動かなくなる。
街道沿いではなく、木々の間を抜けて進軍してきているため、密集していないのが困ったところだ。
榴弾と言えども、あまり効果的ではない。
それでも敵は戦車を見て、動揺する。
だが、指揮官の号令を受けると、武器を仕舞い全速力で城門へと突撃する体制を取った。
戦車に攻撃しても無駄だと判っているようだ。
主砲や車体機銃に撃たれて数を減らしつつも、突撃を続ける。
だが、目指す城門前には第2騎士団の荒くれ者たちが弓やハルバードを構え、対騎乗兵戦闘態勢で待ち構えている。
これをどうにかしなければ、城門の突破など夢のまた夢。
さぁ、どうする。
だが、結果的にその心配をする必要は無かった。
なんとかT-34の脇を抜けた彼らは戦車とは全く違う方向からの銃撃を受けて、次々と倒れる。
街の城壁上でアメリカ歩兵がライフルを撃っているのだ。
次々と数を減らす敵兵団。
その2メートルを超える体躯なら、白兵戦に持ち込めば圧倒的強さを発揮できたであろう。
だが、前方からの弓、上方からの小銃の攻撃で部隊は壊滅したのであった。
パガンは全体指揮を執った男に語り掛ける。
「旦那! 話がちがくねぇですかい、全然見せ場が無かったんだが」
「それは申し訳ない。 対応策が想定よりうまく行ったようだ」
「ま、勝てばいいよな。 これからも頼むぜ、モンティの旦那!」
そして街道から来た敵に対処するため、街の西門が開かれて61式戦車がその姿を現した。
用語集
・街の自宅にいる団員
新入団員や独身者の多くは詰め所にて生活している。
ベテランや家族のいる団員は自宅で生活し、詰め所に通勤している。
ただし、自宅生活者の1/4は当直と称して数日交代で詰め所に寝泊まりする。
団長または副団長(定員2名)はうち1名が当直になる。
・木の板を何枚も入れたバックパック
用途から言えば、母衣的な物。
矢に対する対処法はちと違うが。
え? 母衣が判らない? それは検索してください。
誤字修正
「お頭じゃるぇ! 団長だ!」
↓
「お頭じゃねぇ! 団長だ!」