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模型戦記  作者: BEL
第9章 模型大戦
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第60話 おっさんズvsおっさんの陸空大決戦 その9

 戦力を王国全域に分散して、何時何処で問題が起きても対処できる、または対処不能でも報告ぐらいは出来るようにしていたのが裏目に出た。

予想以上に強力な敵戦力により、前線は戦力不足を来たしている。

いや、数だけなら相手を大きく上回っているが、質的問題によって「不足」状態となっているのだ。


 石像の上半身を撃つなら、適当な戦車を、いや何でもいいから撃てるモノを向かわせればいいのだが、それが無いのである。

いや、攻撃可能で今すぐ動けるのは1両ある。

大英の目の前にあるスコーピオンなら目的に資する。 だが、これを出してしまったら指揮できなくなる。


 大英は近くに停めてあるハノマークを差して、リディアとパルティアそれにハイシャルタットに声をかける。



「みんな付いてきてくれ、現地召喚だ。 秋やん、後を頼む」


「りょーかい」「わかりました」「お任せください」「おう、任せとけ」



 二つ返事でリディアが出かけようとするのを見たマリ=エリアンシャルは驚きを隠せない。



「えっ、何処にいかれるのですか?」



 それには秋津が代わりに答える。



「戦場に入るんだ」


「そんな、危ないのでは?」


「それはそうだけどね」



 会話にシュリービジャヤも加わる。



「私たちは、それを『やらなければならない』時もあるのです。 み使い様もリディアさん達も、騎士同様戦っています」


「……」



 マリは走り去るハノマークの後ろ姿を心配そうに見守るのであった。

そして思う。 自分にも同じ覚悟があるのだろうかと。



「よし、全員下車、直ちに召喚に入る」


「はい!」



 戦場の境界線を越え戦域に入った所で4人はハノマークを降り、大英は即座に地面に1つの1/35戦車キットを置く。

こうして、召喚が実施され、1両の戦車が現れる。


 砲塔のハッチが開き、車長が顔を出す。



「閣下、お久しぶりであります」


「ああ、帰って来てくれて嬉しいよ。 早速だけど、あの動く石像を倒して欲しい。 詳しい話はしてるヒマ無いから簡潔に言うけど、上半身を徹甲弾で撃て」


「承知いたしました」



 現れたのは90式戦車。 以前損傷を受けて逆召喚による補修を受けていたものだ。

現在位置が既に戦域内なので、直ちに射撃体勢に入る。



「よし、撤収!」



 大英達は即座にハノマークに乗車し、戦域外へと離脱する。


 90式戦車はその主砲120mm滑腔砲を発射、300m先のコロッサスへと砲弾は飛んで行く。



*****



 マリエルは戦場の境界付近に魔力の集積を確認する。



「これは……」



 集積が見られる方向を見ると、白い光と煙が見えた。



「土井様、模型召喚です!」


「何ッ」



 土井はトーチカを出て双眼鏡で指し示された方を見る。

遮る物の少ない平原。 たまに1,2メートル程の起伏はあるが、目標までの視界を妨げるものは無かった。



「あれは……戦車か! マリエルさん!」


「c1、防壁全面展開へ変更」



 コロッサスの指揮権をミシエルから移譲してもらっているマリエルは、間髪を入れず魔法防壁の動作モード変更を指示した。

その直後、出現した戦車は発砲し、砲弾はコロッサスの胸部に命中する。



「どうだ?」


「間に合いましたわ」


「やれやれ、下方集中防御は上を撃たれる距離に戦車がいないから出来る事だからなぁ。 でも何で集中防御がバレたんだ」


「上半身に何か小さな矢弾を受けた様ですわ」


「小さな? まさか機銃撃ってたのか」


「おそらく」


「流石は英ちゃんだな、何でもアリだ。 ところで、全体守ってて脚は大丈夫なのか?」


「判りませんわ。 格闘戦距離での被弾となると、集中防御なら耐えられますが全面防御ですと、どう転ぶか未知数ですわ」


「当たり方次第かな」



 90度付近だと危ない。 斜めに当たれば、弾ける。 大体そんな感じだろうか。



「ですわね。 撃たれる前に叩き潰せれば良いのですが」



 コロッサスは近くの61式戦車まで20mに迫る。 鉄棒を持った右手を振りかざし走る。

もう1両の61式戦車は回り込んで後ろから撃とうとする。


 即座に5号戦車が反応し、61式戦車を撃とうと砲塔を向けたが、そこへファイアフライの76.2mm砲弾が直撃。

5号戦車は沈黙してしまった。



「くそー、やられたか」



 これで土井が直轄している右翼正面にいる戦車は、トーチカの隣に佇む38t戦車E型1両だけになった。

37mm砲を積んでいるこの古い戦車はほぼ戦力外のため、いざという時の壁・囮用に連れて来ているものだ。

これを支援に出しても、状況は好転しないだろう。



「うーん、ワイバーンはどのくらい残ってる?」


「少々お待ちください。 ……あと5体ですね」


「半分になったか」


「ドラゴンが倒された際、護衛に付いていた者たちは全滅していますので……」


「仕方ないな。 健在なワイバーンをコロッサスの支援に向かわせてくれ。 地上攻撃の方が向いてるだろうし」


「承知いたしましたわ」


「ヒュドラとベヒモスはどうだ。 敵戦力を分断して引き付けてくれると良いんだが」


