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模型戦記  作者: BEL
第2章 異世界戦争
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第13話 おっさんズ、ライバルと出会う その1

 その日、天界にて働く天使モリエルの元に1通のメールが届いた。

「作戦概要」というタイトルのそれは、レリアル神に言われてミシエルがまとめた物である。

モリエルは自らが最も信頼する部下にそれを見せて、感想を求めた。



「どうだい、マリエル君。 君の感想を聞きたいな」


「これはダメですね。 失敗するでしょう」



マリエルと呼ばれた彼女は、メールを一通り見ただけで、少しも考える事無く断言した。



「センシャの力を全く理解できていません。

いくらゾンビがダメージを気にしないと言っても、五体バラバラに破壊されれば何もできません。

超回復のトロールとて、一撃で倒されれば、そこから回復するような事はありません」


「そこまでの物なのかね。

見ればオーガには鉄製の盾を持たせる計画のようだが」


「その程度で防ぐことは出来ません。

相変わらず密集隊形で行くようですから、1発でオーガが倒され、次の1発で分隊ごと消滅します。

前は1発で分隊壊滅だったのが2発に増えるだけです。

意味はありませんね」


「手厳しいね」


「そもそも、作戦目的がありません。

目的なく何をする気なのでしょう」


「あー、そこも気になるか」


「漫然と新兵力をつぎ込んでも、結果は変わりません。

センシャが脅威と判っているのですから、センシャを封じる方法やセンシャが居ても問題ない戦い方を考えるべきです。

しかし、この概要では、何も触れていません。

鉄の盾程度では問題は解決しません」


「確かに。 君の言うとおりだ」


「戦力の強化も満遍なくというのは悪手てす。

順番に階段を上るように強化すれば良いという物ではありません。

重点項目を決めて、集中すべきです」


「はぁ、レリアル様が君を欲しがる訳だ」



モリエルの元にはレリアル神から「マリエルを地上に派遣したい」と要請が来ていたのだ。



「レリアル様が(わたくし)を?」


「ああ、天界で(いくさ)について理解があるのは、君くらいのものだからね」



 以前レリアル神は「創造神」であって「軍神」ではないと記したが、そもそも今の天界に「軍神」は居ない。

そのため、戦いについて「業務」として研究している天使は一人もいないのである。

だが、ただ一人マリエルだけは、過去に存在した「軍神」が遺した書物を「趣味」として読んでいたのだ。

それを知っていたレリアル神は彼女を頼りにしたいと考えたのである。

まぁ、実践を伴わない書物だけの知識であるが、その辺りは大英達とて似たような物である。



「どうだろう、僕としては君を派遣するのは手痛い所だが、外ならぬレリアル様からの直々の要請だ。 君にとっても悪くない話だと思っている」


「判りました。 地上に参りましょう」


「ありがとう。 活躍を期待しているよ」


「努力いたしますわ」



*****



 秋津教室座学バージョンが開催されてから15日が経過していた。

大英達は昼前に村へ行き、その日の召喚を行う。



「よし、これで牽引車は用意できた。 夕方は砲を召喚しよう」


「これは、もしかして対空兵器というものですか」



今回同行して来たエリアンシャルは、現れたハーフトラックを見て問う。



「ええ、あの4門の機関砲で空の敵を撃ちます」



 それは「ミヤタ 1/35 MMシリーズ ドイツ・8トンハーフトラック 4連高射砲」から召喚したものである。

つまり、対空自走砲であって牽引車ではない。

だが、諸般の事情で牽引車の役割もさせられる事になっている。


ちなみに、こいつを村で召喚した理由であるが、本職の牽引車ではない(元の牽引車より重くなっている)ため、街道を引っ張っての長距離の移動は避けたいという判断である。

何も牽引せずコレ単体なら、別に村まで来なくても問題はなかったのだがね。


 その後、エリアンシャルは引き継ぎのために詰め所へ向かう。

大英達もそれに同行する。



「第1騎士団団長シュリービジャヤ=エリアンシャル入ります!」


「第3騎士団団長アラゴン=ボストルです。 ご苦労様です」



 二人の団長は握手の後、引き継ぎ作業にとりかかる。

この日、村の警備は第3騎士団から第1騎士団に交代する。

そのため、第1騎士団の騎士達も先行して村に来ていた。


 そして召喚軍でも交代を行う。


アメリカ歩兵とドイツ空挺兵は都に移動し、代わりに日本陸軍歩兵4名とイギリス歩兵(WW1)4名、それにロシア歩兵4名が村に配置となった。


