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模型戦記  作者: BEL
第2章 異世界戦争
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第12話 おっさんズ、次に備える その3

 大英の家の隣に建設中の「み使いの館」だが、外観的にはほぼ完成に至っていた。

まだ内装が未了で、鋭意作業が進んでいる。

そして、その東隣、城の敷地の西口から見て奥側に、もう一つ建物が建てられていた。

2階建てで、1階は西側にしか壁が無く、他は柱だけ。

2階は普通に壁があった。

こちらの建物は工数が少ないためか、ほぼ完成しており、今日はその1階を予定していた用途で使う事となった。


 時間になり、秋津はその1階にやってきた。

彼が現れる前に、その場には各騎士団から希望者が集まっていた。

秋津の付き人よろしく一緒に現れたビステルは、大英より渡された段ボールに入った何冊もの本を設置されたテーブルの上に並べる。



「おお、これが!」


「こんな緻密な絵は見た事が無いぞ」


「おい、シッキム、お前これを独り占めしていたのか?」



 集まった騎士達は本を見ながら感嘆の声を上げる。

「本」自体が珍しいのだが、その装丁や羊皮紙とは異なる紙質、そして載っている写真は騎士達を驚かせるに十分なものであった。


その声は「み使い担当」として日常的に大英達と一緒に居る彼、シッキム=ビステルへの羨望の声という形でも出てくる。

とはいえ、この集まりを提案したのも、外ならぬビステルなので、その声には非難の色は無く、感謝の類である。


ビステルは二十数名の騎士達に声をかける。



「さぁ、諸先輩方!

各々好きな本をご覧ください。

どれも読めない文字で書かれていますが、気になる所は秋津殿が答えてくれます」



「秋津教室 座学バージョン」の開始である。

いや、座学といっても、みんな立っているけどな。


ちなみに、今回「教科書」として提供された本はというと……


 軍事総合誌

  「丸 1986-1 現代の艦載飛行隊 タスクフォースの先兵」

  「丸 1998-2 自衛隊2001年 近未来軍事学」

  「丸 2017-3 61式戦車 国産MBT伝説」

  「オールド・ミリタリー No.63 T-34中戦車」

  「オールド・ミリタリー No.69 ヤークトパンター&IV号駆逐戦車」

 陸上車両雑誌

  「AFVジャーナル増刊 WAR VEHICLE REPORT Vol.51 対空車両」

 艦船誌

  「諸国の艦船 1990-3 Vol.419 90年代の艦載機」

  「諸国の艦船 2017-1 Vol.851 護衛艦総覧」

 航空機関係

  「傑作機の世界 Vol.196 強風・紫電・紫電改」

 歴史読み物

  「歴史諸説 2019-4 VOL.154 ドイツ西方総軍の落日」

  「世界史と私 Vol.10 第三帝国戦車全史」

 コミック本

  「太田源画著 KANTO WARS」

  「松山八郎著(原作:くみすけ) 日本国大転移 1巻」

 模型誌

  「モデル・アッセンブル 2016-10 建艦技量大全」

  「海軍工廠 No.42 戦艦主砲配置考察」

  「モデル・ワールド 2006-4 Vol.702 海の守り 海上自衛隊護衛艦」

 その他

  「五實新穂著 武装便覧」


など17冊であった。


 とりあえず、「戦う人」である騎士達に「近代兵器」を教えるという目的で……いや、建前で適当にまとめたものである。

最後の本は紀元前から19世紀までを扱っているのでちょっと趣向が違うけど。

それにしても陸で戦う騎士に見せるにしては、艦艇関係が多すぎだ。

特に模型関係は全部海ものという始末。

まぁ、これでもセーブしたらしいけどな。

ちなみに、本人によれば「空母には飛行機だって載ってるじゃないか。一石二鳥」だそうだ。

いや、騎士に飛行機の話をされてもどうかとは思うが。


 騎士達は各々手に取り、熱心に見入る。

驚いたことに、海や空のものにも興味を持っているようだ。

残念ながら本の数より人数が多いため、一部は二人で見ている。

そして、ひっきりなしに「秋津殿! 秋津殿!」と呼び、説明を求めたり、文章の読み聞かせを要望する。

中々にカオスで大忙しであるが、秋津は楽しそうである。



「これは……中々興味深い。

秋津殿、この棒、いや砲身ですか?