「確かに引き付けてはいますが、長くは持たないと思われますわ」



 中央のヒュドラに対峙するはキングタイガーが4両。

左翼のベヒモスは8両のヤークトパンサーによって前進を阻まれていた。


戦力的に見て、航空支援が無くても2体とも撃破されるのは時間の問題だ。

それを防ぐべく、オークやオーガの兵団が随伴しているが、敵にも歩兵がいて状況は芳しくない。



「そろそろ航空隊が着くころだろう。 いつまで飛べるか判らんけど、なんとかなると良いんだが」



 fiat G55S 雷撃戦闘機、イリューシン IL-28 ビーグル、カモフ Ka-50 ホーカムが戦場に到着する。

その他、一旦退避した残存戦闘機も再び飛来した。 補給は出来ないがこの距離なら燃料はそのままでも問題ない。 残弾さえあれば戦える。


 だが、航空機はレーダーに引っかかる。

戦場到着と時を同じくして、迎撃の戦力が現れた。



「あー、飛行機は無尽蔵だな。 これは厳しい……」



 もちろん、大英の戦力が無尽蔵という事は無い。 単に航空機に重点が置かれていただけの事。

まぁ、召喚の都合で1/700の74式戦車がまだ無理だった(1/700は60年代まで)という理由もあるが。


 土井軍航空機は11機のスピットファイアと3機のMiG-15によって、その目的を達することなく葬られた。


 ところで、ホーカムは被弾した際にバランスを崩し、アンバー村の中へと落ちていく。



「いかん、村に落ちる!」



 双眼鏡で見ていた秋津が気づいたが、コントロールを失っている機体をどうにかするような手段は無い。

アンバー村には CRUSADER の対空戦車が配置されているが、落ちてくるヘリコプターを木っ端みじんにできる火力は無い。


 だが、それを見ていたのは秋津だけでは無かった。



「マリエルさん、落下軌道の先にゲート開ける?」


「可能……ですが、何をされるので?」


「ホーカムを回収する。 村に落とすわけにはいかない」


「わかりましたわ」



 逆召喚による回収はある程度接近しないと行えない。

土井はそれを空中でやると言うのだ。

逆召喚に必要な魔力はほとんどゼロなので、オーク達はいなくて大丈夫である。



「開きました。 では、失礼しますわ!」



 マリエルは土井を抱えるとエンジェルシステムを起動し、ゲートへ突入する。

ゲートから出ると、そこは空中。

目の前には落下してくるヘリコプターの機体が迫る。



「おーし、戻れ! Ka-50 ホーカム!!」



 ホーカムは黒い煙に包まれ、その姿を消す。

いや、消した訳ではない。


1/72のキットに戻ったのだ。



「マリエルさん!」


「お任せください」



 1/72のプラスチック製のヘリコプター模型が落下しても大したことは起きないが、念のため回収した。

回収すると、マリエルはゲートに突入し、二人は元のトーチカ横に戻る。


 遠くから見ていた秋津は驚く。



「な、何だ今のは?」



 大英も一部始終を見ていたが、距離的に誰が飛んでいたのかすら判別できない。

色味から、いつものキリエルではないっぽいくらいしか判らない。

というか、白いウイングのサイズに対し、中心の人がなんか大きいというか太いという印象だ。



「墜ちるヘリを消した? いや、あれは逆召喚だな」



 天使は逆召喚出来ない。 となると、「太い人」は天使がみ使いを抱えていると考える方が妥当だろう。



「わざわざそんな事を?」


「したんだな。 レギュレーションの事と言い、律儀というか、俺らに近い考え方をする奴なんじゃないか」


「かもなぁ」



 とはいえ、大英も秋津も直接顔を合わせた「召喚天使」は契丹くらいしかない。 人となりについて推測できる相手は今までいなかったのである。

なので、柔軟な作戦や結構苦戦を強いられた事と合わせ、ちょっと印象に残る出来事であった。


 そんな事があったが、戦いは普通に続いている。

土井が期待をかけたワイバーンはMe292により、全滅してしまった。


 そして、遂に土井たちが恐れていた事が現実になる。


 敵61式戦車1両の砲塔を叩き潰して無力化したが、直前に発射された砲弾が脚部防壁を貫通し、右脚にダメージが出た。

歩くことは出来るが、走るのは無理だ。

動きが鈍ったところで、距離を取られ、格闘レンジでの戦いは無理となった。


 そして、司令室からの報告がマリエルに届く。

マリエルは沈痛な面持ちで、それを土井に伝える。



「左翼、中央、それに航空隊壊滅しました。 残っているのはここ右翼のみです」


「そうか……」


「新たな敵航空機が接近しています。 おそらく、コロッサスへの止め用かと」



 61式、90式、それとファイアフライの3両による砲撃に耐えているコロッサスだが、大英が最終的な解決用に呼んでいたタイフーンとモスキートFB各2機、それにテンペスト5機がようやく戦場に到着した。

さらに、その後方ではブルパップ空対地ミサイルを装備したF-100が離陸して高度を上げていた。

用語集


・1/700は60年代まで

大英も陸自の車両が含まれるキットは在庫しているが、60年代までの制限だと、召喚できるものはあまりない。

最近だと第二次大戦時の米英独ソの1/700車両セットが色々出ており、もう少し地上戦力が強化出来たのではなかろうか。


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