第60話 おっさんズvsおっさんの陸空大決戦 その8
3機のミグ戦闘機は戦場に入る前にレーダーに捉えられていた。
このため、既に迎撃機が上がっていたりする。
各々2機のミラージュ2000とJAS39Aグリペンが迎え撃つ。
E-1のレーダーからの情報だけでは機種の特定は出来ない(ミグかどうかすら判らない)ので、マッカーサーが認識したのは、その速度・加速力・上昇力から第2世代かそれ以降のジェット戦闘機という事であった。
そのため、第4世代機と4.5世代機をセレクトしたものである。 2機ずつ4機なのは通常の編成に合わせたもの。
戦場が狭い事もあり、両軍各機はすぐに格闘戦に入る。
ここで判明したのは、敵機のうち1機は空戦をする気が無い。 つまり攻撃機か、対地装備をした戦闘機という事だ。
2機のミラージュ2000は爆撃を試みようとしている機体を攻撃に向かい、グリペンはその護衛と見られる戦闘機と対峙する。
戦場での目視による識別は精度が低い。 だが、向かってきた2機はその形状に独特なものがあり、直ぐに機種が特定された。
MiG-21とMiG-19である。
デルタ翼なのに尾翼があるMiG-21、特徴的すぎる強烈な後退角の主翼・尾翼を持つMiG-19。
両機種とも機動性の高さに定評がある。 大きな世代の違いがあるとはいえ、グリペンは警戒しつつ対応する。
そして、もう1機は可変後退翼を持つ細い機体。
同様の特徴を持つ機種は多いため特定は困難であったが、2対1の優勢もあり、爆撃する前にミラージュ2000はこれを撃墜できた。
こうして空の戦いが行われていた頃、地上でも新たな戦力がその姿を見せていた。
戦場を身長20mはあろうという石の巨人が走る。
その姿は戦場の外からでも、容易に見つける事が出来た。
双眼鏡で戦場を見ていた秋津が警告する。
「来たぞ、石像。 空からやられない様タイミングを合わせて来たな」
「そうだな、きちんと連携してる所を見ると、今回の相手は今までと違って『頭が柔らかい』らしい」
「こうなった以上、応援が来るまでは時間がかかる。 それまで地上軍でなんとかするしかないが、世間の常識が通じるか、まずは試してみるか。 61式に撃たせよう」
対地攻撃できる航空機を呼ぶにしても、上空の航空優勢が確定していることが条件だ。
なので、大英は前線の戦車隊に迎撃命令を出した。
スコーピオン経由の無線で命令を受けた61式戦車は、その90mm砲で石像を撃つ。
石像までの距離は約200m。 戦車砲にしてみれば至近距離だ。
相手は走っているとはいえ、こちらに向かってきている。 外す距離ではない。
「なにぃ!?」
双眼鏡で石像を見ていた二人は、その目を疑う事象を目にする。
想定通り初弾命中した。 石像の胸に直撃したのだが、あろう事か、徹甲弾は効果を発揮せず弾かれたのだ。
続いてもう1両の61式も発砲。 石像の腹に命中したその弾も同じく弾かれた。
当たった箇所には傷一つないというか、当たる直前に弾かれているようにも見える。
「これは、防壁が展開されてるわね」
同じく眼鏡の倍率を上げて見ていたアキエルはそう分析する。
「防壁? バリアって事か?」
「そう、観測された魔力量を考えれば、防御に使ってるわね」
それを聞き、大英は指示を飛ばす。
「弾種をHEATに変更」
61式は改めて70式対戦車りゅう弾で攻撃するが、命中して爆発するも、やはり効果は無い。
そうしているうちに、石像は100mまで接近して来た。
「やべぇな」
「とりあえず後退して距離を取れ。 弾種は徹甲弾に戻せ」
近づいてきたという事は、徹甲弾の威力も上がっているはず。
とはいえ、100mも200mも大して違わん気がするがな。
だが、敵が近づいたにも拘わらず、貫通出来ないという状況は変化しない。
「うーむ、この手の小説とかだと戦車砲は全てを解決するんだが、現実はそうはいかないか」
状況が好転しない事に困惑する大英。
「アレが特別なのよ、この魔力量はカテゴリー5相当。 多分戦車と同クラスの戦力よ」
アキエルの眼鏡には色々数値など解析結果が表示されているようで、相手の魔力量とその流れを測定・分析していた。
それを聞き秋津は驚きを示す。
「戦車と同じ? おいおいマジかよ」
「そうか、それなら手はあるな」
大英は逆の感想だ。
「手とは?」
「至近距離で90mm砲が効かないくらい防御が固いし、あの走りは戦車の機動性を超えてないか?」
「そうだな」
「なら、そのしわ寄せがどこかに来てるはずだろ?」
「そうか!」
「ぱっと見、一番足りないのは攻撃力だろうけど、それだけじゃない気がするな」
