第64話 おっさんズと猛牛の対決 その10
副官とアキエルの会話を聞いていたコロンバス提督が口を開く。
「我々はアメリカ合衆国の軍人だ。 大統領に忠誠を誓い、連邦市民のために戦う義務がある」
「それでは、やはり帰還ですか」
コロンバス提督は、副官の問いに苦悩の表情を浮かべる。
「原則な。 ……私には、生き残った部下を、むざむざ死地に送る命令は出せない」
「……」
だが、残る場合、それは彼がジャップと蔑んだ相手の軍門の下、異郷の地で過ごす事を意味する。
コロンバス提督はアキエルに問う。
「ここに残る場合、我々は何処で過ごす事になるのかな」
「船は捨てて、近くの島に住んでもらうことになるでしょう。 私たちから攻撃をしたり、安全を脅かすような事はしませんが、島から出て他の陸地へ行くことは基本的に認められません」
「なるほど、島に軟禁される訳だ」
「そうなるわね。 あくまで命を助けるだけなので」
「わかった。 いつまでに決めればいい」
「急がなくても良いけど、無期限に待つことはできないわよ」
「当然だな」
コロンバス提督は副官に向き直ると、告げた。
「聞いての通りだ。 そこでだ、皆の意向を聞きたい」
「提督……」
「意見を取りまとめてくれないか。 屈辱に耐えながらも、ここで安全に生きていくか、それとも国のため、家族のために、危険と分かって帰る道を選ぶか」
そしてアキエルに向き、「部下たちの意向を踏まえたうえで決める」と伝えた。
ここで、コロンバス提督はある事を思い出す。
それは、彼にとっての敵軍司令官が「オオヒデ・サダトキ」という日本人らしき人物だという事だ。
彼はアキエルに問うた。
「オオヒデ司令官殿には会えますかな」
「大英君に? まぁ、会えるというか、そこにいるけど」
「えっ?」
コロンバス提督は周りを見渡すが、軍司令官のような制服の男性は見当たらない。
一応、この時の大英はいつもの現地人風の服ではなく、自前の服を用意したが、それはスラックスと半袖のワイシャツにノーネクタイという、一応普段よりもしっかりしているとはいえ、およそ軍司令官には見えない姿だ。
とはいえ、天使を別にすれば、肌が黒くないのは大英だけだ。
「そ、そちらの方がオオヒデ司令官殿?」
「あ、はい」
その小柄なサラリーマン風の男性を見て、コロンバス提督は驚きを隠せなかった。
コロンバス提督が固まっていると、ハルゼー提督が口を開いた。
「ほう、君が指揮官か。 良い戦いだった。 軍歴は長いのかね?」
「いえ、自分は軍事組織で働いたことはありません」
「そうなのか、すると良い参謀を揃えているのかな、そこにパットン将軍がいるという事は、他にも世界の将軍がいるのかね」
「そうですね、マッカーサー元帥やモントゴメリー元帥、それにロンメル元帥にはいつも助けられています」
「なるほど、陸軍ばかりのようだが、海軍の将軍はいないのかね」
「残念ながら、おられません」
「そうか、それは残念だな。 しかし、陸軍将軍の助けだけで我々を撃破した君の手腕も、大したものだな。 さすがはサムライの末裔という所か」
「サムライですか、それはまた古風というか、意識したこともありませんが……」
「そうなのか? 現代のように、戦艦に乗り、戦闘機を飛ばしていてもサムライはサムライだと思うが。 政治家だってロードやショーグンはサムライだろう?」
「ロードやショーグン?」
ハルゼー提督と共にいる参謀以外の召喚された面々は「?」となる。
ここで、パットンが聞く。
「提督、ジャパンにロードやショーグンがいたのは90年前まで。 俺たちの閣下から見れは200年とは言わないが、相当昔の事だぞ」
「何を言っている。 俺たちはトクガワのサムライと戦っていたんだぞ」
「何?」
大英は話がかみ合っていない事に気づく。
「提督がいたのは何年で、その将軍は何代目の誰かわかりますか?」
「俺は1944年、レイテに向かう途中にここに呼ばれた。 ショーグンはイエマサだな、何代目かは知らんが……」
「17代目です、提督」
「おお、そうか」
参謀は知っていたようであった。 17代将軍 徳川家正である。
「17代! 徳川将軍は15代慶喜で終わりだから、幕府が続いている異世界?」
「何だ? 異世界?」
コロンバス提督も口を開く。
「提督、私がいた土地でも大戦時のジャパンにショーグンはいませんでした」
「なんてこった。 違う歴史があるのか……そういえば、コロンバス提督は合衆国とか言ってたな。 連合国(Confederate States)とは対立しているのか?」
「いえ、連合国という国はありません。 南北戦争で敗れて無くなりました」
「ば、馬鹿な……」
祖国が「自分が生まれる前に滅んでいた」という事態に、驚きを隠せないハルゼー提督であった。
「いや、そういう事もあるか。 俺の知る歴史でも合衆国は無くなっていたからな」
ここで、大英は気づく。
「そういえば、自分の世界では過去に第三次世界大戦は起きていません。 コロンバス提督の世界とも違うようですね」
