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模型戦記  作者: BEL
第2章 異世界戦争
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第9話 おっさんズ、世界の理を知る その3

 既に部屋の中は暗くなり始めている。

多少の雑談の後、秋津の作業も片付いた所で大英は望遠鏡を持って外に出る事とした。

他の面々も続て外に出る。

既に空は黒く、恒星も普通に見える。



「み使い様、これは?」



パルティアの問いに大英は



「天体望遠鏡と言って、空の星を見る道具です」



と答えたのだが……



「星……ですか、あの点にしか見えないものを……点を見るから点体望遠鏡なのですね」



 何か大きな勘違いをしている様な気がしますな。

やはり存在しない物は正しく翻訳されていないようだねぇ。



「さて、北極はどっちだ?」



 実はこれが望遠鏡を持ち出した理由につながる。

空の様子が少し変なのだ。

ここが異世界なのは間違いない。

何しろ神が実在しているし、魔法も存在している。

ところが、空を見上げれば見慣れたサイズの月が浮かんでいるのが見える。

比べられないから断言はできないが、視直径は大体同じはずだ。


 あのような衛星は、そうそうやたらとあるものではない。

地球の月は母星と比べ例外的に大きいのである。

異世界なら、もっと小さな月か、そもそも月がないのが普通ではないのだろうか。

2つとか3つ月がある話もあったがな。

ただ、アノサイズの月がないと地軸が安定しないという説もある。

でも地軸の傾きがどうかしているのは天王星くらいのものだから、ちと疑問ではあるが。


 大英は北の空を見回す。

そして少々カタチがおかしい北斗七星らしき星の並びを見つけた。

ちなみに北斗七星は北極星の位置を調べるのに使う「ひしゃく」である。

見た感じ「ひしゃく」とは少々言い難い並びだがな。


 今は夏だと思われるから日没間もない現時点でも地平線の上にあると推測できたが、その通りだった。

というか、位置から察するに6月か7月で間違いないだろう。

もうこの時点ではっきりしているんだが、更に北極星を探す。



「うーむ、よう判らんな」



 歪んでるから北極星が見つけにくい。

それでもなんとか北極星らしき星を特定する。



「あれか?高度がえらい低くて見にくいがな」



 推測が正しければ、赤道儀を正確に北極星に向けようとしても意味はない。

北極星が常に天の北極にあるとは限らないのだ。(むしろ外れているのが普通)

