第61話 おっさんズと諸々の後始末
定例の午前の召喚が行われる。
最近は航空機や船ばかりなので、航空基地やザバックの港で行う事が多かったが、今回は珍しく単体の陸戦兵器なので、城の中庭で行われた。
現れたのはM8自走榴弾砲。
元は天界ガチャ4回目の成功により現れた1/48のキットた。
この召喚は城に来ていたシュリービジャヤも見守っていた。
「何度見ても慣れませんね。 比較的小さい神獣ですが、やはり驚きは無くなりません」
それを聞き、リディアも「だよねー」と同意する。
そこへマリが歩いてくる。
「シュリービジャヤ様、リディア様、本日はお別れのご挨拶を致したく思います」
「えっ、王都に戻られるのですか?」
「はい」
「それでは、婚約の件は」
「ご安心ください。 私から父にお断りのお願いを致しました」
「よろしいのですか」
「ええ、父には『戦いに身を置く方と暮らすのは難しいので、もう少し穏やかな生活をされている方が良い』と伝えました」
「判りました」
話を終え、去っていくマリの後ろ姿はなんとなく寂しそうであった。
その様子を見て秋津はつぶやく。
「本当は帰りたくなかったんじゃ無いか。 相思相愛な二人の為に身を引いたんだろう」
「そうかも知れませんね……」
そう反応を返すと、シュリービジャヤはマリの姿が見えなくなるまで、敬礼をして見送るのであった。
その横でリディアは、敬礼が終わるまで、マリの去る方向に頭を下げ続けた。
こうして、マリとその父ドゥマクは王都へと帰って行った。
だが、この事は寝た子を起こす事態にも繋がった。
後日、マリが諦めたのは、リディアの存在が原因だという騒ぎが起こった。
「ならん、ならんぞ。 リディア、お前はこのアルサケス神官家の跡継ぎ。 他家へ嫁に出すことは出来ん」
神官マラーターはおかんむり。
さすがのリディアもかなり参っている。
それを見て大英は一計を案じる。
大英はバメスに聞く。
「うちらの世界では貴族の家とかには他家相続って概念があったんだけど、こっちには無いのでしたっけ?」
「そうですね、先日ご質問頂いたのち私の方でも調べてみました。 女性の嫡子が嫁に行く事例は見つけられませんでしたが、男性の嫡子が婿に入るという事例はいくつか見られました」
「という事は、初の事例として発生してもおかしくは無い訳ですね」
「そうですね。 元々女性の嫡子が珍しいため、確率的に記録も見つからないのかも知れません。 ただ……」
「ただ?」
「明確に格上の事例ばかりで、同格や、格下の事例は見つかりませんでした」
「それは、神官家の方が格上という事?」
「そこはそうとも言えないのですが、私には判断できかねます」
この事についてバメスの説明をまとめると以下のようになる。
神官家と騎士団長の家のどちらが格上かと言えば、結構微妙なところ。
普段であれば、神とのコミュニケーションを取る神官家の格は高く、騎士団長の家より勝るだろう。
だが今は戦時。
主力が神獣とはいえ、騎士団の地位も上がっている。
一方神との連絡は天使が直接連絡をしてきたり、神の一柱であるティアマトが半常駐状態では、神官家による独占は崩れてしまっている。
神獣召喚に必須というリディアとパルティアの活躍も、個人的評価であり、家自体の評価ではない。
結果として、現場の感覚だと
神官家 < 第1騎士団団長の家
となっている。
一方、平和な時代を長く過ごしてきた年配の人は、
神官家 > 第1騎士団団長の家
という認識だ。
これはつまり、マラーター神官やシャイレーンドラ伯爵の間では、リディアがエリアンシャル家に嫁ぐのは「他家相続」には当たらないという認識で、領主や多くの兵達から見れば「他家相続」に当たると考える可能性がある事を表していた。
なんか高貴な嫁さんをもらって肩身が狭いとか、家が神官家に乗っ取られるとか思うシャイレーンドラ伯爵。