センシャと違い2つ付いていて、強そうですね」


「ああ、それは対空戦車だよ」


「タイクウ……、もしかして空から敵が来る事があるのですか」



今回の秋津教室には第1・第2の両騎士団長も参加していた。

第1騎士団長シュリービジャヤ=エリアンシャルは、対空車両の本を見ながら秋津に質問する。



「ああ、来るよ。

現代戦では制空権……空をどちらが押さえるかで、戦いはほぼ決まると言っていい」


「へー、イマイチピンと来ねぇな」



第2騎士団長パガン=バレリアも話に加わる。

パガンの頭の中では小鳥が頭の上を飛ぶ様子しか想像できていない。



「飛行機は脅威だぞ……って、飛行機の本、全然ねぇな」



総合誌には飛行機は載っているし、紫電改の本もあるのだが、いかんせん人数が多く、自由になる本は無い。

秋津はビステルを呼ぶと、伝言を頼む。



「英ちゃんに、飛行機の本を何冊か追加してくれって、伝えてくれ」


「了解しました」



ビステルは大英の家へと走る。



「全く、飛行場作ってるってのに、飛行機の説明せんでどうするよ」



 そうして、5冊ほど航空機の本と、1/100の模型が一つ追加された。

本の中には近年のミリタリー雑誌だけでなく、40年も前の子供けの本もあった。

「パンサーバックス 世界の傑作戦闘機」で、第1次大戦の複葉機から、当時最新鋭のF15まで載っている。



「おおっ、こんな物があったのか。懐かしー」



秋津は騎士に渡さず自分で読み始めてしまう。

そんな彼の肩越しにエリアンシャルが覗き込む。



「秋津殿、その小さい本は?」


「ああ、すまんすまん、久しぶりに見たものでつい見入ってしまった」


「どれどれ」



バレリアも横から見ようと迫る。

ちなみに「小さい」と言うのは、他の雑誌類がA4版なのに対し、B5版だからであろう。



「これは他の本とは違い、子供向けなんだ。

俺らが子供の頃出た古い本だ。

こんなものまで取ってあるとは、物持ちが良い奴だ」


「そいつは、大事な本だな」


「いやいや、バレリア卿、どの本も大切な本ですよ」



そう言うと、エリアンシャルは皆にも聞こえるよう大きめの声で「どれも貴重な本だから、丁寧に取り扱うように!」と告げた。

騎士達も「承知しております! 団長!」「委細承知!」と応えた。



「おう、ありがとう」


「いえ、貴重な書物を借り受けるのですから、当然です」


「じゃ、これも二人で見てくれ」



そう告げると、「世界の傑作戦闘機」を二人に渡した。


一方、他の騎士達はテーブルに載せられた1/100のFw190Aに注目していた。



「秋津殿、これが飛行機(ヴィマーナ)というものですか。

どのくらいの大きさなのでしょう」


「ああ、ここに人が乗るんだ。

つまり、そういうサイズだ」


「これは、かなり大きいのですね」


「こりゃあ、センシャよりずっとデカイんじゃねぇか」



それを聞いてエリアンシャルもFw190Aを見る。



「これも、そのうち現物を見られるのですね」


「いや、コレはダメらしい」


「え、なぜです?」


「なんか『完成品』は召喚対象外なんだそうだ」


「完成品?」



 その「1/100 Fw190A」はプラモデルを組み立てたものではなく、ほぼ完成状態で書店にて販売されていたものである。

その名を「隔週刊 エアフォース・コレクション」という。

毎号3機種を取り上げて解説する薄い本と、そのうちの1機種のダイキャスト模型がセットとなっているものだ。

その号ではFw190のほか、B-52とサーブ37ビゲンが解説されていた。


モデルは塗装済みで、ほぼ出来上がっており、プロペラ・機関砲・ピトー管などをつけて、台座を着ければ完成というもの。

ジェット機なんかだと、台座に着けるしか作業が無い事もある。


コレが対象外なのは、材質(金属製)の問題ではなく、完成品である事がアウトのようである。

大英の作業が一定以上程度無い事には、リアライズシステムが受け付けてくれないのだ。

アレですね、「模型愛」が注がれていないからですね。



「そうですか、それは残念ですね」


「召喚出来る飛行機も沢山あるから、心配ないよ」


「それは結構な事ですね」



 さて、秋津教室が盛況の中、大英はと言えば、装甲車の仕上げを行っていた。

指揮通信車「Sd.Kfz 223 フンクワーゲン」だ。


組み立てを完了し、塗装の不備にタッチアップを済ませていたので、残る工程はスライドマークを貼るのと、トップコートだけである。

完全に乾くのを待つため、今日はトップコートを行わない。


 マーク貼りが終わったころ、召喚の時間となった。

今日の昼の召喚は「ジェリカンセット」に入っているドイツ軍のジェリカンを一つという控えめなものである。