日本陸軍歩兵は「ミヤタ 1/35 MMシリーズ 日本陸軍歩兵セット」からの召喚である。


イギリス兵もミヤタが販売している1/35のキットだが、MMシリーズではない。

輸入品をパッケージした「WWI イギリス歩兵・小火器セット」という商品だ。

ランナーは3枚。 歩兵は1枚で、武器セットは2枚。 うん、武器セットに歩兵が付属していると思うのが正しい(個人の感想です)。

今回はその付属する多数の火器と共に村に来た。

日本兵・イギリス兵共に指揮官の火力が不足している(方や刀、方や指揮棒)ので、予備火器は重要だ。

というか、弾薬が少ないから銃の数で補うという始末だがね。


そしてロシア歩兵……というか、ソ連歩兵だよな、コレ。

これもミヤタの1/35MMである。

短機関銃と軽機関銃のみという偏った編成だ。

まぁ、連射の出来ない武装の日本兵とイギリス兵に組み合わせるので、丁度良かろうという判断らしい。


ちなみに交代するのは疲労とかそういった関係ではなく、前線を経験させるため。

ホムンクルス達は別に疲労して士気が下がると言った事は無いのでね。



 昼食の時間となり、面々は歓談しながら食事をとる。

秋津は最近の情勢について大英に話しかける。



「そういえば、最近襲撃が無いが、どうしたんだろうな」


「さあなぁ、敵じゃないんで事情は判らんが」


「侵攻を諦めたんじゃ」


「それは無いでしょう」



ビステルの能天気な推測をエリアンシャルは即否定する。

大英と秋津もその推測には賛同しない。



「諦めてたら、神様から何か連絡とかあるんじゃないのかな」


「そうだな、戦いが終わったら俺ら帰る事になるんだし」


「そうですよね。 でも、戦いが無いのは良い事ですよね」



話を聞いてやや動揺の色を見せつつ、パルティアは平穏な時が続くのを歓迎する。

だが、大英は違う見解を示す。



「必ずしも良いとは言えないかな。

戦いが無い時間が長く続くという事は、それだけ長く『準備』しているって事だからね」


「という事は」


「次の戦いは、それだけ激しいものになる」


「そうですか……」



沈むパルティアを見て、エリアンシャルはフォローする。



「大丈夫ですよ、『準備』が進むのはこちらも同じですから」


「そうじゃな、我々は勝つ。

神獣騎士隊と騎士団、どんな敵が来ても後れを取る事は無い」



ゴートも力説する。



「そーだよー、あたしたちが召喚してるんだから、大丈夫だって」


「はい、心配かけてすいません」



姉の励ましを受け、笑顔を取り戻すパルティアであった。



 午後になり、引き継ぎを終えた第3騎士団の面々は都へと出発し、大英達はやや早めに本日2回目の召喚に臨む。


現れたのは大きな大砲。

十字型の基部の上に背の高い砲が据えられている。

そして周りにはオートバイを含む9名の兵士。

そう、コレの元は ミヤタ1/35 ドイツ88mm砲、Flak37である。



 無事召喚を終え、一行は車と馬車に分乗し都に戻る。

今日は泊まりではないので、早めに召喚を済ませたのだ。

そうして城での夕食に間に合うよう都に帰る。

移動については燃料節約の為、特に急ぎでないから馬車だけにしたかったが、振動が厳しく完成した模型の運搬に不向きと考え、車も併用している。


 無事都に戻り、いつものように城で夕食となったのだが、食事中雑談の中、偶然大英達はある事実を知る。

それはこの地の人々にとっては常識で、敢えて説明する必要の無い事であり、二人にとっても、考えさえすれば容易に推測出来た話である。

ただ、それは意外な事として大英と秋津は受け取った。



「え? そうなの?」


「うそ……だろ」



 それは、ム・ロウ神とレリアル神は「孫と祖父」という関係だったという事実だ。

21世紀に生きる二人には「家族間で戦争」という事象が想像の範囲外だっただけで、言われてみれば、神話では身内同士での争いが普通どころか、メジャーなエピソードだったのだから、「現実」でも同じ可能性がある事は十分考えられたんだよね。



*****



 ミシエルの研究室に新たな天使が現れた。

細い目とセミロングの銀髪、そしてエプロンドレスを着ている彼女の姿は、天使というより「お手伝いさん」といった風体だ。



「マリエルです。 こちらでお世話になる事になりました」


「よう参った。 よろしく頼むぞ」



レリアル神は着任を歓迎する。

一方、ミシエルは何しに来たのかよく判らない風だ。



「マリエルは何をするんだ」


「システムサポートと作戦立案じゃな」


「へぇ」


「何と言っても『モリエルの右腕』とまで言われた天使じゃからな。

こっちに呼ぶのも苦労したわ」


「ん? 作戦立案?

