表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
模型戦記  作者: BEL
第2章 異世界戦争
30/238

第11話 おっさんズ、進化する敵に対処する その4

 撤退を続けるSASジープ。

それを追うゴブリンと狼。

既に「光る誘導弾」の射程外となったのか、それとも次弾を撃つまでえらく時間がかかるのか、今は魔法の矢は飛んでこない。

村を守る壁の前に布陣している歩兵隊は軽機関銃と小銃を構える。


 ジープは村の壁まで100メートルの所で、左に曲がり、そのまま西に向け走る。

なんか毎度左に曲がっているように見えるが、気のせいではない。

実は特に理由が無い場合、常に左に回避するように指示しておいたためだ。


 後を追うゴブリン達も向きを変える。

だが、彼らは村に近づきすぎた。

向きを変える前に前方に兵士が居るのを無視するべきでは無かった。


 しかし、それは酷という物かもしれない。

近づいてなお、100メートル以上の距離があり、弓が当たる距離では無かったし、車以外からこの距離で撃たれた事も無いのだから。

しかし、一部の狼は殺気を悟ったのか、追跡をやめ兵達に向かう。

いきなりの変針に付いていけず、振り落とされるゴブリンも出る。

その結果、ゴブリン・ライダーの集団は統率が崩れる。



「総員、射撃開始!」



 指揮官の号令と共に、2脚の付いたMG34軽機関銃が火を吹く。

伏せた歩兵たちも小銃を発砲する。

横で同じく伏せている騎士団の兵達は、驚きの目でそれを見る。

初めて実戦での銃器の発砲を至近距離で見たのである。

遠くでジープや戦車が何かしているのを眺めるのとは訳が違ったようだ。


 自分たちとは全く異なる戦い方。

伏せた姿勢を取り、その姿勢のまま敵を撃つという。

遥か彼方で次々と倒れる敵。


 ジープを追うのをやめ、こちらに向かってくる狼達。

背中のゴブリンは既に撃たれて居なくなっているが、それでもなお闘志をむき出しに迫る。

いや、余計な荷物が無くなった分、足早に近づいてくる。

だが、そんな獣も銃の前には太刀打ちできず、次々と血を流して倒れる。


 騎士団の兵達は、次第にその心にくすぶっていた疑問が明確なものに変わって来る。



(自分たちは必要なのだろうか?)