「そうだな、武器はあの鉄パイプみたいなのしか無さそうだしな」
石像は右手に鉄棒のような感じの大きな棒状の武器を持っているだけで、何か光線を放ったりする機能は無いようだ。
まぁ、コロッサスが目から光線とかはあまり聞かないな。 ……鉄棒持っているという話も聞かないけど。
これは、そもそも光線を出せないか、光線を出す機能があってもバリアを展開していたら、そちらに魔力は回せないという事だ。
そうしているうちに、石像は61式から50mまで接近し、61式の主砲は最大仰角の関係で命中率が高くなる胴体は狙えず、やむをえず動きがあるうえ細い脚を破壊すべく撃つが、それでも貫通せず、しまいには砲塔上の12.7mm機銃までも撃ち始める。
相手の魔力に限界があるなら、機銃弾を当てて消耗させるのも手という切羽詰まった対応だ。
こういうのを「溺れる者は藁をも掴む」と言う。
90mm砲が通じないのに、キャリバー50が効果ある訳ない。
そう思っていました。 この時までは。
ブローニングM2重機関銃は石像の頭を撃とうと高仰角で発射されていた。
とはいっても、車内からのリモート操作なので、正確に狙うのは難しい。 このため、実際に狙っていたのは胸の辺りだ。
機銃弾が命中した箇所に破片が飛び散る。
弾が飛び散っているのではない。 弾は確かに弾かれているが、岩石の破片が飛び散っているのである。
そして、その様子は大英も見逃さなかった。
「は? さっきは90mm砲が効かなかったのに?」
それを聞き、秋津もよく見る。
「胴体にはバリアが無いのか?」
「そんなはずないだろ、最初胸や腹に当たってたじゃん」
「だよな……」
観察を続けていたアキエルはある事に気づく。
「そっか、防御自体も細分化されてる」
「細分化?」
「戦車は上を撃てないでしょ。 だから上半身を守る分の魔力を脚の防御に振り向けてるのよ」
「げ、それで目の前にいても抜けないのか」
「どうするよ、奴の方が速いから距離はとれないぞ」
61式には距離を取れと命じたものの、離れるどころか肉迫されている有様だ。
「どうしたものか……」
61式は2両あるし、行動を共にしているファイアフライまで入れれば3両の戦車がある。
だが、敵の5号戦車が健在で牽制してくるため、迂闊な機動は出来ない。
誰かを囮に散開とかしたら、囮は石像に打倒され、5号に側面や背面を向けた車両は撃たれる事になる。
だが、のんびり考えている暇は無い。
間もなく石像が持つ鉄棒の「射程内」に入ってしまうのだ。
用語集
・戦車砲は全てを解決する
ファンタジー世界の存在で戦車砲に耐えるモノはあまりない。
「地球なめんな」を代表する存在の一つだ。
・眼鏡には色々数値など解析結果が表示されている
MR(複合現実)の一種。
単に表示するだけでなく、衛星観測や召喚ホムンクルスの視覚とリンクして「別のアングルからの表示」といった事をする機能も付いている。
そのため、実際にはレンズに数字などが出ているのではなく、装着者の脳の視覚野にデータが転送されている。
なので、天使とデータ処理の互換性が無い人間(み使い=召喚天使も含む)がこの眼鏡をかけても、使うことは出来ない。
(使っても閃輝暗点が見えるだけ)
なお、アキエルは持ってきていないが、最初から人間用に作られた眼鏡なら人間がかけて使う事が可能。 ただし、データは視覚野とは別の部位に送られる。
ちなみにティアマトが使っていた翻訳眼鏡は網膜投影によるAR(拡張現実)を使っているので、天使でも人間でも関係なく使う事が出来る。
・しわ寄せがどこかに来てるはず
ある宇宙船のシミュレーションゲームでは「ENERGY ALOCATION」という概念がある。
エンジンで生成されたエネルギーを「武装」「推進」「シールド」に配分する。
全ての要求を満たせる量のエネルギーは生成されないので、どれかを犠牲にする必要があるし、武装にしても魚雷に過負荷をかけて必殺の一撃を放とうとしたら、どれかどころか速度も防御も最低限にしなければならない。
そのため、大英は石像にも同じ事が起きていると踏んだわけだ。
そして同じくシミュレーションゲーマーである秋津も、速攻で理解したのである。
・コロッサスが目から光線とかはあまり聞かない
某TRPGでは素手か魔法で戦うようです。 そして変形機能まで持っているとか。 何そのアニメのロボみたいな設定。
・溺れる者は藁をも掴む
我が友人はこれに続けて「なぜ丸太を掴まぬ、浮き輪を掴まぬ」と続けていた。
いや、あったらそっちを掴む……訳でも無いから愚かな行為を示す言葉として語り継がれているのだな。