作戦ならこの間立てたけど」


「その作戦は却下じゃ。 マリエルがやり直す」


「そ、そんな、何か問題でも?」



 予想外の事態に慌てるミシエル。

一方、マリエルは静かに「問題点」の指摘を開始する。


委細は繰り返さないが、その指摘にミシエルはぐうの音も出ない。



「じ、じゃあ、マリエルはどんな作戦を考えてるんだ」



いつ終わるか判らない指摘を打ち切りにしようと、逆に質問する。



「そうですね、まだ素案ですが」



そう告げて、マリエルは作戦提案を行う。

その内容は……ミシエルの想像のはるか上を行っていた。



「ま、これにちょっと隠し玉を追加してやれば、かなりいい所まで行けるんじゃないですか」



 その提案に絶句するミシエル。

「あちゃー」という顔のキリエル。

目を閉じ、うんうんと頷くレリアル神。



 気を取り直したミシエルは疑問点をぶつける。



「村を落とす前に都を強襲って、そんなやり方がうまくいくのか」


「あら、ミシエルさんも都にオーク・レンジャーを送って攪乱しているじゃないですか」


「あれは密かに少数を送って城壁の外で活動させていただけで、中を攻めたりはしてないよ。

それに敵の天使が現れてからは、そんな余裕もなくなったし」


「そうですか。 ところで、ミシエルさん、なぜ村が落ちないか分かっていますか?」


「え、それは……」



自分が負け続けているため落ちない。

それを思い、目をそらすミシエル。



「言っておきますが、戦いに負け続けているからではありませんわよ」


「違うのか?」



背けていた顔をマリエルに向け、驚きの目で彼女を見る。



「違います。 いいですか、いつも戦場としている平地は元は何でしたか」


「えーと、畑だったかな」


「そう、畑です。

その畑を失って、村の人間たちは何を食べているのでしょうね。

しかも、失った2つの村からの避難民を収容し、増援の騎士や兵士まで居るのに」


「! 都から食い物が運ばれているのか!」


「そうです。 そして都からの食糧供給が途絶えれば、村は干上がります。

まぁ、干上がるのを待っていても良いのですが、ここは一気に畳みかけて敵の戦意をくじくのが上策と見ました」


「……」


「向こうの天使は戦意を無くさないでしょうが、村はともかく、都にも損害を出せば騎士団は都に引きこもるでしょう。

そうすれば、情勢は大きく変わりますわよね。

食料を運ぶにしても道中の護衛が必要になりコストが増えますし、そもそも都は物資の備蓄に動くでしょう。

そうなれば、供給停止となる可能性は十分ありますわ。

どこかが失敗して痛み分けても、食糧供給は減るでしょうから、村が落ちるのは時間の問題ですわ」


「お、鬼だ……」


「あら、失礼な。 真正面から勝負するばかりが戦いではありません事よ」



やりとりを見ていたキリエルも苦笑しながら感想を漏らす。



「まー、マリエルは昔から容赦無いからなー」


「効率的と呼んでくださいまし」


「さすがじゃな、パシフィアの書物をよく研究していると聞いたが」


「はい、戦神パシフィア・バールバラ様の遺されし書、いつも見ていますが、まだまだ分からない事ばかりです」


「アレの考えを理解できる者は、今やほぼおらん。 お主が天界一じゃろうて」


「そんな、(わたくし)などまだまだですわ」



既に故神となって久しいパシフィア神(自らの一人娘)の事を思い出しつつ、彼女の研究の後継者とも言える天使が出現している事に涙するレリアル神であった。



「よろしい、マリエルの立てた方針で進めるがよいぞ」



レリアル神の決裁を受け、マリエルの立てた作戦を進める事となった。

用語集


・神話では身内同士での争いが普通

ギリシャ神話とか見れば、親子で戦うのが当たり前に見えると言う。



2021/03/06 8トンハーフトラックと88mm砲に関係する部分を変更。


変更前

ちなみに、こいつを村で召喚した理由であるが、牽引対象に横幅がある棒状の部位があり、街道を引っ張って来るのはちと大変という判断である。

コレ単体なら、別に村まで来なくても問題はなかったのだがね。


変更後

ちなみに、こいつを村で召喚した理由であるが、本職の牽引車ではない(元の牽引車より重くなっている)ため、街道を引っ張っての長距離の移動は避けたいという判断である。

何も牽引せずコレ単体なら、別に村まで来なくても問題はなかったのだがね。


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