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模型戦記  作者: BEL
第2章 異世界戦争
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第11話 おっさんズ、進化する敵に対処する その3

 大英達は南の壁に到着する。

大英は到着するなり、監視塔の上で現場を預かっているヤークトティーガー車長に問う。



「状況は!」


「はっ、敵は約60名。

うち半数は騎乗しております」


「騎乗?」


「はい」


「ちょっと見せてもらえるかな」


「はっ!どうぞ」



大英は監視塔に登り、双眼鏡を受け取り、遠くの人影を見る。



「ほーう、これは確かに騎乗だな」


「俺にも頼む」



秋津も上がってきたので、双眼鏡を渡す。



「これは……狼か?」


「サイズ的にそうだろうね、仮称ゴブリンライダーと命名しよう」



アラゴンも来たので双眼鏡で見てもらう。



「このような生き物、見た事がありません」


「この辺りには狼は居ないのですか?」


「はい、そのような名前の獣は知りません」



 そんな事を話しつつ、双眼鏡を戻してもらい、もう一方の集団に目を向ける。

オーク達の集団だ。

何やらロープをかけた板状の物体を引っ張りながら進んでくる。

物体には車輪が付いているが、特に何かが乗っかっている風は無い。



「何を持ってきたんだ、あいつらは」



 双眼鏡を車長に戻すと、地上望遠鏡を取り出し、改めて見てみる。

双眼鏡は7倍だが、地上望遠鏡は最大30倍なので、より詳しく観察できる。

だが、問題の「板状の物体」は後ろにあるため、陰になってよく見えないのは変わらなかった。

それでも、一応結論を得た。



「何かを載せてきたんじゃなくて、アレ自体が必要なブツなんだろうな」


「そうみたいだな」



再び双眼鏡を手にした秋津も同じ見解に達した。



 すると、何やらざわつく声がしたと思ったら、リディアが登って来ていた。



「あたしも見たいな」


「お、ほい」



リディアは秋津から双眼鏡を受け取り、敵の様子を見る。



「あれが敵の魔物なんだ」


「初めて見る?」


「うん、戦いに来た事は無いし、時々都に出る魔物も見た事無いから」


「なるほど」



すると、リディアは監視塔の下に居るパルティアを呼ぶ。



「登ってきなよー、よく見えるよ」


「い、行きません!」



 珍しく真っ赤になって声を荒げ、パルティアは拒絶する。

周りの騎士や村人たちは顔を背け、ばつが悪そうである。

まぁ、監視塔は梯子で登るので、スカート姿のパルティアには不向きであろう。


……?

いや、リディアはどうやって登ってきた?