「そうなのか、ジャパンの南北両国は激しく対立していたから、いずれ戦争になるとは思っていたが、世界大戦には発展しなかったという事かね」
「南北? 朝鮮半島は南北で分かれていますが、日本は一つです」
「何だと? ソ連は侵攻してこなかったのか?」
「ああ、ソ連に占領された南樺太と千島列島は不当に併合されているので、日本が南北に分かれているという感じではありませんが……」
「うん? という事は、ホッカイドウもトウホクも日本領なのか?」
「ええ」
「そうか、スターリンはホッカイドウに侵攻しなかったんだな。 ナチスを下してから5か月近くあったのに」
「5か月? そちらの世界ではドイツは2月に降伏したのですか?」
「いや、5月だが」
「それじゃ、日本の降伏が、8,9,10……10月という事ですか?」
「ああ、10月1日だ」
「それは……なるほど、こちらでは8月15日なので、ソ連軍も北海道に上陸する時間はありませんね」
「そんなに早く終わったのか。 というか、6週間程度の差で歴史が大きく変わってしまうとはな」
「10月という事は、九州に上陸したのですか?」
「いや、オキナワは占領したが、キュウシュウには行ってない」
「そうですか。 まぁ10月も1日で終わったのであれば、作戦決行前に終わったのかな」
「当時は詳しいことは聞かされなかったが、後に見た記録では年明けの予定だったらしい」
「そうなんですか……」
(あれ、年明けだと関東になるんじゃ……)
ここで、ハルゼー提督がぼやいた。
「俺たちは元の……世界? に帰るとして、この損害、どう説明したものかな」
「そうですね、上に信じてもらえなくても、実際、失われたものは失われている訳ですし」
参謀も困り顔だ。
それにはコロンバス提督も感想が出る。
「輸送船団はクリタにやられる前に、ここでそれ以上にやられたのですから、レイテ作戦は中止ですよね」
それを聞き、大英はコロンバス提督に聞く。
「え? 今なんと?」
「うん? レイテ作戦は中止……」
「いえ、その前です」
「輸送船団はクリタにやられる前……か?」
「栗田とは栗田健夫ですか?」
「ああ、そうだが」
「自分の世界では栗田艦隊はレイテに突っ込まないでUターンしたんで、輸送船団はすべて無事です」
「何? それは大きな違いだな。 あの戦いじゃ陸さんの兵は大方上陸済みだったんで、人的損害こそ1割くらいだったが、物資の半分を失ったせいで、後で相当苦戦したって話だが」
「そうなのですか」
「ああ、その時は数字を聞いてなかったから、陸さん方が壊滅したのかと思っていたが」
ここでハルゼー提督が気が付く。
「これはマズイな。 フィリピン侵攻が先送りになると、ソ連に侵食されるのか」
「では、速やかに侵攻部隊の再建を具申されては……」
「多くの兵を失った俺がか? それに軍内で話が済めばいいが、大統領は日本を滅ぼせれば後がどうなろうと関知しないみたいだからな。 ソ連が欲しがったらくれてやりかねん」
「そういえば、そうでしたね。 幕府軍打倒後の占領政策は全く考えられていないようですし」
日本の次に共産主義が嫌いなハルゼー提督は、頭を抱える。
「俺は日本を打倒したら引退だが、お前は赤軍と対峙する事になるだろうよ。 それを少しでも楽にしてやりたいところだが……」
「やはりそうなりますか」
「なるな。 スターリンは必ず俺たち連合国の敵になる」
コロンバス提督の世界で起きたアメリカを盟主とする勢力と、ソビエトを盟主とする勢力の第三次世界大戦の話を聞いて、確信を深めるハルゼー提督であった。
用語集
・「残念ながら、おられません」
この際、ハルゼー提督、ニミッツ提督、山本五十六提督、デーニッツ提督、マウントバッテン提督とかのアドミラルセットが欲しいですね。
国内知名度的にはマウントバッテン提督の代わりに山口多聞提督が良いかもしれませんが、新製品として出すなら海外展開を考えないといけないので、英海軍の人は外せません。
MM No.150は海軍のボートなので、MMシリーズにあってもおかしくないとは思います。
(多くの海軍では「提督」は階級ではないので、「大将では?」という突っ込みは却下)
・南樺太と千島列島は不当に併合されている
大英君の見解。 現実世界の日本国政府の見解とは異なります。
・作戦決行前に終わったのかな
実はそもそも九州上陸作戦の予定は10月ではない。
我々の史実ではダウンフォール作戦は11月の予定。 大英君は「秋ごろ」くらいのざっくりした記憶なのでね。
まぁ、コロンバス提督の世界ではそれどころではなかったのだが。
・それは大きな違いだな
他にも多少の違いはありますが、それはシリーズの短編「栗田ターン」をご確認ください。
・その時は数字を聞いてなかったから、陸さん方が壊滅したのかと思っていたが
そのせいで、血の海に見えるという幻覚を見たのですね。<違う、言葉の綾




