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模型戦記  作者: BEL
第2章 異世界戦争
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第11話 おっさんズ、進化する敵に対処する その2

 村にはザバックからの支援物資だけが届けられていたわけでは無かった。

都からも大量の食糧が随時送られている。

近隣の村からの避難民や、駐屯する騎士団などにより人口が増えている上、村の南側の畑が使えなくなってしまっていた。

現代世界とは異なり、ここでは何の問題も無くても、ちょっとした天候の違いで飢饉が起きる。

そんな世界で食糧の需給バランスが崩れているのだから、支援無くして村は存立出来ない。


 事態の発生と共に、領主は速やかに食料の調達を命じていた。

その成果で、魔物が現れて以後も、誰も飢えることなく今に至る。

村人たちもそれを理解しており、盛大な宴を持って領主を歓迎する事にしたのだ。


 こうして開かれた領主来村を歓迎する宴で、皆楽しむ。

宴は夕方まで続いたため、昼食と夕食が一緒になったカタチだ。


ゴートは息子で第3騎士団団長のアラゴンに声をかける。



「どうだ、団長職は」


「まだ慣れません。

判らない事ばかりです」


「日常の事はおいおい慣れるだろう。

慣れてからが本番だ」


「と、言いますと?」


「団長は騎士団の指揮・運用だけが仕事ではない。

ご領主様に付き添い、他の領主や王都の貴族たちと対峙する事もある。

スブリサの騎士を代表し、ご領主様に恥をかかせたり、不利益を被る事がないようにしなければならない」


「外交力ですね」


「そうじゃ。

お前は何事も正直に過ぎる。

一人の騎士としては立派だが、団長としては腹芸の一つも出来ねばならぬ。

第2騎士団のバレリア卿に教えを乞うのも良いかもな」


「なるほど、体も心も逞しい方ですものね。

精進いたします」



 ボストル家は子爵の家柄。

その当主が一代騎士に教えを乞うなど、普通はあり得ないだろう。

だが、そのような形式主義に囚われていては、未来は無い。

そう思うからこそ、昔からゴートは地位や形式より実利を重視する教育を息子にしてきたし、第3騎士団では平民出身者を積極的に受け入れた。


そしてアラゴンはその期待に応え、階級を問わず皆からの信頼厚い指揮官として成長しているのだった。



 宴が終わり、多くの村人に見送られ、領主と執政官は都に帰っていった。

大英と秋津は詰め所に泊まる。

明日は朝から打ち合わせを予定している。


で、秋津の車に同乗して来た関係で、リディアとパルティアも村に宿泊する。

部屋に余裕のあった民家に泊めてもらう事とした。


あと残っているのはゴートとビステル。

二人とも馬で来ている。

(馬車ではない。騎乗して来たのである)

こちらも、詰め所に泊まる。



 日も暮れ暗くなってきた所で、ビステルが大英に質問をしてきた。



「ホムンクルスの方々が戻ってきませんが、いつ休まれるのですか?」


「ん? 彼らは休みませんよ」


「ええっ、寝なくて平気なのですか」


「いや、全く寝ない訳では無いけど、1~2時間寝ればいいみたいだから、現場で交代で寝るようです」



するとゴートも会話に加わる。



「交代で寝るですと。 なぜそのような事を?

皆で宿舎に戻って休めば良いのでは」


「いや、朝までずっと監視しないといけませんから」


「うん? 夜にも監視が必要なのか」


「もちろんです」



この発言にはアラゴンも驚いたようで



「それではずっと監視任務に就いていたのですか、夜に戦う事など無いのに、なぜ監視を?」



と質問する。

騎士団の宿舎には来なくても、現場でそのまま寝ていたと思っていたようだ。

まぁ、焚火とかはしてないから、休んでいたと勘違いしても仕方ない。


だが、これには大英も秋津も逆に驚く。

「夜討ち朝駆けは戦の定石」と思っていたからだ。


だが、聞けばこれまで敵は、夜はもちろん夕方や早朝に来た事も無いという話。

過去の戦についての記録や言い伝えでも戦いはいつも昼間であったし、時には時間を決めて集まって戦う事すらあったという。

そのため昔からの教練でも、夜戦について考慮した事は無いというか、「夜戦」という概念自体存在しないとの事。


やはり軍事的には形式的な所が多く、実践的では無いように思われる。

まぁどこでも平和な時期が続くと形式論が主流になるし、日本でも時期によっては「夜討ち朝駆け」など卑しい戦術として高貴な者が使うと名誉に傷が付くと考えられた事もあったりするからねぇ。