別に大英が疲労困憊だとか、パルティアが風邪ひいてるとかいう話ではない。


実は今回初めてテストする「機能」があるのだ。

その小さなジェリカンを見てリディアは意外そうに発言する。



「あれー、今回はコレだけなの?」


「そう、コレだけ。

今回は新しい事をやるんで、これ一つだけにしたんだ」


「新しいコト?」


「そ、これはジェリカンと言って、戦車とかが使う燃料が入っている入れ物なんだ」


「ネンリョウ?」


「えーと、みんなもご飯食べたりスープ飲んだりしないと動けなくなるでしょ。

戦車とかの車両は燃料が無くなると動けなくなる」


「へー、じゃセンシャのゴハンなんだ」


「だけど、車両によって、使える燃料が違うんだ」


「そうなの? 好き嫌いはいけないなー、大きくなれないよ」


「それ、姉様が言います?」



 リディアの言葉に珍しく突っ込むパルティア。

その目が胸元を見ているのに気づくと「身長よシ・ン・チョ・ウ」と返す。

2つも年が違うのに胸のサイズで負けている姉であった。



「ま、まぁ、エンジンが違うと使う燃料が違うのはしょうがない事なんだ」



 要は、ガソリンを使うガソリンエンジンと軽油を使うディーゼルエンジンという事だ。



「それで、召喚時に中身を指定できるので、それを試したいのさ」



ちなみに今回に限れば、水を指定する事もできる。

普通に川から取ってこれる水を指定する意味はないけどな。

キットによっては水用・ガソリン用と中身が決まっているジェリカンだったりするので、そちらは指定不可だが。


かくして召喚が実行された。

大英はガソリンをイメージして儀式に臨んだ。



「どうです? うまくいきましたか?」



パルティアに促され、現れたジェリカンの中身を確認する大英。



「うん、判らん」



大英に判るのは「油である」という事だけであった。

61式の車長と数日前に召喚していたウィリスMBのドライバーを呼んで、確認してもらう。

車長は匂いを嗅いで判断する。



「閣下、これはガソリンであります」


「おお、ありがとう。 良かった、成功だ」



とりあえず、実証試験はOKである。

この中身を指定するという召喚に成功したことで、補給について一つ明るい材料が手に入ったと言えよう。

「ガソリン足りねー」と言ってドラムカンを召喚したら「中身軽油でした」では困りますからねぇ。


車両なら燃料・弾薬満載状態で召喚されるから、ジェリカンも満タンで召喚されると想定していたが、その通りで良かった良かった。

ジェリカン本体だけで中身空とかだと無意味ですから。


 その後、夕方の召喚ではB.M.W.R75を召喚した。

ジェリカン召喚が想定と違った場合に備えて、作っておいたバイクである。

現状村と都の連絡はKS750というバイクを走らせているので、その予備とする。

そう、ジェリカンのガソリンはKS750に補給するために用意したのだ。


ガソリンの用意はできたけど、予定を変える必要も無い。

それに、そのうち空港が出来れば、そっちにも連絡が必要になるから、無駄ではない。



 秋津教室は午後も継続され、好評の中終了の時を迎えた。

そして、ここで新しい教室の提案がなされた。

それは「日本語教室」である。


 騎士達も本を見て、自分で読みたいと思ったのである。

とはいえ、異なる言葉を使う者との接触が無い騎士達には、語学の概念が無い。

本来の任務もある中、日本語を読めるように習得するのは、かなりの困難が予想された。

そこで、各騎士団から1名と、ビステルの計4名が教えを乞う事となった。

各騎士団では希望者を募り、誰がその1名になるか、近日中に決めるようだ。



 こうして各々「次」への準備が進む。


「平和とは次の戦争のための準備期間」なんて言葉があるが、正に平和なひと時であった。

用語集


・中身が決まっているジェリカン

MMシリーズの「ドイツ・ドラムカンセット」では、中身を示す文字列が刻印されている。

近年のキットは精密なのだ。

例によって、コレも大英は在庫として保有している。

ちなみに「蛇口の付いた水道管」も付属しているが、コイツを召喚しても、当然水は出ない。



・「油である」という点だけ

ガソリンにはそれなりに濃い色が付いているが、軽油は薄い色である。

とはいえ、元々色が付いている訳ではない。

識別用に色を付けてあるが、残念ながら大英の知識にそれは無い。

それが第二次大戦中のドイツでも同じだったのかは不明だが、どちらにしても金属製の入れ物は光を通さないため、色がついていてもどちらかは判りずらい。


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