第62話 おっさんズと異世界の海軍 その1
先の戦いから1ヶ月が経過した。
大英達は魔力消費の大きい=経験値的に効果が高い艦艇主体の召喚を進めていた。
そして天界のアキエルはリアライズシステムのさらなる改良と最適化により 1/700 に関してのみ存在したサイズによる年代先どりシステムを、各スケールに適応。 さらにこれまでの2分割を3分割に変更した。
・以前
変更ポイント 2000トン
・更新後
変更ポイント 100トンと3000トン
これにより、3000トン以下は年代一つ先取り、100トンは年代二つ先取りとなった。
先の戦いで 1/700 の車両・航空機が60年代までで、74式戦車を投入出来なかった事への対応だ。
とはいっても、このひと月で召喚年代は進んでいる。
1/700で言えば、
100トンまで 00年代
3000トンまで 90年代
3000トン超 80年代
となっている。
そしてこの変更は大スケール(分母が小さい)のキット群には大きな影響となった。
なにしろ、そういったスケールではそもそも艦艇は少ないため、ほとんどの装備が100トン以下のためだ。
結果的に 1/200 以下では基本的に年代による制限は無くなった。
とはいえ、そんなに最新装備は無いのであった。
*****
地毬。 1944年太平洋。
フィリピン近海を西進する大艦隊。
それを率いる旗艦、高速戦艦ニュージャージーの艦橋にいる面々は異常事態に遭遇した。
「あれはなんだ?」
水兵の言葉に艦橋にいる全員が注目する。
艦隊の前方に何やら暗い雲が物凄い勢いで広がっている。
それは艦隊を覆うかの如く広がる。
「ば、馬鹿な、いくらなんでも急に過ぎる」
そう言っている間にも雲は広がり、四方すべてが黒雲に覆われた。
そうしていると、突如大きな揺れが発生した。
5万5千トンの巨体が揺れ、艦橋の面々は倒れたり、壁にぶつかったりした。
いや、艦橋だけではない。艦内の全員が同様の状況に見舞われた。
そして、驚くべきことに、気が付くとさっきまであった黒雲はすっかり消失していた。
「状況報告!」
艦長はクルーに命令を飛ばす。
軽い打撲を受けた兵が多少出たようだが、特に被害と呼べるものは無いようだ。
また、周囲を見回しても僚艦は健在で、艦隊全体でも行方不明になった艦は無い。
そこへ、輸送船団からの通信が届く。
いったい何があったのか、上陸作戦を控えた陸軍のマッカーサー将軍が説明を求めているのだそうだ。
「そう言われてもな、説明して欲しいのはこっちのほうだ」
苦虫を噛み潰したような顔で艦隊指揮官のハルゼー提督は隣に控えている参謀に話しかける。
とはいえ、参謀も的確な答えは持っていない。
だが、そこへ「答え」を持った「存在」が姿を現した。
「この大船団を指揮する者はここに居ると思うが、いずれか」
フードを被った男が艦橋に突如現れ、そう告げた。
空中に浮かぶその姿に、兵士たちは驚いて固まっている。
だが、ハルゼーは肝が据わっていたようだ。
伊達に提督などやってはいない。
「俺だ。 俺がこのアメリカ連合国(Confederate States of America)第34任務部隊の指揮官アングリア・ブリュースター・ハルゼー・ジュニアだ」
「そなたが指揮官か。 ならば、そなたに話をすれば良いな」
「いったい何者だ、どうやって浮かんでいる」
「ふむ、やはりそこからかのう」
天使召喚の際に毎度突き付けられる質問。
またかとは思うが、相手にしてみれば初めての事である。 仕方ないと理解している。
「我は神じゃ。 名はロディニアである」
「神……だと?」
意外な回答に困惑するハルゼー。
「はははっ、何を言うかと思えば、神とは。 そんなはずが無いだろう」
「ん? なぜそう思う」
「簡単だ、主(神)に名は無い。 名を名乗る時点で貴方は神ではない事の証明となる」
「そうか、なるほど」
これまでとは違う展開にレリアル神は笑う。
宗教に寛容で多数の神の存在を気にしない日本人と違い、諸国の人は唯一神への強い信仰を持っている。
レリアル神は彼らの言う「神」がクロス教の神だという事前情報を元に指摘する。
「それはそなた等が信仰する造られし神の事であろう? 『現実の神』とは違うものじゃ」
「何? 現実の神だと、一体何を言っているのだ」
「それと、浮かんで居るのは神の力でだ。 ヒトにはマネできまい?」
そのとき、一人の水兵がレリアルに向かって十字架を掲げ叫んだ。
「悪魔め、去れ!」
レリアルはゆっくりそちらを向くと
「そなた、その金属のアクセサリーを掲げる行為に何の意味があるのじゃ?」
十字架が効かないと判断した水兵は担いでいたライフルをレリアルに向ける。
「ま、まて、早まるな!」
だがその艦長の声をかき消すように、ニュージャージーの艦橋に銃声が轟いた。
しかし、銃弾はレリアルには当たらなかった。
というより、届かなかったと言うべきだろう。
銃弾はレリアルから50センチ程の距離で空中に静止していた。
「つまらんな、だがよろしい。 愉快愉快。 お主らを選んだのは正しかったようじゃな」
そう言うとレリアルはハルゼーに向き直る。 ハルゼーの額に首筋に汗の雫が湧く。
(神なはずがない。 だが、超常の存在には違いない)
(ひょっとしたら兵が言うように悪魔なのかもしれない)