 だが、ゴブリン達を動かぬ肉塊に変える射撃は、一人また一人と終わっていく。

とうとうMG34までもが沈黙した。

別に被害を受けたのではない。


弾切れである。


 ゴブリンを倒しても、狼は構わず進んでくる。

狼を倒しても、振り落とされたゴブリンは立ち上がって前進を止めない。

結局、両方とも撃たねばならない。

それは弾薬消費を2倍にする事となった。


 それでも、敵が全滅していれば問題は無かったのだろう。

30組60体を数えたゴブリン・ライダーと狼だが、その多くはジープやホムンクルス兵たちの射撃で倒れている。

それでも、手負いも含めてまだ10体以上が脅威を与えていた。


 指揮官は命令を出す。



「軽機撤収! 残り総員着剣確認! 白兵戦に備え!」



 立ち上がり、2名の兵士はMG34と共に下がる。

そして銃剣を用意する兵たち。

小銃の中には最初から銃剣が付いているものもあるし、今取り付けている兵も居る。

それも程なく完了し、撤収した2名を除き、指揮官を含め4名は白兵戦準備を整える。

一方、騎士団の兵達の動きは鈍い。

それを見たゴートは息子に向いて語る。



「アラゴン、何を呆けている」



射撃により、次々と倒れる敵を見て茫然としていた騎士団長アラゴンは、我に返ると兵達に向かって叫ぶ。



「お前たち騎士団の誓いを忘れたか! 総員弓構え! 敵を近づかせるな!」



慌てて立ち上がり、矢を取り弓を構える騎士団の兵たち。

指揮を執る騎士の号令が響く。



「放て!」



矢に貫かれ、7体のゴブリンと狼が倒れ、ゴブリンは全滅した。

しかし、4体の狼が突入してくる。



「総員、剣を取れ! 神獣騎士隊に後れを取るなよ」


「おー」



 第3騎士団の騎士と兵、それにホムンクルス達は狼との白兵戦に突入する。

騎士団にとっては見た事も無い獣との戦い。

だが、多勢に無勢。

狼たちは全滅。兵達は全員健在である。



 分断されてゴブリン・ライダーを失ったオーク達だが、ジープが射程外に逃げて戻って来ないため、重盾を倒して牽引モードとし、再び進軍を開始していた。

その左翼にSASジープが姿を現す。

左へ左へと回って、西側より帰ってきた形だ。


 オーク達は左を向き、重盾を立てて迎え撃つ体制を取る。



*****



「よしよし、カメラを左に向けて」



「的な物」はある程度撮影方向やズームを調整できるようだ。

敵の車がやって来る方向を映す。

それに映るジープを見てキリエルは疑問を呈する。



「どうする気かしら。

あいつの武器じゃオークの盾には通じないみたいじゃない」


「近づいて撃つ気なんじゃないかな。

多分あの飛び道具の威力は距離で変わる系だと思うから」


「特攻って訳?」


「それと、オーク隊の中に突入してしまえば、盾の後ろを撃てるだろ。

重盾は向きを変えずらいと思ってるんじゃないかな。

まぁ、当たりだけど」


「でも、その前にマジシャンの炎の矢で丸焦げになりそうだけど」


「判ってないんだよ、魔法の力を。

連中の武器は真っすぐ飛ぶしか能の無いものだから、誘導されるって事が理解できないんじゃないかな」



 SAS隊員は速攻「誘導弾」だと見切っていたのだが、ミシエルの目にはただ恐れて逃げ回っていただけに映ったようだ。

そしてオーク隊に向かっていたジープだが、突如止まると、Uターンして離れ始めた。



「何だ? 逃げ出したぞ」


「どうゆうこと?」



 何が起きているのか判らない二人の天使。

だが、次の瞬間、画面で一番手前のオーク分隊が「爆発」した。



「な、何!?」



 一つの重盾ごとに盾を扱う2名のオーク・ソルジャーと、攻撃のための2名のオーク・マジシャン、それに指揮官のオーク・レンジャーの5名で1個分隊が形成されている。

そんな分隊が6隊あり、そのうち一つだけ現場指揮官役のオーク・レンジャーが追加されて6名編成の指揮分隊があるのだが、その「指揮分隊」が消し飛んだのだ。

その爆発の影響は他の分隊にも及んでいる。

かすり傷程度なので、ダメージは無いのだが、突然指揮官を失ってオーク達は何事かと混乱している。


 そうしていると、また別の分隊が「爆発」する。

オーク達は爆発物など持ち合わせていない。

重盾だって、爆発するような素材は使っていない。


 オーク達は重盾を回して、「こちら」に向けようとしている。

その途中、ひとつ、またひとつと、「爆発」する分隊。



「ちょっ、敵よ敵!

後ろを映して!」



唖然とするミシエルを置いといて、キリエルが「的な物」に指示する。

カメラは180度向きを変え、オーク達の後ろへと下がる。


残る分隊はふたつ。

だが、向きを変え終わったにも拘わらず、また一つの分隊が爆発して倒れる。

敵に向いていた重盾は木っ端みじんに砕け散っている。

そして、やっと「的な物」は彼らの敵の姿を捉えた。



「あ、あれは何?」



キリエルは誰ともなく問う。

だが、答えが得られる前に敵から突き出していた棒の先端が炎を吹く。

その直後、最後の分隊が消滅した。


 全軍の全滅を認識した「的な物」は中継を自動終了する。



「センシャか……遂に出て来おったか」



レリアル神は呟く。

だが、勝っていたはずが、あっという間に逆転され全滅という、突然の事態に茫然となるミシエルには、その呟きは届かなかった。



*****



 戦場に東より現れた4号Hは、オークの軍団をその75ミリ砲より放たれる榴弾によって殲滅した。



「何という事だ……」


「……」



 ボストル親子は、その余りに一方的な戦いに息を呑む。


二人は以前の戦いで4号Dが騎士を爆殺する様を見たが、その時は両者は100メートル程度しか離れておらず、当たるかどうかを別にすれば曲射をすれば弓でも届く可能性がある距離だった。