パルティアの顔を見れば、それは明らかだが、深く考えないでおこう。

それに、柵の高さは低いから、地上に居ても、戦場は見えるしね。



 そこへ、報告が届く。



「閣下、SAS出撃準備出来ました!」



下を見ると、SASシープが門の手前にやって来ている。

大英は指示を出す。



「よし、SASはゴブリンライダーへの対処を第一とし、余裕があったらオークに当たれ。

歩兵隊は総員……いや、6名。うち2名は軽機関銃を使え。

用意出来次第壁の外に展開、接近する敵を早めに撃て」



アラゴンは大英に問う。



「大英殿、第3騎士団は如何致しましょう」


「歩兵隊の左右に控えて下さい。

ゴブリンライダーがSASを突破してくる場合、軽機関銃で撃ちます。

撃ち漏らしも小銃で倒しますが、万一の際には弓にて支援お願いします。

ですが、無理はなさらず。

剣や槍による戦いは避けてください」



 ホムンクルスを守るためにヒトが命を落としては本末転倒。

大英はそう思ったのだが、アラゴンの考えは少し違ったようだ。

彼は厳しい表情で大英に向くと、告げた。



「概ね了解しました。

ですが、我らも民を守る騎士団の騎士と兵です。

腰が引けた戦いは行いません」



大英は騎士のプライドへの配慮が足りなかったことを認識し、言い直す。



「判りました。

一緒に最後まで戦い抜きましょう」



そうは言ったものの、彼の表情は信頼を体現してはいなかった。

アラゴン団長は誠実で信頼できるのだが……。



 門が開かれ、兵達は各々動き出す。

SASジープはゴブリンライダーへと走る。

配置についた兵達は、現場指揮官を除き、全員が伏せた体制を取る。

騎士団の兵達にとっては不思議な体験となった。

敵を前に伏せるという行動は、彼らの常識からは外れたものだったからだ。


そして、大英はその兵たちの緩慢な動きから、ある推測が現実となっている可能性について考えていた。



*****



 洞窟の中、「的な物」からの投影映像を見ていたミシエルは得意げに拳を握る。



「よーし、狙い通りだ」



事前に与えた作戦に従い、ゴブリン・ライダー達は5体ずつの6隊に分かれ、横に広がる。



「敵は1台。 部隊が分散すれば対応は出来ない」


「なるほどの」



レリアル神は感心しながら映像に目をやる。



 天使は神に仕える存在である。

その技量・能力・適正はある程度仕える神の特性に影響される。

そしてレリアル神は「創造神」であって、「軍神」としての特性は持ち合わせていない。

よって、彼のスタッフの天使たちは誰も基本的に軍事に長けていないのだ。


ミシエルが最も得意とするのは生物創造。

現代風に言えば、遺伝子工学の傍流だろうか。

「戦士として使える生物を生み出す」事に期待して、レリアル神はこのミシエルを選抜し、前線指揮官に任命した。

だが、戦術分析にフィードバックを生かした作戦立案など、元の期待を超える働きを見せている。

色々よく考えているのではないか。


とはいえ、今のままではム・ロウの天使の軍団に勝つのは難しいだろう。

それがレリアル神の評価であった。



 ゴブリン・ライダーに包囲され、追い立てられるように動くジープ。

その行き先には新開発の重盾を備えたオーク・ソルジャーと、その陰から敵を狙い撃つオーク・マジシャンが控えている。


 重盾は大きな板で、四隅に車輪が付いている。

そして前方の二隅からは棒が立ち、その中ほどと先端にも車輪が付いている。

オーク・ソルジャーは2体がかりで肩にかけたロープを繋いで重盾を牽引していたが、それをやめ、重盾を起こす。

そして裏側に回り込み、今度は立てた状態の重盾を押して支えつつ進む。

前は上に向かって立っていた棒は、今は前方に突き出して重盾が倒れるのを防ぐ。


 針葉樹の板を何枚も重ねて作られた重盾、その厚さは10センチを超える。

その重量故に人間と大差ないオークの腕力では「持つ」のは不可能だが、押して進めるのであれば運用できる。

何度も戦場として使われ、踏み固められた平地はそんな「空想的特殊装備」を現実のものとして受け入れる。

そう、普通の戦場ではこんなものは満足に動かないだろう。



 オーク達の目前にジープが追い込まれる。

その距離は500メートル。

オーク・マジシャンは魔法を発動する。

マジシャンの頭上1メートルほどの空間に炎をまとった矢が現れる。

この高さなら、重盾に遮られる事無く撃ち出すことが出来る。


 矢の出現を見て、SASジープは停止し、前方機銃を発砲する。

だが、7.62mmの銃弾は重盾を貫けず、その後ろのオーク達に必要な火力を発揮できない。

そして、炎の矢はジープへ向けて飛行を開始する。



*****



 SASジープの乗員2名は、オーク達の行動と自分たちの行動結果を即座に評価・理解する。



「射撃、効果ありません!

敵、光る物体を射出!」


「緊急発進! 回避するぞ」


「了解!」



 SASジープはアクセル全開で走り出す。

ハンドルを左に切り、炎の矢をかわそうとする。

炎の矢は弓から放たれた矢と比べると、ゆっくり飛んでくる。


だが、速度以外にもう一つ違う点があった。

それは、「追いかけてくる」のだ。



「光る物体、進路を変えてます!」


「なに!」


「敵物体は誘導弾です!」


「ちっ! 豚共も進化しやがる。

距離を取るぞ!」



 ジープはさらにハンドルを切り、オーク達から離れようとする。

それを阻止せんと、前方そして左右からゴブリン・ライダーが迫りくる。

距離を取って停止して射撃という基本戦術は当初から遂行不能で、戦いの主導権は敵に渡っている。

弾を節約しつつ戦うという方針では優位を保てなかったようだ。

しかし、負けては元も子もない。

SASは弾薬消費を気にせず戦う方針に転換する。



「構わん! そのまま撃て!」


「イエス・サー!」



 前方に向けられた2連装の7.62mm機銃が火を吹き、正面に迫るゴブリンと狼を撃ち抜く。

停止せずに射撃するため命中率は劣るが、十分効果を発揮している。

だが、全滅することもなく、仲間を失っても突撃を続ける。



「グレネード用意!」


「イエス・サー!」



 銃撃を抜けて至近距離まで迫る2組のゴブリンと狼。

接触を避けて車体が向きを変えた直後、手りゅう弾が投げつけられる。

それを気にも留めず、向きを変えて追いすがろうとする狼。

だが、手りゅう弾の炸裂で2組の追跡は強制的に終了させられた。


 そのすぐ後、ジープの傍に次々と着弾する炎の矢。

うち1発はジープ後面に当たり、光って砕け散る。

それは小さな爆発とも言え、後面に設置されていた予備タイヤが焼ける。


その威力は当たり所が悪ければ、ジープを炎上させる可能性も危惧される。

ガソリンを満載したジェリカンは全て置いて来ているとはいえ、放火能力を持つ物体が車にとって脅威なのは変わらない。

SASジープは狼を排除しつつ、撤退コースを進む。



 ジープへ向かう光弾と回避運動、そして撤退を見て、監視塔ではアラゴンが焦りだす。



「だ、大英殿、大丈夫なのですか」



だが、大英も秋津も平然としている。



「大丈夫じゃないか」



秋津はアラゴンをなだめる。

上って来ていたゴートも



「団長たるもの、もっとどっしりと構えろ。

騎士や兵達の士気が下がるぞ」


「あ、すみません父上」



アラゴンは反省する。


そして大英はヤークトティーガー車長に話しかける。



「4号は東端かい」


「はい、村落南壁が途切れた東端付近の車庫にて待機しています。

もちろん、何時でも出せます」



昨日74式は村の西端にて召喚したが、以前召喚し村に派遣していた4号Hはその反対側である東端に配置していた。



「連中、正面は監視しているだろうな」



その考えに秋津も同意し「かもな」と答える。

大英は車長へ指示を出した。



「よし、4号に指令!

直ちに出撃し、そのまま東端より南下し、東より戦場に侵入、オークを撃破せよ。

主砲の使用を許可する」


「了解!」



無線により指示は直ちに伝えられ、4号のエンジンが始動する。

用語集


・空想的特殊装備

現実の世界ではこのような「戦場では押しても満足に前に進まない」ようなブツは使われない。

グランドや舗装道路のような平滑な場所なら使えるだろうけどね。

まぁ、6輪ではなく10輪くらいにすれば使えたかもしれないが、実際にこの様なものが使われたという話は聞かない。

もし有効なら203高地で使われたでしょう。

(トーチカからの機関銃弾に耐えるなら鉄板仕込んで相当重くなりそうで、上り坂での人力運用は困難だろう)


発想的には動力を得ればAPCとなる訳ですが。

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