大事な嫡子を格下の家に嫁がせるとかあり得ないと思うマラーター神官。
現当主の二人を説得できなければ、皆に祝福される結婚にはならない。
という事であった。
説明を聞いた大英の感想は、
この方向で決着したら神官家はパルティアが継げば良い話。 そこに悪いイメージは全く無い。 一番全体が丸く収まる。
であった。
「とりあえず、若い二人の希望を尊重する方向での決着を目指そう。 ただ、性急な行動は感情的な反発を生むから、婚約まで進めるのはもう少し待った方が良いんじゃないかな」
「そうですね。 私もそれが良いと思います」
大英とバメスは方針を統一し秋津の賛同も得て、それを二人いや、その場にパルティアもいたので三人に伝えた。
「そうだね。 急がず慌てず進もう」
「承知致しました。 ありがとうございます」
「そ、そうなんですね……」
三者三葉の反応。
秋津はパルティアに声をかける。
「どうした、神官家を継ぐのは不安かい」
「あ、は、はい……」
自由な妹の立場から、家を背負う身になる。 それは確かに不安なのかもしれない。 いろんな意味で。
*****
天界でモリエルがレリアル神に報告している。
それはアマテラスの監視の件と召喚対象の拡大についてであった。
「レリアル様、限定的な条件下でなら監視の目を無視出来そうです」
「ほう、どんな条件じゃ」
「海上です。 アマテラス神の監視も沿岸からある程度離れた海上までしか及んでおりません」
「なるほど、そこを離れれば神を信じぬ者も召喚できるのか?」
「監視の目が届かないため、より魔力を高められます。 なので、召喚はできますが、当人に何らかの強力な信仰があると、権能授与がうまく出来ません。 あと、完全翻訳ですが、英語のサポートが完了致しました」
「という事は、英語圏の人物も天使の候補にできるという事か」
「はい。 ですが調査した限り、英語圏の人物の多くはクロス教を信仰しているようです」
「じゃが、権能無しなら人工の神への信仰も無関係じゃな」
「それはそうですが、権能無しではただの人間になってしまいますが」
「場合によってはそういう手もあると言う事じゃ」
「それで、アマテラスの監視が海に及ばぬ件は、20世紀前半でも同じであるか?」
「多少範囲の拡大はあるかと思いますが、基本的には同じ様です。 十分離れれば、派手な大魔法を行使しても気づかれないでしょう」
「そうか、判った」
その後、レリアル神は次なる戦いの方針についてモリエルに説明した。
それはモリエルを驚かせたが、同時に確実に勝利を狙う方法という感想を持ち、そう神に伝えたのであった。
用語集
・他家相続
ざっくり言うと嫡子が自身の家ではなく、他の家を相続する事。
一番わかりやすいのは格上の家に入るケース。
貴族の長男(嫡子)が王子がいない王家の王女と結婚し、王配や王になるなど。
なお、同格や格下の場合は他家相続に当てはまらないと考える人もいる。
本文中では、この地の人々の認識はコレ。 格上である事が必要条件だ。
・女性の嫡子が珍しい
この地の嫡子は「正室が生んだ男子の長子。ただし、男子が無い場合は女子」という定義になっています。
ちなみに正室に子が無く、側室に子がある場合は、ケースバイケースのため、家督争いの原因になっているようです。
格が高い側室の子(実家の家の格式が高い)
順序が先の側室の子(先に側室になった人優先)
とにかく年長の子(どの側室が生んだかは問わない)
そして、事情をさらに複雑にするのが男子優先と条件優先のパターン。
例えば条件が「格が高い側室の子」だとして
最も格式が高い側室の子は女子のみで、かつ第一子が全体で最年長
次に格式が高い側室の男子がそれに続く
という時に格式を優先して前者を選ぶか、男子を優先して後者を選ぶか。 という問題が起きる事も。
多くの場合は当主が後継者を指名するのですが、指名する前に亡くなったりすると、混乱が起きる訳です。