だが、今回は1キロは離れており、およそ同じ戦場とは言えない場所からの攻撃。

圧倒的な力の差があると感じられるのだった。


 一方、大英と秋津は当然の事の様に語る。



「どうやら終わったみたいだね」


「あー、そうだねって、全滅させてるから撤退しないだろ」


「まぁ、仕方ない。 最後の奴も戦意無くしてなかったし」


「アレがあたしたちが召喚した戦車の力なんだ」



リディアも感慨深げだ。

そんな話をしていると、アラゴンが大英に話しかけた。



「大英殿、我が騎士団の兵達の失態、騎士団を代表してお詫びいたします」



敵が迫ってきたときの動きが鈍かったことだろうか。

だが、大英は意外な応え方をした。



「いえ、こちらこそお詫びしなければなりません」


「え? それは一体どういう事でしょう」


「実は、今回の敵は数が多くSASがどれだけ倒すかにも拠るのですが、推定では召喚軍(神獣騎士隊)だけで全てをせん滅するには、もう少し兵員か機銃を追加する必要があると見積もっていました」


「という事は、我らの力も当てにされていたと?」


「ええ、確実に敵を倒すには、騎士団の方々の力が必要だったのです」


「それは、何か問題なのですか?

我ら戦うためにここに居ります。

むしろ頼られることは誉です」


「それはその通りなのですが、試したのです。

そして、予想通りの結果となりました」


「!!」



 つまり、大英は第3騎士団の騎士と兵達に戦意があるのかどうかを試すため、わざと敵を残したと言うのだ。

やりとりを聞いていたゴートが口を開く。



「なるほど。

そして大英殿の見立て通り、第3騎士団は失態を演じた訳ですな」


「はい」


「なぜこうなると判ったのでありますか」


「そ、そうです………団長である私でもこんな事が起きるとは気付かなかったのに」



静かに聞くゴートと、慌てたように聞くアラゴン。



「第3騎士団の方々は召喚軍の力を直接目にされています。

組織としては、この世界の誰よりもその力を理解している事でしょう」


「は……い」



これは大英の召喚軍を相手に「戦った」経験を持つという意味でもあり、余り自慢できる経験ではない。



「そして第1騎士団の方々のアイデンティティは貴族の誇り。

同じく第2騎士団の方々は難しい試験をクリアした自負と個人技。

各々あまり考え込む事なく、戦いに臨まれるでしょう」

「その点、第3騎士団の方々は連携を考えた『頭を使う』戦い方に長けておられるように思います」



要は、第1は権威主義(命令に説明は不要)、第2は脳筋軍団(細けー事は良いんだよ)という事だね。



「そうであるな。

第3騎士団は出自、技能、腕力に拠らず、志ある者すべてを受け入れてきた。

千差万別の兵達を有効な戦力として成り立たせるよう努力しておる。

『頭を使う』というご推察ももっともであるな。

わしは『努力と協力』と呼んでおる。

これが第3騎士団を形作っていると考える」


「となると、疑問を持つのではありませんか?