「敵が私たちの『作法』に従うという決まりはありません。

これまでそうだったから、これからもそうだとは限らない」


「なるほど、大英殿の世界では夜戦う事もあったのでありますか」


「普通にあります」



以前も「み使いは過酷な世界から来た」という感想を持ったゴートだが、改めて想像を超えた(いくさ)が行われている世界なのだという思いを強くした。



そうして、夜も更け、ホムンクルス達を除き皆眠りにつく。



*****



 ミシエルの洞窟に皆が集まっている。



「して、どうする」



レリアル神の問いにミシエルはドヤ顔で答える。



「対策は考えてあるよ」


「ほう」


「この間の敗因は敵を捕らえられなかった事にある。

あのクルマの速度にオークの足は付いていけない。

遠くから攻撃してくる上、相手のほうが速くては、こっちの攻撃は永久に届かない」


「そうじゃな」


「だから、狼を実戦投入する事に決めたよ」


「ほう、狼とな。

お主は獣の扱いには慣れておらんじゃろ」


「大丈夫、ゴブリン・ライダーが完成しているからね。

狼はそいつらに任せる」


「なるほど、獣遣いを作ったか」


「狼の足なら、アレを捕らえられるんじゃないかな」


「うん? この辺りに狼などおったかの」


「居ないよ。 こんな暑い所じゃ生きてけないかも。

だから、そこはキリエルにお願いした」


「おお、そういや何かそんな事を言っておったな」


「感謝しなさいよー。

大陸の北の果てまで行って30体も捕まえてきたんだから。

しかも、環境適応までやらされたし」


「はいはい」



ミシエルが言うとおり、狼はあまり暑い所は得意ではない。

環境適応とはその暑さを苦手とする狼を、この地で普通に活動させるための処置である。



「クルマの対策は良いとして、遠方からの攻撃手段にはどう対処する。

盾は役に立たなかったようじゃが」


「そちらも方法は考えてあるよ。

攻撃用にオーク・マジシャンを集めておいた。

マジシャンの魔道なら、あんなに近づかなくても攻撃が届くはずさ。

遠ざかれば、敵の攻撃も届かないし、届いても当たらない。 当たっても盾を貫けない。

その盾だって針葉樹を使ったより強い物に変更したし。

コボルト達に全力で準備させ、無事出来上がってるよ」


「そうか、準備は怠りなくな、敵は強いからな」



それを聞き、ミシエルの表情も真面目なものに変わる。



「判ってるよ、そう何度も負け続けていられないからね。

60体の大軍で蹂躙してやるよ」



彼の顔には、もはや相手を侮る様子は見えなくなっていた。



*****



 翌朝。



 いつも通り何事も無く朝を迎える。

噂をすれば影なんて言葉があるが、夜戦の話をしたからと言って、夜に敵が攻めてくる。 などと言う事が突如発生したりはしない。

だからといって、明日も明後日もずっとそうだと言う保証はないがな。



 今日は騎士団詰め所で今後の予定を打ち合わせる。

昨日は宴のため話し合いはあまり出来なかったためだ。



「消費量はどんな感じだったっけ」



大英に問われたSAS兵は



「前回の戦闘ではビッカースの機銃弾を約15パーセント消費しました」


「そうか、今後の事を考えると近距離は短機関銃や手りゅう弾で対応すべきかな」


「敵が少数ならライフルでも大丈夫だろ」



秋津にも大英の「ドケチ」がうつったようだ。

だが、補給が得られない環境なら、誰でもケチになるだろう。



「ガソリンはどうだ」


「十分あります。満タンとほぼ変わりません」


「それは良かった」



 都から村までフェリーした後は、目の前の荒れ地を少し走るだけ。

そりゃあ減りませんね。

むしろ秋津のスペーシアのガソリン残量を気にしたい。

たまたま召喚前に満タンだったから良かったが、既にメーターは5%程度減った表示になっている。

え? そんなの誤差の範囲? それはそうだけどねぇ。



「大英殿、その機銃弾とやらはこちらの鍛冶屋で作れないのでありますか?」



ゴートが問う。



「それは難しいと思います。

極めて高い精度で同じサイズの物を量産する必要がありますし、何より火薬と雷管が作れない事には使えません」


「火薬ですか」


「弓矢は弦を引いて撃ちますよね。

銃には弦はありません。

こちらは火薬を使うことで、弾を飛ばすのです」


「雷管とは何であるか」


「火薬はそのままでは機能しません。

火がついて爆発する事で効果を発揮します。

雷管は叩く事で発火する機構です」


「そうであるか……」


「そういう意味では、今度面白いものが見られると思いますよ」


「うん、面白い物?」


「6ポンド砲弾の試作品がもうすぐ出来ると聞いています」



それを聞いて秋津も思い出したようだ。



「あ、アレか」


「そ、アレ」



初日に依頼していた件である。



「大砲の弾なら作る量も少ないので、なんとかなるかもしれません」


「なるほど、ワシが思いつくようなことは、既に思いついていたのですな」


「はは、ま、そうですね」



ちょっと恐縮な顔の大英。



 そんな打ち合わせをしている最中、辺りに警告の叫びが轟いた。



「敵襲!敵襲!」



一同は立ち上がって南を向く。

もちろん、話をしている詰め所からは敵の姿は見えないが。


秋津はニヤリとして語る。



「やれやれ、うち等が居る時にやって来るとは、不運な事だな」


「よーし、今度は戦いの様子も見れそうだな」



大英も期待を示す。

この間は村に着いたら戦いは終わっていたからねぇ。



 一行は南の壁に向かい走り出すのであった。

用語集


・針葉樹を使ったより強い物

一般的な木材の定義からすると「何言ってんの?」となる発言である。

実は針葉樹は軽くて柔らかい材木であり、広葉樹のほうが硬く強い事が多い。

だが、ここでは彼らが以前使っていた木と比較する必要がある。

確かに広葉樹なのだが、広葉樹と言っても、ピンキリなのだから。


実は以前盾で使っていた木はラワン材だったのだ。

適当にその辺に生えている木を使ったのが間違いだったね。

これと比べれば、大抵の木は硬いんじゃなかろうか。

バルサなんかを持ってくると話は変わるが、バルサはその辺には生えてない。



・夜討ち朝駆け

武士同士の抗争なら勝手にやればよい。

だが、貴族や皇族を大将に頂く戦では、そのような卑怯な戦い方は駄目。

平安時代にはそんな時期もあったようです。

……本当かどうかは知りませんが、某ドラマではそう描写されていました。

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