ざっくり北極に向けると、とりあえず、西の空に沈みつつある三日月状の天体を見る事にした。

6倍のファインダーで捉え、望遠鏡本体で見る。



「うーん、全体が見えないから特定はできんなぁ」



そして南天の高緯度にあるやたら明るい星に鏡筒を向ける。



「あるな」



大英の行動を全く理解できないゴートとパルティア。

そして、イマイチ理解できない秋津が聞いた。



「何があるんだ?」


「ガリレオ衛星がある」


「ガリレオ衛星?」


「何ですか?その『がりれおえいせい』って」



はてなマークを頭上に浮かべた感じで、小首傾げたパルティアが問う。



「あの星は木星という星なんだ。

で、その木星の周りを4つの小さな星が回っている。

それをガリレオ衛星というんだ」


「それって……」



秋津の顔色が変わる。



「ちょっと待てな、今あの星を見てみる」



 環を確認できれば確実だろう。

星座にあるはずのない白い星がもう一つあったので、今度はそちらを見る。

星を真ん中に捉える。

輪らしき構造があるように見える。

確実を期して、接眼レンズを5mmのものに替え、倍率を200倍にする。



「環があるね。土星だ」


「という事は」


「間違いない。ここは『地球』だ。

星座の形が一部変だけどな」



そして、ある天文の本を取り出した。



「これを見てくれ」



それは別冊アインシュタイン「銀河のすべて」という雑誌だ。

雑誌はLEDランタンの明かりに照らされている。



「ここに10万年前と5万年前、そして現在の北斗七星が描かれている。

ここまで形は崩れていないけど、そうさな、3万年前なら今の位置と大体合いそうだ」


「それじゃみ使い様は3万年後の世界から来たんですか?」


「そんな馬鹿な、それなんてムーの世界だよ」


「うーん、ちょっと違うかな。

いや、確かにムーは超古代文明だが……って、そういう意味ではないな。

とりあえず、うちらの過去とは限らん。だって神なんて実在せんだろ」


「いや、滅んだのかも」


「ま、そうかもしんないけど、パラレルワールドと考えたほうが自然かな。

そもそもここには魔法あるし」


「なるほどなぁ」


「うちらの居た世界はこっちより3万年時計が進んでいるというだけで、同じ世界じゃないから、直接の過去未来の関係ではないと思うよ」


「難しい話ですね」


「これでいろいろな謎が解けた。

なぜ異世界の人々の姿(年齢相応も含めて)が我々の知る人間と全く同じなのか。

なぜ重力の強さや日光の強さに地球との差が感じられないのか」


「異世界ってそういうもんだろ」


「いやいや、小説やアニメじゃあるまいし。

あれらは、コミュニケーションが取れないとか、ヒロインが異形の生命体だと誰得だろうとか、需要と供給の問題で人間や似たものに合わせてるだけだろ」


「それを言っちゃあオシマイだろう」


「まぁ『人間原理』的に『人類と同様の者』が住む世界だけを抽出しているという考え方もアリかな」


「うーん、訳判らん」


「とりあえず、ここが地球で住んでするのがホモ・サピエンスなら、同じ人類なのだから姿も同じ。

そして『邪神の手先』とされているオークやコボルト、ゴブリンをここの人たちは見たことが無いと言っていた。

つまり、アレは本来この世界に存在していない亜人間。

いわゆる中世ファンタジー世界かと思ったが、元々はファンタジー世界じゃなかったという事だ。

魔法あるけどな」


「それはなんとなく判る」


「そして気候の問題も判った。

今は氷河期なんだ」


「そうなのか?こんなに暑いのに?」


「時期的には氷河期だよ。

ここは低緯度だから別に寒くないけど。

全球凍結じゃあるまいし、低緯度まで凍ったりしないさ。

氷河期は、低緯度では乾燥化が進むんだ。

雨が少ないのはこのためだろうさ。

気温は平均で2~3度くらい低いかな。

元が滅茶苦茶暑い所だろうから、この程度下がっても暑いのは変わらんだろ。

ちなみに高緯度ならもっと低くなるよ。

地球全体では4度ほど平均気温が下がると言われているから」


「なんだ?ぜんきゅう……?」


「全球凍結。地球全土というか、海まですべて凍って『氷の惑星』になったときの事。

まだ生物が単細胞しか無かった頃の話。何億年も前の事だよ。

氷河期なんて何度も起きてるんだから、氷河期がコレだったら、その度に大量絶滅しとるよ」


「そうか」



地質学や天文学に疎い秋津には理解が難しい話だったようだ。

そしてゴートとパルティアは完全に置いて行かれている。



「ええと、どう理解すればよろしいか」


「うち等はム・ロウ神の力で異世界から来た。

というのは、OKですよね」


「うむ」


「その異世界は、ここより3万年くらい未来の世界と同じ感じの世界。

という事です」


「それは3万年後から来たという事では無いのか?」



おっさん、それさっきパルティアが聞いた。



「うち等が居た世界には魔法はありませんし、ム・ロウ神を信仰している人も居ません。

歴史書を見ても、文明は5千年くらい前に発生した事になっていて、3万年前に国があったという話は『おとぎ話』でしかありません。

ですから、直接の未来・過去の関係には無いと思います」


「そうでありますか」



 まぁ、イリオスの例を挙げるまでも無く、新しい遺跡の発見などで歴史が書き換わるのはよくある事だけどな。

とりあえず、この世界にうすうす感じていた疑問(思ったほど暑くない/なんで乾燥ぎみ?)が解けて、すっきりした大英であった。


そして夜空を見上げる。



「久しぶりだな、これだけの天の川を見るのは」



 現代の街中では天の川は見えない。

別にスモッグがかかっているとかいう話ではない。

周りが明るすぎて瞳孔が十分開かないためだ。



「俺はあんま見た記憶はないが」



秋津は見た事が無いらしい。

大英は子供の頃に親の実家(田舎)で見ていた。



「ブラックアウトの時も外に出なかったからなぁ、ホントに久しぶりだわ」



ゴートとパルティアにとってはいつもの夜空。

だが、この地に来て以来、色々忙しくて空を見上げる余裕の無かった大英にとっては、何か安堵感を感じる夜空であった。



 その後、戻ってきたリディアと合流し、パルティアは帰宅の途についた。

同じく帰宅するゴートの護衛付きで。


用語集


・接眼レンズを5mmのものに替え、倍率を200倍にする

大英の天体望遠鏡(POLARIS-R100L)は主鏡の焦点距離が1000mmである。

焦点距離5mmの接眼レンズを付けると、1000÷5=200 この200が倍率になる。

ちなみに最初使っていた接眼レンズは20mm。つまり50倍。



・別冊アインシュタイン

「アインシュタイン」とは、所謂科学雑誌。月刊誌である。

「別冊アインシュタイン」は不定期に出る特定の話題に特化したもの。

「銀河のすべて」はその名の通り銀河系や他所の銀河についての本である。

ちみなに、大英が持っているのは増補第2版。



・そういう意味ではないな

ムーには「伝説の大陸 ムー大陸(とムー帝国)」「雑誌 ムーの世界」「TV番組 スーパームーの世界Z」「TVドラマ ムーの一族(とその続編の「ムーの浮浪一族」)」などいろいろな意味があるが、ここでの意味は「ムーの世界」というオカルト雑誌を指すという意味である。

ちなみにムー帝国が滅んだとされるのは約1万2000年前と主張されるが、何時から存在したのかは語られていない。歴史じゃないからねぇ。



・文明は5千年くらい前に発生

ちなみにリアルワールドのwikipediaでは「文明」が起きる前を「先史時代」と呼び、その先史時代にも国はあったとされている。

なので「文明以前だから国が無い」という訳では無い。

例えばメソポタミアなら8千年前には国らしきものがあったらしく、それを「文化」と呼んでいる。



・イリオスの例

これはリアルワールドのお話。トロイの木馬の伝説を検索すれば何の話か判るだろう。



・ブラックアウト

所謂北海道大停電の事。リアルワールドでも同じ事が起きているから、詳しく説明する必要はないね。

さすがに夜明け前には空を見上げる余裕は無かったが、大英の家周辺で電気が復旧した時は20時を大きく回った時刻だったので、その気になれば夜空を堪能出来たはずである。


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