どんなに努力しても届かない強さを目の当たりにしたなら、自分たちの存在意義は何なのかと。

協力する必要なんて無いのでは、と」


「うむ、神獣騎士隊と騎士団の戦力差は明らか。

これなら神獣騎士隊が居れば、騎士団など不要と思う者も現れるか」


「そうです」


「そ、それでは、我が第3騎士団の面々に、そんな考えが広まっていると思い、お試しになられたと」


「はい」


「あー、それは酷いな」



これには秋津もあきれ顔だ。

横で聞いているリディアも苦笑している。

大英は秋津に向いて、友人に向けた砕けた表現で語る。



「でも、テストは抜き打ちでないと本当の事は判らないじゃん」


「いやま、そうだけどよ」


「いえ、秋津殿、我らの側に問題があったのは明らかですし、それを教えて頂いたのですから……」


「その通りであるな。

戦には全力で当たらねばならん。

如何に強い神獣騎士隊といえども常時万能無敵という訳ではなかろうて。

それに民を守るべき騎士団が、責務を放棄して戦を傍観していては、騎士はもちろんのこと、一般兵とて戦士の名折れだ」


「私は団長失格です。

外の大英殿に判る問題に、何時も傍に居たのに気づく事もできなかったとは」


「アラゴン、お前はまだ若い。

団長とは任命されたからなるものでは無い。

精進を重ね、内外の皆に認められ、そうして本当の団長に成長するのだ」


「父上……」


「此度の件、前団長として、わしからもお詫びいたそう。

それは団員の不手際だけではなく、それを見抜けなかった団長の未熟さ、そしてそれを明らかにするためにお手を煩わせてしまった事を」


「いえ、頭を上げてください」


「それにしても、大英殿はよく気が付かれたものであるな」


「そうです。

此処にいらしてからも、団員達とはあまり話などされて居なかったと思いますが」


「そうだな、俺にもそんな話はしたこと無かったが」



秋津も疑問らしい。



「いやー、受け売りだよ」


「受け売り?」


「エクストリーマンのダテ隊員の話で、『エクストリーマンが居たら科警隊は要らないんじゃないか』って奴があったろ」



すぐには理解が進まない秋津。

一呼吸置いて思い出したようだ。



「……あー、あったなそんな話」


「圧倒的な力を前にしたら、自らの存在意義を見失う。

同じことが起きてるんじゃないかと思ったのさ」


「あー、どういう話か説明してもらえますかな」



大英はゴート達にも理解できるカタチに変換して伝える。


-----


 人々を脅かす魔物が現れる世界。

魔物の力は強大で騎士団の力ではなかなか倒せない。

だが、この世界には魔物退治の専門家とも呼ばれる天使が居た。

天使の活躍でいつも救われる人々。

そんな中、騎士の一人が疑問を持つ。


「いつも魔物を倒すのは天使様だ。 俺たちは要らないんじゃないか」


仲間の騎士は「そんな事は無い」と説得するが、彼の士気は下がったまま。

そこへ魔物が襲来したが戦いにも身が入らない。

騎士達に魔物が迫るが、小さな精霊の活躍で襲い掛かる魔物は進路を変え、騎士達は危機を脱する。

しかし、哀れその精霊は魔物の手にかかり命を落としてしまう。


非力な精霊でも魔物の動きを変えることが出来るのに、自分は何をしていたのか。

騎士は反省し、魔物に立ち向かう決意を新たにする。


-----


ゴートはその「お話」が実話ではなく物語である事を理解した上で感想を漏らす。



「なんという痛ましい話。

そして教訓に満ちておりますな」


「単に疑問が表に出るだけでなく、そこからの立ち直りも大事だと思います

第3騎士団の方々も召喚軍の危機を救ったことで、自信を取り戻せたのではないでしょうか」


「そうであるな。

ま、その危機が『計算された』物である事は、置いておくとして」


「父上、私も同じ思いです」



 ボストル親子は騎士達には事情を伏せ、皆の士気向上を第一とする事に決めた。

自分たちの仕事の結果を直接見る機会を得たリディアとパルティアも、神官と巫女としての決意を新たにするのであった。


その後、今回の戦いの反省会と祝勝の宴を行い、中断していた打ち合わせを済ませて、夕方に大英達は都に戻った。

なお、宴は昨日の今日なので、簡素な形で行われた。


ちなみに、打ち合わせではM21に照明弾があるのか確認していた。


無いそうだ。

用語集


・細けー事は良いんだよ

「こまけー事は良いんだよ」と書きたかったのだが、ルビの仕様は最大10文字であった。



・科警隊

科警隊とは科学特別警備隊(Science Special Guards:SSG)というエクストリーマンに登場した人類の防衛組織の事。

話題となった話は第37話「小さなヒーロー」。

いつも怪獣をエクストリーマンが倒してしまうので、科警隊のダテ隊員は自らの存在意義に疑問を持ってしまう。

という話。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