(この俺でさえ恐れている。 兵達が取り乱すのも無理はない)
そう思ったハルゼーはレリアルに謝罪する。
「部下の短慮な行いを謝罪する。 我らの主とは違うが、貴方が神のような超常の存在なのは理解した」
「ふむ、理解が早くて助かる」
「それで、一体何の用で参られた」
「そうじゃな、まずはそなた等の現状について知らせようと思う」
「現状?」
レリアル神は、ここは別の世界で、艦隊ごと召喚された事を説明した。
だが、その説明は難航した。
異世界召喚物の小説やアニメが普及している世界に住む現代日本人と異なり、ハルゼーは1940年代に住む60過ぎた初老のおっさんである。
もちろん、周りにいる参謀達はもっと若いが、そんなものは関係ない。
当時は異世界召喚物自体がろくに存在していないのだから、子供や学生相手であっても、状況は変わらない。
ピーター・パンの話でもすれば、まだ異世界については理解が早かったかもしれないが、レリアル神のスタッフはそこまでコチラの著作物に詳しくない。
暫し手間取ったが、何とか理解してもらうことが出来た。
そして、何を成すべきかも。
「すると、この先に待ち構えているのはショーグンの軍隊じゃなく、その天使の軍隊って事なのか」
「ん? ショーグンとはなんじゃ?」
聞きなれない単語に興味を示すレリアル神。 脱線して話が長くなる。
「神と言っても全知では無いんだな」
「当然じゃ。 全知全能など『おとぎ話』の存在じゃろ」
「なるほど、理にかなっているな。 ショーグンとはジャップの国家元首だ」
「本来の元首であるミカドに成り代わって元首になっているのがショーグン」
「今はイエマサとか言ったかな」
彼らが戦おうとしていたのは「日本帝国徳川幕府」だったりする。
現在17代将軍 徳川家正の治世で、実務のトップは大老の小磯國昭が担っている。
ちなみに海軍を率いるは老中海軍卿米内光政。
「ほほう、してショーグンの軍隊は強いのか」
「ああ、リーダーのロード共は頭が固いボンクラばかりだが、末端の兵士たるサムライはとても強い」
「そうか、ならその強いサムライと戦おうとしていたお主らは、もっと強いのだな」
「もちろんだ。 俺たち連合国海軍は世界最強だ」
「そうか、なら期待しておるぞ」
「首尾よく勝利すれば、元の世界に戻り、サムライとの戦を続ける事が出来よう。 じゃが、敗れれば、主らの魂は戻ること能わず、この世界にて朽ち果てよう」
「死を免れた者も、帰る事は出来ぬと心得よ」
「無用の心配だな、俺たちは必ず勝利する。 だよな! 野郎ども!!」
「おーーー」
艦橋内に兵員達の歓声が木霊する。
「よろしい。 ではワシは帰るとしよう。 何処にいてもワシは汝らを常に見ておる。 心して戦うのじゃ。 その戦いぶり、期待しておるぞ」
「判った。 任せてもらおう」
満足したレリアル神は姿を消した。
「さて、結構疲れたな。 だが、間を開ける訳にはいかぬ。 次の仕事に向かうとしよう」
レリアル神は次の現場へと向かって行った。
用語集
・そんなに最新装備は無い
そりゃあ2020年代登場の新兵器のキットとか、ほぼ無いからねぇ。
メジャーなものだとウクライナ仕様の戦車ぐらい。 当然侵攻前に召喚された大英の在庫には存在しない。
・地毬
我々の世界では地球と書く。
・連合国
United Nations の事ではない。 Confederate States である。
アメリカ連合国と言えば、奴隷制維持が目玉政策。
とはいえ流石に20世紀も半ばに近いこの時点では奴隷制は「連合」では廃止されている。
(州単位では残る州もある)
ただし、廃止されている州でも有色人種(黒人に限らない)は「劣等人種」として様々な「制約」を課されている。
ちなみに合衆国はイギリスの介入で南北戦争に敗れ、連合国に吸収合併されて消滅した歴史上の存在。
連合国大統領のルーズベルトは、有色人種による国家を全て解体するという「人類の大義」を掲げ、戦争を遂行している。
「猿が人の真似をするなど、許される事ではない! 我々は人類の大義を守るため、人間以外が建てた国家を滅ぼさねばならない!」
なお、この時点で「有色人種による国家」に該当するのは「タイ王国」と「日本帝国徳川幕府」のみ。
中国大陸には実質的に解体状態の神聖中華帝国があるが、こちらはドイツから招へいした(名ばかりではあるが)白人の皇帝を頂くものである。
(白人の皇帝を立てなければ、列強の侵略で国家自体が消滅していただろう)
また、他の諸国は皆白人列強国家の植民地または保護国である。
よって「人類の大義」とは、事実上日本を滅ぼす事を宣言するものである。
(もう一つ、中国東北部に「新金帝国」があるが、日本の保護国なので「有色人種による独立国家」には含めないでおく。 まぁルーズベルトが滅ぼすと宣言した対象には含まれるがな)
・主(神)に名は無い
ハルゼーの信仰する神は元はと言えば、とある預言者により興った民族宗教の神「ヤハウェ」と同一の存在。
じゃあ神にはヤハウェという名があるのかと言うと、さにあらず。
ヤハウェとは「神」という意味の単語である。 だから「ヤハウェ神」などと記述すれば、それは日本語で言えば「神神」となってしまう。
その流れをくむ十字架を掲げる宗教なので、「主(神)に名は無い」のである。




